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第一章 15 『守りたかったもの、守れなかったもの〜魔獣〜』

 青白い光が消えると周囲は薄暗くなった。いつの間にか日が暮れもうじき夜になろうとしているようだ。しかし、遠くを見るとオレンジ色の光が微かにヘレンの目に移った。背中には少女の温もりと小さな息遣い。


「ミーちゃんパパ……ごめんね……傷跡のこっちゃった……」


背中に倒れ込んで、額に大粒の汗を浮かべて尚も笑顔を作る少女にヘレンはやるせない気持ちを感じた。


「何言ってんだ……これで、まだ、望みを繋いでいられる……」


でも……今のは治癒魔法なのか?治癒魔法よりもっと違う何か……だったような気がしてならない……


そもそも、致命傷を治すほどの治癒魔法をどうして、こんな子供が使える?


アイリちゃんの親はとっくに無くなっていると聞く。だとしたら、孤児院のシスターナーヤか?アイリちゃんの祖母のリーナ婆さんか?でも、あの2人に魔法適性はないはずだ。


考えれば考えるほどに答えから遠ざかっていくような感覚に陥って結局は優先すべき事をすることにした。


先程のような倦怠感はもうない。むしろ致命傷と共に疲労感も吹き飛んだようだ。何が起こったかわからないが、力が湧いてくる。


背中の上で疲れ切って寝息を立て始めたアイリを抱えようとしたところでヘレンは一つの違和感を覚えた。


背中に手が届かない______


「______???」


手が無くなっているわけではない。いつもより明らかに短い。肩が固定されているような、モゾモゾと動き回ってようやく、アイリを背中に乗せたまま4本足で立ち上がった。


ん?4本足?

 そんな自分自身に違和感を感じる。

 いつものように直立……できない。なぜか、手足から炎が出ている。


「????!!??」


理解が全く追いついていかない。一瞬、獣化という言葉が頭に思い浮かんだが、まさかとその考えを振り払った。昔からある地域で炎を纏う狐。炎狐の伝承があった。その炎狐と人との間に生まれた子供がいたという内容の話だ。その炎狐の末裔にあたるヘレンだったが、狐の獣人ではあるものの5代ほど前から獣化は途絶えていた。


 それがなぜ今さらになって?遺伝子にだけ生き続けた獣。


 自分の今の姿は何代も前から伝えられる。炎狐の姿にほど近かった。普通の狐の獣化では、炎使いが意識しなければ四肢に炎は灯らない。最大の違いは、もうすぐわかるだろう。


 本当にこれが炎狐の獣化であるとすれば______


 そんな考えが頭をよぎるとほぼ同時に、先程まで遠くにあったオレンジ色が急速にヘレンに近づいてきていた。その眩さに一瞬目をつむる。そのオレンジ色の炎はヘレンの周りに渦を巻くとやがて吸い込まれていった。それと共にヘレンの四肢に灯る炎が大きく燃え上がった。そして、さらに視界を埋め尽くすほどの量の炎が周囲から集まってきてはヘレンに吸収されていく。


 これで分かったこと2つがある。これは、間違いなく炎狐の能力による獣化であること、そして、周辺で火事が起きている。でなければ、こんなに大量の炎は集まらない。


その結論に至ると、なぜ獣化できるようになったのかなんて、些末なことに思えた。そんなことよりもいち早く状況を確認し、多くの人の……そして妻子の安全を確保しないといけない。ヘレンは、アイリを重心移動で何とかヘレンの背中に跨がせると動き始めた。全速力で、先ほどまで燃えていた町の中心部に向かう。300mの距離をわずか10秒で駆け抜ける。しかし、たどり着いてもそこには燃えカスしか残っていない。ヘレンの炎で明かりをつけながら走るがすでに 人 の気配を感じることはできなかった。微かに残る白い雪と燃えカスになった家々。


 みんなもう逃げ切ったのか?


5分とかからずに村のほとんどを見て回った。残すは雪崩で埋もれた2割ほどの土地。そこでようやく人を発見した。フード付きの青いマントと大杖を装備している。


「わぁん(やっさん)!!」


びくっと体を震わせたテリヤは、ギシギシと音が聞こえそうなほどぎこちなくこちらに顔を向けた。その半身は血で染まり、失禁までしている。辛うじて止血をしてあるが片足はなくなっていた。そしてその目に映した大狐に、もうあきらめたような眼をして目を閉じた。


 もう、だめだと思ったのだろう。その表情には悲壮な覚悟を決めたように自分の最後を見ない為に目をぎゅっとつぶっていた。しかし、いつまで待っても来ない最期に再び目を開けた。


ヘレンは落ち着けと思いながらその肩に前足を乗せた。すると


「……は?」


テリヤは素っ頓狂な声をあげた。


「この狐……が、しゃべったのか?」


『!?!?______俺の声が聞こえるのか?』


その言葉にテリヤは驚きに目を見開いた。そして、もう一度目の前の狐の姿をじっくりと、見て思い至ったように口を開いた。


「その声……ヘレン……なのか?でも、お前、獣化はできないって……」


これは、伝わってる……そう確信したヘレンは足を下ろすとテリヤの横に移動して足先をちょこんと触れさせて立つ。そして、心のなかで、話掛けた。


『そうだ。ヘレンだ。聞こえてるか?やーさん』


「あ、ああ……聞こえてる、でも……なんで……」


『俺にもさっぱりだ。起きて動こうとしたらもうなってた。』


「そうか……そうなのか……」


少しだけ安心したように涙を流し始めるテリヤにヘレンは詰め寄った。


『そんなことより、何があった?話してくれ!!」


「_______っ!?……奴がっ……雪熊が雪崩と一緒に降りてきちまった……」


「雪熊?」


 どこかで聞いたような熊の名前が出てきて、一瞬考えるが、思い至る前に照屋が話し始めた。


「あの……魔獣の一体の……」


そこで、ようやく思い出した。現代において魔獣と呼ばれるものは、限りなく少なくなっている。人為的に生み出されて派生した魔物とは違い、一般的な野生動物の体内の魔力の変質などの超自然的に生まれてしまったものを魔獣と呼んでいる。その中でも特に危険とされている七大魔獣と言われるものはあと6体しかいなかった。


20年前の大討伐でかられたメイノグスフェンリル。別名、白百合アゲハ。を除いた6体。一体目はスティンニー。別名、赤陽炎。二体目はバルギデス。別名、海朱雀。三体目ファンデンディス。別名、雷蜥蜴。四体目ヴァイメリア。別名、風アラシ。五体目、ゲタリオン。別名、黒海豚。そして六体目がマラファンクス。別名、雪熊。


『本当にサルフォス山にマラファンクス……雪熊が居たのか……』


それは所詮噂だと思っていた。サルフォス山は冬になると魔獣が出るから入山禁止とは、聞いていたが、大したことの無い魍魎冬兎や雪風児なんかの小型の魔獣が居るのかと思い込んでいた。それが、蓋を開けてみたらあと6体しかいない大魔獣……


「お偉いさん方は、その事を……正確に把握してたんだろうな……なわばりを荒らされない限り狂暴化しない。温厚魔獣って言われてれば、触らぬ神に祟りなしって訳だ……」


そう言ってテリヤは嘆息した。それと共に吐き出された息は濃く見える。


『俺たち新兵と村人は、何かあったときの生贄ってか……クソッ!!』


上官の狙いにようやく気付かされヘレンも思わず悪態をついた。


「実際……これまで何も……起きなかった。」


『じゃなんで、あいつは……雪熊は……』


今回ほどひどくはなかったが、これまでに雪崩なんて何回もあった。


『今までと今回で違うことがあるってのか?』


「雪崩が……起きる直前に……爆発があった。あれは、間違いなく……人為的なもんだった……」


『__っ……』


ヘレンも薄々は気がついていた。あんな閃光は自然には絶対に起こらない。だとしたら爆発を起こしたやつは、どこのどいつで、なんの目的が?


『目的……雪熊を起こすこと?起こして、どうする?使役する?でも暴れてる時点でそれは、失敗してる……じゃ、暴れさせてこの村を滅ぼすこと?理由が思い浮かばない……こんな辺鄙な村滅ぼしてなんになる?意味がわからないこれじゃまるで陽動して他の目的から目を逸らさせるっていうありきたりな筋書きしか……』


「やっぱり……お前も、そう……思うか?確かめる……しかないよな?」


テリヤはそういうと懐から青い水晶を取り出した。それをヘレンの前に置くと


「思念水晶だ……俺の方はもう魔力は残ってない……」


出血多量なうえ止血まで自分でしたのだろう。意識があるだけマシというものだろう。それに加えてヘレンへの状況説明でかなり消耗したのだろう先程から明らかに呼吸が荒くなっていた。


『すまない……しゃべらせすぎたな……』


「仕方……ないさ……状況がな……」


テリヤはそう言って気丈に笑って見せた。しかしそれは明らかに無理しているのがわかる。


『だがな……』


「それ以上……言うと……最後の力使って、鼻っ面に魔法ぶち込むからな……ゴホッ……」


『おっ……おい……』


「わかったらさっさと……頼む……」


テリヤはヘレンをまっすぐ見つめた。その表情を見てヘレンは黙って頷くと水晶に前足を乗せ加減しつつ魔力を込めた。それと同時に青い水晶の中心がぼんやりと赤く輝き始めた。


(こちらクラネース防衛所C班所属……ヘレン。チェストヴォ防衛軍本部。応答願います。)


そう念じるとすぐに返答が返ってきた。


『(こちら本部!!クラネース防衛所だな!?そっちで何が起きてる!?どいつもこいつも途中で悲鳴を上げて切りやがる!!どうなってんだ!?馬鹿野郎っ!!これで23件目だぞ)』


明らかにイライラとした野太い男の声が頭の中に反響する。思わず耳を庇うが頭の中に直接響く声には何の意味もない。


(とりあえず、落ち着いてくれ。しゃべれない……)


『(あ、ああ……はぁ……ふぅ……こちらチェストヴォ共和国防衛軍詰め所伝令班。マニス・コーリア。状況説明を)』


(ヘレン。了解。)


そういうとヘレンは手短に話し始めた。話している最中、本部のほうはあわただしく動き始めているのがわかった。ヘレンの話しが終わると、


『(状況は……理解した。30分ほどでキナルの防衛隊の先発部隊が到着する。それまで何とか持ちこたえてくれ)』


努めて冷静な声色で事務的な連絡が返ってきた。


『(通信を終了する。)』


(ちょ……ちょっと待ってくれ……確認したいことがある!!)


『(なんだ?手短に頼む)』

(他では……何か動きはあるのか?)


『(他……?何を言っている?)』


本当にわからないという雰囲気が向こう側から伝わってきた。


(他で、何か妙な動きはないのか?)

『(今のところは確認されていない。なぜ、そんな質問を?)』


(この事件は明らかな悪意がある気がしてならない。これが敵の陽動の可能性がある。)


『(考えすぎ……とも、言い切れないな……こちらでも警戒を……)』


聞き終わる前に、周囲に違和感が広がった。ドロリとした空気を感じ取って毛が逆立った。


(まて……すまない……人員をできうる限り、こっちに回してくれ……

交信を終了する……頼んだ)


嫌な予感というのはこういう感覚なのだろう。心臓が一際大きく脈打った。どの器官よりも早く心臓がその危険を知らせた。


『(あ……おい、ま______)』

そういうとすぐに水晶から前足を離し周囲を警戒した。それからわずかな静寂が訪れた。


そして、その変化は唐突に訪れた。


 ヘレン達の周辺からボコボコという音が至る所から聞こえ何かが雪の中から這い出して来る。そして、数秒後には周囲は何かで埋め尽くされ。


 無数の赤い眼がヘレンたちをじっくりと観察していた______


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