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第一章 11 『逃げ足は狐の背にまたがり』

 襲撃開始から2時間45分経過______


 ユーリとヘレンが路地裏に息をひそめてから数十分が経過した。ユーリの体力・魔力ともに回復し動き出すタイミングをうかがっている。


「これからどう動く?北門は確実に敵に封鎖されてるぞ?西門に向かうにしても途中でとらえられる可能性がある。これだけ用意周到に攻めてきてる相手がそこでぬかるとは思えない」


「確かにそれはあるなー……んじゃ、まぁー少し調べさせてから動くとするかねー」


ユーリの問いに対してそう答えるとおもむろに両手を前で合掌するように数秒合わせてフワッと開く。肉球や鋭い爪のある大きくモフモフな手の上には、10匹ほどの蝶が止まっていた。その蝶は、黒い体にアゲハチョウのような羽根。その羽根は太目に黒く縁取られた紅緋色を基調とした模様がとても映える。そして、中央がまた模様に沿うような黒。最も特徴的なのは尾っぽの先が赤く点灯していた。


 ユーリは、その姿を見て、思わず簀巻きにされている少女を抱きかかえて2,3m飛びのく

「ブラッディー……バタフライ……それで、何するつもりだ……!?」


今、目の前にいるブラッディーバタフライという蝶は、蝶でありながら蛍と同様の発光器官をもつ特徴から赤蛍ともいわれているが、近い将来死ぬ人間のところにどこからともなく飛んでくることから‘‘死を嗅ぎ取る蝶’’ともいわれている。さらに、その美しい見かけに反して、弱った生物を集団で襲い喰らう事で数を増やす獰猛な蝶として知られている。


「ん……?あ、あーこいつらは大丈夫、大丈夫。契約精霊だから襲ったりしねーよ隠密行動でなおかつ急いでるときは使い勝手がいいんだわーこいつら。」


「ん?どういうことだ?」


ユーリの質問に、めんどくさいのか少し目を泳がせると

「まぁ、見てな……」


とだけ言って、蝶に向けてふーっと息を吹く、それを合図にヘレンの手に止まっていた10数匹の蝶がヒラヒラと空に舞い上がった。噴煙の届かない静かな路地裏には、微かな月明かりが照らしそれに蝶が吸い込まれていくようで、それはどこか幻想的な光景でもあった。

 そして、屋根の上に出たところで、蝶はチリジリに飛び始め、一匹だけがその場に残っりフヨフヨと漂っている。


「あいつらは、群れで生きてる群体精霊の一種で、尾っぽの発光器官から群れごとに特有の光信号を出して意思疎通を行う頭のいい奴らでな。そんでもって、俺だけが理解できる暗号になるようしつけたんだぜー」


そう誇らしげに語った後、いきなり遠い目をして「……苦労したなー……」とぼそりとつぶやいた。それに、ユーリは苦笑いを浮かべ、首が付かれそうだと考えて下を向いた。そうしている間もヘレンは真上を漂う蝶に目を向けていた。



「お?きたなー……ほらユー上見ろ、上。」


 不意に上を見上げていたヘレンがユーリに声をかけた。


 あれから2分ほどが経ち、ユーリたちの真上で漂っている蝶の尾にある発光器官が点灯し始める。そして、強弱のある赤い光を点灯させ始めた。そして、受け取った暗号をそのままヘレンが呟きはじめる。


「北の大通りには、敵が戻ってきている。南にツーブロックの地点で敵がこちらの様子をうかがっている。」


その言葉に思わず顔を上げたユーリが、2ブロック南の方を見る。パッと見誰もないように見えるがちらちらとゴブリンの長い鼻やら翻る衣類やらが見え隠れしていた。中規模結界が張られている為入ってはこれないが、出た瞬間襲われるってことになりそうで少し焦る。

「まじかよ……バレてんじゃん……」


「まぁ、落ち着けって、北に4ブロック行ったとこと西に5ブロック行ったとこで、包囲が始まった。西の防衛線で戦闘が始まった。西門近くの陣は落とされ近辺をオークが3体ずつぐらいで徘徊してる。あ、こりゃー、西門に行くのも無理だなー」


あっけらかんとヘレンは呟いた。


「てか、地上から逃げなくても別によくないか?裏カルトを通っても……」

ユーリのそんな発言にこいつ今更か?と、言いたげな表情を浮かべ、頭の後ろで手を組み枕にしてだらけ始めながら説明した。


「そりゃむりだなー。もう、避難が完了して、裏カルトへ続く扉はぜーんぶ、魔法で鍵かけられてっからなーどうやっても外からは開かないし、物理攻撃も魔法攻撃も受付まっせーん」


その言動にイラッとしつつユーリは最後まで聞く。


「じゃないと、さっきみたいな大技ぶっぱなす許可なんて出すわきゃねーだろー」


その言動には明らかに緊張感というものが合掛けている気もしたがユーリは一応の納得をし、空を仰いだ。相変わらず上空を蝶がフヨフヨと浮かび、赤い光を点滅させていた。



 襲撃から3時間半経過________

 「うふぉー……うじゃうじゃいるなー……なぁ、見てみろよー……」


 ヘレンが2ブロク先の路地のほうに目をやり楽しそうにつぶやく。


 ユーリたちがこもっている結界の周囲は、すでに4000近い敵の魔物が待ち伏せ、こちらが業を煮やして出てくるのを今や遅しと待ち受け、さらに今もどこからともなく湧いて出ていた。それにより周囲の街路は魔物が押し合いへし合い身動きも取れないような状況になっていた。そして、時たまバシュンッという炸裂音が周囲に聞こえる。


 おそらく、押されてバランスを崩したかなにかした魔物が中規模結界に誤って触れて弾け飛んで、消滅したのだろう。


「流石に、多すぎじゃね?」


楽しそうなヘレンとは対照的に不安げな声を上げるユーリ


 これらの魔物たちは、街の戦線から少しずつこちらに集まってきていた。

ヘレンたちの上空で赤い光が点滅する。しばらくそれが点滅し続け一際明るく輝きフヨフヨと降りてきて、ヘレンの耳にとまりパッと赤いかすかな光を残して消失する。そして残された光も闇に溶けて消えた。


「じゃ、そろそろいいか」


そういって、ヘレンが徐ろに立ち上がった。


「そろそろずらかるとするかねぇー?いまこの街にいる魔物の8割がこの場所に集結して、いい頃合いだしなー」

ヘレンは、こちらを振り返って肩をすくめながらそう言った。


 先程の赤蛍を用いた情報収集により、戦闘開始から6000体程が討伐され、今ここに約4000体、街中に1000体弱。未だ情報のないおよそ2000体はどこにいるのかそんなものは想像に難くない。


「これからどう逃げる?さすがにここまでしたからには、奥の手があるんだろ?」


逃げるにしてもこの状況では、走って逃げるわけにはいかない。そんなことをすれば敵に囲まれてフルボッコだ。


「お前、俺が獣人だってことを忘れちゃいないか?」


その指摘に改めて目の前にいるヘレンに目を向ける。長く突き出た口、その先にある鼻。高い位置にある尖った耳、全身を覆うフカフカの茶色い毛並み、胸元に付けられている軽装鎧と陣羽織、手足は爪が生えている。そして、太く長いしっぽ。見まごうことなき動物種の特徴を持った人間。つまり、獣人だ。


「……つまり……獣化で切り抜ける……と_____」


獣人は、獣と同一の能力を持つ強靭な肉体と、人間の知能を併せ持つ超人。種族によっては生物トップクラスの能力を持つ。そして、最大の特徴は、その能力の全てを引き出す獣化だ。獣化の力は元の生物の力に比例する。


 そして、目の前にいるヘレンは、幻獣の炎狐を祖先に持つ獣人だ。つまりその力わ相当なものだ。


「そういうこった。じゃ、ちょいと離れててくれ」


「あ、あぁ」

そう言われ、立ち上がって横で眠っている少女を抱き上げて数歩離れる。


 ヘレンは全身に力を込める。それにともなって筋肉が激しく動かされ隆起し、熱風が路地裏を吹き抜ける。時間を追うに連れてその風圧と温度が増していき、風に火の粉が混ざり始める。ユーリはその熱さに目を開けていられず、顔を背ける。一際強い風が吹き風が収まった。


 ゆっくりと目を開くユーリの目の前には、高い鼻と口。鋭い目つきとフサフサとし横に広い頬毛、手足には炎を灯し、有に3mは有る陣羽織を羽織った巨大な狐がユーリを見つめていた。さっきまでのふざけた雰囲気はないが、そこにいる大狐は確かにヘレンだ。


 ヘレンは首で、背中を示す。乗れということだろう。獣化すると言葉を発することができず、触れたものに思念での会話は可能だ。


 ユーリは、近づき獣化したヘレンの毛並みに触れる。柔らかくふんわりとした毛並を撫でる。それと同時にヘレンの声が頭のなかに流れる。


『ユー……俺はさっさと乗れって言ったわけでだな……撫でろなんて言ったつもりはないぞ……ま、悪くはねーけどな』


呆れたような声が脳内に直接聞こえ少し変な気分を味わいつつも眠り続けている少女を抱き上げて、ヘレンの背中陣羽織の上にまたがる。


『しっかり捕まっとかないと、振り落とされっぜ―お客さーん。かっかっか』

獣化して自分の力を開放したせいか、いつもにましてヘレンのテンションが高い。


そして

『いやっほーーーーーーーーーーいぃ!!!!』


 そのテンションのままに雄叫びを上げながら北の方向へ走り始めた。


「まて、頭に響くーー叫ぶなーーーーー」


トントンと軽い足音が路地裏に響く。地面をけるごとにその速度は加速する。そのたびにヘレンの四足で燃え盛る炎が揺らめく。ユーリもアイリを抱えている腕に力を籠めると同時にヘレンの身体に必死にしがみつく。そして、瞬く間に敵の眼前に躍り出る。路地を抜ける直前にヘレンはひときわ強く地面を蹴り魔物たちの頭上を飛び越え、対面にある家の屋根に着地しその勢いのまま走り抜ける。


 それによって、ヘレンの背にまたがるユーリとアイリが一瞬重力を伴い押しつぶされるような感覚の後ふわっと無重力のように浮き上がる。しかし、それは直後の落下する感覚によって血液に風が吹くようにサワッとした感覚に変化して2人に襲い掛かる。しかし、ヘレンは現在地から北門までを駆け抜けることに集中し2人への配慮はまるでなかったものの、上下動は最低限で微かに揺れる程度。エネルギーのほとんどを前に進むことに費やしていることが感覚的にわかる疾走だった。


 飛び越えられた魔物たちは、一瞬唖然としたもののすぐに怒号と共に追撃を開始しようとするものの。あまりにも集まりすぎた魔物たちによって身動きが取れずごちゃごちゃとぶつかり合って大混乱を引き起こしていた。周囲に怒声と断末魔のような声が響き渡る。 


 先ほどまで身を潜めていた路地から疾風のように走り去るヘレンの背につかまり逃げるユーリとその腕で何とか抑えられているアイリは未だに眠り続けている。


 その距離は急速に離れたもののヘレンの疾走は続く。屋根の上をかけることで見かけ上は、追われていないものの怒号は南の方から聞こえてきていた。それにより先ほどの包囲からは完全に抜け出すことはできたらしく。できることなら北門を抜けて森に身をひそめてしまいたい気持ちでいっぱいだった。


「ここからどうするんだヘレン!!」

揺れと風のなかでユーリは、ヘレンの耳に届くように叫んでいた。


『もちろん北の森に逃げ込むしかないだろー、そっからは北西の方に逃げる手はずだけどな、こりゃ、参ったー門の内にも外にも敵の匂いがプンプンだわーはっはっはっ』


「それ、どうすんだよ!!それってつまり八方塞がり打つ手なしだよな!?」


あまりに緊張感のないヘレンにユーリは思わず怒鳴り散らす。


『アーガイルとの合流ポイントは北西の山の麓にある祠ではあるんだが、そこまでに何回魔物と遭遇するかと思うと…ワクワクしちまうな?』


サラリと重要な事を言ってそれを笑い飛ばすように冗談を言う。ある意味ではこれは、獣人の本能を呼び覚ます獣化の副作用なのかもしれない。それは、この逃走はそう長くは続かない。


「お前……アイリを守りながら戦うことも忘れてるだろ」


そのせいか、ユーリの指摘はどこか含みのあるものになった。


『忘れちゃいないさ……そんくらい』


それにたいして、返ってきたヘレンの返事もフッと冷静になったような悟ったような声をこぼした。


 家屋の屋根を疾走し始めて4分ほどで北門を目前のところまで来た。しかし、予想通りというべきか北門周辺には魔物がひしめき正面突破などするだけ無駄なことは明らかだった。


「あいかわらず、いい鼻持ってるな。こいつらさっきまではいなかったんだろ?」


屋根のふちで止まったヘレンの背中の上からユーリは、下を覗き込んで指さし、若干小声でつぶやいた。そのといに『フム』とだけこたえる。


 どうやら下で蠢いている魔物たちは、ユーリたちには気が付いていないらしく周囲を警戒している。こういうところを見ると下級の魔物はやはりおつむが足りない。しかし、奴らは五感が鋭いので下手すれば見つかる。


「まさか正面突破とか考えてたりしないよな?」


『まっさかーーそんな明らかな死亡フラグに喜んで突っ込んでいくバカはいねーだろー手段は2つある。1つは街壁に穴をあける。もう1つは街壁を飛び越える。俺的には後者がおすすめだなーー』


それを聞いてユーリの視線は自然と街壁を見上げる。正面にそびえる壁は30m程でそれなりの高さがある。のんびりとのぼろうものなら一瞬で狙い撃ちにされるところだ。


「それしかないよな……じゃ、行くか」


ヘレンにとっては1つ目は明らかにはなっからやる気などなかっただろうつまりは、実質1択だっただろう。


 ヘレンはユーリの同意が得られ、それを合図に10歩ほど後ろに下がった。数瞬の間をあけて、小さい歩幅から一気に歩幅を伸ばし数歩で再び屋根のふちにたどり着き最大限の力で地面を踏み切る。ガスッという音と共に屋根の一部がまるで弾丸が当たった様にはじけ飛ぶ。その欠片が下にたむろしているゴブリンの頭の上に落下しバウンドする。バッとそれに反応するように周囲にいる魔物たちが一斉に踏み切られ一部が崩れた屋根を見るがそこに既に、何もいない。それを確認した魔物たちは視線を地上に戻した。


 屋根を踏み切った直後、壁に追突するような形で、壁の頂点から5mのところに垂直に着地する。それと同時に壁に追突するような強い衝撃を受けしがみ付いていたユーリはヘレンの体毛に押し付けられる。その勢いに負けユーリは「ぐっ」といううめき声をあげる。着地したヘレンにもそれなりの力がかかり四足に激しい痺れを感じながらも後ろ脚を力強く踏み込み爪を立てる。一歩ごとにガリッという音を立てながら街壁を垂直に一息に駆け上った。そして街壁の頂点に到着する。と、一息つくようにおちゃらける。


『ほい、いっちょ上がりー割とかけっぽかったんだけど、登れてよかったわー』


 そして、再び地面を蹴ってカルトの領外に飛び出した______



前回の予告通り、作者の考えた魔獣の設定を一体ずつ載せていきたいと思います。

 ・アウレシス

 体長 1.5‐1.7㍍ 体重28‐3㎏  属性:影

 長細く鞭のような手足が特徴の流線型の頭をした猿。手だけの長さは3-4㍍あるとされ移動の際は一瞬のうちに巻きつけて体を前にはじき出すと同時に解くという離れ業を実行している。光を苦手とし、基本夜に眠っている動物を狙って捕食する肉食獣。昼間は木の影の中に身を潜めている。

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