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荒野の魔術師  作者: イルカ
8/12

母親

  収穫祭が無事終わった、その翌日

 ―――お昼前。


 村人たちは全員、広場の片付けやら冬への準備やらに奔走している。


 …そんな中で、僕は未だに出かけられずに自分の家にいた。

 客人がいるのだ。


 朝から突然押しかけてきて、今も食卓の椅子に腰かけている客人。

 彼はずっと話をしている。

 対面に座る僕の母をなんとか説得しようとしているのだ。

 しかし母さんは頷かない。それどころか怒りに満ちた目で客人を睨みつけている。


 かれこれ20分はこの調子である。


 突然、母さんが立ち上がった。

「いきなりやってきて何をおっしゃっているのですか貴方は!」


 恐ろしい程の激昂だ。その剣幕に仰天した客人…タガバネ(例によって勧誘の仕方が微妙な魔術師)…は後ずさった…椅子ごと。

 母さんは厳しくさらに言い募った。


「国は勝手なことをおっしゃるのね!

 魔術師になれば、褒賞が出るですって?

 そんな息子を売り飛ばすような真似、できるもんですか!」


 ひと息に捲し立てられて、タカバネはやや蒼褪めていた。


 当の「息子」本人すら…血の気が引いた。この時心底母が怖いと思った。

 今まで母がこれ程誰かに怒鳴る姿など見たこともなかった…。


 ――息子さんを魔術師にします。つきましてはお覚悟を。

 開口一番にタカバネからそんなことを聞かされた母さんは、まず押し黙った。

 そしてひとこと、

「お帰り下さい」

 母さんは無表情だった。

 僕は面食らった。意外だった。


 …ここまで強く反対されるとは、思ってもみなかった。

 タカバネの説明は、昨日僕に話した裏事情を除いていたが、決しておかしな内容ではない。ただ、母さんからすれば、国のやりようは理不尽に映ったのだろう。

 彼女は僕と違って、納得しなかった。


 当事者であるはずの僕は茫然としていた。

 口を挟めない。

 まるで他人事のように2人の話を聞いていた。


 ボンヤリと、どうしたらよいのだろう、と思った矢先。

 タカバネがいきなり椅子を滑り落ちた。

 そして、土下座。

 僕はぽかんとした。母さんも一瞬怒りを忘れたのかキョトンとなった―――


「お願いです。息子さんを我々国立魔術師ギルドに渡してください!」


 叫ぶように言ったタカバネ。

 一瞬、部屋がしんと静まった。


 母さんが、ストッと、力が抜けたように椅子に座った。


「…どうぞ、それはやめて。椅子に、お座りくださいタカバネさん」


「………………」


「ごめんなさいね。私も怒鳴ってしまって」


 しばらくして、落ち着いた様子の母に、タカバネが穏やかな眼を向けた。


「息子さんを、本当に愛されているんですね」


 どこか、羨ましそうな眼差しだった。僕は瞠目してそんな彼を見ていた。


「今回の勧誘は、息子さんのためでもあるのです。……お母様、これは、国家機密なのですが、この際お話し致しますのでお聞きください」


 淡々と、昨日と同じように裏事情を語るタカバネの表情は、どこか優しげだと、僕は思った。


「それに、ですね。息子さんは普通じゃない。気付いていらっしゃるでしょう、

 賢すぎますよこの子は。失礼ながら、最初、子供の姿をした魔物なのではないかと思いました」

 

 本人を前にひどいこと言うなこの人。ギョッとタカバネを見ると、いつものひょうきんな笑顔であった。


 母さんは怒るでもなく苦笑して、

「そうね。取り替えっ子ってご存知?この子、3歳の時、急に中身が入れ替わったんじゃないかってくらい、大人しくなっちゃって。それからずっと、こんな感じ」


「えっ」


「とにかく、夫が帰るまで返事は待ってください」


「分かりました。私への連絡方法・・・・は息子さんに教えてありますし、何かあればガスパロ一座の天幕に居ますから」


 呆気にとられた僕が蚊帳の外にいるまま、話はそこからトントン拍子に終わってしまった。





各話の長さがバラバラですみません…。

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