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荒野の魔術師  作者: イルカ
6/12

受け継がれていく魔術

 

星が出てきた。

夜の舞台の、本番が始まった。


僕とビル、あと数人の裏方は舞台の篝火から少し離れた暗がりで待機していた。


村の皆のいる観客席より少し近いから、舞台の様子が良く見える。


魔術で舞台を少し明るくしてあるらしい。

ぼんやりとだが淡い光の粒子が雪のようにはらはらと舞っているのが見えた。

 

この光も魔術。

タカバネの言うような、(恐らくは魔術を)"見る"力で

僕がこの淡い光を見ているのだとしたら…。


他の人にはどう見えているのだろう。

もしかして、違う光景が映るのだろうか。

もしそうならそっちも見てみたい…。


もしてこの世界は人によって見えるものが違うのだろうか。

魔術師とは限らない。他にも違う見えかたの人もいるかも。些細すぎて気が付かなかっただけもしれない…


僕がいろいろと"見て"いる間にも

ひとつめの劇<農作願い>は単調に、問題なく進んでいく。


魔術師タカバネによると「こっちの劇はあまりいじるべきでない」らしく、魔術は舞台や衣装に細かな手を加えただけだった。


それでも十分劇本来の<願い>を強めたのだろう…。

例年よりずっと幻想的だった。

躍り手の真剣さが観客にまで波のように押し寄せるような…いつもと違う迫力があった。


観客の割れんばかりの拍手を受けつつ、僕ら黒子は急いで舞台の配置換えをしたのだった。




そして始まったふたつめの演目、<厄払い>。

こちらも、ちょっとした短い劇だ。


ストーリーは次の通り。

 

――舞台は農村の秋――木々を模したオブジェの傍、数人の踊り手が踊っている。村人や獣の役だ。冬が近づくと彼らの踊りが鈍くなる。やがて、"氷の精霊"たちが登場する。

冬の到来。


――"氷の精霊"たちは全てを眠りにつかせる役目…。

 精霊たちは舞ながら舞台上を滑るように一周し、

舞台のあちこちで踊り手や木に寄り添って動きを止める。

人々は眠くなり…終いには踊り手全員の動きが止まり、舞台上が停止する。

それはまさに木々も枯れ水も氷り、何もかも眠ったような世界。


――そしてそこへ、"春の乙女"が登場するのだ。

 彼女は舞台の端から上がって来て、初めはゆるゆると、

次第に激しく踊りながら、木々や人々の側を通過する。

まさに「春風」のような"春の乙女"の舞に驚いたように飛び起き、"氷の精霊"たちが舞台を去っていく。


――やがて舞台の人々は眠りから目を覚まし、再び踊り出す。

 "春の乙女"はその傍らで、「不思議な踊り」をする。

まるで何かをかき混ぜるような、大きく、ゆっくりとした動きの舞だ。最後には他の踊り手も同じ踊りに加わって、劇は幕を下ろす。


 ~~~~~~~~~~~

 これが大筋だ。

 

細かい説明をすると。

この劇に出てくる"氷の精霊"とは、この地方に伝わる伝承の一つだ。

冬になると北からやって来て、目に映るもの全てを凍らすという。

少女の姿をした小さな精霊で、とても綺麗。

――しかし寂しがり屋で、気に入ったら何だろうと(勿論人も…)氷らせる恐ろしいやつらしい――

まさに氷、冬の冷気といった印象だ。

 

 そして、"氷の精霊"がすべてを凍らせ眠りに導く「氷」の役割だとすれば、"春の乙女"はすべての生命の目を覚ます「春風」の役割だ。


 "春の乙女"もおとぎばなしの一つで、春を呼ぶとか、幸運を運ぶといった精霊らしい。「春風」に相応しく、軽やかな動きが要求される。


今年担当の村長の娘カタリナは、この難しい舞を見事に踊りきった。相当練習しただろう彼女の踊りは、華のある衣装も相まって、とても綺麗だった。


 それから…

 

どうなるのかと皆が期待していた魔術の演出。


器用なのか慣れているのか、タカバネの魔術の演出は素晴らしかった。幻の雪だったり、氷だったり、花びらだったり…。


村の皆は魔術に驚いたが、タカバネの魔術は劇にするりと溶け込んでいたので違和感もない。踊り手も見る側も自然にこの粋な演出を楽しめた。 


 

そうして―――皆が舞台に見惚れている間に劇は終わり、盛大な拍手が広場を包んだ。劇は大成功だった。



音楽が鳴りやんだ後も、僕はしばし舞台を見つめて、惚けていた。


劇の後半、僕は夜空に不思議なものを見た…。

舞台の上空、踊り手たちの頭上あたり。

なんと、夜闇にぼんやりと光る「川のような何か」が見えたのだ。


透明な靄のような流れに浮かぶ光の粒子のようなもので、それが大河のように、たぷたぷと流れているのだ。


初めは何も見えちゃいなかった。

しかし"春の乙女"の最後の不思議な舞が始まった、その時。

突然、何もなかったはずの夜空にそれは

淡く光って現われ、ざぶんとうねった。


 おかげで、それまで舞台を楽しんでた僕は腰を抜かしそうになって、空に釘付けになった。

隣にいるビルを小突いて指差してみたが、

惜しいことに彼に「川」は見えないようだった。

(何だこいつという迷惑げな顔をされた…)

 

「川」は初め、淀みのように所々詰まったり、渦巻いたりしていた。


しかし踊りが進むにつれ、次第に淡い光の流れは滑らかになり、さらさらと水が流れるような速度で動き出したのだ。


まるで下で踊っている"春の乙女"の、淀みを押し流すような不思議な動作につられるがごとく…


これはまさしくタカバネの言っていた、「気の流れ」というものなのだろうか。

そんなものを見たのは初めてなので、驚いた。なぜだろう。去年まで見えなかったのに…。


はたして見えているかどうかは分からないが、

他にも僕と同じように空を見上げている人がまばらにいた。

観客の中に数人、それからまだ舞台を降りていないカタリナさん、

あと、同じ舞台脇にいた魔術師のタカバネ…。


すると、少し離れた位置に立っていた魔術師が寄って来て、ふとこんなことを呟いた。


「"春の乙女"役の彼女にも"見る"力があるな。

 今年も儀式にもしっかり効果がでそうだ」


 僕はまだ舞台に立つカタリナを見た。

 彼女は満足げな笑顔で、いまだに舞台の空中を眺めていた。

 やっぱり、何か見えているらしい。


「あの娘、相当高い素質がある」


ならカタリナさんも…。ところがタカバネは首を横に振った。


「だけど、彼女は勧誘対象外」


 え?と拍子抜けした。

「どうしてです?」


「彼女には村の長の家系として、この土地での役割があるのさ」


「この村に必要な存在だ。

魔術師にはなれても、俺たちのギルドには誘えないよ」


タカバネはさっぱりした口調で述べつつ、

「惜しかった」

とても残念そうだった。


「でも、彼女はきちんとこれからの村にも、この「川」の流れを伝えていくだろうな」


 納得して、それからしばしの間、余韻に浸りながら夜空を眺めていた。

ところが、淡い光は次第に薄れだし、あれよあれよという間に

すうぅ と、闇に溶けてしまった。


やがて突然「おーい、片付けるぞぉー」

という声で我に返った時、

すでに空には何も見えなかった。


やけに細かい所にこだわってしまいました…。ごちゃごちゃと伝承っぽいものを書きましたが、勝手に考えたものなので変でも気にしないでください。

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