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荒野の魔術師  作者: イルカ
12/12

世は情け

 幌のなかに、夕陽が差し込む頃。


「おぉい、王都の外れに着いたぞ!」


 御者台からトッホが叫ぶのが聞こえた。


 荷馬車の端に居る僕は、幌の裾をまくって外を見た。

 雪解けで灰色の原っぱが、灰色の畑へと景色を変えている。ようやっと人里だ。

 馬車が到着したのは王都の外れ。

 郊外らしく田畑が広がっていて、道中の殺風景な丘よりはよっぽど目に楽しい。


 やがて馬車は緩やかに歩みを止めた。

(ついでに衝撃で積荷の天辺がついに決壊し、箱がひとつフランカの頭に直撃したのだが…)

 最後の惨事はともかく、僕らは無事王都に着いたのであった。



「おれはこの街でいったん補給して、それから王都の中央に向かう。

 そのためにここで一晩泊まることになるんだが…。

 婆ちゃんらには王都までの運賃をもらってるから、明日も乗せてく。

 そんで姉さんと、あんたら兄弟はどうするね。護衛はもちろん王都に入ってからもありがたいが」


「いえ。護衛の件、申し訳ないんですが。

 少々用事もありましてここで降ろしてもらえると助かります。

 ここまで乗せていただいて、本当にありがとうございました」


 タカバネがやけに改まった口調で答えている。トッホが笑った。

「気にせんでいい。持ちつ持たれつさ」

 続いてフランカも言った。


「トッホさん、わたしもここまででお願いするわ。本当にありがとう」


「そうかい。兄さんと姉さん旅慣れてる感じだったし、護衛は実際助かったよ。まあここから一緒じゃないのは残念だが、しょうがねえなぁ」


「護衛はまた雇うんですか?」

 僕は気になって聞いてみた。


「いや、目的地も近いことだし雇わんよ。今から探して雇うと、赤字になっちまうし時間も喰うんでな。

 外よりゃ安全だし、街中じゃ雇ってないんだ。今みたく外からの続きで街中も頼むことはあるが。

 …とは言え最近はどうも物騒になってきたからなぁ。あんたらも、道中気を付けてな」



「それじゃあ、大変お世話になりました」


「ありがとうトッホさん。わたし王都で活動してるから、会ったらお礼させてね」


「あいよ。おまえさんら、また機会があれば護衛を頼むよ」


 別れ際、護衛を兼ねていたこととは別に、タカバネはお礼をトッホに渡していた。

 そしてトッホたちやフランカと別れて、僕らはそれぞれ町に散った。



「馬車に乗せてもらったおかげで、予定よりゃ一日縮んだよ。それにやっぱり人数が多いに越したことはないね、旅は」


 夜、宿屋に泊まった折。階下の酒場で夕食をとりながら、タカバネがしみじみと呟いた。

「本当に、今回はラッキーだったなぁ。良い人に拾われたってことも含めてな…」


 確かに。ヒッチハイクなんて、拾う側も拾われる側も善人でなければ危険だろうな。

「良い人…懐深い人だったよね。トッホさん」


 僕も旅に慣れてきたが、実際、人との出会いは貴重なものである。

 …喧騒の中、ふとそんなことを思った時、

 酒場に入って来た女性と偶然目が合った。おや、と目を丸くする。


「あれ、フランカさん?」


「あらあ!」

 向こうも驚いたようだ。

 すぐに彼女は笑顔になり、席を縫って僕らのテーブルに近づいて来る。


「ロア君とタカバネさんじゃない!

 お久しぶりね…というには夕方に別れたばかりだけど」


「同じ宿だったんですねぇ」

 僕が驚いているとタカバネも手を挙げて軽く挨拶をする。


「先刻はどうも。フランカさん」


「どうも。こんなこともあるものよね。

  そうだ、席ご一緒していいかしら!」


「ええ、どうぞどうぞ」


「ありがとう!―-あ、そこの娘さん、わたしにもその料理お願い。あとお酒も」


「あ、はあい!ちょっと待ってて下さいね!」



「―-そういえばふたりも、王都を目指してるのよね。…―-もし構わなければ、わたしも同行させてもらえないかしら?」


 タカバネが眉をあげた。

「でも俺たち、この町に用事があるんで、出発は数日後になりますよ?それでも良けりゃ」


「それはもちろん構わないわ。それに、わたしも用事があるからすぐには立てないのよね…」


「なら、喜んで。人数が増える分には歓迎ですよ。実際、あなたなら安心ですし。よろしく」


「あら、ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいわ!」

 フランカは嬉しそうに笑った。

「あなたたちとは良い縁がありそうね。

  あ、タカバネさん、敬語と敬称はとっちゃってよ。年近いんだし」


「じゃ遠慮なく。俺のこともタカバネでいいよ。

 君は王都へは出稼ぎかい?格好からして傭兵みたいだけど」


「そうそう。こう見えてわたし、けっこう力も強いし、腕も立つのよ。…女の傭兵は珍しいかしら?」


「へえ、いや、旅すがらよく見かけるし、知り合いもいるよ。確かに少数だけど、珍しいもんかい?」


「そうね、たまにびっくりされちゃうものだから。女が傭兵っていうと」


「そりゃ女は男よりゃ力が弱いが、仕事によっちゃ彼女らのほうが向いてると俺は思うね」


  意外なことをいうタカバネ。


「うーん、それは人によるでしょうけどね…。でもまぁ公平なご意見どうも」


「ありゃ、余計なことを言っちゃったか」


「いいえ、別に。珍しい考えってだけで」

 フランカは面白そうな顔をしていた。


「フランカさん、もとは一人で王都まで行くつもりだったの?」と僕。


「そうねぇ。予定では馴染みの商隊にでも潜り込もうと考えてたんだけど、あいにく用心棒の手は足りてて」


 そうするとこの遭遇、渡りに船だったのかな。


「そういうあなたち兄弟は出稼ぎっ…て感じじゃないけど」

 フランカは僕らを見比べて首を傾げた。


「出稼ぎ…というか、王都の縁者を頼りにして田舎から出てきたところさ」

 さらりと当り障りなく答えるタカバネ。

 一瞬、目をしばたかせた後、フランカは肩を竦めて苦笑した。

「ふうん。お互い色々と大変ね…」


 フランカに微妙な反応をされた気がする。

 どうやってかこちらに何か事情があると察したのか。

 タカバネは、用心深さを発揮して、もしくは説明の面倒くささを鑑みて、ひとまず誤魔化しただけなのだろうけど。

 とは言え彼女も詮索するほど無遠慮な人ではない。と思う。


「ロア、これおいしいから食べてみ。この宿の料理は結構おすすめよ」

 フランカは皿を僕の前に押しやって、さっさと話題を変えてしまった。





 



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