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留守中の出来事

作者: 高坂桐乃

「ただいまーーッ!」


帰ってきて早々家の少しギシギシしたドアをを開け放ち、

大声で叫びながら帰ってきたこの少年。

彼の名前は碇シンジ。


今、小学校から帰ってきたばかり。



「母さーん! 居ないのぉ?」


いつもなら母さんは『おかえり〜』と迎えてくれるはずなのになぁ…。

そう思いつつも、自分の部屋にランドセルを置くと、

何やらごそごそとランドセルを探り、ニヤッと笑った。



手に握られて結構くたびれてしまっているが、

それは、100点のテストだった。

昨日のテストでとても頑張ったようだ。


100点を取ればゲームやら漫画やらを買ってもらえるんだとか。



「もぉ〜、こういう時に居ないんだから親って嫌だよ」


シンジは小学5年生。

やけに大人びた発言が多い。




「こんな時間にどこいったんだろ?

    どっか行くんなら手紙くらい置いてといてくれたらいいのに…」


留守番は苦手じゃない。

でも、まだ(もう?)小5だし、甘えたい年頃なのだろう。

ソワソワして家中ウロウロしている。



(…そうだ! ゲームでもしよっかな)


何とか暇つぶしの方法を見つけたらしい。

ブロントの部屋には結構沢山のゲームがある。

テレビゲーム、体感ゲーム、ポータブルゲーム…。

全て100点を取って買ってもらったものらしい。




『今日の気分でこれだな』と

選んだものは、シューティングゲームだった。


 


 キュイーン、ズバババ、ドッヒューン・・・



「あ、もう負けた」


今日のシンジは調子が悪い。

ザコい奴にも負けてしまった。(しかもステージ2で)




「もうやーだ!…早く帰って来いよ〜」


テレビの電源をブチッと乱暴に切ると、涙を浮かべて愚痴った。






 ピンポーン、ピンポーン



(ハッ…! 母さんだ!)



チャイムが鳴り響いた。

シンジは一目散に玄関のドアを開けた。



「心配したんだぞ…母さ・・・」



シンジは愕然とした。



「こんにちは! あれ、シンジ君、一人なのかな?

    お母さんか、お父さん、いるかな?」



ドアを開けた先には、チャイナ風の女性がいた。

目つきが怖く、女にしてはかなり大きい。大女だ。

顔は笑っているが、目が笑っていない。



「あ、ああぁぁ…」



初めて見る厳つい奴…。

シンジは口案繰りのまま、硬直してしまった。



「ど、どうしたの? あたしは怪しい人じゃないから!」



シンジの頭の中で警告のアラームと、

[ハヤクドアヲシメロ!]という看板がグルグル回り出した。



(悪い奴《不審者》なのか…こいつ・・・ッ。

しかも、何で僕の名前知ってんだよ…!)



そう思った瞬間、反射的に体が動き、

玄関のドアを思いっきり閉めた。


怪しい女は目をパチクリさせて首を傾げ、うな垂れながら帰って行った。





(ハァ、ハァ、ハァ…)


誰も居ない家の中で、僕の荒い息だけが残っていた。



少し落ち着いたシンジは、台所へ向かった。


廊下を歩く。

ギシ、ギシと年期の入った音がする。

築14年、シンジよりも長生きしている家。



一人っ子で、いつもお母さんとこの家で遊んでいたシンジ。

友達も出来ず、消極的な息子を気遣ってずっと遊んであげたお母さん。

そんな思い出の詰まった家も一人になるとすっからかんに感じて虚しい。



「母さん…。 どこ行っちゃったんだ…」


シンジの目から自然に涙がホロッと落ち、

床の上にこぼれた。



食べて気を紛らわそうとしているのか、ただ腹が減ったのかは分からないが、

冷蔵庫からまだ未開封の板チョコを取り出した。


それを手に取り、包装紙の上から手にぐっと力を込める。


 パキッ!


軽やかな音が鳴り、チョコが割れた。

包装紙を破いて欠片を一つ、口に放り込んだ。



(グスッ…うまいなぁ・・・)


甘い、スィートな味。

後からちょっぴり苦味が来る。



まるで、お母さんのような味だった。





時刻は午後4時30分。

帰ってきたのが3時だから1時間半待っていることになる。


シンジは自分の部屋に戻ってベッドに寝転んでいた。

ウトウトしてきた…。と思い、

目を閉じたその瞬間!



「あ、母さんだ…!絶対」


急にベッドから飛び起きた。

お母さんが帰ってきたという。



 ガチャン!



(母)「ただいま〜っと♪」


シンジが帰って来た時よりもドアが大きく開き、

かなり陽気な様子でお母さんが本当に帰ってきた。

シンジはお母さんの元へ駆け寄る。



「母さ〜〜ん! 心配したんだぞ…!」


お母さんは泣きながら話す息子に少し戸惑った。



(母)「どうしたの? 何かあったの…?」



お母さんが聞いてもシンジはグズグズと涙を啜るばかり。

そんな息子にニッコリ笑いかけ、頭を撫で、



(母)「ごめんね…。 心配かけて…」


と、優しく呟いた。




(母)「こらシンジ、男なんだからいい加減に泣き止みなさい!」


お母さんに少し大きめに怒られたシンジは、

涙を服の襟で拭うと



「うん…」


と、言った。


それはなぜか嬉しそうだった。

きっと、お母さんの温もりを感じたからなのだろう。



 ピンポーン、ピンポーン



(母)「あら? 誰かしら」


玄関のドアを開けるお母さん。

シンジは、ゾッと身震いした。



「あ、奥さん。 帰ってきたんですね」


(あいつだーーーッ)と恐怖に満ちたシンジ。

シンジの顔のほうが余程怖くなってしまっている。


そんなシンジを尻目に、

お母さんはニコニコ笑顔で、会話が弾む。(玄関で)






(こいつ、誰なんだ…?)


疑問に思ったのが顔に出たのだろう、

お母さんはハッとして説明を始める。



(母)「まだシンジには話して無かったわね。

   こちら、今日の朝引っ越して来た、リンさん」


キャビンアテンダント(=客室乗務員)の様に手を添えて紹介。

リンと呼ばれたチャイナ風の女性はシンジにお辞儀をして、

ぎこちない笑顔で話す。



「こんにちは。 さっきはゴメンネ。

    何か驚かせちゃって…」


「こんにちは…。(なーんだ、損した気分…。)」


不審者かと勘違いしたせいで損した気になってしまったが、

まぁ、アブナイ人じゃなくて良かったとホッとしたはずだ。



「じゃあ、あたしはこれで。

    シンジ君、じゃあね」


「…うん。(子ども扱いすんじゃねー!)」


十分、子供なのだが…。



(母)「またいつでもいらっしゃって下さい」


リンは、ペコペコお辞儀をしながら帰っていった。

結構、律儀な人であった。






(母)「あら! もうこんな時間!

    お風呂も沸かして、ご飯の支度しないと…」


シンジを押しのけてお風呂場へ直行するお母さん。

シンジは例のテストを持って、その後について行き、

お風呂をもう洗い始めているお母さんを見ていた。


すると、お母さんはカッとシンジを睨み付け、



(母)「シンジォッ! 

   ボーっと見てる暇があったら勉強しなさい!」


と、喝を入れた。


G O O D タイミング!



「え、あ、それよりこれ、見てよ」


 ジャジャーン!


こんなBGMが付く位ピッとお母さんに100点のテストを見せ付けた。


それをチラッと見たお母さんの顔が一気に和んだ。

その後一気に悔しそうな顔をする。



(母)「…やるじゃない。

    何が欲しいの? ゲームでしょ、どうせ」


口を尖らせて言った。

その言葉に、シンジは横に首を振った。



(母)「じゃ、何が欲しいの?」


喋っている間でも、お母さんの腕は止まらない。

見る見るうちに風呂場が綺麗になっていく。



「母さんにずっと、ずっと居て欲しい…。

    そうやって褒めたり、怒ったりして欲しい」


ピタッとお母さんの腕が止まった。



(母)「そんなことで良いの?」


シンジは首を今度は縦に振った。

お母さんの目をジッと見つめる。

『ダメ?』と、言いたげな眼つきだ。


ふと、お母さんがシンジに手招きした。

風呂場ぎりぎりまで近づくと…。



(母)「母さんはずっとここに居るから…。

    いい子だね、シンジぁ〜」


お母さんはシンジを抱きしめた。

シンジは、嫌がることも無く、微笑んだ。



       「大好き!」


どっちが言ったかは、分からない。

でも、どちらも思ったこと。


家族の絆って素晴らしいもの。

是非、見習いたいもんだ。


            
































「っていうかさ、どこ行ってたんだよ」


(母)「郵便局。 年賀ハガキを貰いに行ってたのよ」


「ちょっと遅くねぇか!? 貰うの!」


(後日の会話より抜粋)

 

          

           “留守中の出来事” 〜fin〜

エヴァゲリ好きな友達が多いし、この話はかなりの名作になったと思う…

これからも、沢山の小説を書いていきたい。

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