其の五
其の五
その後、彼女はもう一度だけ実験をしてみることにした。
つまりは死者を生き返らせるということだ。本当は人間で実験をしたかったがそうもいかなかった。
――都合よく人間の死体なんて落ちてないしな。どっかの病院の霊安室とかに忍びこむっていう手もなくはないが・・・・・。
騒ぎになるのは確実だろう。
さすがにそれは避けなければならない。しかしそれは人間でなくとも一緒なのかもしれない。
死体などそう都合よく落ちているものではないのだから。
それならまた猫がひかれるのを待つか?それも一つの手ではあるが、彼女はもっと簡単で死体を手に入れる方法を思いついた。
「誰か殺すか」
至って単純な答えだった。
ないなら自分で作ればいいだけの話だ。
死神の尻尾が本物だという事はわかっている。殺してもすぐに生き返らせてやれる。それが目的なのだから。
もし仮にも生き返らなくても問題はない。彼女はもう死ぬ気なのだから、罪を背負う事もないのだ。
「誰を殺すか・・・・・だよなぁ。いや、殺し方も考えないといけないのか。抵抗されたら、あたしには押さえつける力はないし。相手に気づかれずに一撃で殺すのが理想だな。でも、そんな殺しのテクニックないぞ」
うーん、と頭を悩ませる。口で言うのは簡単だ。
しかしそれをいざ実行に移すとなると、話は一気に変わってくるのだ。突発的な殺人ではなく計画殺人。彼女は決意する。
「よし。人間を殺すのは諦めよう」
グレードを下げる事にしたのだ。つまりは殺す相手は人間ではなく動物。と、ここで彼女は思いつく。
「・・・・・あるじゃないか死体」
彼女はそう言い、家を出た。
向かった先はスーパーだった。そこで死体を買う。その死体とは魚の事だ。
一番簡単に手に入る死体だ。しかも小動物と違って何も感じる事はない。小動物を殺すぐらいなら、彼女は人間を殺す事を選ぶだろう。
いとも簡単に死体を手に入れた彼女は家に戻る。そしてさっそく魚を取り出した。
「さて、実験実験」
彼女は桐箱を取り出し、その中に入っている死神の尻尾に触れた。そして魚にも触れる。
「どれぐらいの命を与えようか・・・・・。まぁ生き返ったところでまたすぐに死ぬんだけどな」
言って彼女は自分の足元を見る。そこにいるのは、早くご飯をくれと言わんばかりに目を輝かせている猫がいた。
「まぁ実験だし、この前は三年という命を与えた。ならそれを上回る命が与えられるのかを調べるべきだな。良し、十年だ」
魚にとっては破格の寿命だろう。
彼女が言った直後、魚は眠りから覚めたかのように動きはじめた。
成功だ。
「ふむ」
彼女は驚くこともなく生き返った魚を床に落とした。それに猫は喜んで飛びついた。
「十年でも問題はないか。何年ぐらいまでならいけるんだろうな」
足元でボリボリと食事を続ける猫などお構いなしに思考を続ける。
ふと死神の尻尾に視線をやる。するとそこにはある変化が起きていた。
「・・・・・短くなっている?」
彼女はマジマジと見つめる。
――錯覚?いや、確実に短くなっている。どういう事だ?
机の中から定規を取り出し、長さを計る。その長さは三十六センチだった。
「簡単に見積もっても十センチは短くなっている気がするな。ん?十センチ?」
そこで彼女は十という数字に心あたりがあることを思い出す。今しがた魚に与えた寿命だったのだ。
「まさか与えた年数=長さ一センチなのか?という事は残り三十六センチ、三十六年分が与える事のできる命?」
彼女はそう考えた。
使った年数だけ短くなる。あと三十六センチ。
「あと三十六年分で終わりか。魚に十年もやったのは気前が良すぎたな。あぁくそファック。いやでも十センチぐらい一気に短くなっていなかったら、この事実には気づかなかっただろうなぁ。そういった意味では結果オーライか」
しかし彼女はある事を考えるのを忘れていた。
それは残りの命である三十六年を使い切った後の事だ。
彼女はまだ知らない。
それを使い切ると何が起こるのかを。
その代償からは逃れられる事は決して出来ない。
唯一方法があるとするならば、それは今後一切、死神の尻尾を使わないことだ。
使い切らなければ代償が訪れる事はない。しかし彼女は使ってしまう。もはやそれは宿命なのだろうか。
数日後、彼女は残りの年数を一気に、ある相手に使う事になる。
その相手とは爽真直道だった。
ヒント九、本当の答えには対価という漢字を入れる事
ヒント十、嘘の答えには命という漢字を入れる事