其の一
この小説は「あなたのSFコンテスト」の作品になります。
そしてこの小説の「SF]とは「S=性悪」「F=ファック」です。
はいそうです。かなり無理矢理ですね(笑)
辛口コメントは私の心がガラスのハートで出来ている為に受け付けておりません。
それでは宜しく読んでやってください。
其の零
問題。
死神の尻尾を使うにあたって対価があるなら、それは何かを十五文字以内で答えよ。
其の九
ああ。あたしはいつからこんな事をしているのだったかな。随分と長い時間が流れた気もするが、たいした時間でもない気がする。
なぜこんな事になったのかな。
ああそうだ。
願いを願って、願いが叶ったが為に願いは叶わなくなったんだ―――――。
其の一
捩花歪。
これだけを聞いて誰が人の名前だと理解できるだろうか。
市内の中学に通う中学二年生の捩花歪。
彼女は名前の通りの性格に育ってしまった。容姿はそれほど悪くはない。しかし性格が壊滅的だ。全てが名前の通りに歪んでいると言っても過言ではない。
彼女は全てに嫌気がさしていた。
「・・・・・つまらない」
下校中にぽつりとそんな事を言う。
「つまらない。つまらない。まじファック」
しかし下校中と言ってもまだ時間はお昼だ。つまりは早退。しかも無断早退だった。
「人生つまらない」
彼女は生きることさえもつまらいと本気で思っている。
毎日を何も考えず生きているだけ。ただ生きているだけ。何もない。何も起きない。楽しいはずがない。そう思い生きている。そしてそれは一つの結論へとたどり着く。
「死のう」
彼女は自殺を決意している。
問題はどうやって死ぬかだ。それが今、彼女にとって考えるべきこと。決して生きる意味を考えたりはしない。結論は出ない。それが答えだとわかっているから。
「うーん。首吊り?飛び降り?痛いのは嫌だなぁ」
歩きながらブツブツと独り言をいう。その姿は周囲から見れば異質に見えるだろう。
実際に異質なのだ。彼女にはある感情が欠落している。
それは寂しいと感じる感情だ。
独りでいることが寂しいとは思わない。むしろ楽だと思っている。
そしてそれに連動するかの様に、誰かを心配するという事もなくなっていった。
自分が寂しさを知らない限り、誰かを心配するなどという事はないのだ。
この二つは連動している。この感情がないことは彼女にとっては好都合なのだ。彼女はその様な感情など不要だと思っている。
――どうにかして楽な死に方ないかな。あーどうせ死ぬなら、最後に良いことでもするか?臓器提供とかいいんじゃないか?せっかくだし、あたしの身体を分けてやるって言うのも悪くないか。いやでも、それを考えたら死に方が制限されてしまうなぁ。他人と簡単に臓器を変換できたら楽だけど、そんなのないし・・・・・やっぱ却下だな。他人の為に何かするなんて虫唾が走る。
そんな事を考えていると「おーい。ゆっがっみー」と言う声がした。
彼女が声のする方向を見ると一人の少年が走って来た。
「ちっ」
と彼女は舌打ちをして言う。
「なんだ。お前かよ。まじファック」
彼は彼女の前で足を止めると「うん。まず突っ込むべきところが二つだね。じゃあ一つ目」と言い、彼は目を瞑り思い出す。
そして目を見開き、まくし立てる様に「なんで舌打ちするのっ!おかしくない?いくら僕だって傷つくんだよっ?二つ目。なんだお前かよってひどすぎない?だいたいまじファック とか女の子の言葉使いじゃないよねっ?歪は見た目はいいんだから、もう少し言葉使いを可愛くすればいいのに」と叫んだ。
しばし沈黙。彼女は無表情だった。そして歩きだす。彼はしばし呆然とし「シカトかーっ」と嘆いている。
「君、うざいよ?知ってる?うざいよ?重要な事なので二回言いました」
涙目になりながら「やめてっ!」と懇願した。そんなやりとりをしながら歩いて行く。
彼は彼女の幼馴染みで名前を爽真直道という。性格は彼女とは正反対で、真っ直ぐで爽やかな少年だ。
「何か用?」
その問いに彼は、さも当たり前のように「いや別に用はないけど、姿が見えたから一緒に帰ろうと思って」と笑顔で答えた。
ちなみに彼は、しっかりと早退の届けを出している。彼は彼女の唯一の友達と言ってもいいだろう。
少なくとも彼はそう思っているが、しかし彼女はそんな幼馴染みすら顔見知り程度の認識なのである。
「君はあたしのストーカー?そんなにあたしが好きなの?」
彼女は彼を見ないで言う。彼も彼女を見ないで「好きだよ?だからさー、十八歳になったら結婚しようね」と言う。
それを聞いた彼女は足を止めて彼を見る。
「それまで生きてたらね」
そう言って再び歩きだした。
――十八歳になったら結婚か。ならそれまでには確実に死なないとなぁ。まぁもうすぐ死ぬんだけど。
彼は呆れた様に「相変わらずだなー。小さい頃から何度も言ってるのに」と言い、ため息をついた。
「それを言うならあたしだって何度も答えを言ってるけど」
それは彼もわかっている。それでも「確認したいんだよ。答えが変わってないか」というのが彼の意見だ。
「無理!キモイ!まじファック!って言えばいいの?」
彼はショックのあまり少し間をあけて「・・・・・ただ『はい』って聞きたいだけ」だと真面目な思いを口にした。
「ふーん」
彼女はそう言い口を閉ざした。それから何も会話はないまま進んでいく。
そして「じゃ。僕こっちだからまたね」と言い、彼女に手を振る。彼女は言葉は言わずに視線を向けるだけ。
しかし彼は、それが彼女の挨拶だと分かっているので何も言わずにその場を離れた。
何事もなかったかの様に彼女は歩く。今まで隣に誰もいなかったかの様に。それでも彼女は彼の存在を忘れはしないだろう。
そんな時だった。下を向きながら歩いていると音がした。
コトン。
「ん?」
彼女は足を止めた。その音は耳で聞いたのではなく直接頭に響いた様な気がしたからだ。
キョロキョロと辺りを見渡す。が誰もいない。彼女は一歩、足を引き後ろを振り返ろうとした時だった。何かが、カカトに当たった。
それは桐箱だった。
――ありえない。
彼女はそう思った。
――あたしは下を向きながら歩いていたんだぞ?なぜ、あたしより後ろにあるんだ?
矛盾。歩いている方向・・・・・つまり、つま先部分に桐箱があるならわかる。しかし、桐箱があるのはカカト部分。理屈が合わない。自分より後ろにあると言う事は、桐箱をまたぐしかない。
しかし彼女には、またいだ記憶などない。それもそのはず。下を向き歩いていたのだから。本来ならつま先に当たるはずの桐箱、それが自分の後ろにある事実。
――どういう事だ?誰かがおいた?いや、人はいなかった。じゃあ何だ?上から降ってきた?それにしては音も大きくなかったし、桐箱が綺麗すぎる。
彼女は必死に頭を巡らせる。しかし考えても答えは見つからなかった。そして次に彼女がとった行動とは。
「何か書いてあるな」
彼女はその桐箱を手にとったのだ。その桐箱にはこう書かれていた。
「死神の・・・・・尻尾?」
桐箱に相応しい綺麗な字だった。死神の尻尾。そう書かれていた。
「死神の尻尾ねぇ・・・・・」
――あたしの知る死神には尻尾なんて生えてないけどなぁ。
彼女が知る死神とは、誰もが連想する者と同じである。黒いローブに身を包み、その姿は人の形をした骸骨。尻尾など誰もあるなどとは考えない。
「あたしが知らないだけか?いや、それはないか」
そして彼女はゆっくりと桐箱の蓋を開けた。
開けてしまったのだ。そこに入っていたのは真っ白な骨だった。
「骨・・・・・だなぁ」
小さい骨が連結している尻尾の骨だった。彼女はマジマジと観察をする。そして桐箱の蓋の裏に文字を見つけた。
「願えば・・・・・叶う」
願えば叶う。そう書かれていた。
――ハッ。笑わせる。なんだこれは?まるで猿の手じゃないか。
猿の手はあまりにも有名だ。
それこそ知らない者でも知っている。ある短編小説に出てくる物だ。どんな願いでも三つだけ叶えてくれる。しかしそれは意にそぐわぬ形で。金がほしいと願えば、大切な家族が死んで保険金が手に入るとか、そういう類の物だ。
簡単に言えば、何かを得るには何かを捨てなければならない。これほど合う言葉は他にはないだろう。
普通ならば、その様なおぞましい物はあってはならないし、見つけても手にしてはいけない。
しかし彼女は―――――捩花歪は、笑った。
「はははっ。いいじゃないか。いいじゃないか。どうしてこんな物がここにあるかなどどうでもいい。なぜ今あたしの手の内にあるかなどどうでもいい。誰かが仕向けたとしてもどうでもいい。その手の上で踊ってやるよ」
――あたしは死ぬ気だったんだぞ?周りがどうなろうが知った事じゃない。家族が死ぬかもしれない?どうでもいい。最後にあたしを楽しませてくれるなら、世界が滅んでも構わない。死神の尻尾。さぁあたしを楽しませておくれ。これが人生最後の余興だ。
ヒント一、死神から連想されることは何か?
ヒント二、死という漢字を入れない事