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 柚穂のいなくなった家の中にはただただ雨音だけが響いている。無口な柚穂など居てもいなくても変わらないはずなのに、瑞希はいつもよりずっと静かな、息苦しいまでの静寂を感じていた。

 気を紛らわすようにテレビをつける。しかしテレビの中はあまりにも賑やかで、自分が余計に惨めに思えてくる。……少しも気は紛れなかった。

「……まるで、あの時みたい」

 だらりと背もたれに身を預ける。思い出されるのは、柚穂が家に来た次の日の事だった。あの時もこんな風に喧嘩をして、柚穂が何も言わずに家を飛び出していった。

 きっかけは忘れた。どうでもいい、些細なことだったように思う。

 今回だって、始まりは些細な事だった。少しずつ不運が重なり、巡り合わせの悪さがこんなケンカを呼び寄せてしまった。

 もはやきっかけなどどうでもいいのだ。直視すべきは、自らもたらしたこの結果。

「なんであんなこと……言っちゃったんだろ……」

 雨音が瑞希に冷静さを取り戻させる。すると後に残るのは後悔だ。

 ……ひょっとするとあの言葉は、瑞希自身のものだったのかもしれない。

 当時中学二年生だった自分には、母の再婚など関わる余地もなかった。勝手に決められ、勝手に新しい家族が増えたのだ。受け入れたつもりでいても、やはりどこか拒絶しているところがあったのかもしれない。

 母も、新しい父も、仕事が忙しくて瑞希たちのことは放ったらかしだ。だからこそ、余計に反発してしまうのかもしれない。

「……私だって……柚穂と、もっと……」

 こんなことではいけない。柚穂ともっと仲良く出来たらその方がいいに決まっている。しかしそれができない。それをさせてくれない。自分勝手な自分が嫌いになって、その責任を柚穂に押し付けようとしてしまう。深みに嵌るように、どんどんと思考が暗く沈んでいく。

 テーブルに突っ伏す。そこには彼女のバッグの中身が広げられたままで、もちろんあの折り畳み傘も置き去りのままだ。

「柚穂……」

 名前を呼んでみる。答えが返ってくるはずがない。自分が追い出したのだから。

「……柚穂、どこ……?」

 彼女を追い求め、半ば無意識にそう口にした。

「……どこに……いるの……?」

 "あの日"の光景が脳裏をよぎる。

 雨の中、膝を抱えて震えていた彼女の姿が……。

「……そうだ、探しに行かなきゃ」

 そうして気づくと、瑞希は立ち上がっていた。

「……私がこんなんでどうするのよ」

 冷静になればなるほど後悔が強まる。自分を責めたくなる。

「私がお姉ちゃんなんだから……不安なのはあの子も同じで……だからこそ、私の方から……」

 一つ深呼吸をした。まだ柚穂の石鹸の匂いが部屋に残っている。

「あの子、シャワー浴びてすぐ外になんて行ったら、今度こそ風邪引いちゃうじゃない……。せめて傘くらいさしていってくれてればいいけど……」

 柚穂のことが心配だ。

「……行こう」

 折り畳み傘を手にとり、一本のビニール傘を広げて家を出る。

 今ならきっとまだ間に合う。

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