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二週間後のある休日。その日はよく晴れていた。
瑞希はその日出かけるつもりでいたが、柚穂が家にいるというので瑞希も予定を変える。たまには一緒に休日を過ごして、もっと彼女と打ち解けたいと思ったのだった。
柚穂はリビングのソファに座りテレビを眺めていた。テレビから聞こえてくる賑やかな声とは対照的に柚穂はいつも通り無表情で、そもそもちゃんと番組を見ているのかどうかも怪しいところである。
「……もうちょっと楽しそうに見れないの?」
そう声をかけて、しまったと思う。彼女と打ち解けるのが目的なのに、こんな冷たい言い方があったものか。
柚穂はおもむろに振り向くと、無表情のまま首を傾げた。
「……楽しく?」
「え、えっと……そ、そう! 楽しく! ほ、ほら、あのお笑い芸人面白いじゃない。私好きなのよねー」
一応柚穂が乗ってくれたので、慌てて会話を繋ぐ。そしてよく知りもしないお笑い芸人を指さし、隣に座ってテレビを見た。コンビの芸人がコントをやっているようだ。
「あ、あはははは」
「…………」
「あはは……は……」
「…………」
「……は…………」
「…………」
……ものの見事に滑っていた。放送事故レベルで面白くなかった。
「……瑞希、面白い?」
「お、面白いわよ! このちょっとシュールで笑えない所が逆に笑えるっていうか!」
今更後には退けずに意地で返すと、柚穂はテレビに向き直る。
「……あはははー」
そして試しにとばかりに棒読みの笑い声を上げた。
そのままじっと考えこみ、……瑞希に向き直る。
「……瑞希は変わってる」
「くっ……! あ、あんたにだけは言われたくないわ!!」
思わず立ち上がって叫んだ。
大声に部屋がしんと静まり返る。相変わらず滑り続けている芸人の声とサクラの笑いだけが響いていた。
「…………」
バツが悪くなってストンと腰を落とす。コンビの芸人が退場し、次の芸人が出てきていた。今度は面白かったが、瑞希は意地でも笑うまいと口をつむぐ。
「瑞希、面白くない?」
「全然。こんなので笑わないんだから」
さっきと言っていることが違っていた。
一体何をやっているのだろうと、瑞希は思う。笑うならこの芸人より自分を笑ってやりたかった。
(……違う違う。私はこんなことがしたかったんじゃなくって……)
軽く頬を叩いて頭を切り替える。そしてまずは、ずっと思っていたことを訊いてみることにした。
「……ねえ、柚穂」
「ん」
「折り畳み傘……好きじゃなかった?」
柚穂はあれからも折り畳み傘を使ってくれなかった。この二週間の間にも何度か雨は降ったが、やはり彼女はビニール傘を買って帰ってきたのだ。
「……別に」
テレビに視線を向けたまま答える。
「じゃあ、どうして? あんなにたくさん傘買ってたらもったいないし、柚穂もお小遣いが減って大変なんじゃない?」
「……えっと」
柚穂はうつむき、スッと右へ目を逸らす。
「…………瑞、希」
「うん?」
そのままで、柚穂は返した。
「……なん、で?」
「え……」
だから私に訊かれても困る……とは、何故か返せなかった。
「……えと……」
柚穂は困ったように視線を落とし、そして申し訳なさそうに目を伏せた。
「…………ごめん、なさい」
「あ……!」
言うが早いか、柚穂は立ち上がって走り去ってしまった。階段を駆け上がる音がして、直後、バタンと勢い良くドアを閉める音が響く。
「柚穂……」
テレビを見てもくすりとも笑わなかった、いつも無表情の柚穂。そんな彼女が珍しく浮かべたのは……。
「……なんで、なのかなぁ……」
瑞希はなんだか泣きたくなって、ソファの上で膝を抱える。その中に顔をうずめて、手探りでリモコンを見つけテレビを消した。
残された世界は酷く静かで、真っ暗だった。




