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エピローグ


 ユーベルターシャ王国と隣国、シャダイユージニー王国の国境沿いの古戦場、シーマクリニ荒野に2つの戦力が対峙していた。

 

 その片方、ユーベルターシャ王国軍に赤いマントを羽織った3人の娘がいた。その容姿は可憐で、全く戦場に似つかわない美姫達であった。その中で一際輝きを放つ、ユーベルターシャ王国第一王女マルゲリッタ・ルーティア・カリスチア・ジルコ・リストリス・ユーベルターシャは、銀の姫と各国で歌われる程の銀色の美髪を朝日で赤く染め、遠方に構えるシャダイユージニー王国騎士団の様子を眺めていた。

 

「彼我の戦力差は?」


「実動員数、有効戦力、我が方、圧倒的有利です。」

「ただし、敵方は勇者を擁していると推察されます。」


「そうね。勇者……、勇者だけはその戦力を簡単に推し量れないものね。」


 マルガリッタは自分の侍女であり、異母姉妹である双子の言葉に同意を示すと、無意識に優しく自分の下腹部を撫でる。ここ最近ついた癖である。

 

 お腹の中にいる子は次代の国王である。その出自故に病気も障害も持ち得ず、おそらくは老衰するまで健康に生きるだろう。そしてその我が子を裏から主として操り続ける。それがマルガリッタの役割である。

 

 聖薗――勇者の肉――をその身に取り込んだものは、強大な力を得る。だが、それだけではない。聖薗となった勇者の主の権限の影響を弱いながら引き継ぐのだ。今彼女が引き連れた兵は皆、今代の勇者の肉をその身に宿している。それは兵が誰一人として、彼女に逆らうことができない事を意味する。それは腹の中にいる我が子とて同じ、いやむしろ一般兵よりも強く権限に縛られるだろう。

 

 ユーベルターシャ王国は代々こうして続いてきた。彼女の祖母も召喚した勇者の子を宿し、勇者を食み、彼女の父である現国王を産み、主の権限で操り、強き王を戴く強固な国家を作り上げてきた。王国貴族令嬢であった正妃と国王との間に生まれたマルガリッタは、王族として祖母の跡を継ぎこの国を守り、より強くする義務を負っている。それに彼女は祖母よりも恵まれている。側妃の元に生まれた異母兄弟のレアとミディも一緒にこうして戦場で轡を並べてくれているのだ。そして彼女らの子もまた彼女とともにこの国の未来を歩んでくれるだろう。

 

 彼女は腹を撫でるのをやめてマントを翻す。赤く愛おしい香りで染まった黒い毛で縁取られたマント。その内側には滑らかで頑丈な皮が張られている。もしこの後、敵兵に襲われようとも彼女を守ってくれるであろう宝物である。

 

 その時敵の前線に動きが見られた。二人の人間が兵を割って進み出たのだ。

 

 マルガリッタは聖薗によって強化された視力でその二人を見る。おそらく横にいる双子も見ているだろう。

 

 進み出た人間は、金の姫として銀の姫、マルガリッタと並び賞せられる敵国の金髪の王女だ。そしてその隣りの人物を見て彼女は息を呑んだ。彼女の横でも同じ気配がする。

 

 おそらく隣国の召喚した勇者だろう。奏と同じく黒目に黒髪の少年である。マルガリッタの心が騒ぎそうになるものの、彼女に流れる先代勇者の血の影響――彼女の祖母の意志で直ぐに心は凪いだ。

 

 しかし、金の姫にぴったり寄り添い、こちらを睨みつける黒い瞳に彼女は心胆を冷やされる思いをする。

 

 思わず羽織っている彼女の宝物を掻き寄せ、その香りを鼻孔に含ませ、その温もりを思い出す。

 

「姫様。」

「姫様。」


 レアとミディが彼女を心配そうに窺う。そんな様子に彼女は自分に立場を言い聞かせ、事も無げに言う。

 

「大丈夫ですわ。何も問題はありません。」


 そう言って顔をあげたマルガリッタの顔は、一国を担うに足る者の顔だ。

 

 マルガリッタは軍の先頭に立ち、生来持ち合わせている王者の風格を全身から発し兵を鼓舞する。戦の始まりだ。

 

「我らがユーベルターシャの精兵たちよ!! 時は来たっ! 平穏に肥え太った豚どもを収獲する、狩りの季節だ!! 見よ! あのぶーぶーと鳴くしか能のないシャダイユージニー騎士団の軍勢を!! 我が兵たちよ! たった一人の勇者を盾に矛に頼り切る、豚どものなんと情けない事かっ!! 我らが精兵たちよ、あの滑稽な姿を笑ってやろうではないか!!」


 マルガリッタの言葉に兵たちが笑う。その笑い声はドラゴンの虎咆のように大地をも揺らす。しばらくしてマルガリッタが手を上げると、笑い声はぴたっと止む。

 

「王国の精兵よ! その身に勇者を宿す強兵たちよ! 相手はたったの勇者一匹だ!! 存分に蹂躙し、彼の国を頭から丸ごと食らってやろうぞ!!」


 「応!!」と軍が叫ぶ。

 

「征くぞ!! 全軍前進!! 轢き潰せ!! 撃ち砕け!! 征けっ!!」


 マルガリッタの指示の下、兵士が戦場を駆けた。

 

 その様子を眺めながらマルガリッタはマントを強く抱き、想いを共にすることができなかった唯一無二の想い人の名を小さく呟いた。

読了ありがとうございます。

一応の終了となります。


ですが、続きの構想も続きの為の仕込みも既にあったり……


まぁ、書くとしても今まで投稿分のブラッシュアップと続きの完結までの構想が完成してからになるでしょうが……

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