第4話
※注意:グロテスクな表現がでてきます。
グルルルルという自分の腹の音で俺は目を覚ました。
俺は寝ぼけた頭で寝る前の事を思い出そうとした。記憶を辿る内に俺は強烈な怖気を覚えた。昨日の記憶の後半、フワフワとして荒唐無稽でまるで夢の様な内容。躁状態だったのか足がついていない様な行動や判断の数々。もしかしたら夢だったのではと思ったが、背中に感じるボコボコとしたモザイクの感触や、視界に広がる石室の光景はそれを否定していた。
「うわっ!」
俺は思わず飛び起きようとしたが、首がわずかに動かせるだけで、体は指一つ動かなかった。
「金縛り……?」
俺は誰に言うでもなく呟いた。すると頭の方から嗤い声が聞こえてきた。
「ふ、ふふふふふふふははははははふあっははははははははふあああは!!」
その狂ったような嗤い声はマリーのものだった。
「ふはっ、ひ、っひー。」
マリーは息を整え、こちらに近づいているようで、ヒタヒタと素足の足音が徐々に大きくなってくる。
「おはようございます。ソ・ウ・さ・ま。」
そう言ってマリーは俺の顔を両手で挟み、逆さまに俺の顔を覗きこみ、俺の視界いっぱいにメリーの顔が広がった。その表情は昨日までのそれとは打って変わり、狂気と愉悦を煮詰めたような凄惨なものだった。赤い瞳は炯々と暗い光を灯し、口元はまんまと罠にはまる獲物を嗤う蛇のようだった。
「くっ。」
俺は咄嗟に体を捻りマリーから逃れようとするも、体はびくとも動かず、唯一動く首はマリーの予想外に強い膂力に阻まれピクリともしなかった。
「無駄ですよ。勇者ソウ様。」
そう言ってマリーは笑みを深めると俺の唇をべろりと舐めた。
「くっふふふふ。ちゃあああんと勇者の肉体に変わったソウ様はもう、私の愛おしくも美味しそうな、お・に・くなのですわ。」
俺の下唇に鋭い痛みが生じた。マリーが唇の端をちょこっと齧り取ったのだった。
「くちくち。はぁ……。やはりソウ様はとても美味しいわ。くちくち。最初一目見た時から私はピンときましたのよ。」
マリーに齧り取られた箇所から血がじわりと溢れだした。
「あらら、勿体無いですわ。」
ジュルジュルと音を立てながら、マリーは母乳を貪る赤子のように俺の唇に吸い付くと、あふれる血液を嚥下し、更に血液を求めるように傷口を舌で穿るように舐め、悩ましげな声を漏らした。
「んう、んんん……。ふぅ……。」
余りのことに目を見開き呆然としていた俺はやっとこ事で声を絞り出した。
「な……、な、なんなんだ……?」
頬の方に垂れた血をちろちろと舐めていたマリーは「ん?」と片眉を上げるとニンマリと微笑みながら言った。
「何もなんも……。昨日言った通りにソウ様は我が国の勇者になったというだけの話ですわ。ただ、昨日ソウ様に説明した時にちょっぴり嘘を付いてしまいましたが。」
「う、嘘……?」
「ええ。嘘です。ふふふふ。」
マリーは楽しそうに笑い声を漏らすと、俺の耳たぶを舌で転がしながら続けた。
「ちろっ。魔族だとか魔将だとかの話、あれは嘘です。ふふふ。」
我慢ならないとばかりにマリーは弄んでいた耳たぶを噛みちぎる。
「ぐあっ……。ど、どういうことだ?」
「んふ。我が国での勇者とは聖剣によって聖別された血肉の事。んむっ。その定義は我が国だけではありませんが……例えば隣国ではその優れた肉体を生かして外敵から国を守る最強の盾にして矛として使っています……ん、ちゅ、勇者の肉体とは人間の肉体とは違って、例えばこの様に……。」
そう言ってマリーは今まで舐めていた耳たぶと、先程噛みちぎった唇を指で優しく撫でた。そしてその真っ白な指の腹を俺に見せつけてきた。
「おわかりになって? すでに傷口は塞がってますの。勇者の肉体はこの様に卓越した治癒能力を持っていますの。それだけではありません。勇者の肉体は、莫大な魔力に溢れ、強靭な筋力をも有し、その肉体はあらゆる攻撃を弾き、あらゆる攻撃魔法すらをも無力化致します。」
俺の枕元に座り込んでいたであろうマリーは、そう言うと立ち上がり俺の腹部に馬乗りになった。
今日初めて目にしたマリーはその瑞々しい肢体を純白のマント一枚で覆うだけで、果実のような乳房も白くなだらかな臀部をも惜しげなく晒していた。
その光景に目を奪われまいとするも、こんな状況でも血が集まるのを感じ、悔しくなって俺はやや忌々しげに言葉を放った。
「あらゆる攻撃を弾きという割には、こうしてお前に噛み千切られているけどな。」
「まぁ、まだ話の途中ですわよ。……でもまぁいいですわ。先にその問に答えて差し上げますわ。」
マリーは俺の胸を広げた指先で撫でた。
「それは、私、というか儀式に参加した私とミディとレアだけが例外なのですわ。言ってみれば勇者の主の特権ですわ。そうですわ、特権といえばこんなことも。」
マリーがすっと目を細めると、今までビクともしなかった俺の手がひとりでに動いた。俺の意志と無関係に動く感じはとても不愉快だった。
「あん。ソウ様そんなところ触ってはいけませんわ。あふぁん。」
動かせはしないのに俺の手の感触は生きており、マリーの少ししっとりとして滑らかで、柔らかな感触は伝わってきた。
「わかりましたぁ?んふぅ、主の特権としてその肉体は私の思うがまま操つれるのれすわ。ひゃん。それで先程の話に戻りますが、ひっじょーに優れた勇者の、ん、肉体はっ、私たちのくにではあああああん、聖なるお肉ぅぅううとしてぇん、聖薗と言って、ふぃっ、それを食べた者にっ、勇者の力を分け与える有難いお肉として戦争前に振舞われますのおおおおおおおん!!」
俺の体をいいように操りながらマリーは息も絶え絶えになりながらも、しかしちゃんと説明した。
「はぁはぁ、ソウ様がこちらに来てから折を見て盛ってきた、思考麻痺の薬の効果も今のソウ様には意味が無くなっているでしょうし、もう大体察せられるでしょ?」
マリーの言葉に、度々出てきた香草茶や浴場のあの薬臭さを思い出す。
「つまり俺はお前たちの餌として呼び出されて、まんまといいように騙されてたと!?」
「そんな言い方はあんまりですわ。ソウ様が現れるまで本当に私も不安でしたのよ? 油ばかりで食いでのない女だったらどうしましょうとか、ブヨブヨに太って皮脂にまみれたキッタナイのが出てきたらどうしましょうとか。本当に本当に不安でドキドキして、前日なんて食事も喉を通らない始末でしたわ。うふふ。」
マリーは俺の手を操ると自分の顔の近くに移動させ、両手で俺の手を包むととても愛おしそうに頬擦りし、俺の指を愛撫するように一本一本丹念に舐めた。
「そして、思い出すだけでもお腹がぎゅっとなってしまうわ。ソウ様が召喚陣から出てきた瞬間。もう私自分の体の中から何かが突き破って出てきてしまうのではないかと思いましたわ。」
俺の手が勝手にマリーの頬をなで顎を伝い、首、鎖骨、胸、肋、腹と撫でた。
「食欲と性欲は通じる所がある。これは至言なのですね。私はソウ様に一目会った瞬間に、恋? いえこれは愛でしょうか? もう体の臓器という臓器がソウ様を求めて暴れだして……。あぁ、今でもそうですわ。私の体を形作る全てがソウ様を求めていますの。あぁ、わかりますか? 私のこの高なり。」
下腹部を撫でていた俺の手がマリーの心臓のあたりに移動される。マリーの肌は言葉を重ねる内にどんどん熱くなり、手のひらに感じる鼓動は激しく脈打っている。
「あぁ、ソウ様ぁ。貴男の全てを私のモノにしたいですわぁ。」
そう言ってマリーはぐじゅりと音をたてながら身じろぎをすると、俺にのしかかり、首に手を回し俺の首元に顔を埋めた。俺の手はマリーの髪を撫で、背を撫でていた。
グルルルル。
そんな時、空気を読まずというか、俺の腹が鳴った。俺自身はもうすっかり食欲というものは、概念ごと消え去っていた気になっていたが、胃袋は律儀に収縮していたようだった。
「ふふふ、ソウ様ったら。ここはお腹の音じゃなく、私にあまーくあまーい言葉を囁きかける場面ですわよ。」
「……。」
「まぁ、こちらに来てから軽食しか取って無かったのですもの、お腹が鳴るのも当然ですわね。大丈夫ですわ。レアとミディに食事の用意をさせてますの。腕によりをかけさせてますから期待してくださいね。」
この時のマリーの表情は昨日の健気なお姫様の顔で、その愛らしい笑顔は俺に恐怖を覚えさせ、化物を目の前にしたような気分にさせた。
「それでは、食事が用意出来るまでに、ソウ様とのお約束を果たさせて頂きますわ。」
「約束?」
「ええ。勇者になる代償の手付ですわ。あの……、私、初めてなのにもう待ちきれ無くなってしまいまして……。」
そう言って頬を赤らめ恥ずかしがる仕草だけは、歳相応の人間の少女のようだった。
しばらくして、満足気に疲れ果てぐったりするマリーと、自分の意志で動かない体をどうにかしようと、抵抗することに疲れ果てた俺の鼻に香ばしい美味しそうな臭いが届いた。
唯一自分で動かせる首をひねり香りの方向を向くとそこには大小幾つかの皿を持ち、例の如くマリーと同じ裸マント姿の双子がいた。
「姫様、勇者様。」
「お食事の準備ができました。」
双子はそう言うと、いつの間にか用意されていた、糊の効いた真っ白いテーブルクロステーブルと椅子に料理をセッティングした。
「それでは、ソウ様使った分のスタミナを補給しましょうか。なんて、きゃっ。」
「……。」
その頃の俺にはもう何も言う気力が無かった。
「もう、ソウ様ったら黙りこんでしまって……。」
マリーはちょっと不満そうに呟くと、俺の体を操って椅子に座らせた。
椅子は2脚あり、俺とマリーが向かい合って席についた。マリーの目の前には、パンやサラダ、それに魚介のスープが並んでいた。
そして俺の前には……。
俺の前の大皿にはパン粉や香草で味付けされたと思わしき、巨大な肉料理があった。なんと言おうか、こんな状況じゃなければ男子は雄叫びを上げるであろう、そうマンガ肉だった。20cm程の円筒形の肉に左右10cm程づつ骨が飛び出している。それが2本も皿に盛られていた。
俺はマリーに操られながら、両手で骨を持ち口に運ぶと、肉に噛み付いた。肉自体に臭みが強いからか、衣の味付けが濃い。だが、一口、二口と進めるに連れ、その臭みにもなれた。ラムよりもクマなどよりも臭いなんの肉だろうと思った時、双子メイドがなにか言いやがった。
「勇者様。お気に召しましたでしょうか?」
「魔術師のもも肉の香草焼きにございます。」
……。
俺の思考が停止した。
「昨日死んだばかりの魔術師5人の内、一番肉質の良かったものを。」
「綺麗に血抜きして、一晩かけて下味をつけたものです。」
俺の口の中に肉を噛む感触と肉の味が蘇る。俺の胃袋は懸命に吐き出そうとえづいた。だが、そんな様子をみてマリーは眉をひそめ、俺の体に魔術師の肉を食べさせた。
「ソウ様、お気に召さないからといって吐き出すのはマナー違反ですわよ。」
そう言って魚介のスープをスプーンですするマリー。
俺は懸命にマリーを睨みつけるが、マリーは素知らぬ顔で自分の食事をしながら俺に食事を続けさせた。その間にも俺は懸命に吐き出そうとするも、体は俺の言うことを聞かず肉を噛みしめた。
食事が終わり、ナプキンで口元を上品に拭いながらマリーが言った。
「ソウ様お食事はいかがでしたか?あれは勇者しか食べれない特別な料理なのですよ。」
「俺は人間なんて食いたくない! てめーらが食えばいいだろ! このカニバリストめ!!」
俺はつばを飛ばす勢いで叫んだ。
「まぁ、ソウ様ったら、酷いですわ。私共に共食いさせるおつもりで?」
さも心外そうにマリーが言った。
「共食いだと? お前らだって俺に共食いさせたじゃないか!?」
「え? 共食いですか? ソウ様の食べたお肉はこの国の人間のお肉ですわよ? 共食いになんてなるわけ無いじゃないですか。」
当たり前のことを幼子に言い聞かせるような口調に俺は恐怖を感じた。考えてみれば当然の事だったのかもしれない。この国と元の世界とで常識が異なることなど、そんな事に思いつかなかった自分が愚かなのだろうか、俺はそう思った。
そうんな事を考え、俺が呆然としている間にも女三人は何やらやっていた。
「ミディ、レアどう? ちゃんと出来てる?」
「はい。初めてで的中させるとは、さすがです。」
「ちゃんと生体感知魔術にアクティブ反応がありました。」
「そう。よかったわ。」
「おめでとうございます。」
「おめでとうございます。」
「ありがとう。それじゃ次はあなた達の番よ。私も色々慣れてきましたから、存分に楽しみましょう。」
「はい。」
「はい。」
その後5日間、俺は魔術師の肉を食わされ、3匹の獣に遊ばれ続けた。
凡その事はもう諦めてしまった。自分の体が自分の意のままにならないことも、3匹の獣が絶叫を上げながら俺の体を食いちぎり食らうことにも。
だが、最後の一線、人食にだけは抵抗しようと最後まで抗った。結局最終的には操られ食わされるのだが、そこで抗うことを辞めるのは、人間であることを辞め、俺の血肉を食らうあの3匹と同じ畜生に成り下がる事だと思った。
「ソウ様、誠に名残惜しいですが、レア、ミディにも着床が確認されました。」
そう言ってマリーは俺にしなだれながら自身の下腹部を愛おしそうに撫でていた。
「……。」
この5日間、俺はまともに喋っていない。俺の言葉と獣の言葉が通じるということを拒否したかったのだろう。
「ふふふ。ソウ様。貴男のお肉を食べて、お腹の子はちゃんと丈夫で、私の言うことを何でもちゃんと聞く、いい子に育てますから安心してくださいね。」
そう言って既に唇が全て食われてなくなった俺にディープキスをした。
「ふぅ、では名残惜しいですが、次の段階に進ませてもらいますわ。レア、ミディ。」
「はい。」
「はい。」
マリーの声に双子はじゃらじゃらと音を立てて、天井から垂れた鎖を用意した。
「それでは、ソウ様こちらに。」
マリーは促すように言うが、俺の体はマリーの意志で動いていく。人間を食う、それ以外の事に抵抗する気力は、その時の俺にはもうなかった。
しばらくすると俺は所々食われた、虫食い状態の体は鎖で天井から吊るされたいた。まるで屠殺場の豚のようだと思った。そんな俺の様子を複雑そうな表情でマリーは見つめて言った。
「ソウ様、ソウ様には上手く伝わっていないようでしたが、私は本当にソウ様を愛しておりますの。今も、必要だとはいえ、ソウ様の血肉を私以外の者の口に入れることが本当に悔しいのですわ。あぁ、なぜソウ様の全てを私のものに出来ないのか……。」
マリーははらはらと涙を流しマリーなりの愛を説くが、その様子に俺は何も思わなかった。俺の中ではこいつら、この国の奴らは同じ人間ではなく別の生き物で、俺はただの、いや、奴らにとっては意味のある餌なだけだと思っていた。
だが、そんなマリーの言葉に共感して感涙に咽びなく者もいた。
「姫様……。」
「ご心痛お察しします……。」
「ごめんなさい。あなた方だって……。」
そう言って三匹はお互いヒシと抱き合い涙を流していた。
三匹はしばらくそうして慰めあっていたが、意を決したようにここ数日で大分汚れた白いマントを翻し俺に向き合った。
「最期まで私の思いが、想いが伝わら、な、無かったのは残念、で、ですが……、私は私の務めを果たします。」
そう泣きながらマリーは聖剣を掲げ、双子はそれぞれ短剣を手にしていた。
「ソウ様の心臓だけは私が頂きます。それだけは譲りません。」
「そうです。姫様。」
「勇者様の血肉はなるべく多く我々で。」
「そうですね。何かいい案はないでしょうか?」
マリーの掲げる聖剣が揺れていたが、それは俺を殺すことへのためらいなどではなく、純粋に俺の全てを食いつくすということに対する執着のせいにしか、俺には思えなかった。まして、マリーのいう愛だなんて微塵も理解するつもりもなかったし、俺にはこの女に一匙分の愛情も抱いていない。
何やら三匹で話し合っているが、俺はもうそろそろ自分の最期が訪れるということを噛み締めていた。死ねばこの狂気の国からおさらば出来るだろう。それ自体は大歓迎だった。しかし、死を前に俺の脳裏をよぎったのは、元の世界の家族、友人、そして幼馴染の顔だった。
マリーが愛だどうのと5日間もくっちゃべっていたためか、脳裏に浮かんだ幼馴染、結菜と愛という言葉が結びついた。こんな最期の状況でやっと気がついた俺は友人の勇太に言われていた様に、鈍感だったのだろう。今更ながら悔やんでも既に遅かった。ただ、そんな中で俺の大事な人達が俺のようにこの国に召喚されない事、それだけが俺の人生の最期で唯一価値のあることに思った。
「そうですわ。モツです。」
そんなマリーの声で俺は意識を戻した。
「モツですか。量的には十分確保できそうですね。」
「沢山の兵士に食べさせるにはスープですかね?」
どうやらこいつらは俺の調理法方について考えていたようだった。なるべく多くの肉を自分たちで食い、兵士に回す分をどうするか。そんな獣の会議で出た結論がモツ、内蔵らしい。確かに腸などはものすごく長いらしいし、多くに行き渡らせれるだろう。その時、俺はポツリとかすれた声で呟いた。
「モツ鍋かよ。」
その声を鋭く拾った双子はさも名案だと目を輝かせた。
「さすがは勇者様です。」
「それは名案です。鍋ですね。」
「ええ、良いアイディアですわ。出汁には骨を使いましょう。」
「そうですね。」
「骨なら出汁を取った後に回収可能です。」
「差し詰め、勇者鍋ですわね。」
そう言ってマリーの顔に大輪の花が咲いたような笑みが浮かんだ。どうやら俺の行く末は、俺の一言により鍋としてこの国の兵士に振舞われる事に決定したようだった。
「それでは、ソウ様。これより最終段階に入ります。」
そう言って再び掲げた聖剣の切っ先には何の迷いもなかった。
マリーがバンザーイといった感じに吊るされた俺の正面に立ち、俺の両脇には双子がそれぞれ立つ。
「愛してますわ。ソウ様。」
そう言って儚げな笑みを浮かべ、マリーは俺の喉をかっさばいた。
噴水のように俺の赤い血液が飛び散った。
飛び散った血液はマリーの銀色の髪を赤黒く染めた。
飛び散った血液はマリーの白磁のような肌を赤黒く染めた。
飛び散った血液はマリーの羽織る純白のマントを赤黒く染めた。
俺の意識が少し虚ろになった。
俺の血を浴びて真っ赤になったマリーの顔はどこか泣いているようにも見えた。
そして双子が短剣で俺の両脇を切り裂いた。双子もマリーのように赤黒く染まっていった。
俺はおそらく激痛で叫び声をあげていたのだろうが、喉にある切れ目からひゅーひゅーと音がするだけだった。
首から吹き出す血が徐々に少なくなってゆき、同様に俺の意識も薄れてゆく中、マリーは聖剣を俺の腹部に突き刺し、縦に一筋切り裂いた。痛みは既に何も感じなかった。ただ、自分の腹の中から臓物がポロリとこぼれだす変な感じがしただけだった。
カランと音をたて、聖剣をマリーが投げ出した。マリーは俺に擦り寄ると、自ら裂いた俺の腹の割れ目に手を突っ込んだ。なんとも言えない不快感を感じた。
「あぁ、ソウ様温かいですわ。あぁ、ソウ様の中、とても気持ちいですわ。あぁ、もうこの温もりが味わえなくなるなんて。」
そう言ってマリーは俺の中をぐちゃぐちゃと拳でかき混ぜた。
やがて満足したのか俺の中の奥の方へと手を突っ込むと、そこから一つの臓器を取り出した。
ブチブチと音を立てながら取り出されたそれは、真っ赤な手に握られながらもわずかに脈打っていた。マリーはそれを愛おしげに胸に抱きしめていた。
心臓がなくなり俺の意識は最早消え去る寸前だった。
霞がかる視界の中、マリーは一度俺の心臓に軽くキスをした。
そして赤黒く染まったマリーはりんごをマルカジリするかのように俺の心臓に食らいつき、心臓からは果汁が溢れるように血が滴りマリーをさらに赤く、血色に染めた。
それが俺の最期に見た光景だった。
※聖薗……聖なるお肉的な造語です。読み方は作者も知りません。




