第2話
「……。」
「……度々取り乱し、すみません。」
今思えば不自然なほど流される様に俺が勇者になることを了承した後しばらく、応接間の中には微妙な空気が流れていた。そんな空気をどうにもできずに、黙ってしまっている俺。王女は赤くなった顔を冷まそうと手で仰いでいる。
「えっと、熱いですね。」
「そ、そうですね。」
先ほどの言葉で王女の顔をまともに見ることができなくなっていた俺は、応接テーブルの上に視線を無意味に滑らせていた。
「あの、ソウ様……。」
「な、何か?」
「言葉使いなのですが、敬語とか苦手でいらっしゃいます?」
「は、はい。向こうではただの学生でしたし。まずいですか?」
一応は丁寧語を心がけてはいたが思えば結構めちゃくちゃだったろう。
「いえ、勇者であることと異郷の方だということで、粗雑な言葉でなければ問題はありません。で、ですが私は、その一応伴侶となるのですから……、その、もっと普通に喋っていただければと……。」
王女は俺の服の裾をちょこんと摘みながら言った。
「普通に喋ればいいの?」
「はい! 私も実はマナーなどは苦手ですし、楽に話してもらえると嬉しいです。」
「あ、そう言えば。王女様、普通に言葉が通じているけど……」
「ソウ様。王女様みたいに他人行儀な呼び方はやめてください。」
王女はそう言って子供のように頬をぷくっと膨らませた。
「私のことはマリーと呼んでください。」
「それじゃ、マリー、こうやって言葉が通じるのは何故か聞いてもいい?」
俺の呼び方に満足したのかマリーはうんうんと頷いた。
「それはですね。ソウ様を召喚した召喚陣は複合多層魔法陣と言って沢山の魔法陣の塊なのです。」
マリーは人差し指をピンと立てて説明した。
「その魔法陣は一個一個にいろいろな効果を持つのです。例えば召喚対象を探し出す魔法陣群とか、呼び出された者を呼び出した側の環境に適応させるための魔法陣群など沢山の魔法陣があります。その中に言語適応の魔法陣も含まれているようです。」
「そういえば、召喚された時魔法陣が沢山出てたな。」
視界一面を埋め尽くす魔法陣の数は10や20じゃ済まなかった事を思い出した。
「私は魔法については詳しくないのですが、召喚陣は大昔に作られた物でとても複雑なものらしいです。そんな事よりもソウ様の故国のお話も聞かせてください。」
俺とマリーはしばらく雑談に興じた。出会って数時間も経ってない男女が二人で話しているのに不自然なほど和気あいあいと談笑した。
そんな時、不意に応接間の扉がノックされた。
「はい。あ、おしゃべりが楽しくて報告するのをすっかり忘れていましたわ。」
「失礼致します。」
そう言って応接室に入ってきたのは双子のメイドの少女だった。
赤茶けた髪をバレッタで留め、琥珀色の瞳はダル気に半分ほど隠されている瓜二つの少女達だった。片方が扉を開け静々と入り、チョコンとお辞儀をし、もう片方はティーワゴンを押していた。
「お茶と軽食をご用意いたしました。」
「いかがでしょうか?」
双子メイドの声は無機質で淡々としていた。
「あら。いけませんわ。お茶もお出しせずに長々と話させてしまいましたわ。ミディ、レア、お茶をお願い。」
ややオーバーではないかと思うほどマリーは慌ててお茶を淹れさせた。どうやらマリーはちょっとドジなところがあるのかな、と俺は思った。
双子が淹れたお茶は、茶葉から作ったものではなくハーブティーのような香草茶だった。苦にならない程の青臭さにミントのような鼻に抜ける香りが美味しかった。
一通りお茶を楽しむとマリーがメイドを紹介した。
「ソウ様、この二人は私の専属の侍女でミディとレアです。」
「勇者様、お初にお目にかかります。ミディでございます。」
「レアでございます。」
マリーが紹介すると、メイドがピッタリと揃った動きで一歩前に出ると一礼した。
「ミディとレアの名前も本来はもっと長いのですが、今は立場を捨ててただのミディとレアとして私に仕えてくれています。」
俺が双子に目をやると、双子は揃って軽く会釈してくる。
「私がソウ様に侍ることになりましたので、この二人も今後はソウ様のお世話係として傍に使えることになりますので、二人の事もよろしくおねがいしますね。二人もソウ様によくお仕えてください。」
「畏まりました。」
「勇者様、よろしくお願い致します。」
「こちらこそ。こっちの事は何もわからないのでお世話になります。」
「ソウ様、こちらの二人も気を使わずに結構ですわ。」
「はい。」
「気軽にお呼びつけ下さい。ところで、姫様。」
「大臣が予定通りに進めて良いのか伺っておりましたが。」
「お話が終わっていられるのなら、ご報告いただけばとのこと。」
「そうですね。ソウ様にはご快諾いただけたので私は一度報告に行ってまいりますわ。」
マリーはそう言って俺の手を取ると軽く握りしめた。
「おそらく予定通りですと、この後ソウ様にはお父様、国王殿下に謁見して頂く事になります。」
「謁見ってどうすれば……。」
謁見だなんて言われても作法もクソもわからなかった。
「大丈夫ですわ。私がエスコートさせて頂きますし、何か言われても『はい。』とだけ答えればいいだけです。」
「それだけでいいの?」
マリーは「それだけでいいのです。」とちょっといたずらっぽく微笑んだ。
「二人もソウ様の身嗜みをよろしくおねがいしますわ。」
「畏まりました。」
「勇者様の事はお任せください。」
「それでは、後ほど。」
マリーが出ていくと双子メイドと俺が残された。
「それでは勇者様。」
「浴室へ移動をお願いいたします。」
二人はそれぞれ俺の両手を取り浴室へと向かい始めた。
「浴室?」
「ええ。浴室です。」
「謁見の前に身を清めて頂きます。」
そういえばと、俺はここに召喚される前を思い出した。稽古したままだった。自分では気にならないが汗臭いはずである。それを今更ながら気づき、俺は申し訳なく思った。
「ちょっと、俺汗臭くないですか?」
その事に思い至ると、双子のこの無表情は『おめーくせーよ。』という無言の苦情だったのではと思った。
「汗臭い? ですか? すんすん。」
「くんくん。汗のニオイはしますが臭くはないですよ。」
双子は俺を挟むようにくっついてくると、俺の体の匂いを嗅いだ。
「そう、ならいいんだけど。」
「そうですか? むしろ私達としては、」
「中々好みというか、もう少し嗅ぎたくなる臭いですね。」
くんくんと鼻を鳴らしながら嗅ぎまわる双子に、ほどんど抱きしめられるような状態になってしまった。双子の表情は先程までの無表情に比べると幾分上気しているように見えた。俺のあちこちを嗅ぐ双子の体の柔らかい感触に俺は動けなくなりそうになった。ちなみに見た目そっくりだった双子だが、胸部の柔らかさというか、大きさに結構な違いがあるのをこの時気づいた。
誰も通る人がいないようだが、廊下でメイド二人に嗅ぎ回られるのも中々乙、じゃなくって拙い気がしたので俺は双子を振り解いた。
「浴室だっけ。さぁ早く行こうか。」
俺はどこに行けばいいかわからなかったが、とりあえず前に進んだ。俺には見えなかったが、きっとその時の双子はオヤツをお預けされた子供のような顔をしていただろう。
王宮の浴室と聞いて、池のように巨大な浴室に金のライオンの口からお湯がってのを想像していたのだが、案内された浴室は想像していたよりも大きくなかった。とは言っても一度に5~6人は入れる程度の広さはあったが。
浴室には脱衣所のようなものがなく、浴室に入ると直ぐに湯けむりに包まれた。入浴剤のようなものを使っているのか、湯気は結構癖の強い薬草のような香りした。
俺が香りに眉をひそめていると、メイドの片方――おそらく胸が若干小さかった方――が俺の制服に手をかけ脱がせようとし始めた。
漫画、アニメではよくある展開だと思った。内心こうなるだろうと思っていたが、実際身に起こるとかなり居た堪れなく落ち着かなかった。
「一応言っておくけど、一人で脱げるよ。」
「それはそうでしょうね。」
「その年で服の脱ぎ着を独りでできないとは思ってませんよ。」
「ですよね。」
「これからはこの様な事が増えると思います。」
「姫さまの伴侶となられるのです。」
「これくらいで狼狽えられては困ります。」
「これも慣れるための経験だと思って下さい。」
その時の俺は特に拒否する必要も感じなかったので、無駄な抵抗をせずに為すがままに任せた。メイドの片方(小)は手際よく俺の制服を脱がると手早くたたみ、いつの間にか持ってきていたカゴに入れた。
「それでは勇者様こちらへ。」
「足元にご注意を。」
最初に声が聞こえた方を見るとそこには、全裸のメイド――若干胸大きめ――がいた。無防備に俺の手を取って椅子のようなものへと導こうとしていた。
俺は思わず舐め回すようにメイド(大)の体を眺めてしまった。無理もなかろう。それまで年頃の女の子の裸体を拝む機会など殆ど無かったのだ。その前に見た女の子の裸体など、幼馴染と一緒に風呂に入ってた時分である。まじまじと見るなという方が無理だったろう。
メイドの双子はやや無表情な所があるものの、ウチの幼馴染なんぞ歯牙にもかけないほどの美少女だ。おそらくマリーよりは小さいのだろうが、それでも十分なボリューム感を持つ双丘、なだらかなカーブを描く腰付き……。
色々と目が釘付けになっているとメイドから声がかけられた。
「勇者様は女性経験は……。」
「あまり、いえ、無さそうですね。」
メイド二人の目は俺の血が集まった部分を捉えていた。
俺はとっさにその部分を隠そうと手を動かそうとするも、両手ともメイドにガッチリとホールドされていた。
「あー。その、すみません。」
「謝る必要はありません。」
「先程も言った通り、こういうことに慣れてもらうののも目的です。」
「もちろん、身を清めることもですが。」
「それではこちらにお座りください。」
俺は変な椅子に座らせられた。
メイドたちは湯を掛けるでもなく、まず全身の筋肉を揉み解し始めた。
「勇者様は故国で戦闘職にでもお就きで?」
「太くなり過ぎないよう、靭やかに鍛えられた良い筋肉です。」
「いや、一応武術はやっていたが職業は学生だったよ。」
メイドはそれぞれ左右の二の腕を揉んだ。
「それは勿体無いですね。」
「こんなに良く鍛えられているのに。」
「わたしはもう少し皮下脂肪があってもいいと思いますが。」
「いえ、ワタシとしてはこれくらい少ないほうがいいと思いますわ。」
「ありがとう、といったほうがいいのかな?」
「いえ、事実を言っただけです。」
「想像以上にワタシたち好みの体付きだったというだけですよ。」
「それは褒められてるのかな?」
「くすくす。体付きだけじゃなくお顔も想像以上ですわ。」
「本当にアタリの召喚で嬉しいですわ。」
そう言いながらメイドはそれぞれ片足を俺の太ももに絡め、俺にしなだれかかってくる。胸の辺りに当たる4つの柔らかいものと、腰の辺りに当たるしっとりと湿った何かが、俺を一層硬直させる。
俺の目の前に並ぶ2つの顔は先程の無機質な顔ではなく、どこか獲物を前にした大型のネコ科の動物を思わせた。
「そんなに固くならなくてよろしいですよ。」
「そう言っても固くならないのは無理のようですが。」
双子は俺の頬を舐め、耳を舐めながら囁く。その間も4つの手が俺の体を這いまわっていた。
「先程、汗臭いかとお聞きになられましたが。」
「臭いどころかワタシたち好みですわ。」
「先程廊下で臭いを嗅いだ時からもう。」
「我慢するのも大変でしたのよ。」
双子の舌は全く同じタイミングで下がってゆき、首、肩と丹念にねぶってゆく。ぺちゃぺちゃという音と舌の這いずる感触だけが、その時の俺の脳内を占領していた。。
「少しくらいならいいですよね。」
「むぅ、いけませんわ。」
どこかぼーっとし始めていた俺の意識が左肩に走る軽い痛みで顔をもたげた。メイドのどちらかが俺の肩に噛み付いていた。
「姫様の前に傷をつけるのはいけませんわ。」
「ままはひでふひ、あほはほほりはへんは。」
「勇者様大丈夫ですか?レアはちょっと噛み癖があるのです。」
「ちょっと甘噛しただけですわ。跡だって全然ついてませんわ。」
左肩には薄く歯型がついていただけだった。
「だ、だいじょうぶ。」
その時の俺は二人の痴態にのぼせ上がりぼーっとして、冗談ではなく鼻血が出そうになっていた。
「このままだと勇者様は歯型だらけで謁見に臨むことになりそうですわ。」
「そ、そんなことはないと思いますわ。」
「それに時間も無くなってしまいますわ。」
「確かにのんびりしていられないかも知れませんね。」
「これから勇者様に満足していただかねばならないのですから。」
「そうですね。わたしたちだけ満足するのは本末転倒ですわ。」
「そういうことでレアは次の準備を。」
「わたしだけですの?」
「勇者様を噛んだこと姫様に報告しますわよ。」
「仕方ありませんね。」
すっと左側から温もりが失われると、右側から膝の上にメイド、おそらくミディが移動してきた。
「それでは、レアが準備している間ワタシが楽しませて頂きますわ。ふふふ。」
ミディは再び舐め回し始め、腰を俺にこすりつけ始めた。
レアが緑色のドロドロした液体が入った桶を持って戻ってくると、その液体をぶっかけられて全身を洗われた。緑の液体は洗剤か何かのようだが湯気の香りを濃くしたような臭いがした。だが、全身を隈なく、ありとあらゆる場所を全身を使って洗われている感触ばかりに意識が傾き臭いは全然気にならなかった。




