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プロローグ

「王!どうかご決断を!! このままでは我が国はっ!」


 豪華絢爛な大広間、謁見の間に中年の男の苦味走った声が響く。中年の男は仕立ての良い服を着た巨体を窮屈そうに縮めて跪いて、上座に座る彼の王に乞うた。


 謁見の間に居合わせる彼以外の重臣たちもじっと王を見つめ裁可を待っている。


 金銀宝石で飾られた玉座に座る王は自慢の立派な髭を扱きながら目を瞑り考え込んでおり、ただ沈黙だけが降りる。


 そんな状況に耐えられなかったか、王の横に控えている王女が絹の手袋に覆われた白魚の様な細い指を握りしめ、意を決し王に話しかける。

 

「お父様、彼の国が平和な我が国を脅かそうとしているのです。今手を打たねば。」


「皆まで言うな。わかっておる。」


 王が王女の発言を遮る。

 

「お前の言いたいことはわかっている。わかってはいるが、我が国の力、もしくは同盟国の協力を得て事に当たるのが正道。安易に勇者の召喚などという真似をしては悪例を作るばかりか、外交上、倫理上の問題として長く将来に禍根を残しかねん。一国家を預かる王として容易く決断してよい問題ではないのだ。」


 玉座から臣下に言い聞かせるかのように王の声が静まり返った広間に響く。重臣たちの幾人かはその言葉に何かを感じ入ったのか肩を震わせている。


 そんな中、甲冑を着込んだ壮年の大男が前に進み出る。


「恐れ多くも陛下、我が身の恥を飲んで申し上げます。」


 低く響く男の声はどこか震えていた。


「我らが騎士団の無力を棚に上げておりますのは重々承知。ですが、我が手の者によれば、彼の人食狂人どもは既に邪法の下準備を整えております。もし只人同士の戦ならば我ら騎士団、この身命を賭して彼奴らの素っ首で国境線を描いてみせましょう。しかし、邪法を用いられたのであれば、我々……同盟国を含めたとしても我らに分はありませぬ。」


 広間に官僚の息を飲む音が響く。

 

「我らが抗うためには既に……、情けなくも……、既に勇者に頼る他ありません。全ての責任はこの無力な老いぼれ騎士団長にあります。事が成された後はこの私の一命を以って……」


「騎士団長。その責任を取るのは王たるワシの務めだ。慎め。」


 王はピシャリと遮った。そして大きく息を吐き言葉を続ける。

 

「やはり勇者を召喚するしか道はないのか。しかし、呼び出した勇者にどう報いるか……いや、繕うのはよそう。勇者をどうやって操るかが問題か。」


 肘掛けに寄りかかり深い溜息をこぼす。

 

「お父様。それこそ私の領分です。」


 他国にも名高い美姫らしい凛とした笑顔を保ったまま王女が宣言する。

 

「どの金糸よりも艶やかなこの髪、一つの汚れもない珠のような白いこの肌、形よくたわわに実った果実の如きこの双丘、そして細くくびれたこの腰。全てはこの国のために磨き上げてきたものです。」


 自らの美貌を朗々と語る口調は、一切の自惚れはない。ただ国宝の美術価値について語るかのように己の役割を語る。

 

「我が国の為なれば、勇者が如何なる者であろうと、我が身、我が命、我が魂を賭して如何な手練手管をも尽くし、国益をもたらす存在として導きましょう。これが私の務めであり、国難に瀕した王女としての義務でありましょう。」


 そう強く語る自国の最も気高き華の姿に広間に集った者の中から啜り声が聞こえる。


「なれば……。」


 王は娘の王族としての心持ちを認めるように一つ頷いた。

 

「これより我が国は勇者召喚を行う!人食狂人の悪鬼外道どもには決して屈せぬ!神祇官は儀式の準備を、各大臣は官僚との調整を……。」


 王は宣言すると矢継ぎ早に指示を飛ばし、重臣は強く拳を握りしめながら己の職分を果たそうと三々五々に散って行った。


 その様子を眺める王女の頬に一筋の涙が静かに流れていたのを、広間にいた者たちは皆知っていた。


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