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龍旅の記  作者: OGRE
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和の国3……決闘遊戯

 ミーナと乙姫の喧嘩……もとい、決闘は茶山の国の奥地で行われた。決闘と意気込むが長距離飛行ができないミーナはヴァージに乗って移動しリュフラのドラゴン化した姿も見ることができ、その点に関してはミーナは満足だったようだ。乙姫は日本国に多い、長龍種で翼が無いのに空を飛ぶことができる種類だった。目的地は水龍族の闘技場であまり龍族と言えども近寄らない場所らしい。乙姫が降下し続いてリュフラ、最後にミーナを気遣って旋回降下をしたヴァージだった。そして、乙姫の雰囲気が急に変わる。ヴァージが預かっていたミーナの武器を手渡しリュフラと共に場外に出た。審判の定位置に付き、二人が構えたのを確認すると主審のヴァージが合図をして戦闘が始まる。


「覚悟はいいかい? ガキ」

「問題ないですよ。年増」


 先に動いたのは乙姫だった。細いが龍族らしい鱗に包まれた腕をミーナに突きだした……がミーナはギリギリで拳の軌道を掌で逸らし、何とか回避。しかし、当たりはしなかったものの空気の衝撃波が彼女の後ろにある岩壁を崩した。落ちてくる岩をよけ次はミーナの反撃だ。拳ではなく脚を垂直に振り上げてフェイントを組み、足の下側にいる対象へ平手で空気の波動を打ち出し狙い打つと、それを間一髪のタイミングで避けた乙姫に当たれば手痛い追い討ちとなろう踵落としを仕掛けた。踵落としを乙姫は回避し陸上の接近戦闘では互角と判断したようだ。後方に蛇行するように回避して行く。ミーナはそれが解ると乙姫と同じように空気の波動を何十発も打ち出し続けていた。ラッシュ、回転蹴り、チョップなどなどの空振りを空気に押し当てて打ち続ける。それが数分続くと次は乙姫の反撃だった。空気弾の数発がヒットしたらしく苦虫をつぶしたような表情をし、闘技場の真ん中にある湖の中に入り込んだ。水龍は水中戦が強いと有名で、エラがあり水中からの攻撃は他の龍族や生き物ではなかなか予測できない。ミーナは湖面から離れていたおかげで顔の隅を切った程度で済んだが……あれが直撃すれば確実に命は無い。一番固い龍族、大地聖龍(ガイアドラゴン)ならばあまり苦にせず居られるのだろうが彼女はその血を体に流して居るだけで今なお発現してはいない。覚醒の三分の一を過ぎていればそろそろブレスや鱗を体表に現すことくらいはできてもおかしくないのだが……。そんなミーナは乙姫を探すように湖面の真ん中の浮島のような場所に降り立つ。


「くっそ~~!! ずるいぞ!!」

「馬鹿をお言いな! アタシら水龍族は水と生きる龍族さね。アンタらとは違うんよ!!」


 水の弾丸は次々にミーナを狙う。足場の近くに大量に狙いを付けられたのに気づけなかったミーナは巨大な水柱にも気づかなかった。急に現れた水の弾丸を全て避けるが彼女を水の中に引きずり込むように水柱が倒れ、ミーナをなぎ倒すように水面へ打ちつける。リュフラがとっさに向かおうとするがヴァージはそれを止めたようだ。それにミーナはまだ諦めていない。水の中でももがいてさらに深みへと引きずり込もうとした乙姫に蹴りを入れる。乙姫も憤慨し、水の中では自由の利かないミーナに高速移動をしながら殴りつけていたぶり続けた。水龍は水の中での戦闘や生活を本分にしているだけに陸に上げられてしまうとかなり不利になる。だから、この期に叩き潰すつもりなのだ。


「兄上!! あれでは本当に死んでしまいます!!」

「大丈夫だ。その内起きる」

「は?」

「リュフラは知らんだろうがな。ミーナは大地聖龍、人、聖帝龍の三種を受け継いだ存在だ。今は人でも、極限状態に陥った彼女は何かしらの手だてを考えるはずさ」

「そ、そんな……悠長なことを……」


 湖面が急に輝きだし、リュフラは兄の方向から湖面を見た。先程とは違い水際も静かになり音もしなくなってしまう。そして、もう一度けたたましい水音がしたと思ったその瞬間。乙姫が水面からいきなり飛び出して息を切らせている。次はミーナが現れた。後光のような白い光に包まれていて、夜だと言うこともあり神々しくさえ見える。額には大地聖龍の紋章が浮かび上がり寝ぼけ眼のような状態だ。ミーナが右手を上げた瞬間に湖面が凍結し乙姫は唖然とする。氷龍ではない龍族が瞬間凍結を目の前で起こしたのだ。驚くだろう。そして、右手を下ろすと次は左手を上げて掌の前に特殊な模様を描いた円陣を出現させ、……水晶らしい結晶を撃ち出していく。さながらマシンガンだ。空中に乙姫が回避し拳で湖面を砕きにかかるが……全く効果がない。かなり深くまで凍結しているらしく水は現れなかった。そして、乙姫も荒療治に出る。かなり難しい技術だが水龍族のには水を状態変化させる力があるらしい。それを使って水を作り出しミーナに向けて反撃を始めたが全く効果がない。確かにウォーターカッターは岩石をも切り裂く。しかし、結晶龍として名高い大地聖龍はあらゆる物を結晶化できた。よって、水でも例外なく氷にしてしまったのだ。水の弾丸は彼女の掌で水しぶきを撃ちだしてつくるそれを途中で凍結させられてしまう上にそれよりも射出スピードが速い水晶の弾丸がそれを打ち砕く。


「な、何なのよこの子!!」

「……」


 なおもミーナの蹂躙は続く。弾丸が利かないと解るや乙姫もある技を繰り出してくるこの場所はけして海に違い訳ではない。そこから海の水を引き寄せたのだ。ミーナはまだ寝ぼけ眼のような状態で審判の二人も判断しかねている。確かにおかしな状態ではあるのだが……それがどうして起きているのか、はたまた今の彼女の明確な意志がわからない。手の出しようがないのだ。しかし、乙姫が圧されているのは事実だろう。


「くらぇぇぇぇ!!!!」


 大津波がいきなり水龍の形になりミーナを狙う。おそらく日本に残る伝説はこの様に戦闘や気まぐれに水龍族が技を使うから起こるのだろう。それなのだが……ミーナはぼーっとしたようにそれを見ても驚きもせず何もしない。そして、ヴァージも目を疑った。確かに聖帝龍にもブレスがあることは聞いていたらしい。しかし、これほどまでに強力であるとは考えていなかったのだ。海水でできた巨大な水龍は彼女が左手の魔法陣からだした光の柱で消失した。さらに、ミーナは無意識のなのだろう生きている者の気配がする方向にそれを向けた。


「兄上!! って……早っ!!」

「何とかギリギリだな。高くつくぜ。乙姫さんよ」

「な、何よ。い、今頃、良い顔したってお姉ちゃんは許さないんだから」

「アンタと俺じゃ合わないよ。絶対にな。さて、あっちのおてんばを起こしてやるか……」


 ヴァージは間一髪のタイミングで乙姫の前に立ちはだかりその閃光に近い眩い光を断ち切ってミーナの方向に走っていく。帯剣は大ぶりなツヴァイハンダーと呼ばれる剣に近い。しかし、その剣はそのツヴァイハンダー程長くはなく、幅も狭かった。くびれのある中心には鋸のように小さな切り込みがあり龍の鱗を斬り裂けるように設計されている。さらに、先端にも工夫が凝らされ片三型と呼ばれるくぼみを刃に作ってあるのだ。その剣を構えてミーナに接近するが……ミーナは白く細いが切れ味鋭いフローディアの剣を片手で構え、無表情のままに光の波動を撃ち出しながら反対の手で水晶の結晶を放ち続ける。しかし、ヴァージの進撃は止まらない。水晶は全て体にあたる石の飛礫くらいにしか感じないらしく龍殺剣らしいフローディアの剣の斬撃だけを注意深く避けていく。そして……。


「そろそろ目を覚ませ。馬鹿たれが」

「いったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!!」

 脳天にたんこぶができたミーナは無意識に自分が何をしていたのかを理解しようとしていた。しかし、ヴァージが額を人差し指で弾き、状況を理解させるように行動に指示を与える。ミーナは頷いてそれをしようとするのだが……体に鉛の錘をつけたように動かないらしい。乙姫も不思議そうに近づいてくる。いつしか能力の呪縛を解かれた水面が水になっており戦闘の跡も残って居るが既に副産物としてリュフラが回収していた。海の幸を大量に掴んでそのエリアに降り注いで訳だから……。


「動けないだろ」

「ふゆぅ……」

「リュフラ……体格的に……あとトラウマ的に俺に乙姫を乗せるが問題ないか?」

「是非ともそうしてください……」

「つれないなぁ。リュフちん」

「……私はいったい」


 それから数時間し水太郎の父親が営む茶屋町の店で手当てを受けている二人とヴァージ。体がかなり強くなったとお涼が語る。しかし、同時に不安定な覚醒は体に負荷がかかっているとも語った。大きな瞳に疲れと眠気が重なり虚ろ虚ろしながら懸命に起きようとしている。体に現れた龍紋と呼ばれる痣もまだ不完全で龍族としての覚醒も変わらず三分の一程。ヴァージは……ミーナが乱れ撃った水晶の飛礫の中に大粒な物がありそれが肋骨を一本砕いていたらしく気丈にはっていたようだ。そして、怒ったミーナがヴァージに噛みついている。帰りに乙姫を背中に乗せたのを根に持っているのだ。リュフラはミーナを引き剥がそうとするが……。


「ガルルルルッッ!!!!」

「ミーナ……何がしたい?」

「み、ミーナ! 兄上も、あまり無碍にしないであげてください!」

「何やってんのよ……。ガキ」

「う゛ぁ!! おばはん!」

「もう、何でもいいわ。あなた、何者なの?」

「ふん!! どうせ私はヴァージさんのペットですよぉ~~!!」


 投げやりになっているミーナに呆れ果てているヴァージ。そこに乙姫まで現れたためにその場はかなり混沌としている。リュフラも乙姫を見るなりヴァージの後ろに隠れてしまう。ヴァージは乙姫をその部屋に居させるとミーナの首根っこを掴んで店の裏口から外に出て行く。ミーナは両手をブンブン振り回して抵抗していた。しかし、ヴァージは鬱陶しいながらも離さずに近くにあった林の中で落としている。尻餅をついて悪口を吐きながらヴァージを睨んだ。彼は自分の腕を見せる。ヴァージの腕には三カ所に噛まれた痕があり、徐々に噛む力が増しているらしく歯の刺さる数が増えていた。


「いったぁぁい……女の子はもう少し丁寧に扱うべきですよ!! どうせ私はペットなんでしょうけど」

「何を根に持ってるのか知らないがな。お前、そろそろ気づかないのか……自分がどういう存在か」

「え?」

「まさか……記憶がないのか?」

「ないです。というか、要件はそれだけなんですか?」

「それだけだ。俺は行くところがある。先に帰ってろ」

「はい!?」


 ヴァージはそのまま歩いて行く。ミーナは言われるままに茶屋に帰って行き……リュフラや乙姫のところに戻る。お涼も加わって彼の不可思議な行動について話し始めた。何か知っているらしい乙姫は黙ってしまい、居心地が悪そうに煙管に唇を当てては離し……つけては……目を逸らし……三人に囲まれて更に居にくいらしく窓際に逃げようとするが……ミーナがニヤリと笑って彼女を捕まえた。彼女は覚えていなくても決闘には勝利している。それをチャラにする代わりに知っていることを話せということだろう。すると降参したとでもいいたげに両手をあげて部屋の中央に向かった。


「アタシだって深くは知らないわよ。ヴァーちんが格好良くて男らしいのは……龍族以外にも言える。人間の女の子がヴァーちんのことを好きになってね……死んじゃったのよ。ヴァーちんはどっちに飛んでったの? 跳ねっ返りのお嬢ちゃん」

「東……跳ねっ返りってどういう意味なんですか?」

「慎みのないお馬鹿な女性のことですよ」

「……」

「なら、確実かな。その子は東の岸壁から飛び降りたのよ。アタシもあんまりいいとは思わなかった。ただの身勝手で無駄に傷を残すやり方じゃない。ヴァーちんはそれに責任を感じてるのよ。たかが人間の小娘一人のためにね」


 再び煙管に口をつけた乙姫は悲哀を含んだ表情をしていた。彼は女性関連の問題を引き起こす種のような存在らしい。乙姫を再び取り囲んだ三人は乙姫に顔を近づけて迫る。どちらかと言えば自分が跳ねっ返りに近い乙姫も冷や汗を流しながら詰め寄る三人に言葉を告ごうとするのだが問答無用だった。彼女は時の帝……そして、その権力を使って何かをしたいのだ。リュフラが拳を握り、指を鳴らした。


「さて……私には過去の数々の恨みが積もり積もっている訳なんですがね? この場で痛い目をみるか……すこし私たちに協力するかだけ選ばさせてあげます。どうします? 乙姫さん……」

「は、はは……選択肢……ないよね? これだとさ……ははははは……はは、やめぇ~~!!」


 夜が明けると女四人でヴァージの場所まで向かう。ヴァージのいる断崖絶壁まで……。

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