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龍旅の記  作者: OGRE
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半人半龍の美少女

半龍半人の美少女


 かなりの時間を滞空していく。彼の判断基準で雲の下へゆっくりと降下していく巨大な龍……。脚が付き内部の天気を確認しつつ厚い雲を割って草原と森が割れる場所を目指して地面に着地した。背中から次々に住民達が降りて行き最後に彼が疲れの色を顔に見せながら人間の姿に体を戻している。村人達は周りを見回し危険がないかを確かめているらしかった。新緑の季節は過ぎ、森の葉や草原は濃い緑に移り生き物が活発に生きる時期になっていたのだ。龍族の騎士は彼らが木造の家屋を建築し終えるまではずっと近くに居る。いつ何時、攻撃を受けるとも限らないからだ。


「ヴァ―ジさん! 休憩にしましょう!」

「そんな時間か……ミーナも休め。給仕の活動で疲れているだろう」

「は、はい」


 ヴァ―ジと呼ばれた騎士の男は鎧ではなく、農民の服装をしている。鎚と釘を持って木造のログハウスをたくさん作っていたのだ。彼が今造っているのが最後のログハウスらしい。住民たちはここがどこなのかすら聞かされてはいない。しかし、ヴァ―ジの安心している姿から皆も徐々に安心し始めてはいる。近くには海岸や川、湖などもあり生活には困らず、村となる土地からは少し距離があるが湖と川の上流付近には農地にできると彼が若い農夫たちを連れていった土地もある。そして、……彼がいきなり頭上を見上げて声をかけた。そこには彼が変身している時の大きさを軽く凌駕する巨大な頭があった。口からは熱気を吹き恐ろしい顔をヴァ―ジに向ける。その瞬間に彼の目の前に背中の折れた細身な老人が杖をついて現れたではないか。


「お久しぶりです! 天爺(てんじい)!」

「おお、混沌龍(カオスドラゴン)の小童か。名を……なんと言ったかの? 待て待て、急くでないぞ。ワシは記憶力はいい方なんじゃ。う~む……」

「ヴァ―ジさん! お茶がはいりました!」

「そうじゃ! ヴァ―ジじゃ! って……ばらされてしもうた」

「ミーナ……」

「あ、済みません」

「これはこれは別嬪なお嬢さんなことで。綺麗なお嬢さんなら許す。うむ!」


 その老人も人間の姿になった状態で彼らの集落となる場所に近づいて行く。彼は柔軟な思想を持つ龍族の老人らしい。これまで、龍族と人間の間に隔たりがあるとは言うがその老人曰く、そういう思想を持つ龍は局所的で西洋や新大陸の地方の龍族は特に多いのだ。そして、ここはそれらの土地から遠く離れ海に隔てられた孤島の中の一つ、周辺には数個の島が存在しその老人は一人で生活してきたのだと言う。ここで先に言っておくが龍族の寿命は定かではない。掻い摘んで言うと、龍族の中にもいろいろな種類の龍族が存在しており一概に『龍族』とくくることができないのだ。それに龍族の中でもヴァ―ジや天爺と呼ばれた老人のように人間に変身できる者とできない者が居ると言う。神格化されているのは後者の方でヴァ―ジのように人間の姿をした龍族達は元をただすと人間と同じルーツを持つ。それらの者は龍族と言えど人に近いと言えよう。


「ほぇ、昔話みたい……」

「ほほほ、そうじゃな。そういえば、ヴァ―ジは何歳になった?」

「今年で23歳になります」

「え? もう、成人してるんですか?」

「そうだな。俺の年齢を言ったことはなかったか。……!」

「気づいたか? 最近はよう来るようになってきておる。一当てやろうかのう?」

「構いませんよ。久しぶりに龍族を相手にしますが」


 二人が海岸沿いに向けて歩く。村人たちはそれを生唾を飲んで見守っていた。翼が風を切る音はなかなか響く、その音共に海岸線の先には色とりどりの龍が多数滑空してくる。ヴァ―ジが見せたゆっくりとした飛行とは違う。しかも、戦闘陣形とも見える編隊を組み相手は威嚇を見表す咆哮をヴァ―ジと天爺に向けた。形態を変化させて先に飛んでいくのはヴァ―ジだ。彼も咆哮を向ける、雄たけびなのだろう。一声高らかに咆えると相手よりも速度を上げて超低空飛行な飛び方を移し水面をけたたましく波立てながら先頭の黒い龍に体当たりした。敵の黒い龍は海面に落ちたがヴァ―ジは翼でホバリングし一気に垂直上昇をする。敵らしい龍族も彼を追うようにそれに続いて垂直に太陽を目指す。しかし、敵の龍族はヴァ―ジの速度にはついて行けない。それならばと彼らも考えたらしい。空は無限で移動の制限などはない。空で体を丸めた龍がターンをして二頭目の龍を叩き落としたヴァ―ジの腹に額の角を突き立ててタックルした。


「ヴァ―ジさん!」

「どうじゃ? 龍族同士の戦闘は痛快じゃろう。ヴァ―ジの小童なら負けはせんよ。心配せんでもいい。……とくに、お嬢さんは飛びとうて仕方ないんじゃないのか? ん?」


 ミーナがクエスチョンマークの嵐を頭上で起こした。父親は苦い顔をしている。老人は一瞬で気づいたのだろう。そう、彼女は人ではない。厳密には半龍半人と言おうか。彼女の父親がエンバーズという龍騎士の血液を体に流していることは前に語ってもらっただろう。彼は結婚し、娘を残す前に血を体に受けていたのだ。言うまでもなく異種の血液を受けたのだから彼にも大きな変化があった。それを受け継いでいるのがミーナなのだ。ミーナがヴァ―ジを人と勘違いしたのは自分が人ではないために同じ特徴を持つ彼が人であると思いこんでいたというところになる。ミーナの容姿にも龍族の面影が強くある。龍族は決まって端正な顔立ちと長い耳、発達した犬歯と広い瞳孔を持つ。ミーナは目が大きいため判断基準の中でも大きく人間が区別をつける『目』の観点では不自然に見えなかったせいだろう。村人もそこまで気にはしなかったらしい。耳も長いとは言うが純潔の龍族のヴァ―ジ程長いわけではなく人のように丸みを帯び、犬歯も可愛らしい八重歯程度に見えるものだ。ついにヴァ―ジと敵の龍族達が互いに落とし合い空に舞い上がる格闘戦闘に発展し天爺が様子をみるように海岸に立っていた。ヴァ―ジの飛び方を見ているのだ。いかに龍族でもダメージの蓄積や炎症、後遺症などは起こる。ヴァ―ジの体に起きていたことを瞬時に読み取る……。恐ろしい観察眼の老人だ。


「ほれほれ、どうした? ん? まさか、知らされとらんのか?」

「な、何が何だか……」


 その瞬間に大きな水しぶきをあげて数頭いた龍族の内、二頭が海面に衝突した。一頭の龍族が撃ち落とした龍族の脇腹に爪を立てているようだ。海面には血が浮き色から推察すると敵の龍が負傷したと見える。見かねた天爺が飛び上がり逃げまどうように数頭の龍族がターンやひねりで空を飛び交う中に突っ込みヴァ―ジを止めにかかる。彼はあくまで中立で追い払ったり昏倒程度ならするのであろうがヴァ―ジのように血を見る戦闘は好まないようだ。飛び上がるや長い尾で二頭目の上を取り急降下に入ろうとしたヴァ―ジを上から吹き飛ばし残りの龍族も同時に海面に叩きつけた。


「やりすぎじゃ、見てみい、お前もやられたんじゃろ? 黒騎士どもに……、ま、お前のことじゃ、皆殺しにしたんじゃろ?」

「そうですね、カッとなると見境が付かなくなってしまうんです」

「じゃろうな、戦場の守護神『混沌破壊龍(カオスエンドドラゴン)』の末裔じゃ。それも仕方ない。少しづつでいいのじゃ、自制をつけるといい」

「はい……血など見たくはないのですが」


 それからは龍族の襲来も治まった。天爺の慈悲で負傷した龍族を恐怖という意味で怯えきっている龍族に預け、彼らがその海域から抜けることで命までは奪わないと約束しそこから見送ったのだ。それに村人も今回のことで改めて龍族の恐ろしさを思い知ったのだ。それを踏まえてここに住みたいというならばと天爺は彼ら村人の居住を快く承認してくれた。どちらかと言えばさびしくて仕方がなかったということから話し相手ができてむしろ嬉しかったと見える。天爺は島の中心の山へ飛んでいく。それからは再びログハウスや他の施設の設営に取り掛かった。体力を消耗したヴァ―ジは村人の勧めで休養し湖で水きりをしてる。紛いなりにも彼は守ってくれたわけだ。これが人間だけでは簡単に蹂躙されて終わっただろう。それにヴァ―ジも脇腹に小さな切り傷がありそれの静養をすると言って彼らの進言を受け入れたようだ。湖面を長めながら自分の伸びきった髪の毛を結い直し再び平たい石を凪いだ湖面にぶつけて何回かバウンドさせる。それに興味を持ち集まって来た小さな子供たちに教えながら水きりをしているとミーナが現れた。


「どうした? お前らしくない。カナリアが死んだみたいだぞ」

「……私、飛べると思います?」

「お前は人間だろ?」

「その、お父さんが……教えてくれたの。私にも龍族の血が混じってるって」

「そうだろうな、エンバーズ殿の血が少しだろうが混じっているはずだ」

「怖くないんですか?」

「何故? 俺からすれば細い腕に華奢すぎる女の子のお前なんか脅威にならん」


 その時、瞳が急に白くなるのを彼は見逃さなかった。龍族も共生するという意味で人間に近い形態になったという学識が古い古文書には記載されている。よって、ヴァ―ジも今は黒い瞳だが、龍族の力を局所的にでも解放すれば瞳が赤くなり頬に黒い鱗が浮いたりするらしい。その変化が出ていることを確認したのだ。元が人間と認識されていただけに不安なのは彼にも心情的に理解ができる。ヴァ―ジの爪が赤くなる。それを見せていたのだろう。ヴァ―ジの種類は戦闘を行うのに適した龍族の戦士だ。それでも、知識として最低限の物を持っているらしい。不安を隠せないミーナを励まそうとしているのか彼も知らず知らず声が優しさを帯びる。


「このまま、人として生きていたいか?」

「はい? あ、いえ、別に、受け入れるのは簡単なんです。でも、ここには居られませんし、できればここに居たいです」

「人を傷つけるのが怖いなら自ら抑える方法を考えることだな。俺もそうだ。龍族なら少なからず本能で動く、俺のように知性が比較的に低い龍族は本能の赴くままに殺戮を行うこともあるんだ。だから、俺は群れるのを嫌う。別に俺だって好んで戦場に居る訳じゃない。俺の力が強大だから、それを求める者は少なくない。しかし、抑えられない力は狂気でしかないんだ。前にも言ったが俺は狂気の始まりを絶つためにお前ら人間とはかかわりたくないんだ。それが俺の龍族『混沌破壊龍(カオスエンドドラゴン)』としての誇りと戒律でもあるんだよ。血なまぐささに慣れるな。それは俺からも言える」


 白い瞳と金色の瞳がちらつくミーナの変化に逐一目を配る。この近くには小さな子供も多い。こんなところで暴れられてはたまったものではないからだ。龍族は彼のように攻撃的な龍族から知性の高い頭脳明晰な龍族もいる。それに、龍族は何も人間に共生しているだけではなかった。龍族の中にはその他の種族に擬態している者も少なくはない。多くは爬虫類となり新種族としてこの大地で生きているが……。抑えるのに最低限必要だと語りながら抑制を行えるようにヴァ―ジが彼女に魔法を教える。龍族の秘儀とでも言うべきだろうか……。戦争の始まりとともに龍族は彼ら人へ魔法の継承をしなくなったらしい。元々、魔法のような超常現象を含む秘術を龍族が生活において利便を生む技術を人間が開発することが多かった。戦争にそれらを転用されることを龍族は拒んだのだ。


「ミーナお姉ちゃんのおめめが真っ白!」

「ホントだ! どうやったのそれ!」

「いいなぁ、綺麗……」

「え? え?」

「俺の魔法を解除したんだ。龍族の覚醒を少し刺激した。龍族同士は共鳴する。簡単には生殖本能とでもいおうか? お前、何歳だ?」

「17歳です」

「十分だな」


 彼は立ち上がり子供たちを連れていく。近づいてくる子供の注意をミーナから削ぐために沢ガニの釣り方を教えているのだ。沢ガニは敵とみなした者を威嚇し巣に入ってくる同者を手の挟みで挟む性質がある。小枝を長い紐……。彼の髪の毛で縛り、釣りあげる。それに子供たちが熱中している間に彼はミーナに必要な話を始めた。龍族同士の共鳴は基本的には龍族でしか起きない。半龍半人のミーナの場合は男の龍族が気配を見せたり特殊な匂い、フェロモンとも言うが生殖本能を促すそれを放出しなければ起きないと言っている。ゆえに、龍族が近づかなければミーナにはそういう心配はないのだ。だから、先ほどまでミーナの反応が不安定だったらしい。ヴァ―ジのように成人した龍族は生殖本能を抑えることもできる。だから、フェロモンの放出やそれの停止は自由に選択できると語っていた。全く、生物としてできすぎている。それでは人間が恐れるのもうなづける話だ。


「ということだ。俺がここからいなくなればお前には実害はないさ」

「やっぱり残ってはくれないんですね?」

「無理だ。さっきも見ただろう? 俺は龍族の習性のせいでいつお前らを傷つけるとも限らないからな」

「私は、ここに居てほしいです」

「何故?」

「あなたが、限界を見たら私が交代すれば済むことですよね?」

「無理な話をするな。お前は元の体は人間なんだぞ。変身に耐えられる訳があるわけがない。バカも休み休み言え。死にたいなら別だがな」


 先ほどからミーナの様子がおかしい。顔は赤く熱を持ったように顕著な高揚が受け取れる。ヴァ―ジはフェロモンを止めているはずだ。それなのに何故か解らないらしく今度はヴァ―ジが困惑し始めた。彼は女性の龍族の発情の状態を知らない。覚醒というが龍族の習性に触れることがそれだ。先ほどから無かった変化と言うならばミーナの首筋の辺りから甘い香りが漂うくらいだろう。そこに、ミーナの父親が現れる。彼の腕を見せて来た。そこにはヴァ―ジにあるように模様がある。エンバーズの血を受けた彼の変化だ。龍族の血を受けた人間は……人間の体が龍族のように強くなるという。簡単に言えば超強力な筋肉増強剤や皮膚を強固にする薬を体に入れたのと同じ状態になる。よって、彼は体がとても強い。それと同じ特徴をミーナも受けている。まぁ、未だに人としての成熟しかしていないために力も弱く華奢ではあるが。


「ミーナの秘密を知りたいか?」

「は? それは彼女に伝えるべきでしょう?」

「伝えたが……彼女には信じられんだろう。それが証拠に彼女は受け入れていないんだ。君に説明しておく。ミーナの母親は私と近い存在だよ。半龍半人の人間の女性なんだ。しかも、龍族とのハーフという特殊な……な」


 ヴァ―ジの絶句が解るといううなづき方をしたミーナの父親。彼はヴァ―ジの腕に抱きついているミーナを見てからヴァ―ジの隣に座る。手には首飾りと思しき者を持ちそれを開いた。



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