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龍旅の記  作者: OGRE
14/25

朱華の国4……飾姫演舞

 早朝になりミーナやリュフラ、火龍の三姉妹が食堂に現れるとヴァ―ジとゼロが絶句した。着飾った姿の二人を目に入れた瞬間に特にヴァ―ジなどは見慣れた妹とそういった服装をあまりしないミーナがそのように着飾っていたからだ。

 更につけ加えれば……リュフラの趣向はどちらかというと奇抜で露出の大きいものである。ゼロはそれで赤面しているしまつ……。

 それに合わせたらしく、割と奇抜な服装の唐姫がリュフラを見ながらため息をついてその部屋に入ったきた。自分よりもスタイルがいいのが気に食わないがそればかりは先天的な遺伝による物のため彼女もそれ以上は言わなかった。

そして、リュフラの影に隠れるようにしていたミーナを押し出した蓮姫と蘭姫も姿を表す。決闘などの日取りなどを考えると数週間の宿泊をしている彼ら四人は既に周りの龍族の住民や使用人には知れた存在だ。そのために二人をめかしつけるのには多くの使用人が力を貸したと思われる。

 特に羞恥と言う概念が強いミーナには多かっただろう。


「兄上、ゼロさん。お待たせしました」

「……は、恥ずかしいです。こんなにピッチリしてるとラインが……」

「はぁ……、リュフラは良いんだけど……ミーナは暴れて大変だったわ」

「ほぇ!? 言わないでくださいよぉ~~……」

「そうそう、髪も細いしリュフラみたいに露出の大きいのは嫌うし、かと言って厚着も熱いっていうし……結局これしかないもの」

「お姉さま方も綺麗になってるんですから、お兄様方もお召変えはどうですか?」


 ヴァージとゼロも三姉妹とミーナ、リュフラの五人に引っ張られ部屋から連れ出された。それから数分すると渋々という表情のヴァージと興味深そうなゼロがもとの部屋に入ってくる。因みに女性人は少々高揚気味でテンションは高い。

 ヴァージは武漢のそのままで鎧に近いがけして装飾が無いわけではない華美な作りの式典用の鎧に着替え、ゼロは文官の男性が纏う細い服装で現れるがなかなか似合っている。双方ともに態度はまちまちでヴァージは先ほどから襟元と兜飾を窮屈そうにいじるしゼロは初めてきる異国の衣装ということもあり興味は深そうだ。どのみちこのあとに何かあることは二人共予測しているのだろう。ヴァージなどはこれまでの経験から完全に予測し応戦体勢に入っているようだ。ミーナへ時たま気づかれないように視線を送っている。しかし、今回はそれだけではないらしい。


「リュフラはあの人と番になるの?」

「決まってはいません。ですが、兄上がそう望んでいるようですし」

「あのさ。その兄上、兄上はどうにかならないの?」


 頭の天辺にクエスチョンマークを吹き出した様なよく解らないという表情をするリュフラを周りとは少し離れたところで相手する唐姫。酒を普通に飲める二人は年齢も近いせいか唐姫の方が突っ張って居たときと比べるとかなり親密になっている。体に戦傷の残るリュフラを見ている唐姫は何を思うのだろう。かなり複雑な表情なのはわかる。リュフラに聞きたいのだろうが聞けない。そのような感覚だろうか。

 それに既に気づいて居るリュフラは彼女がしきりに聞いてくるゼロと自分との関係を逆に問うてくる。隻眼のリュフラは確かに傷が多く痛々しいがそれを覆せる程の美人ではあるのだ。だが……少々どころか大きく欠落している所もない訳ではない。それはヴァージに関しても同様の内容である。彼らの過去がどうだということは今更解らない。彼らに深く聞かねば知ってはいけない場所だからだ。だから、あえて唐姫はその先を聞かずに酒を飲んで濁したのだ。


「先ほどの続きですが。私は心を許せる人間が兄しかおりませんでした」

「……」

「ですから、どのように心をさらけ出していいかこの年になっても……恥ずかしながら理解できていないんです。ミーナの時は特別だったというか……妹ができて嬉しかった様な感覚と言いましょうか。心が温まったんです。ですから、ミーナや兄上が決めてくださるならば……」

「そうじゃなくてさ……」

「はい?」

「リュフラ、あんたはあの医者と番になりたいの?」


 その瞬間話の趣旨を理解したらしいリュフラの顔が一気に紅潮した。その紅潮を看取ると大きなため息をつく唐姫が酒の瓶を置いてゼロの所に行き、リュフラの方を指差すとその本人は自分の妹である蘭姫の相手をしに行く。一番末っ子で姉二人は各々思春期真っ盛りというか色々と面倒事が多い年頃で相手にしてもらえる事が少ないと見えてたまに相手にしてもらえる場合はかなり甘えるようだ。12歳には見えないが12歳の幼子は姉に抱きついて飴を舐めている。

 ヴァージの方には二人が集っていた。ミーナと蓮姫だ。蓮姫に負けじと服装を忘れてヴァージを振り回す。その途中で遠巻きから見ているゼロが気づいたらしい。ミーナが片時もはなさない。ペンダントと剣。二本の剣とペンダントは彼女と生前の母をつなぐ唯一の物なのだ。しかし、逆に彼は何ももっていない。


「ヴァージが思い出の品とか持ってないのはなぜか知っているのかい?」

「兄上は……一度過去を捨てられたんですよ。一族から離脱される際に我ら混沌龍(カオスドラゴン)族の戦士の三十二大隊が彼一人を攻撃しました。しかし、精鋭大隊6部隊を残してブレスの一閃で薙ぎ払われ骨まで残さず蒸発させてしまったんですから」

「彼はそれほど一族を恨んでいたんだね」

「存在を消したいほどにですよ」

「君はそんなお兄さんを助けてあげたかったんだね」


 リュフラの表情を逐一確認しているゼロとそれをたまに目の隅に入れているヴァージ。たまにしか見れていないのはミーナと蓮姫がかなり強く絡んでいるからだ。


「お前らは何歳のガキだってんだよ」

「17ですけど?」

「おなじくぅ」


 リュフラの表情が和む。ミーナを見ているリュフラはどこか表情が違う。


「君はお兄さんが好きなんだね」

「……」

「どうしたんだい?」

「好きではないんです。唯一の……つながる者を持つ異性というだけです」

「お兄さんを異性と見るのもどうかと思うけど」

「ご心配なく。兄は兄です。ですから、いずれは私もどなたかと番になります」


 チャイナドレスにしても露出の大きな今のリュフラの服装は正直目の行き場に困る。まぁ、別のみでも痛々しくはあるが。先日の決闘の怪我が完全に癒えていないのも事実だ。一部分包帯が残っているがそれがまた妙にいやらしい。ゼロも手渡される酒を侍女へも一礼しながら受け取り飲んでいる。彼はアルコールに強いらしく笊のようにとは行かないももうかなりの量を飲んでいた。リュフラもそれに合わせてかなり飲んでいるようで足取りがだんだんとおぼつかなくなっている。

 子供二人の相手をしているヴァージは既に疲労困憊で完全にだれている。体力的にかなり重いようだ。そして、完全にリュフラが立てなくなり座るのも辛くなり始めていることにゼロが気づいた。ヴァージにアイコンタクトすると彼は片手を上げて答え、使用人達が黄色い視線を送る中でリュフラを抱き上げて医務室の方向へと歩いて行く。

 混沌龍(カオスドラゴン)の血を引くリュフラの指先は補足しなやかで手足も同様だ。そして、龍族にしては不自然なほどに体色に影響されないのが混沌龍(カオスドラゴン)の特徴でもある。ルフォンの水龍族は基本的に骨の浮き出る部分に青みがかり、朱華の街の火龍族は基本的に頬や血の浮く場所はほとんどが薄い赤みを帯びるなどの小さな変化があるのだ。それがないリュフラは本当に真っ白な肌で傷が多いにしろ肌はもともと絹地のようになめらかでもある。アルコールの影響からかリュフラの頬は少しの赤みがあり、体は動かないために抵抗もできぬままに抱かれたこともあり彼女には珍しい羞恥を隠す行動が見て取れる。目を軽く閉じて紅潮した頬は首が少し落ち込むことで強調される。さらに柔らかな唇もそれを際立てる。隻眼に高い鼻も……。


「リュフラ、大丈夫かい?」

「これくらいでは酔いませんよ」

「フラフラなのは知ってる」

「……」

「君は気丈に張らずにもう少し周囲を頼ることを学ぶべきだよ。何気ないことでも自分だけで苦悩せずにもっと……僕やお兄さん、ミーナちゃんをね」

「お聞きしていいですか?」

「ん?」

「あなたは私をどのようにお思いですか?」


 ゼロの方も動揺を隠せないこの展開……。いつもはそのような表情や仕草のないリュフラから思いもよらぬ言葉と仕草、表情が飛び出したからである。それはリュフラにかけている思春期に見せる様なまだ幼く、それでいて色の付き始める時期の……少女の様な表情。ゼロはそれを見て止まっている。彼は彼で何かを考えているのだろうが……何を思っているのだろう。

 リュフラが上体を持ち上げる。そのままベッドから立ち上がりゼロに迫り続けた。リュフラもなにか考えがあるのだろう。表情は変わらず何かに導かれることを望む様なおぼろげな感情表現を押し出しているが体の動きは少し違う。本人の意思で補正しているようにぎこちない動きだ。龍族に限らず高等動物にも本能は存在している。リュフラはそれを自制する動きと龍族の本能の間でかっとうしているのだ。いつもは黒く沈んだ様な瞳をしているリュフラの目が柘榴色の輝きを帯びて、兄程の年齢の男性に迫る。


「ゼロさん」

「リュフラ。君は何を望んでいるんだい?」

「私は兄上が自由に暮らせるように……自分が重荷にならぬように」

「違う」

「あなたもそのように問うんですか?」

「ということは唐姫にも聞かれた訳だ」

「えぇ、私はわからないんです」


 その頃のミーナ、蓮姫、ヴァージはと言うと……。途中まで絡んでいた蓮姫を姉の唐姫が連れ出し、ミーナには待ちに待った状況が出来上がって居た。少々疲れてはいるがヴァージもまだ動けるらしくミーナが引っ張る方向へとゆっくりと足を進める。着付けられた少々露出の大きな服装になれる事ができずにいるがヴァージの腕を抱き込んで下町にいる。海べりに腰掛けて話しているらしい。ヴァージは今回のリュフラの行動で昔の記憶を少なからず思い出しているらしく表情はどうにも落ち込み気味だがミーナに感じさせないように努力はしているようだ。

 ミーナは片時もはなさない母、フローディアの剣。王族の秘宝であるそれは今や一人しか残らぬ聖帝龍(セイントドラゴン)の血を引く者の証でもある。戦争の勃発と同時に崩御した前の皇帝とその数年後に息を引き取ったミーナの母以外にもいたはずなのだが……そこはヴァージも口を開かない。


「本来、お前たち聖帝龍(セイントドラゴン)と俺たち混沌龍(カオスドラゴン)は敵対していたんだ。俺は幼くしてヴァーゲルデの凶行を知ったよ。だから、正直お前にはあわせる顔が無いというのも少なからずあったんだが」

「柵は深いんですね」

「俺には関係ないことだ。いいや、俺たちにはな」

「へ?」

「俺は逸れ龍のヴァージだ。アリストクレア家の名を捨て龍族の種類を表す名前だけを刻んでなだから、本来俺はヴァージ・プルトネオ」

「私は?」

「お前は違うだろ? 大好きな親父さんとまだ縁は続いてる。お前は世界でただひとり輝ける存在の龍帝ミーナ・エンジェリア・アークカイザーだ」


 母の剣をミーナが抱きしめる。それに気づいた瞬間にヴァージが彼女の頭を優しくなでる。ミーナの表情は少し複雑だが嬉しそうな微笑みとヴァージを気遣う様な物だ。いつになく優しく悲哀を込めた彼の表情は遠目から見れば彼らを番に見せただろう。大地聖龍(ガイアドラゴン)の力を発言するに至ったミーナは既に半龍族から龍族になった。しかし、人間の血を混ぜている彼女は不安定であることには変わりない。ミーナは頭を撫でているヴァージの膝の上に座った。


「ヴァージさんってホントに23歳なんですか?」

「数え年ではな」

「……」

「どうした?」

「私、これまで自分の立場が解ってなかったんですね」

「ん? どういうことだ?」

「私は皇帝になる龍。火龍の皆さんみたいに……」

「いいや、お前は自由に生きられる。俺たちのように逸れ龍でいる間はな。全てはお前の選択次第だよ。お前が……可能性の話として俺を含めた誰かと番になり子孫を残す様な状況が訪れるまではな」


 ミーナが顔を膨らませる。ヴァージの無骨な指を甘噛みした。驚いた表情のヴァージだが今度はたまに見せるあの優しい笑顔を作りミーナをなでる。


「ハムっ!!」

「ん? どうしたんだよ……まぁ、まだ先の話だ。俺もお前がしっかり自立できるまでは見ていてやれるしな」

「約束ですよ?」

「あぁ」

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