表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍旅の記  作者: OGRE
11/25

朱華の国1……朱館演武

 朱い塗りをした壁が軒を連ねる不思議な街でミーナは目を輝かせていた。来たことも見たこともない街並みや綺麗な服装の女性、不思議な服装の男性など……彼女には物珍しい物ばかりだった。ほぼ半日の飛行と二日間をリュフラの脇腹の傷の静養に当てた一行は新たな仲間、氷龍族の医者であるゼロを加えることでさらに賑やかになりヴァージは安心して時たま子供のようにはしゃぎどこかに居なくなるミーナを監視できるらしい。リュフラはまだ体調が回復仕切らないこともありゼロと二人でゆっくりと歩く事をしている。ゼロは年齢はヴァージと同じ23歳で身長はかなりあるがのっぽと言うか……細高な体格をしていた。だが、龍族で四番目に筋力のある氷龍族だけに体は厚い筋肉が見受けられる。あとは端正な顔立ちでよい家の出身なのだろう……。


「お兄さんとミーナちゃん。仲が良いんだね」

「そうですね。ミーナがもう少し落ち着いていればいいのですが……」

「そうだね。でも、あれくらいが良いと思うよ。僕の妹は少し大人しくてね」

「お幾つですか?」

「この世には居ないかな」

「す、済みません」

「いいよ。それが運命だったのさ。だから、僕は一人でも多くの人々を救いたい。僕のできる唯一の償いさ」


 リュフラとゼロは黙ってしまった。前方の二人は……特にミーナがヴァージを振り回しヴァージは少し疲れていたらしい。丸二日間を不眠不休で警戒し続けていたのだ。リュフラの弱っている時はあまり叩かれたくない。ミーナはあまり戦力にはならないし医者のゼロにはリュフラの治療に専念して欲しかったのだ。時間はあっという間に過ぎたが……雷龍はヴァージ達をマークしていたし他の三人に戦闘をさせられないならば彼がすべてを請け負うことになる。そして、ミーナが満足そうな笑みをためて大ぶりなあんまんを頬張りながら近づいて来た。ヴァージはやはり右手を引かれて前のめりにされているようだ。


「リュフラさんも食べません?」

「あんまんですか?」

「はい、甘くて美味しいですよ」

「では一つ」


 一行はミーナが落ち着いている間に足を進める。この街並みは何故朱いのか……それは今から向かうところに行けばわかると言う。ヴァージが先頭になり竹林の方向へ歩いて行くと道らしきところが現れた。そこの石畳の前で止まると奥から真っ赤なチャイナドレスの綺麗な女性が現れ、一礼するとヴァージが腕を見せながら残り三人の説明をしだす。ヴァージの友人らしい人物の館らしい。ヴァージが武器を手渡すと慣例とでも言うようにリュフラが武器を手渡し、それに習ってゼロも背負っていた槍を手渡した。ミーナの剣はヴァージが説明を入れて使用人の女性が黙認してくれたらしい。ついていけば良いと三人に告げてヴァージも使用人の女性について行く。


「ヴァージ様がおいでになられました」

「通せ!!」

「御意」


 そして、通されたヴァージ達、特に後ろの三人が感嘆の声を上げた。御殿と言う言葉が合う巨大な建物の隅々まで龍の装飾が施され、絢爛豪華な内部の置物や煌びやかな使用人……。そして、先程案内してくれた使用人らしい女性が道をそれて中に入るように告げる。そこから先は限られた者や許可のある者しか入れないらしい。ヴァージは気にすることなく奥に突き進み、扉の目の前で一度止まると扉を押し開けた。そして、中に入ると真っ赤な髪の毛の少女が三人現れ、二人がヴァージに抱きつく。さらに奥から妖美な雰囲気の女性が現れた。


「あ~~!!!! ヴァージ兄!!」

「ホントだぁ!!」

「ったく……五月蝿いわ……ね……。あ、ヴァージ……ヴァージじゃない!!」

「帝龍姉妹も変わりないな。五月蝿さも幼い頃からの妖美さも」

「……兄上……あなたはどれだけの女性と関係を?」


 真紅の髪の毛の三姉妹達は皆後ろのメンバーを観察し始めた。最初に現れた小柄な二人……三女はまだ12歳らしく幼さが抜けきらず、次女はミーナと同い年程、長女は22歳で彼女らの中で家を継承する上で一番の人物だと言うことだ。その長女がリュフラを見て……喧嘩をふっかけるように近づいて行く。リュフラも至って堂々と相手を見下すように見ていた。次女もやはりミーナに喧嘩を売っている。三女は呆れたように母親らしき女性にくっついて行った。その女性は額に三つ目の目玉を持ち、金色の角が二本頭から突きだしている。親しみがあるらしくヴァージと握手をすると娘二人を呼びつけた。教育方針はかなり厳しいらしく二人ともが急いで母親のところに駆け寄って行く。そこからは自己紹介を兼ねた食事の席が設けられ各々が席について三姉妹の母親が席につくと同時に食事が始まった。


「では、知らぬであろうお三方に紹介しよう。まずは、妾が朱華の国の火龍族を治めている『龍貴妃(りゅうきひ)』じゃ。そして、手前の長女から『唐姫(からひめ)』、次女の『蓮姫(れんひめ)』、三女の『蘭姫(らんひめ)』じゃ。久しく見る友のヴァージは知っておるな」

「えぇ、その節はお世話になりました。では、こちらも。まずは俺の妹のリュフラ・アリストクレア・プルトネオ。次に聖帝龍族、大地聖龍族、半龍人の血を引くミーナ・エンジェリア。最後に氷龍族の医者でブリーザン公爵家から出奔したゼロ・アブソリュテ・ブリーザンです」

「ほう、また色とりどりの逸れ龍の仲間達じゃな。客人として歓迎するぞ。さぁさぁ召し上がれ」


 ヴァージは相変わらず肉料理を好んで箸を伸ばし、和の国で箸の扱いに慣れたミーナは野菜料理に舌鼓を打ちつつ、時たま出てくる卵料理にも箸を伸ばした。リュフラは基本的に春雨のフカヒレスープを食べ続けており、隣に座っているゼロは箸を使えずレンゲでスープやマーボー豆腐などを食べている。すると、ミーナがとある疑問を口にした。ヴァージに五月蝿く言われ続けたはずなのに何故かミーナはそれが頭に入っていないらしい。それをバカにするように蓮姫がミーナをあざ笑う。そのためにリュフラがミーナを庇うがそれをさらに唐姫がバカにしたために龍貴妃が怒りを露わにした。そして、それを説明する。ヴァージもミーナの身の上を話し一時はそれで片づいたにしろあまり良い空気ではない。特に旅の仲間の中で一番のトラブルメーカーのミーナは蓮姫を許す気は全くなく、売られた喧嘩を買うような態度をとったのだ。さらに、今回はいつもは常識を見て動くリュフラが怒りで現れる混沌龍にしか伝わらない攻撃フェロモンを放出していたらしい。


「あの、龍貴妃様……なんでここには女性しか居ないんですか?」

「はぁ? あんたバカ? 龍族の掟も知らないなんて。……はは、バカみたい」

「むっ……」

「ミーナはまだ、人の状態から変異を始めたばかりなんですよ。それは知らなくて当然だと思いますが」

「それでも、そんな小娘が聖帝龍族なんてね。世も末だわ」

「うぬら!! 今の彼らは妾の客ぞ!! 妾の娘とて節度を超えれば許さん!!」

「龍貴妃殿。抑えてください。こちらにも非はあります。だが……唐、蓮、度を過ぎれば俺もお前らを許さんからな」

「ヴァージ……」

「兄様……」


 会食の席が終わるとヴァージは龍貴妃と円卓に杯と酒瓶をおいて談笑を交えながら話していた。彼女らの母とは言うが彼女はとうに1000歳を超えた龍で見た目は美しいが相当にお婆さんだった。戦闘は好まないがその力は山を一つ吹き飛ばす力を持つらしい。ヴァージはミーナについて語りながらリュフラについても少し深い話をしていた。龍貴妃の三姉妹達は龍の掟に従い、男性の龍とは触れあわず世間知らずでわがままに育ったという。真っ赤な引きずる程長い髪の毛を翻してヴァージに問い詰める。実際のところ、彼はかなり女性の龍族に好かれる。しかし、誰とも契りを結ばず未だに独り身だ。ここまで来るとエリュデやお嶺のことだけではないのだろう。


「済まぬな、どうか不肖の娘を許してほしい。あの子らは世間知らずでわがままだ。それ故に、あの少女に強くぶつかるのだろう」

「こちらも申し訳ない。リュフラは手負いなもので少し気が立っています。ミーナは……人から変わり始めたばかりでまだ混乱しているので何とも言えませんが」

「のう、ヴァージ」

「はい」

「妾と子を残さぬか?」

「お断りします」

「つれないのぉ、妾とてまだ若々しいじゃろうて、龍族は年を負う事に美しく気高くなる」

「……」

「そなた、子を残すのが怖いのか? ん? 正直に言うてみぃ」

「適いませんね。そうです。俺は自分と同じ境遇を味あわせたくない。だから……」

「聡明なそなたにだから言うておく。子を残さねばならぬ。そなたは特に多くの子をな。そなたのような清い者の子をじゃ」


 ヴァージは返事をせず立ち上がり一礼すると用意された部屋に帰って行く。その時に龍貴妃が彼に持ちかけた。龍族同士はかなり決闘を好む。無駄な血を流さないために大勝同士が戦い勝敗を決めることを好んだのだ。だからどこの王族の住む場所に行っても闘技場が完備されているらしい。それに加え、リュフラやミーナの力を推し量りたいことも関係していた。今、龍族は確実に減少し衰退している。彼女がヴァージに子供を残すように勧めるのはその事も関連していたらしい。そして、彼が部屋に帰るとバルコニーにはリュフラとミーナの姿があった。部屋割りは掟を重んじてリュフラ、ミーナとヴァージ、ゼロの組み合わせになっている。ヴァージは様子を見に来たらしいが問題なかったようで安心して自室に帰った。


「リュフラさん。私に剣技を教えてください」

「……私は剣技は教えられません。兄上ならばできますが私は鞭が専門なので」

「なら、戦い方を教えてください」

「悔しいですか?」

「はい……」

「では、兄上に確認をとった上で決めます。今日は遅いので寝ましょう」


 ミーナは着実に龍へと姿を変えていた。龍族に変身していく過程はこうなる。まずは龍族固有の機能を得るための変身準備期間。次に変身。そして、半龍族となりブレスや龍鱗を手に入れて……体が性的な成長をする上で女性には女性の龍族の特徴が、男性にも固有の変化を生み出す。ミーナはまだ半龍族の部類で不完全だ。そろそろ移行を始めてもおかしくない時期なのだがヴァージやリュフラは彼女が混血であることを気にしていた。不安定になりやすいハーフドラゴンに加えて人の血を含むミーナはかなり不安定なのだ。ヴァージも早めに彼女を成長変異期に移行させておきたかったらしい。その期間になれば一人で戦うこともできるし魔法や生態本能をある程度抑えることができるのだ。そろそろ、ミーナは移らなくてはならない。だが、焦ればことをしくじるかもしれないため、ことを慎重に運んでいるようだ。


「昨夜にヴァージと話したのじゃが、決闘を執り行いたいと思う。古来より、龍は無駄な流血を拒んだ。そのために決闘を催したいと思うておる。どうじゃ?」

「私はかまいませんが……ミーナは」

「やります」

「ミーナ、無理は……」

「私、ヴァージさんのお嫁さんになりたいんです。障害が目の前にあるなら……叩き潰しますよ。全力で」


 いつになくミーナが真剣に言葉をつないだためにヴァージもそれを許したらしい。心配は主審を龍貴妃、副審をヴァージとゼロとした。どうでもいいが開始の銅鑼の合図は三女の蘭姫が行うとのことで決闘の日取りが決まって行く。ミーナに睨まれた次女は華奢なミーナの体を見て完全に見下している。負けるはずがないと思っているのだ。リュフラも静かにしては居るが並々ならぬ闘牙を剥き出しにしている。隣に座るゼロと涙目の三女が哀れだが朝食の席はかなり荒れた。決闘のルールはこちらの地方のルールにのっとり龍貴妃とヴァージで話し合い、ある程度の許容範囲を設けるらしい。


「ルールは簡単じゃ。相手を十秒以上立ち上がらせなくした者の勝ちじゃ」

「武器はなし。ただし、ブレスやその龍族特有の技については許可をする。だが、行き過ぎた場合は俺や龍貴妃殿、ゼロが全力で止めにはいるからな。それは覚悟しろ。対戦相手はミーナ」

「はい!!」

「蓮」

「ふふっ……」

「リュフラ姫。よろしいか?」

「は……、御意思のままに」

「うむ、唐!」

「はい、母上」

「以上ですね。銅鑼は蘭姫がお勤めになられ……

「は~い!」

「副審を僕とヴァージ、主審を龍貴妃様にお願いいたします。それでは定期の日常まで解散!」


 意気込むように各々が席を立ち上がり部屋に向かったりそれぞれの目的をこなすために動いて行く。久々に張りがあって楽しいのか龍貴妃も嬉しそうに微笑みながらヴァージやゼロを口説こうとしていたらしい……。それから数日し、最初にリュフラと唐姫の戦いが幕を開ける。お互いに成熟している龍だけに緊張感も一入(ひとしお)ではない。二人の戦いが始まったことを告げる銅鑼がなると一気に闘技場の空気は変わった……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ