制服の着こなし点検
頭にもやがかかってる。良く考えることができない。
さっきの黒服を撃った時にも、良く考えることができない状態だったけど、それとは何か違う。あ、たしかさっきなんか注射されたな。アレか。アレのせいか。
俺は、固くて血染めにされたシーツの上に横たわっていた。
周りは真っ白な壁。直方体の、狭い、真っ白い部屋。
床一面には透明なビニールが敷かれ、その上には何やら様々な機械が置いてある。
ピッピッピ、ウィーンウィーン、チー。こんな感じの音が絶えず聞こえてくる。
真上には、病院とかでありそうな照明や、よくわからない器具がアームのような物で支えられていた。
手術室、なのだろうか。
いや、こんなに狭いはずがない。これじゃあ何人もの医者やら看護婦が入ることができない。
俺一人を乗せたベットや機器類でいっぱいいっぱいだった。
状況がやはり良く分からない。
少し体を起こそうとしてみたが、ダメだった。
どうやら固定されているようだ。
首は、動く。
首を、起こす。
変化した視界には、俺の体と、扉。
俺の体は、手術服を着せられていた。長袖長ズボン。足先には靴下まで履かされていた。
だが、空調が効いてるのか暑くはない。
この密閉されて、外部と遮断された一空間。
外部との唯一のかかわりであるはずの扉は閉ざされている。
密閉。
足の先にある、このゴツイ扉によって隔絶されている。
扉には窓も、取っ手も付いてなく、電気式のようだった。
開くのだろうか?
いや、開かないだろう。
わざわざ俺を固定するくらいだ。二重に楔を置かない理由は無い。
まあ、万が一だが、この固定を信頼して開けっぱなしというパターンもある。
しかし、首しか動かせない状況では確かめようが無い。
やむなく大人しくしていた。
その数分後だった。
スピーカーがキィィンと鳴った。
「あー、テステス」
続いて声が聞こえてきた。
随分と間抜けだ。喋っているヤツも、聞いてるヤツも。
「聞こえるか?いや、返答はかまわない。これから二言三言言う。それを聞いて自由に行動してくれ。すぐ終わる」
良く聞くと、さっきのリーダー格の声と似てなくも無い。
「まず最初に、すまない。君は色々と非道徳的な人体実験を行われた。まあ、その副産物として超人になった。超人、分かるか?超えた人と書いて超人。人を超えたんだ!今までの比ではない処理能力と身体能力。処理能力に関してはお前の脳に直接特殊なPCを付けてサポートとデバックを行っている!まだ半起動状態だがな!」
随分と焦っているようだ。
「で、君にはこのままこの学校に残って少しやってもらうことがある!簡単だ!ひとまず起きてもらう!」
ベッドが動作音とともに折れ曲がり、上半身が起き上がった。
次に、前に傾き、いつのまにか俺は直立していた。
だが、まだ固定されたままだ。
「よーし、そのまま動くなよ?」
立ち上がったベッドと床と俺はそのまま前に流れてゆく。床が動いてるんだ。
扉が開き、真っ暗な部屋に出た。
次の瞬間には証明が灯っていた。
その部屋は乱雑としていて、一面に用途不明の機器が在り、その間を縫うようにアームが動いている。
「パワード・スーツを着てもらう。軍での運用を目的とした極秘裏に開発途中、となっているが、テスト段階まできている。そのテストをついでに君にやってもらっておく。なに、快適だから安心しろ。人間工学を参考にしている。まあ、参考なんだがな。」
数本のアームがこちらに向かってくる。その先端には固定具、のようなものが付いており、俺をそれで掴んだ。すると、ベットの方の固定具がとれ、俺を所有するものはアームとなった。
そのアームにより、引き上げられる。部屋の真ん中だ。上下前後左右のどこからも等距離。
「よし、これから装着フェイズに移る。好きなヒーローの変身の時のセリフでも叫ぶと良い。あっという間に終わる!あっと叫んでも良いぞ!」
体が少し揺れた。
その時にはもう体は鋼鉄で包まれていた。
「パワードスーツなんてもんは屋内、市街戦くらいでしか使えん!及第点でジャングルや船舶突入なんてもんだ!だが、俺はそいつを変えたい!ひとまずそいつをのし上げるためにはキミの力が必要だ、頑張ってくれ!」
顔が装甲で包み込まれる。
視界が閉ざされた、と思ったらいきなり開いた。いや、顔に面した面がディスプレイとなって外を移しているのだ。
視界の隅には数値も表示されている。理解はできないが。
「使い方は自分で模索してくれ!では、私はこれで一旦お別れだ!」
目の前の扉が開く。同時に体が揺れる。また床が動いているようだ。
光へと近づく。光が開けてゆく。
外。
体に枷はもう無い。
ひとまず歩こう。