先生への質問に職員室行ってきたら、
もちろん、元気良く立てば、注目は集めるわけで、黒服がこっちを向く。
そして、次の瞬間、黒服はいきなり、走り出して教室を出て行った。全員だ。
「……は?」
先ほどまで威勢のよかった彼女は、意気消沈した様子だった。
「え、なにこれ?」
突然、突破すべき目標が逃げ出したのだ。意味がわからない、といったのと、拍子抜けしたというのが顔に出ている。
「……、さっきのセリフ返してよ……。」
随分と、いたたまれない様子だった。俺自身も、さっきまでは何故かやる気だったので、同じく良くわからない疲れがどっときた。
「まー、ひとまず外出ましょうか…」
ひとまず、従うことにはしておいた。
そうして、僕らは授業時間に教室外に出るという、非、優等生的行動の第一歩を踏み出したのである。
サイノリウムがしかれた、細長い空間。教室から一歩出たところにその空間はあった。
左に少し進めば階段。
右にしばらく進めば職員室。
目の前にはいくつも並んだ水道。
「ひとまず先生たちの様子を見て、状況を把握しましょ」
彼女は右を選んだ。
彼女は、軽く深呼吸をし、歩き出す。
コツ、コツ、コツ。どことなくホラー映画を連想させるように、静かな廊下に足音が響く。
ガチャ、ガチャ、ガチャと抱えた装備が小さく音を鳴らす。
先ほどのプラスティック爆弾は、彼女が持っていた小さいバックに閉まってあり、肩から下げられている。小さいバックなぞ、学校に来ている時に男なら普通持っていないだろう。
ちなみに、ランチャーは俺が担がされている。かなり重い。
職員室前に着いた。
歩いた距離はさしたるものではなかったが、精神的には結構疲れた。
光の入りづらい廊下。そこに廊下に面した窓から中の電灯が発しているのであろう光が漏れている。
「中に危ない人がいるかもしれないから、迂闊に中をのぞかないで」
少しのぞいて中を確認してやろうと思っていた俺にあざとく注意を促す。
「私がコレで確認してから、中に入るわよ」
そう言い、彼女はバッグから手鏡を取り出した。なるほど、それなら直接よりはある程度、安全に中を見られそうだ。
ふと、女子の持ち物はこういった事に適したものが多いんだなぁ、と思った。いや、こういった事は数里の可能性も無いだろうけど。
彼女は窓の下に、中から見えないようにしゃがみこんだ。
慎重に、焦らず、鏡を見やすいように動かし中を見る。
「……、誰も見えないわ」
角度を何度も変えながら言う。
「誰もって、黒服も、先生もか?」
「だから言ってるじゃない『誰も』って」
これ以上は無駄だと悟ったのか、手鏡をしまう。
「ひとまず中に入るわよ。私が見てくるから、あなたは廊下を見張ってて」
「いや、大丈夫なのか、お前、女子だろ?」
唐突だったので、思わずそのまま思ったことを言ってしまった。
「知ってる?銃は女の子が使っても男が使ったのと変わらない働きをしてくれるのよ?」
そう言い、銃を方に押し付け、脚で扉をそっと開き入っていった。
…………。
大丈夫なのだろうか。
銃があるといっても、流石に近寄られて格闘にでもなったら負けるのではないだろうか。あのわけのわからない性格と知識以外は女子のはずだ。
その逡巡の後、俺は職員室の中に入ることにした。
そっと扉を開け、体をドアの内側に滑り込ませる。銃は構えない。先生に間違えて向けてしまったら退学だ。いや、こんな時にそんなことは関係ないだろう。
けど、まだ、どこかでコレはドッキリかなにかではないのか、という希望的観測が現実の認識との同時進行で走っていた。
入ってすぐにガラス製のしきりが左に見えた。それを過ぎると職員用の金属製の机が見えてきた。だが、だれも座っていない。というか、見渡す限り誰もいない。
このクーラーが強すぎるほど効いたこの職員室で、誰もいないと言うのは少しおかしい。
ん?職員室の、ドアとは逆方向、ブラインドが閉じられた窓のほうに大澤が突っ立っている。
入るときに構えていた銃は下げているようだった。体もリラックス、と言うか、疲れきって力が抜けている感じだった。
「おい、大澤。どうしたんだ?」
少し離れているので、それに応じた声量で問いかける。
大澤は、体を強張らせて、いや、驚いて跳ね上がって、こちらを見た。
「大丈夫か?」
大分、疲れているようだった。
何かあったのだろうか。ひとまず、合流しよう。そう重い近寄ろうとすると、
「………ぃ……ぃぃ」
良く聞こえないが、何かを言っている。
「なんだ?」
「……来ない、方がいい」
その時にはもう、近寄りすぎていた。
ソレに目が行き過ぎ、どこまで行けばいいかを忘れてしまっていた。
真っ赤な海。
血溜まり。
その海の上、その血溜まりの上には、大勢の大人。
職員室の奥の奥で、大勢の教諭が血を垂れ流して死んでいた。
ある教諭は額の真ん中に穴を開け、ある教諭は胸部をひき肉の様な、焼肉店でよく見るユッケの様になるほどズタボロにされ、ある教諭は首と体がぐちゃぐちゃした肉片で繋ぎ止められているような有様だった。
「なんだよ、おい、これって、マジ、か?」
口が閉じない。顎が震える。目も閉じない。ドライアイになってしまう。体に力が入らない。崩れ落ちてしまう。
「お前が……やったのか?」
こいつなのか?この、クラスメイトの女子が?
「違うわ。流石に……、こんな事はしたくないわ。それと、良く見て。銃で撃たれてるわ。薬きょうもそこいらに沢山落ちてる。多分、複数のやつらが撃ったのね。それと、銃声も廊下ではしなかったから、最初の銃声ね。いや、あの時は一発だったから違う?サイレンサー付きか。それで、薬きょうの大きさと一箇所にある量からしてサブマシンガンね。それと、この部屋の荒れ具合から……」
「わ、わかった、わかったから!確かにお前ではできそうに無い!」
「え、ええ……そうね……」
大分動揺してるようだ。しかし、それであのの洞察力か。たいしたもんだ。
「とにかく、早いとこここから出ましょう。やったやつらが戻ってくるかもしれないわ」
よく、犯人は犯行現場に戻ると言う。いや、まあそうなのか知る余地も無いけど。ひとまず、彼女の意見には賛成だった。しかし、どうも遅かったようだ。
少しずつ、少しずつアップしていきます