可及的速やかな授業の準備
……力が強い。流石に伊達に黒服を着てないな。
銃はとっくに取り上げられて、机に組み伏せられている。反抗のしようがない。さて、どうするか・・・。いつまでもこんな屈強な野郎に密接されていたくはない。
そうして何か状況の打開方がないかを模索していると、目の前にさっきのリーダー格の黒服が現れた。
「ほぅ、銃の扱いはアレが初めてか?」
「……ああ」
質問されたので返事はしておく。
「どうして使い方が分かったんだ?」
「……ゲームやネットで少し………」
事実を言う。ゲームでちょくちょく撃ってる間に、いつの間にか興味を持ち始めていた。
「では、何故撃った?」
何故、とは……。まあ、当たり前の質問だ。
「さっきまで寝てたから、頭が良く働いてなくて……」
「ほぅ、お前は寝起きで銃を撃つのか。」
黒服が若干口の端を吊り上げる。
「で、本当は何故だ?」
どんな悪戯をして、どんな成果を挙げたか聞くような、子供っぽい疑問が顔を見ただけで汲み取れる。
「……撃ちたかったから。」
答えてしまっていた。何故か、答えてもいいと思ってしまった。
「良い子だ」
今度は父のような目で見てくる。
「眠らせて、規定事項第3を、この少年で行うぞ」
先ほどまでのほんの僅かな楽しげな雰囲気を一瞬で取っ払って、厳しさを急に詰め込んでいた。
その言葉に応じて黒服たちは頷き、俺に何かを注射した。
俺は闇に落ちた。
大澤が狂っているという事実が発覚するまでの過程の間で、何か異変が起きていたようだ。
先ほどまで立川を抑えていた黒服たちが立川から離れていた。いや、一人は離れていないようだった。立川はぐったりとし、ゴツいが、少し小柄の黒服(周りの黒服と比べたらだが)に担がれていた。
何があった?殺されたのだろうか?
まあ、黒服からしたら殺さない道理はないんだろうな。仲間が殺されたんだ。仇打ちくらい、やりそうな恐さを持ってる気がする。
俺と立川は、たまに話す間柄だった。
奴は頭はそれなりに良かったが、性格に問題があった。
冷静で寡黙な皮肉屋。何かの主人公のような性格だった。
人との会話を嫌がり、話せば相手の欠点を会話に織り交ぜてき、そして良く分からない本をいつも読んでた。
で、俺が何故そんなやつと話が出来ていたのかというと、共通の話題があったからだ。
ゲーム。
結構前からあり、人気も長年にわたり衰えない、オンライン対戦可能のガンアクションゲーム。
それを俺は少し前からやりだしたのだが、立川はかなり前からやっていたようで、向こうから俺に話しかけてきたのだ。
まあ、俺はもっぱら剣士タイプを使って、彼はガンナー系しか使わないので意見の相違も多かったが。
で、その立川が今日、いきなり狂った。理由は分からない。そして殺されたのかどうかは分からないが、どこかに担がれて連れて行かれた。
この状況を隣の大澤に話してみる。流石に一人じゃこの状況を処理しきれない。
「そんなこと、どうでも良いわ」
…。そうだ、こいつ狂ってたんだ…。
「見て、一緒に黒服が数人教室から出て行ったわ。あ、リーダーっぽいのも一緒に行った」
これで教室に残っている黒服はひい、ふう・・・
4人だ。最初に比べたら多分半分以下の人数だ。
「いけるかもね……。で、あなたのケースには何が入ってるの?」
言われて初めて自分の机の上のケースの存在に気づいた。
普通のアタッシュケースほどの大きさの黒いケースだ。ただし、そこは結構厚い。形はほぼ立方体だ。周りの奴らのケースもでかいが、形で言えば独特だ。
一応気にはかけていたけど、立川の件でいつのまにか忘れていた。
……、開けてみるか。
ケース上部の金具を外し、明けてみる。
そこには、やはり、と言うべきか、銃が入っていた。
もちろん、そこにお菓子や、おもちゃなどが入ってるなどとは露ほども思っていなかった。だが、いざこうして開けたケースの中に銃が入ってるとなると、多少ながら驚きはある。
形は四角っぽい。そして、銃に対してマガジンがやたら長い。普通の拳銃のように、すっぽりとは入らないだろう。
「サブマシンガンね。遠、中距離の私と相性いいじゃない。やったわね」
なにが『やった』なのかはやはり分からない。
「でも、入ってるのそんだけ?そんなにケース厚いのに」
確かにそうだ。明らかにまだこのケースには余裕がある。
下に敷かれていたスポンジをめくってみる。
「「あっ」」
二人の声が重なった。
そこにはさらにケースがあった。
「さ、さ!早く開けてみましょう!」
彼女も興奮しているようだ。声を若干荒げている。
さっきよりも開け方が難しかったが、なんとか開ける。
中身は、たくさんのビニール袋だった。
いや、正確には何かがその大量のビニール袋にくるまれているようだった。
ふいにそれに手が伸ばされていた。
大澤の手だ。いつのまにか机の傍らまで寄っていていたのだ。
ガサガサ、ペリペリ、とビニール袋をはがしていく。
そうすると、また小さいケースがいくつか見えてき、大澤はそのうち一つを手に取り、伸張に開ける。
中には、セロファンみたいのなに包まれた白いものが入っていた。大澤が握るとビニールが食い込み、微弱に形を変える。どうやら粘土状らしい。
「たしか、コンポジション4、だっけか?」
大澤が問うて来る。
「何それ?」
問いに問いで返す。我ながら無知さに若干あきれながら。
「プラスティック爆弾よ。それも正規品ならかなりの威力を持った高性能の。よくハリウッド映画に出てくるでしょ?」
「あー、あれか」
曖昧だが、そんな感じのものがあったとは記憶している。とある映画で主人公が形を変えて、使用していた。
「えーと、………これが信管で……これが……」
良く分からないが、大澤が理解していることは分かった。
「ふふふ……あなたが仲間でよかったわ。さて、私はサブウェポンを手に入れたら、後ろ扉側の黒服を倒して突破するわ。そのとき後方からバックアップ頼む……いや、やめとくわ。うしろから素人にそんなもん撃たれたら蜂の巣になりかねないわね」
「俺はお前の仲間でもないし、撃つ気もねぇよ!」
この女、わけが分からない。
「てか、素人ってなんだ、お前だって素人だろ」
「わたしがコレでバックアップするから、あなたは前のほうで私が合図したら撃ちまくってて。大丈夫、スコープ付きよ!」
俺の話何ざ聞いちゃいないな・・・。
で、いつの間にか大澤の手にはライフルが握られていた。カービン銃だ。色々カスタムされてて、銃口の下には筒、上にはスコープが付いていた。
「で、そいつはどうしたんだ?」
「ああ、これはあの子からもらって来たの。」
そう言い、右後ろを指す。そこにはメガネを掛けた、活発そうな同級生、------確か、委員長だ。-----がいた。
まあ、普通女の子がこんなものを持ちたがるわけが無い。目の前に例外はいるが。
「そんなわけで、ロールは整ったから、あとはプレイするだけよ?さあ、始めましょう!」
彼女は、元気良く、とても、いきなり魅力的な顔で立ち上がった。思わず、彼女のために戦いたくなるような笑顔だった。
どのパターンの展開を使うか迷ってる次第ですな