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第1章 「バリバリ理系OLが悪役令嬢に転生」

秋風がそっと頬をなでていく。

まだ夏の気配が抜けない午後の晴れた日。

私は買ったばかりの緋色の菊の花を二つに分けてお墓の両脇に飾った。

そして、静かに手を合わせる。

「お母さん、久しぶり……仕事ばっかりで、全然帰ってこれなかった」

 言い訳のようだけど。

独り言が出たのは一年以上お墓参りもしなかった少々の罪悪感のためかもしれない。

松本美鶴、24歳。都内の製薬会社で薬品開発職としてバリバリ働く、OL。

 大学では薬学部を卒業し、研究の日々だった。

社会人になってもコンパなんか夢のまた夢の世界。現実は同僚にも恐れられてる無双女子、上司の根性論を論破してしまうタイプだ。

はっきり言えば、他人がどう思っているだとか、上司がどうだとか考えるのもおっくうなのだ。だって、大切なのは事実。事実の積み重ねが真実を導くのよ!!だから、数値化できない事柄は苦手。


そういう意味で。

人間関係とか、苦手な部類。

恋愛は相手のこと数値化できないから、評価するのも、されるのも、怖いんだ。

やり直しができるゲームだったら──ほんとは恋愛したいのかもしれない自分を

みないようにして・・・

そんなわたしの唯一の息抜きが。


「“ドラゴンと赤光ラビリンス”、新ルート追加されてたっけ……帰ったらチェックしよ。」

 母が亡くなってからちょうど3年。彼女がいなくなって、私は「誰かに甘える」ということを、忘れたのかもしれない。仕事の愚痴も、人間関係の悩みも、いつも聞いてもらっていた。・・・そんな母を病気で亡くしてからさらに仕事にのめりこんで行った。そもそも彼女の病気を知って、少しでも早く良くなってほしいと思って今の職に就いたのに。

母が亡くなってからは喪失感との戦いだった。

平日は家と職場の往復以外なく、休日は恋愛ゲームでストレス発散する日々・・・。

ゲームはなくてはならないものだった。


 スマホでは、母との思い出の写真をホーム画面に設定にしていた。

最後に旅行に行った時の写真だ。紅葉をバックにしてまるで背景が燃えているようだ。

そんな写真と同化したように、目立たなく端っこに謙虚に表示されていたのは、乙女ゲームアプリ『ドラゴンと赤光ラビリンス』の緋色のアイコン。

背景とアイコンが赤いので目立たないようだが、ケータイ画面には小さいけれどもドラゴンの目がきらりと光り、存在感をアピールしていた。

3か国の王子たちと恋をしながら、戦乱の歴史を超えて真の愛を見つける──というロマンチックな名作だった。

 推しは、もちろんレン・クロフォード。銀髪、青い瞳、俺様だけど不器用で不意に優しいところがたまらない。

ラスト前のあのセリフ、もう一度聞きたいな・・・。

声優もまた最高なんだよね・・・・。

推しは命であり、癒やしであり、元気の素だ。

 ──そんなことを考えていた矢先だった。

 ふと聞こえた激しいブレーキ音とともに聞こえたクラクションの音。

 横断歩道を渡る足元が、ほんの少し滑った気がした。

 振り向いた次の瞬間、大きな衝撃が体中に走った。

倒れこんでしまったみたいだけど。

痛みなんかない。もう何も感じないみたい・・・

やばい、私、死ぬ?

視界が次第に暗くなり、そのまま私は暗闇に落ちていった。

あれ、あの新薬の効能について、誰かに伝えたっけ・・・

PCのパスワード、誰も解けないだろうな・・・ああ、もったい・・な・・い・・・・・・・

________________________________________

「……っ!」

 美鶴──いや、私はがばっと上体を起こした。

どこか見知らぬ天蓋付きのベッドの上。

部屋の壁には繊細なレースと金の装飾、そして青白く光る水晶が半月状のアーチの中でふわふわと揺らめいていた。電気・・・じゃなくて水晶?

違う、見覚えがある・・・。これは―――

「魔導結晶ランプ?……何これ、ゲームの世界……?」

 状況が理解できないまま、大きなゴシック調の鏡を見てさらに混乱した。

映っていたのは、美鶴ではない。

 宇宙のかなたを思わせる紫の空に、輝く星々を宿わせた猫のような瞳。

瞳を縁取る、鳥の羽をつけたと思わせる長い長いまつ毛。

まっすぐで濡れたような漆黒の髪。

バラの花びらのようなピンク色の唇、陶器のようになめらかな白い肌。

 そして、目元に特徴があった……。目の下の頬の一番盛り上がっているところに、ポツンと一つ、涙ほくろ。

そう、ゲームに出てくる悪役令嬢・ネラ・オスタリカ。

 絶世の美女で、学園の女子ヒエラルキーのトップ。生まれながらのお嬢様で、

甘やかされて育った代表みたいなイヤな女。

けれども頭脳明晰で、フイっと優しい言葉をいったりする。悪役なのだけれども。

人気があるキャラではあった。

この絶世の美女が私??


「……私、転生しちゃった? ネラに!?」

現実感がなさすぎて、頭がぐらぐらする。

 私は、髪の毛をかきむしり、頭を抱えていると・・・

「おはようございます、ネラお嬢様。お目覚めになりましたか? 具合はいかがですか……?」

メイドらしき少女が入ってきて、私の顔色を見ながら心配そうに言った。

「大丈夫よ」

それを聞くと彼女はうなずき、勢いよく、部屋のすべてのカーテンをすべて開け放って言った。

私は開かれたカーテンの向こう側を見て、さらに混乱していた。

 窓の外に広がる緑の草原に敷かれた、三つの国境を表す壁と真ん中に位置するレンガ造りのお城のような建物、その上を浮遊する魔導塔を見て、確信せざるを得なかった。

 ここはゲーム『ドラゴンと赤光ラビリンス』の世界そのものだ。

まさか・・・・そんな馬鹿な。今はやりの異世界転生ってやつ??

「ネラお嬢様?」

悪役令嬢の名を呼ばれ、私は思わずハッと我に返った。

私は、今、ネラなんだわ・・・。

私はゲームの記憶を思い出そうとした。ネラのメイドの名前は、ジュ・・・ジュリアンだったわよね・・・。

確か、主人公がネラのお屋敷に行ったときに、このメイドと主人公がストーリーで仲良くなると、ネラからのいじめも少しは軽減したんだっけ。

ネラはこのメイドを、悪態はつくけど、信頼していたはず。


「あ、あら、ジュリアン。どうかして?」

「恐れながら、ジュリエッタでございます、ネラお嬢様」

ああ、違ってた・・・。

心配そうにジュリエッタはネラを見た。

「あら、そういったわよ。」

私は一つ咳払いをして、

「今日は晴れるとお思い・・・・?何を着たらいいのかしら。少し寒いわね」

私は現時点でゲームのどの時点に自分がいるのか、季節はいつか、確かめようとした。

「……ネラお嬢様、今日は魔法学園の入学式です。着ていくものは制服でございます」

えええ!入学式!!

すでにストーリーが始まっちゃいそう!!

私は気持ちを落ち着かせようと深呼吸した。

「ああ、そうだったわね」

我ながら、自分、だいぶポーカーフェイスできてるし。

「着替えと、朝のご準備を。朝食はすでにできております」

ジュリアンはそっと部屋を出ていった。

私はゆっくりと起きて頭を整理した。

 ああもう、これは完全に転生してる。

 しかも、恋愛ゲームの悪役令嬢って──破滅フラグしかないじゃないの!?

焦りつつも、私は異世界で初めて口にする”朝食”を食べながら、

物質レベルでは食事は現世と一緒なんだわ・・・・・。魔物の肉もいいものね・・・。

アミノ酸の種類も一緒なのかしら?などと考えていた。



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