表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/9

第4話 危機になっても助けは来ない

 周りの反応は、彼女のたった一つの発言で優太に対する嘲笑気味の笑い声から、ひそひそ声の噂話に変わっていた。

 優太はただ一人、ポツンとそこで静止していた。


「おい、あいつ何かやらかしたのか?」


「さあ、あいつと話したことないし、てか、このクラスに磯野と話す相手もいないし、知るわけない」


・・・・・・


 あらゆる声がヒソヒソと聞こえてくる。

 今、優太はこの教室には友達という友達がいない。それは事実である。それゆえに、こんな状況を直接突っ込んでくるものは誰もいない。しかし、それがかえって焦る気持ちを煽り立てる。

 優太は、再びゆっくりと席を立ち、教室を後にした。その道中も、教室全員から目線を向けられていた。

 彼の心中には、心当たりしかなかった。


・・・バレたか、いや、バレてないはず。完全なる完全な完全犯罪だったのは間違いない。なら、一体どうして?いや、少し焦りすぎか。そもそも他の話かもしれないし・・・


 どんなに考えようと、彼の不安がなくなることは決してない。次から次へと例の件に話が戻ってしまう。

 優太はひとまずその動揺した気持ちを抑えるためにも、トイレへ行き一息つこうとした。しかし、トイレに入るや否や、後ろから肩をぽんと叩かれる。

 振り向くと、そこには和樹がいた。


「おーい、優太。お前ちょっと顔色悪いぞ、何かあったのか?」


 そのように、素朴な顔をして相変わらず明るいトーンで優太に話しかける。


「いや、今は話しかけない方がいい。もしかしたら、俺はこれから学校で一番のやばいやつになるかもしれないんだから。モテ男のお前が俺と話していることが周りに見られたら、とんでもないことになるぞ・・・」


 そんな、支離滅裂な彼の言動に、和樹は眉をひそめる。


「お前、何言ってんの?朝から様子が少し変だったが、本格的に何かあったのかよ」


 その言葉に、優太は思わず何も言い返せなくなる。そんな様子を見て、和樹はさらに彼に語りかける。


「無理して言う必要は全くないが、一応、俺たち友達だろ?」


 そんないかにもなセリフを得意げな顔で吐く。


「その言い方はやめた方がいい。せっかくの顔が台無しになる」


 性格的には、優太と和樹は正直気の合う、とは言えない。実際、和樹は学校ではその見た目や、サッカー副部長なこともあり、人気者であった。だからこそ、変に彼に迷惑をかけるのは優太自身どこか気が許さなかった。


「ま、とにかく大丈夫だよ」


「そうか、まあその不思議ちゃんキャラはほどほどにしろよー。俺はいいとしても、周りはどう反応するかわからないからな」


「何を言ってんだか。俺は元から失うものは何もないんだよ」


 そういうと、優太は用を済ませ教室へと戻った。

 何せ、彼にとっては緊急な事態が起こったのだから、周りが気にならないはずがない。しかし、今の優太は一周回って開き直っていた。そもそもまだ何の話かはわからないのだから、まだ自分の中での言い訳もきく。

 それに、改めて昨日起きた出来事を俯瞰しなおした時、胸の高鳴りが起きないはずがない。今までろくに女性と話す機会がなかった優太にとって、転機であることに変わりはない。

 

 その後、授業は何一つ滞りなく進められ、昼休みになった。

 自分では、先ほどのように開き直ったつもりでいた。しかし、いざその瞬間が訪れてしまったら、なぜか心の焦りが訪れる。優太は、少し落ちつかないそぶりを見せながら、昨日家で優太が作ってきた弁当を机の上に置き、席を立った。

 体は栄養を摂取したがっているだろう。しかし、今回はそうは問屋は卸さない。優太は職員室へと向かった。


 職員室へと向かう。鼓動は早くなっていく。

 いざ職員室の前へつくと、優太はドアをノックし、赤坂先生に用事がありますと一言言い、彼女のデスクの元まで入って行った。もはや、ここまできた彼にとって覚悟は決まっていた。とはいえ、正確には開き直っていた、と表現するのが正しいだろう。


「ああ、磯野ね。ちょっとここじゃあれだから、別の部屋に移動しようか」


 彼女の元へ着くやいなや、遥は彼と職員室に隣接している相談室へ移動した。優太の心中は、開き直っていたものの、さすがに動揺せざるを得なかった。それも無理はないことだろう。まさか、別室行きとは彼とて想像はしていなかったのだから。

 相談室の中に入ると、そこは椅子二つと机一つという、いかにも「相談室」と言った部屋があった。優太は現在高校2年生なのだが、初めて入る部屋だ。しかし、一般にこんな部屋は普通の生徒は入ることはないだろう。今の彼に取っては、何せ相談室というより、「取調室」になるかもしれないからだ。


「じゃあ、そこにかけて」


 そういうと、優太は彼女に言われるがままに入口側の椅子へと座った。机を挟んで彼女が座る。赤坂遥は教師になってまだ10年にもたっていないまだ若手の女性教師だった。その気軽な口調と、端麗な容姿は、生徒たちからも評判で、人気の教師だった。その明るいイメージは、優太とて抱いていた。

 彼女は先につくと、早速話を切り出した。


「急にせっかくの昼休みに呼び出してごめんねー。まあ、不急の事態だったから、そこはわかって」


「はい・・・」


「まあ、話を逸らしてても仕方ないし、早速本題に入るわね。実はね、昨日の夜、学校に誰かが侵入したらしいの」


「・・・」


 優太は顔色ひとつ変えずに先生の方を見つめ話を聞く。


「エコムシステムが学校にあってね。昨日の夜に、システムが何か異常を感知して、すぐに警備員たちが駆けつけたみたいなの。でも、その時にはもう誰もいなかったようなのだけど、ある窓が空いていてね・・・」


「なるほど・・・ってことは、誰か犯罪者か何かがそこから入ったってことなんですか」


「うん・・・私たちがそれを知ったのは今日の朝なんだけど、もちろん校長先生たちは昨日の段階で知っていたんだけど。それで、それを聞いた時私たちもそう思ったんだけど、昨日警備員が駆けつけた時に、その窓の近くにこれが落ちてたみたいなの」


 そういうと、遥はポケットから袋に包まれた小型の懐中電灯が取り出す。

 そして、そこにははっきりと、「磯野優太」という名前が書かれていた。


 まず、その懐中電灯を見た瞬間に、優太は昨日の記憶が一気に思い出される。優太は確かに懐中電灯を持って行った。そして、それを使わないで窓際に置いていたのも覚えている・・・しかし、その後の行方についての記憶は、一切なかったのだ。

 この自体が何を意味しているのか一目瞭然だった。


・・・やばっ・・・あの時俺・・・置き忘れて・・・


 この状況は、もはや彼にとって何も言い訳のしようがないということを意味していた。客観的に、侵入したと言われた場所に、自分の名前が書かれていた所有物がそこに落ちていた。


・・・うんこれ終了だね・・


 優太は何もいえずに、下に俯いたままである。

 そのまま、無言の時間が流れる。これはただの無言を意味しないことは明白だ。この状況では、無言はすなわち認めることを意味するのだから。


「これが・・・」


 遥が何かを言いかけた時、彼女の声を遮るように昼休みの終了を知らせる予鈴が鳴り響いた。この予鈴は、優太にとっては幸運の鐘であった。何せ、この張り詰めた空気に間が入ったことを意味するのだから。


「予鈴がなっちゃったね。ま、別まだあなたが何か昨日の件に関与していると確定しているわけじゃないから、一旦これで話はおしまいね」


「はい」


「でも、これはどういうことか、しっかり説明してもらうわよ」


 彼女はそういうと、机の上に置かれた懐中電灯を手に取り優太に示す。


「はい・・・」


「放課後、また話すから、職員室に来なさいね」


「はい」


 そういうと、授業に遅れるわよ、と遥はいい、優太を帰らせた。

 今までの会話から、彼女が優太を犯人と思いたくないということは優太にも伝わったが、十中八九誰が関わっているかは確定しているも同然だ。

 優太は、心にもやが何重にも重なっている空気感のまま、教室へと戻った。


 帰る道中、周りになかなか視線をおくれない。それも無理な話でなかった。実際、もうこの話が噂になっているかもしれない、そう思うと冷静にはいられなかった。

 そして、彼が教室へと辿り着き中に入るや否や、彼にとって一番起こってほしくない状況がそこには待ち受けていた。あたかも、ムーフィーの法則が彼のためだけに存在していると思えるほどに。


「おい!優太?君だったっけ、さっき聞いたんだけど、昨日何かやらかしたらしいじゃん」


「そうそうーそれ俺も聞いたー」


 さっきの朝まで、陽キャとして君臨していたその男子が、目の前で、彼にそんなことを言うのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ