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第2話 謎めいた少女

優太はその揺らぎない目線に動揺しないはずがなかった。

 すぐに彼は起き上がり、モジモジとする。

 明らかに動揺している優太をよそに、萌音はそのままゆっくりと体を起こす。

 そして、一言。


「何がでかいの?」


 その言葉を聞いた時、優太は背中に一筋の汗が垂れたことを感じ取る。


「い、いや、別に、何か意味があって言ったわけじゃないんだ」


「何?なら、勝手に意味もなく言葉が溢れ出たとでも?」


「そうなるな。強いて言えば、驚きすぎて脳がエラーを起こした、ってとこかな、、、」


「なら、その脳は取り替えたほうがよさそうね。ネズミの脳と」


「いや、それは困るなー。それじゃあこの萌音さんとの出会いが忘れちゃう」


「気持ち悪い」


彼女はただ一言そう添えた。おもわず、優太も眉をひそめたが彼女のいう言葉に何らおかしなことはないことに気づいた。

彼女は起き上がり、スカートを手で払う。


「というか、あなた私の名前知ってるの?」


「まあ、そりゃあ知ってるよ。桜坂高校じゃ有名人だし・・・」


「なるほど。じゃああなたは私の体をジロジロと夜にふしだらに見ていたストーカーってことでいいのね。おまけに同じ高校とは、私もついてないわ」


「それは流石に曲解のしすぎな気がするが・・・(まあ前半は否定できないが・・・)」


「ところで、なんであなたはこんなところにいるのかしら。もしかして、私を襲おうとでも思ったのかしら」


 彼女はそう落ち着いた様子で尋ねる。


「ま、まさか。ただ、明日出さないといけない課題を取りに来ただけだけど」


「そ。まああなたのことは警察には言わないであげる。でも、警備員さんにいうかどうかはまだ保留ね」


「いや、それ萌音さんにも同じことが言えるんじゃ・・・。というか、逆に、どうして萌音さんはこんな時間にここに?」


 そう優太が尋ねると、しばらく無言の時間が続いた。彼女はずっと優太の方を見続けている。そしてしばらく経って返事をした。


「あなたの知る必要のないことよ」


「でもそれじゃあ、理由を語らない萌音さん方が怪しくなる気がするんだが」


「このことを口外しなければ済む話でしょ。いい?私が夜に学校にいたことは忘れるのよ。あと、何か変な噂されるのも癪だし、私があなたと会ったことも忘れて」


「ああ、そういえば俺は萌音さんと同じ高校二年の磯野優太です。よろしく」


 そういうと優太は萌音に手を差し出す。


「ちょっと、今私が言ったこと聞こえなかったの?私があなたと会ったことは忘れてって言ったのよ」


「いや意識してすぐ記憶を消すことは不可能だし、あと何より片方が名前を知っていて名乗ならないのは失礼かなって」


「あなた頭がおかしいのね」




 一瞬眉をひそめた優太だったが、確かに少し急すぎたかなと納得する。無論、彼女はそういう意味で言ったわけではないのだが。

 しかし、それでもその言葉すら優太は何か褒め言葉のように感じてしまう。悪口を言ったとしても、相手がそれを悪口と捉えなければ悪口とは言えないのではないか、そんなことをふと優太はこの瞬間に感じた。


「で、これからどうする?あの孤高の萌音さんが夜の学校にいたことは言わないから、そこは安心してほしいけど」


「孤高って、一人という言葉を少し格好良くしただけでしょ。それに、言わないのは当たり前のことよ。誰かに言ったらあなたが夜の学校に侵入したことを告げ口するわ」


「いや、それは萌音さんも一緒じゃないか?」


 そんな優太の真っ当な反論はよそにして続ける。


「あと、学校では二度と話しかけないことね」


「・・・・・・」


 優太はその釘刺しに反応できなかった。内心では、話しかけるな的な雰囲気が逆に周りを魅了させる彼女に、なんでもない、特にイケメンでもない自分が彼女に学校で話しかけたら普通に学校生活が終わると思っていた。

 しかし、同時に彼女と接点を持てたこと自体には少し嬉しさもあった。


「まあ、よくわからない男が私と話しているのもおかしな話だし、もう帰るわ」


 そういうと、萌音はスタスタと優太を追い越して廊下を歩き出した。

 優太自身、なぜ彼女がここにいたのかという理由が判然としないため、少し心で引っかかっているのだが、一人でいるのも無様に思え、彼女の元へ再び駆け寄り一緒に歩く。

 しばらく歩いていると、萌音は足を止め思わず声を上げる。


「なに?」


 眉間が皺がよった不機嫌そうな顔で優太に顔を向ける。


「いや、俺も帰らないといけないし」


 すると萌音は大きなため息をつき、好きにすれば、と一言言って再び歩き出す。

 

 そのまま歩き続け、一階段を降り一階へと辿り着いた。しかし、そこで萌音の動きが急に止まる。

 そして、優太の方へゆっくりと振り向いた。


「ん?どうした?」


 彼女の方を見ると、その顔は何か困惑しているというか、困っている顔をしていた。そして、一言こういった。


「私、どこから来たっけ」


「え」


 困惑に困惑が合わさった、謎の時間が生まれたのだった。


「萌音さん、どこから来たのか覚えていないのか?」


「・・・うん」


 なにがどうなっているのか、優太はこの状況をなんとか解読しようと試みたものの、結局わかるわけなく、考えるのを諦める。


「ま、まあ、そういうことなら一応俺が入った場所を案内するよ・・・」


・・・そういうことって、どういうことだよ・・


 そういうと、優太は彼の入ったあの窓へ向かった。

 その場所へ着くと、案の定入った時のまま窓は開きっぱなしだった。向かってくる道中、優太は逆に萌音がどうやって学校へ入ったのか疑問に思いつつも、深追いするのをやめた。先程の返答からして、聞いても無駄なことだとわかっていた。


「ここからなら、俺たちが夜の学校に入ってきたこともバレないだろう」


 そういうと、優太は早速窓から外へ飛び出した。続いて萌音も窓へ近づく。手を優太は差し出したのだが、萌音は「いらないわよ、子供じゃあるまいし」とすぐに一蹴する。内心、「萌音さんもまだ子供だろ」とツッコミながらも後ろへ下がる。

 そして、萌音は足を上げて窓をから外へ出ようとする。優太は彼女の方をもちろん見ており、その太もも、ましてそのスカートの奥が見えそうになり、必死に自動的に動く視線をなんとか制御する。


「全部わかってるわよ、変態」


 しかし、彼女がくぐり終わるとそんな言葉が発せられる。

 

「べ、別に意識して見ようとしたわけでは・・・・・ごめんなさい」


 その絶え間なく注がれる鋭い視線に耐えきれず、思わず事実上事実を認めてしまった優太であった。

 だが、優太はすぐに切り替えて、投げ捨ててあった靴を履いた。腰をかがめて履いている時、彼はふと彼女の方を見た。

 綺麗で程よい太さの美しいタイツの足を見て思わず口が緩むが、足下まで見ると、あることに気づいた。

 彼女が靴を履いていないことに。

 ただ、綺麗なタイツによって、足は覆われていたのだ。


「あ、あの、っていうか萌音さん靴持ってないの?」


 優太はそう彼女にいう。

 すると、萌音も今気づいたかのように驚いた様子で話す。


「あ・・・ない・・かも・・」


「ないかもって、じゃあ来る時はどうやって来たんだ?」


「・・・・・・」


 無言で返されたのだが、ここで優太の中であることを思いつく。彼女の状況は突っ込みどころが非常に多いのだが、とりあえず、今は別のことに頭がいっぱいだった。

 彼は今まで女性とそういう関係になったことは一回もない。つまり、年齢イコール彼女なしの方程式がなりなっていた。そんな彼が、学校1の美人とも言える彼女とこんなふうに会えたのは奇跡に近い。なら、ここで恩をうることも決して悪いことではない、と。

 それに。


「女の子を裸足で歩かせるとか、できるわけないだろ」


 優太は自分の靴を再び脱ぎ彼女の前へ置いた。

 その行動に、萌音は目を見開き驚いた表情を見せる。


「履いてけよ。俺はチャリで帰るし、また後日返せばいい話だし」


 そういうと、萌音はしばらく黙り込む。


・・・キマったな・・・


 そして、数秒たったのち、彼女はゆっくりと口を開く。


「いや、普通に汚い」


・・・・・


「って、流石にこんな俺でも言われたら傷つくことぐらいあるんだが」


「ふーん。量産型の男子でも案外敏感なのね」


「いやいや、誰だってそうじゃないのか。っていうか、何気に口撃しないでくれ」


 優太はそう思わず突っ込む。しかし、少し時間が空くと萌音は少し頰を赤らせ体をモジモジとし始める。優太は彼女が何をしているのか、気分が悪いのか、と思ったのだが、それは違った。直後、萌音はこう言った。


「でも、使ってみるのも、なくはないかな」


・・・・・・


 「可愛い」、そう優太は思った。あの孤高である千堂萌音が、なぜここにいるのかはわからないものの、ツンデレであった、その事実は優太をさらに追撃する。


「あ、相変わらず立場は上なんだな」


 少し苦笑いをしながらそう優太は話す。その予想外の仕草に動揺を隠し切ることはできなかった。


「後で返すから」


 そう萌音は彼に言い、颯爽と帰って行った。


 それにしても、優太はただ一人ポツンと、月明かりに照らされる中、風に吹かれ、ゆらゆらと動くきめ細かい髪を手で押さえながら「照れていた」千堂萌音を思い返して、優太は思わず「かわいいなあ」、そう思っていた。

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