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パートナーですから


 今日は大学に縛り付けられている。

朝から夕方までとかならまだいいんだが、朝と夕方だけ試験があって出てこないといけない状態な訳で、朝からホールに並べないし、昼休みに打ちに行こうにも取り切れない可能性を考えると足がどうにもホールに向いてくれない。

 

今日自由になれるのは18時頃、そこから熱いホールに向って打ち出せるのは……。

 

「ちょっと聞いてんの?」

 

「……ああ聞いてる聞いてる、パチンコとスロットの違いについてだろ」

 

「全然違うわよ! アンタが試験乗り越えられるように直前だけどアタシが教えてあげてるんじゃないの、ちゃんと聞きなさいよね」

 

「そうは言うけどさ、別にそこまで難しくないし俺一人でも大丈夫だと思うんだけど」

 

「ダーメ! アンタいつもそう適当言って痛い目見てきたじゃないのよ、小学校から高校までずーーっとね、そろそろ学びなさい! じゃあ次の問題行くわよ」

 

大学近くのカフェで勉強をしているのは俺達だけじゃない。

他にも学生らしき人の数も多く、柚月が少し騒いでいても何も問題は無さそうだが、あんまり煩いのも、なぁ?

 

「そういえばさ、アンタの学費の件どうなってるの」

 

「なんにも解決してねぇよ」

 

「……アタシさ、親に頼んでみるよ」

 

ちょ……柚月の両親に頼むだと!?

 

「お母さん結構アンタの事気にしてたし、もしかしたら用意してあげられるかもしれないから……まだ確定じゃないけど」

 

流石にそれは、そこまでしてもらう訳にはいかない。

確かに嬉しい話だが、これは金の問題なんだ。

幼馴染だとしても、簡単に貸し借りしていい金額じゃないし、そもそも借りるのは人としてアウトだろ。

 

「俺一人で大丈夫だからさ、その話はすんなよ」

 

「……じゃあこれは最後の手段にしておくわ。アタシもバイト増やしたり色々頑張るから、アンタもパチンコとか止めて真面目に働きなさい」

 

「真面目にやってるつもりなんだがな……ってかお前さっき何て言った?」

 

「だからバイト増やすって言ってんの! 全額は……渡せないかもしれないけど、少しでもアンタの学費の足しにしてくれれば」


「いやいや悪いって! 流石にそんなの受け取れねぇっての!」

 

「じゃあどうすんのよ! アンタ一人で大金を集めるなんて絶対に無理なんだから、アタシが手伝ってあげるって言ってんの!」

 

「そこまでしなくていいって言ってんだよ!」

 

「何それ、強がってる場合じゃないの分かってんの!? もう、バカ!」

 

柚月はそっぽ向いてしまった。

こうなると小一時間は機嫌悪いままなんだよなぁ。

んで、長い付き合いだから機嫌を治す方法は勿論知っている。

そう、彼女の提案を受け入れる事だけだ。

 

「分かった分かった! ならその……少しだけ、協力してくれるか?」

 

「……フン! アタシの協力なんていらないんでしょ」

 

「いや、お前の力が必要なんだ、お前しかいないんだよ柚月!」

 

彼女の肩を掴むと、俺の手はすぐに弾かれて、ため息といつもの笑顔が帰って来る。

 

「そ、そこまで言うなら手伝ってあげるわ! アンタはアタシ無しじゃダメなんだから、最初からアタシの言う事聞きなさいよね!」

 

「はいはい、ありがとな」

 

「さてと、それじゃ最後の復習行くわよ」

 

次の試験まであと1時間、俺は柚月に言われるがまま最終確認を行い、試験を受けた。

彼女の予想は当たっていて、復習した範囲が見事に出ている。

……あっぶねーッ!

これ過去問通りにやってたら普通に落ちてた!


「どうよ、復習してよかったでしょ」

 

「柚月様、ありがとうございます」

 

試験を終えて現在18時前、これなら全然打ちに行ける!

 

「それでさ、その、試験も終わった事だし……その……」

 

「また明日な! んじゃ!」

 

「ちょ、ちょっと!?」

 

急げ、今日のホールはこの大学からも近い。

そして狙い台は……ついてから釘見て判断すればいい、ここで考えるよりとりあえずホールに行くべきだ。



 ホールに着いた。

少し息切れを起こしたが、10分で無事入口まで……あ?

 

「あっ、センパ……お兄ちゃん」

 

「何で言い換えたんだよ、目押」

 

目押がいた。

店の前のベンチでコーヒーを飲みつつ、どこか遠くを見ていた彼女だったが、俺を見つけていつもの……何考えてるか分からない表情に戻った。

 

「二人だし、巡って呼んで。呼ばないとお兄ちゃんって呼ぶ」

 

「わかったわかった! んで巡お前は……稼働か?」

 

「そう、だけど今日は全然上手くいかないんだよね。期待値はあるんだけど、どうにも運がついてこない」

 

「それめっちゃ分かる、期待値があるのに負けてるのってマジで虚無になるよな」

 

「うん、もう私やセンパイレベルだとイライラは通り越して虚無になっちゃうよね」

 

とりあえず俺もコーヒーでも……って、あれ、あれ?


「どうしたのセンパイ、トイレ?」

 

「……財布が無い」

 

落とした?

走ったりしたからポケットから落としたか?

やばいって、流石にやばいって!

 

「来た道探すしかないよ、私も探すの手伝うから」

 

「すまん! こっちだ!」

 

目押を連れて大学方面に向かい歩き出した。

足元を確認しながら進むが、どこにも財布らしき物は落ちてない。


「センパイの財布って、どんなの?」

 

「いかにも財布って感じの財布」

 

「いやどんなのだよ」

 

もしかして溝かどこかに落として挟まったとか?

いやありえなくは無いけれど、そんな薄い確率よりこのまま大学まで戻って……。

 

「やっと追いついた!」

 

前から柚月が……あーッ!

 

「俺の財布!」

 

「ったく、財布忘れるとかありえないっての!」

 

良かった。

いやー、助かった助かった!

神様仏様柚月様、感謝感激雨霰!


「センパイ、その人が財布なの?」

 

「……は? 遊、その女の子は誰?」

 

そういやコイツらは初対面だっけか。

よし、なるべく目押が変な奴だと思われないような紹介の仕方を……。

「ってか人を財布って呼んでたの?」

 

「違う! そんな訳あるか!」

 

「フフッ、センパイ必死で面白い」

 

初手で変な奴ムーヴするな!

おい柚月にはそんな冗談通じないっての!


「話を戻すわ、その子は誰?」

 

「コイツは目押巡、俺の」

「はじめまして、今紹介された巡です。センパイのパートナーやってます」

 

パートナーか。

……どっちかってとライバルって感じじゃねぇか?

でもお互いに情報交換したりしてるし、一緒に期待値稼働もしている。

ライバル、いややっぱりパートナーか?

 

「パートナーって……ちょっと! アタシそんな話聞いてないんだけど!」

 

「そう言われてもな、巡とはパチンコを打つ仲でお前に話すタイミングとか」

「苗字じゃなくて名前で呼ぶぐらいの仲なのに、何も教えてくれなかったの……?」

 

教えるも何も、お前パチンコ打ってる話したら怒るじゃん。


「それで、あの人は誰なの、センパイ」

 

「花代柚月、俺の幼馴染だ」

 

「幼馴染……まぁパートナーであるセンパイの交友関係に口出しするつもりは無いけれど、罪な男だね」

 

「いやどういう事だよ」

 

「……目押巡さんだっけ、それで、パートナーって何なの」

 

……まずいな。

柚月に今パチンコの話をすればまた怒られる。

しかも今の感じだとめちゃくちゃに怒られる。

だが、どうやって誤魔化せばいいんだこれ。

 

「パートナーはパートナー、センパイと私は一心同体」

 

「一心同体!? ちょ、アンタこの子に変な事してないでしょうね!」

 

「断じてしてない! つーか一心同体でも無いし、精算は別々にしてるっての!」

 

コイツとノリ打ちとかした事ないっての!

一緒に打ったけど、全部収支は個人でつけてましたから!

 

「遊はこう言ってるけど、どうなの」

 

「一心同体なのは夜ご飯の時だけだった」

 

「あれはお前が無理矢理言ってきたんだろうが」

 

「ふふん、今夜もお願いね」

 

「ダメだ、自分で食え」

 

「あーん、いけず、シクシク」

 

目押が嘘泣きをしている間に、柚月が俺の側に近寄って来た。

財布を俺に渡し、小声で。

 

「まさか夜一緒に食べたの? まさかアンタから誘ったんじゃないでしょうね」

 

なんか牛丼食べた事を怒ってきた。

確かに金が無いと言っていて、外食するのは期待値が無い。

彼女の怒りはもっともだし、俺自身牛丼ぐらいならと気持ちの緩みがあったのは認めざるを得ない。

 

「……すまん、俺が間違ってた」

 

「バカ、遊のバカ……」

 

「もうしないよ、絶対にまっすぐ家に帰るから」

 

「あたりまえでしょ……アンタなんかに振り回されるあの子が可哀想なんだから……あ、アタシに言えばそれぐらい……」 


財布をポケットに戻し、目押の方を向くと……なんだあの表情。

すごい嫌そうな顔してる。

……何で?

 

「そろそろ戻らないと台開放される、行くよ、パチンコのパートナーさん」

 

「あ、そろそろ行かないとだな! サンキューな、柚月」

「待って! ちょっと、ちょっとだけでいいから待って!」

 

ホールに戻ろうとしていた所で、柚月に止められた。

わかってる、終わったらきっちり帰って飯食うって。

 

「パートナーって、パチンコのパートナーなの?」

 

「それ以外ないでしょ、柚月センパイ」

 

「いやでも……その」

 

「ふーん、ねぇ柚月センパイ、私の思うパートナーとセンパイのパートナーは意味が違うみたいだけど、そっちのはどんな意味なのか教えて下さいよ」

 

パートナーの意味が違う?

……やっぱライバルって言ったほうが良かったんじゃないか?

確かに言われてみれば分かりにくいし……。

 

「それは、えっとね、その」

 

「教えてくれ柚月、お前はどんな意味のパートナーだと思ったんだ!? なぁ、柚月!」

 

柚月は怒りで顔を真っ赤にして、素早く俺との距離を詰めた。

そして、俺の腹に拳が……。

 

「うっさいバカ! 羊羹の角に頭ぶつけて死ね!」

 

少し俺の体が浮くレベルで殴られた後、柚月はどこかに行ってしまった。

 

「プププ、面白い人だったね、センパイ」

 

「……体……少し浮いてた……めちゃくちゃ痛い」

 

「にしても罪な人、柚月センパイって人がいるのにあてらまで……フフッ、私に劣らずヤバい人だよね」

 

「何の話だよ……あ、ダメ、動けない」

 

「それじゃあ私はホール戻るから、そのダンゴムシフォーム終わったら来てね」

 

助ける優しさとか無いのかお前ーーーッ!


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