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監視カメラに一礼するな


 ホールに入店した。

俺の前に並んでいた人の殆どはスロットに流れて行ったし、パチンコに流れた人の多くは最新台に向かって行く。

おかげで俺は狙いの台をすんなり取る事に成功した。

三台あるが、どれを見ても釘がいい。

これはどれ打っても正解だし、俺のデータと分析が正しかった事を意味している。


そしてこの台はあてらちゃんが言い当てた台でもある。

すなわち、彼女の情報も正しいって事にもなる。


「隣、失礼します」

 

「俺両隣どっちも最高に釘がいい、俺は真ん中のこの台にしたけど、どれ打っても期待値としては変わんないだろうね」

 

「あの……釘がいいって……」

 

「ああ、最高だぞ」

 

紙幣の投入口に一万円札を入れると、台に100と表示される。

この表示がこれから勝負するんだと、気合を入れる合図でもある。

……まぁ確率の物に気合なんて必要ないんだけど、これは気持ちの問題だ。

 

「えーっと、ここですね!」

 

あてらちゃんも紙幣を入れ、準備は完了だ。

いざ!

 

「あれ? あの、何も出てこないんですけど……もしかして壊れてる?」

 

「ちょっとごめん、見せて」

 

紙幣詰まりか?

表示にエラーは出てないし、台には100、つまり一万円が入っていると表示されている。


「これは……」

 

「遊さんその、ち、近いです!」

 

「あ、ごめん!」

 

やっべぇ。

女の子にめちゃくちゃ近づいてたわ。

柚月に言われたんだよなぁ……。

 

『いい? 極端に他の女の子に近づいたらダメなんだからね! 今の時代何がハラスメントになるか分かんないんだから』

 

あてらちゃんは……よし、怒ってはないみたいだ。

だけどさっきまでの表情と違って……うーん、一応セーフ?

 

「やっぱり遊さんも……これって完全に」

 

「ああ、完全にボタンが硬いみたいだな」

 

「ぼ、ボタンですか?」

 

貸玉ボタンが硬い台ってたまにあるんだよなぁ。

普段軽く触れるだけで500円分の玉が出てくるのに、少し力を入れないと出てこない台がな。


「そこの青いボタンが多分硬いんだよ、いつもより少しだけ力入れて押してみてくれ」

 

「これですよね、えい」

 

俺の考えはやはり当たっていた。

あてらちゃんがボタンを押すと玉がしっかりと出てきて、上皿いっぱいに一玉四円の玉が広がる。

 

「あ、ここの台結構上皿で詰まる事あるからそれだけ気をつけてな」

 

「上皿? 詰まる? えっと……えーっと……」

 

何故困ってるような顔をするんだ?

……何か悪い事言ったっけ?


「その、その……」

 

「どうした?」

 

「何でもないです! さぁ頑張りましょう!」

 

「お、おう! 頑張ろうぜ!」

 

さてと、今日の台は少し前に流行っていた台で、当たる確率は319分の1のミドルタイプと呼ばれる最近まで一番確率が重いタイプだった台だ。

他に比べて当たりにくいけど、当った時の爆発力は凄まじく、もらえる玉の量もかなり違ってくる。


「あの、これって」

 

あてらちゃんは一向に打ち出そうとしない。

まさかハンドルも壊れてんのか?

おいおいどうなってんだこの店はよぉ!

 

「ちょっとごめんね、近いかもだけど許して」

 

「はい、大丈夫です」

 

さっきの反省を活かして先に断りをいれてからあてらちゃんの台のハンドル部分を触る。

握った感じと少し回した感じに違和感は無い。

それに、実際に問題なく打ち出せている。

 

「これぐらいの位置ならちゃんと打てるみたいだから、やってみて」

 

「はい! 遊さんがさっきまで触っていたハンドル……」

 

……アレかな。

ちょっとデリカシー無さすぎたかな?

確かにさっきまで男が触ってたハンドルをいきなり触らせるのは何かしらのハラスメントに……なるか?

いやならねぇよ!

そんなの考えてたらホールなんてどこもかしこもハラスメントホールになっちまうじゃねぇか! 

 

そして少し打っていると、目押ちゃんが俺の左隣に着席した。

彼女は慣れた手で紙幣を投入し、スマホをポケットから取り出して、飲み物を出して……お守りを置いて……。


「あっ、入店時にはやったけど、打ち始める前にやらなきゃ」

 

そういいながら、ホール内の監視カメラに一礼した。


「ふっふっふ、これで店長の好感度も爆上げ。この一万円で必ず当たる」

 

「やっぱ変……か、変わってるな、あてらちゃんの友達」

 

「それは否定できないです、でも悪い人ではありませんよ! お金全然返してくれなかったり、テスト前に家に来て勉強教えないと動かないとか言って邪魔してきたり、大学の食堂で食券買う時に必ず財布持ってきてなかったりしますけど、悪い人では……多分、無いです、はい」

 

「私はあてらを親友だと思ってる、そしてあてらは私を親友だと思ってる、これは互いに幸せになれる関係性なんだよ、遊さん」

 

ダメ男に引っかかって別れられない女の子みたいになってるんですけどぉ!?

え、ちょっと待て、いやいや、え?

話聞く限りあてらちゃん財布みたいな扱いされてない?

なんだかめちゃくちゃ心配になってきた。

 

「あてらちゃん、その……声にして言うのもアレだし、つーかホールの中だと周囲の音うるさ過ぎて大声出さないといけないからさ、連絡先くれない? メッセージ送りたいから」

 

目押ちゃんの前であてらちゃんに大丈夫かと流石に声に出して言う事は出来ない。

だけど流石にこれは可哀想だ。


「連絡先……ちょ、ちょっと待って下さい!」

 

あてらちゃんが打つのを止め、なにやらスマホに向ってすごい勢いで何かを打ち込んだりしている。


「遊さん、そう言えばさ」

 

左から肩を叩かれて、目押ちゃんの方を向く。

彼女もスマホをチラチラと見て、困ったような顔をしている。

 

「私とあてらは大学生、遊さんは無職の人?」

 

「これで俺が本当に無職だったらここで喧嘩になってたからそういう事いきなり言うの止めような? あと俺も大学生だよ」

 

「お、じゃあ無職予備軍」

 

「じゃあお前も無職予備軍だぞ」

 

「大丈夫、私はパチンコで生計立てる予定だから」

 

爽やかな笑顔だ。

この子、あてらちゃんみたいな可愛い感じじゃなくて、クールビューティーって感じの顔立ちだ。

パット見じゃどっちの性別か分からないけれど、近くで見るとはっきり女の子だって分かる。

 

「……遊さん、女の子の顔をマジマジと見るのは変態のやる事だから止めた方がいい。確かに肌は去年まで高校生だったからツルツルピチピチで、見たくなるのは分かるけど」

 

「悪い……去年まで高校生って事は一年生か? 俺は二年だからそこまで年齢変わんねぇんだな」

 

「成る程、なら遊センパイと呼ぶか。いやここはセンパイの性癖考えて遊お兄ちゃんって呼ぶべきなのかそれとも」

 

「頼むから普通に先輩って呼んでくれ! 後輩にお兄ちゃんって呼んでもらって嬉しい性癖なんて」

「遊お兄ちゃん、声大きすぎ、後ろのお客さんがお兄ちゃんを見てるよ? 性癖暴露お疲れ様」

 

コイツゥゥゥゥ!

落ち着け、落ち着け俺!

深呼吸しろ、ペースに乗せられるな。

 

「面白いね、遊センパイ」

 

「そりゃどーも! 後で覚えてろよ」

 

笑顔の目押ちゃんがいきなり真っ青になり、少し震えている。

視線は台をまっすぐに捉えていて、俺をちっともみようとしない。

……やっぱり変な子だ。

 

「あ、そいや連絡先交換するって話してたよな、これ俺の連絡先だ」

 

右隣に視線を戻すと、あてらちゃんはメッセージアプリを開いて待ってくれていた。

連絡先を交換すると、あてらちゃんはスマホの画面を俺に見せてきた。


「私本気なので……消しました!」

 

「消した?」

 

何を?

え?

この画面で何を消した?

プロフィール、グループ、友達。

映っている物に変な所はない。

少し友達の数が少ないぐらいか?

 

「そっか、本気なんだな」

 

「はい!」

 

「遊センパイちょっと! この台の事なんだけど!」

 

今度は目押ちゃんか、えっと台の事?

ああ、釘の事かな?

 

「この台のボーダーは確か16.7、普段なら14ぐらいしか回らないけど今日は大体1k23は回ってる。これ流石に全ツだろ」

 

「期待値マシマシ、全ツ意思硬めだね」

 

「長い戦いになりそうだな……あ、目押ちゃんも良かったら連絡先交換しないか? 声出して話すの結構しんどいでしょ」

 

「ナンパ?」

 

「やっぱいいや、いらない」

 

「まって……ごほん、へいそこのお兄さん、連絡先交換しない?」

 

「結局するのか……はいこれ俺の」

 

「ん、よろしくね」

 

交換してすぐに目押ちゃんからメッセージが来た。


『がんばれ』

 

何を?

パチンコか?


『お前も頑張れよ』

 

『既に頑張ってるけど、過去一で今しんどい。でもセンパイのがしんどいと思う、だけど捨てるのはダメ、頑張って』

 

つまり。

過去一今負けてて、この子は俺よりも釘読みが出来ているから俺の台が比較的回りにくいと知っている。

だけど期待値があるんだからその台を捨てる事は許さないし許されないって事かな。

当たり前だ。


俺は別にこの台が特別好きな訳じゃないが、期待値がある。

だから打つんだ、いくらハマろうとも途中で止めて他の奴に取られて出される方が嫌に決まってる。

 

『わかってるよ、他の奴に取られたくないしな』

 

『わぉ……まじか』

 

『最初からマジだし、そもそもそんなヤワな気持ちでやってない。もう俺の物だ』


『センパイの物ではない』

 

『まぁ物はあくまで例えの話だよ、なんにせよ、俺はコイツから離れるつもりねぇよ』

 

『そっか、なら、しっかりね』

 

『勿論』

 

目押ちゃんは何やらホッとしたような顔になり、イヤホンを着けてスマホでアニメを見始めた。

あのアニメ、この台の版権元だ。

どーせ版権のアニメを見ると当たりやすくなるとかのオカルトだろう。


『改めまして、計数あてらです! よろしくお願いします!』 


目押ちゃんから視線を台に戻したタイミングで、あてらちゃんからメッセージが来た。

 

『よろしくね』

 

『はい! 早速なんですけど、遊先輩って呼んでもいいですか?』

 

さっきの目押ちゃんとの会話聞いてたのか。

……まぁあんだけデカい声でお兄ちゃんとか言ってたしそりゃそうだ。

 

『是非頼むよ、あてらちゃん』

 

『む〜、ちゃん付けは何だか子供扱いされてるみたいで、他人扱いされてる気がして嫌です! あてらって呼んで下さい』

 

本人が呼べと言ってるんだから……いいんだよな?

何かやっちまったら後で柚月に聞くか。

 

「んじゃあてら、よろしく」

 

「はい! 先輩、よろしくお願いします!」

 

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