結局、誰を選ぶんですか?
あてらとの一件が終わり、巡との話も終わった。
無事に日常に……まぁ、ならないんだよね。
「あてらちゃんに巡ちゃん、二人に告白されて幸せそうね、遊」
「こんな事人生初だからどうしたらいいのか分かんねぇんだよな」
「それは……よかったわね」
俺は今、柚月と一緒にパチンコを打っている。
まさかこんな日がくるとは思わなかったが……。
「つーかお前パチンコ打つ奴はゴミとかカスとか言っといて結局打ってるじゃん」
「アタシだって打ちたくて打ってる訳じゃないわよ」
「じゃあ何で打ってんだ?」
「アンタが……打ってるからよ」
「は?」
「うっさいバカ! カスタードで窒息しろ!」
……にしてもコイツ、打ち方がなってない。
保留4なのに打ちっぱなしだし、絶対に当たらない演出のボタンを押したり、まるで初心者だ。
「それで、どっちにすんのよ」
「は?」
「だから! あの二人のどっちを選ぶのかって聞いてんの!」
「……わかんねぇんだよ」
「分からない? 何で?」
「そもそもだ、俺には彼女作って遊んでる時間なんて無いのは分かってんだろ?」
「そうだけど……それはあの二人が可哀想よ」
いやいやそう言われてもだよ。
考えてみろって、残り約八十万も集めなきゃいけないんだぞ?
「ちなみに、どっちがタイプなの?」
「うぇ!? そんなの考えた事無かったけど」
タイプ……タイプか。
「まずは計数あてらさんね、彼女はどう?」
あてらか。
どうって言われても……。
「計数さんを思い浮かべて最初に思った事は何?」
「思い浮かべた事? 可愛い、だな」
あてらは可愛い。
オシャレにも気を使うし、笑顔も可愛い。
スタイルだっていい。
正直、男の理想とする女性が作られすぎて怖いぐらいだ。
「可愛い? 目押巡さんも可愛いじゃない」
「そうだけどさ」
「……そうなんだ」
「なんかこう、不自然な可愛さなんだよ」
「不自然?」
「あれこそ男の理想の女性だと思うんだが、あまりにも隙が無さすぎるんだよ」
「へ?」
認める、あてらはめちゃくちゃ可愛い。
俺だってあの見た目だけなら普通に惚れてたかもしれない。
そう、あてらの弱点はあの中身だ。
『私って、先輩の彼女ですよね?』
……いきなり彼氏にされた時は本当に意味が分からなかったし、怖かった。
おまけに巡曰く怒ると何をするか分からないって話だし、実際目の当たりにした時は死ぬかもしれないって思った訳で。
「見た目だけなら完璧なんだけどなぁ……」
「そ、そうね! ……あれが自然な女の子なんていないっての」
だけど、あてらの性格を逆に取ればアイツを好きになればその好きに対して100%、いや120%の好きで答えてくれるだろう。
だが、今の俺はアイツに惚れてない、だから怖いんだろうな。
「あ、それにあてらってめちゃくちゃいい匂いするよな! 女の子って感じの匂い!」
「うっわぁ……キモ」
「いやいやこれはマジだから! お前もあてらの匂い嗅いでみ? 本当に優しくて甘匂いが」
「ねぇ、お願いだから私を変態にしないでくれない? あとこれ以上変態な事言うのも止めて、本当にお願いするから」
……確かにキモかったな。
「話を戻すが、あてらは可愛い! これが結論だな」
「キモい発言しないでって言ったのに」
「お前が聞いた事だろうが! えーっと、次は巡だったよな」
巡は……。
「アイツ可愛いよな」
「アンタの女の子に対するコメントって可愛いしか無いの?」
「いや事実だろ、事実可愛いんだから」
「あっそ」
巡は……なんだろう。
あてらとはベクトルの違う可愛さなんだよね。
不自然じゃなくて、釣られて笑顔になってしまうような、引き込まれる魅力がある。
「そういや巡って魔法少女コスプレとか似合いそうだよな、ステッキ持ってランドセル背負って、女児向けアニメに出てきそうな格好がぴったりだと思わないか?」
「えっと、突然のロリコンカミングアウトに頭と感情がついて行かないんだけど……そういう趣味なの?」
「違うよ!? ただ似合いそうだよなって」
まぁ確かに、巡の150cmない身長、長い髪、幼い顔立ち。
どれをとっても巡がタイプの奴はロリコン確定演出な訳だが、俺にそんな趣味は無い。
「……巡さんにドキッとした事とか無いの?」
「それは……」
巡と出かけた時、あてらの行きつけの服屋で買ってあげたあの服を着たのを初めて見た時は流石に……。
「あります」
「うわ、犯罪者」
「おい! それは巡に失礼だろ!」
巡は身長とかを気にしてたし、ホールで打ってても何度も何度も店員に年齢確認されてて、それをめちゃくちゃ嫌がってたんだから、それをいじることは出来ない。
でもあの小さな見た目からのあの性格のギャップにやられる男は多いと思う。
「それなら、巡さんにするの?」
「あ、いや……あー、巡ってさ、時々怖いんだよ」
「ちょっとアンタ、女の子に対して褒めるなら可愛い、貶すなら怖い、それ以外の言葉忘れたの?」
「いや本当に怖い時あるんだって! ほら、前だっていきなりタロットカード取り出して独り言言ったと思ったら」
『今日はダメ、この期待値じゃ、勝てない』
「って言い出していきなり帰ったんだぞ!? オカルトを楽しんでるって感じじゃなかった、もう取り憑かれてるって!」
柚月がポカンとしている。
成る程これは巡の事あんまり知らないな?
「確かに巡の期待値に対する考え方には同意してるし、アイツの考えは基本的に正しいし、信じてる。でも、でもだ、所々にオカルトが入ってくるんだぞ!? 怖いだろ!」
「そ、そうね、それは……そうかも」
「まぁでも、二人共欠点がありつつもそれ以上の魅力があるし、そもそも金無しの俺が人のダメな所をつつくのはおかしな話だろ」
「……ねぇ」
柚月が視線を画面から俺に移した。
「ならさ、あ、アタシは……どうなのよ」
「え、普通だな」
そして返答はよく考えないといけないような質問が投げかけられて、俺はそれに反射的に思っている事を答えてしまった。
「普通!? ハァ!?」
「待て待て待て待ってくれ! これはいい意味の普通だから、話を聞いてくれ!」
普通って言ってしまった。
柚月の表情は……。
「へぇ、いい意味の普通ねぇ、どんな意味の"普通"なのかしら」
怒ってるーーーッ!
そりゃそうだ、あてらも巡も可愛いって言っときながらコイツに対しての答えは普通。
付き合いが長すぎて時々忘れそうになるけど、コイツは一応女の子、あいや女の子って年じゃねぇか。
ってそんな事はどうでもいい、とにかく、ここから可愛いって方向に持っていかねぇと……。
『死ね! 必殺、生クリーム絞り!』
とか言われて関節キメられるに違いない。
「まずほら、お前って普通の女性じゃん?」
「それで?」
「つまり、悪い所が無いって事だ! 普通最高だな、うんうん」
「へぇ、アタシって、いいところ一つもないんだ」
違う!
そんな意味じゃない、だからその指を鳴らすのをやめてくれ!
それだぞ! お前の悪い所はすぐに暴力に走る所だぞ!
いまさら言えないけどさ!
「どーせアタシはあの二人以下よ、フン!」
「俺はお前といる時が一番落ち着くけどな」
「……そう」
「お前とは長い付き合いだからな、他の誰といるよりお前といる方が安心できるって言うか、うーん、やっぱり落ち着く、しっくりくるんだよ」
嘘は言ってない。
コイツはもはや家族みたいな感じだし、それに。
「もし誰かを選ばなきゃいけないって言うなら、一番普通で一番落ち着くお前がいいけどな」
「ちょ、ちょっと待って……え、いきなり?」
「んだよ、事実だぞ、嘘は言ってない」
「分かってる! 分かってるけど……不意打ちすぎんのよ」
柚月は俺の幼馴染、一番近くで助けてくれた。
「じゃ、じゃあ……」
そりゃ殴られる事もあったし、プロレス技をキメられる時だってあった。
でも、それら全ては悪意からきた動機でやってる物じゃなくて、彼女なりのコミュニケーションだと俺は知っている。
だから痛いのは嫌だけど、俺はそれが彼女らしいって思ってる。
「アタシは、アンタの」
「こんにちは、遊先輩! それと柚月先輩」
「あ、あてら!?」
「はい! 先輩だけのあてらです!」
あてらが何故ここに!?
今日のホールは教えてないはずなんだが。
あ、後ろに巡もいる。
「……来るなら言ってくれればよかったのに、あてらちゃん」
「先輩とパチンコに行くなら声かけてくれてもよかったのに酷いですよ、柚月先輩」
「いちいち言わなきゃいけない決まりは無いでしょ?」
「誘わない理由もないと思いますけど?」
「誘おうと思わなかったからよ」
「私も柚月先輩だけなら誘われなくても何も言いません、でも私の遊先輩を勝手に連れ出されては困りますから」
「アンタの遊じゃないわよ」
「これからそうなりますから」
俺の右隣であてらと柚月が何かを言い争っている。
……聞いてないフリしとこ。
「よいしょ、ん? その台よりもこっちの方が釘いいよ」
左に座った巡が俺の台と彼女の左隣の台を見比べている。
……確かにそっちの台は見てなかったな、機種が違うから別に見なくてもいいだろうと思ってた。
「そっち移るわ」
「熱い機種を絞るのは当たり前だけど、それは他の台をチェックしない理由にはならない。しっかりして、センパイ」
「悪い悪い、お前の言うとおりだよ」
あてらと柚月が睨み合ってる。
顔は笑ってるけどおっかねぇ。
「あてらを、困らせないでね」
「あはは……あー、今は俺が困ってるんだけどなぁ」
「それは知らない、頑張って」
「目押ちゃん、何で先輩の隣を独占してるのかな」
「期待値があるから、それだけ」
「二人共落ち着きなさいってば! とにかく外で頭冷やしてきなさい」
「柚月先輩、その手には乗りませんよ」
「外は熱い、いくなら柚月センパイ一人でどうぞ」
「そもそも! 巡さんは遊の事諦めたんじゃなかったの?」
柚月が触れないでいた事に、それこそ見えてる地雷をいきなり爆発させた。
「私はあてらの親友、だけど、恋は別物だってあてらが教えてくれたから、諦めない。センパイ、私とパチプロになろう」
だがその地雷の結果は巡の爆発ではなくて、柚月とあてらの爆発で終わる。
「目押ちゃん、諦めなくてもいいよとは言ったけどさ、先に好きだった私に譲るべきじゃないかな? 好きで居続ける事は許してあげるんだから」
「嫌、それは、絶対嫌」
「それならアタシは遊の左隣に……って、コイツ遊を角台に座らせて完全にガードしてるわ!」
「ふふん、センパイは一緒にパチプロになる。」
「……ねぇあてらちゃん、、この子って見た目と違って結構」
「はい、結構強いです。あと姑息です」
パチプロに?
俺が?
……悪くないかもしれねぇ。
でもここでそんな事は絶対に言えない!
「センパイ、お金が必要なんですよね? センパイの人生っていくらですか?」
「へ?」
「私が買います!」
「あてら、家の力を使うのはダメ、フェアじゃない」
「私を彼女にすれば私の家もついてくるってアピールしたかっただけだよ?」
「嘘つくな、普通に人身売買の話だったわよ」
何だか騒がしくなってきた。
また何か面倒な事に……。
「で、アンタは決めたの?」
「決めた……と、言うと」
「そりゃ……あ、アタシか」
「あてらか」
「私。」
「「誰を彼女にするのかって事!」」
よし、逃げよう。
誰を選んでもここじゃボコボコにされる。
そうと決めたらすぐに脱出できるよう……。
俺がそう決めた瞬間に台からけたたましい音がした。
演出を見ると、保留の所には虹色があって、筐体もレインボーに輝いている。
「センパイ、忘れたの?」
「忘れた……だと?」
「予定がある時、一刻も早くホールから出なきゃいけない時に限って当たるの法則。」
「んなっ、お、オカルトだろそれ!」
「でも、全回転を引いてる」
確かに、確かに引いてるけどッ!
ここでそんな事言われたら俺がめちゃくちゃ逃げ出そうとしてたって言われてるのと同じだろうが!
「先輩、答えて下さいよ」
「逃げ出そうとしても無駄だから、分かってるわよね、遊」
「フフッ、修羅場だね」
は、早く大当たり終わってくれーーーッッッ!




