練習だって、浮気だよ
「目押ちゃんがあんな卑怯な事するとは思わなかったな〜、私が先輩の事好きなの知ってて、あれだけ応援するって言ってくれてたのに、親友だと思ってたな〜」
「私はあてらの親友、応援もしてる」
「そうやって抜け駆けしようとしてたんでしょ? 油断させて、自分はライバルじゃないって顔しながら、ずーっと機会を待ってた。だよね?」
「そんな事……」
「あるよね? まさか、私が何も知らずにこんな事言ってると思う? あんな可愛い服着て、女の子の顔して、普段しないような笑顔を見せて」
「あっ、あれは違」
「私の想いを知ってるのに、先輩とデートしてたよね」
「話を聞いて、お願い」
「ううん、聞いてあげない。親友だと思って油断してたのが悪かったのは認める、でも、泥棒猫の話なんて聞きたくないの」
「あてら……」
空気がやばい。
そして俺が原因だってわかってるからこそ、俺は何も出来ないんだ。
……三人並びでパチンコ打ってんのはいい、だけどさ、そんな会話するなら俺を真ん中に座らせるなっての!
「私はね、センパイがあてらと上手くデート出来るように練習を」
「練習って何? 目押ちゃんと先輩がデートした場所に私と先輩に行けって事? そんな2人の思い出が残る場所に?」
「そんなつもりはなかった、私の配慮が足りなかった、謝る、ごめん」
「それに練習って言うなら、私に一言言ってからやるよね? なんで黙ってたの?」
「センパイは彼女できたこと無かったみたいだから、当日自然にエスコートできるよう教えてた。黙ってたのは、センパイの」
「先輩を言い訳に使わないで!」
あてらはハンドルから手を離し、一瞬だけ怒りの表情を浮かべた。
その目線には完全な怒りと、彼女らしからぬ黒い物が混じった何かが含まれている。
「……ねぇ、先輩」
その目のままこっちに話来たんだけどぉ!?
いやさぁ、いつか来るとは思ってたよ?
でもこんなタイミングで、あてらがめちゃくちゃ怒ってるタイミングで来るとは思わないだろ!
「目押……どうすりゃいい」
「…………」
黙るなッ!
キラーパスしといて自分は台の演出見てますみたいなフリ止めろ、普段見てねぇだろ!
「今は私が話しかけてるのに、目押ちゃんの方を見ましたよね? 何故ですか?」
悪化したーッッ!
おちつけ、おちつくんだ貸玉遊。
大丈夫、あてらは怒ったからって何かやばい事し始めるタイプじゃ……。
「答えて下さいよ、先輩」
……はっ!
『あてらにやられるよ、ぶすりってね』
やばい事し始めるタイプだったわコイツ!
「あー、そのだな」
「先輩、私の目をみてください」
「恥ずかしくて見れねぇ……んだけど」
「嬉しい言葉ありがとうございます、ですが、今はそんな事聞いてません。先輩には話してませんでしたっけ? 私、人の目を見れば嘘をついてるかどうか分かるんです」
「あはは……あー、漫画の見すぎとか、気の所為なんじゃ」
「なら大丈夫ですよね? 見て下さい」
「……はい」
あてらの目を見る。
ふーむ、この状況で思うのは変な事かもしれないけれど、コイツ顔めちゃくちゃ可愛いな。
それに、今日の服装は……やっぱり、見た事無い服だし、気合入ってる。
「先輩、目押ちゃんの事で隠してる事、ありますよね?」
「隠してる事なんて……」
あったか?
えーっと……。
うん、大丈夫、何もない!
「無いと思うんだけどな……あはは」
「嘘ついてますね」
「まてまて、本当に俺は知らないっての」
「……本当に巡ちゃんの事で隠してる事無いですか?」
「本当だって! 俺は巡の事で隠してる事なんてない! だよな、巡!」
「センパイ……呼び方」
「あっ……」
振り返った先の巡は"終わった"って顔をしていて、俺も多分同じ顔をしていたと思う。
確か巡って呼ぶのは他の人が居ない時だけで、あてらには……。
「へぇ、目押ちゃんじゃなくって、普段は巡って呼んでるんですね」
「あ、あはは……あー、まぁ、はい」
「違う、あてらは誤解してる。あてらだって名前で呼ばせてるんだから、私が呼ばせても問題ない」
「だったら何で私の前だと目押呼びで、二人きりだと巡呼びなの? 問題ないなら堂々とすればいいんじゃない?」
「それは、あてらが嫌かなって」
「嫌だよ? それ分かっててやってるんだよね?」
「……ごめん」
「謝る事、何でするのかな? ねぇ、何で?」
「配慮できてなかった、から」
「配慮配慮って……余裕見せつけないで欲しいな」
「余裕なんて無い、心から悪いって思ってる」
「そんな事思ってないでしょ!」
あてらはついに席を立ち、巡の隣に座った。
ホールの中だから周囲の音はかなり煩いはずなのに、俺の耳にはこの二人の声しか入ってこない。
「本当だから、本当に謝りたいの」
「謝るなら、何でそんな事したのかを教えてよ! この……嘘つき!」
叩かれて巡の頬が赤くなる。
あてらの手も、少し痛そうだ。
「私だって……私だって頑張った! 親友の為にセンパイに近づいて、好みを調べて、もっともっと詳しくなって、あてらに喜んで貰おうと思って頑張ったの!」
巡は泣いていた。
頬の痛みからなのか、それとも感情からの涙なのか。
それは一目瞭然だった。
「でもね、私だって女の子なんだよ!? 好きになっちゃったんだから……センパイの事、好きになったんだもん! 私がセンパイを好きだって自覚してからどれだけ悩んだと思う? 親友の狙ってる人を私も好きになってしまったって、ダメだって分かってるのに、自分の気持ちが抑えられなかったの!」
「……それが本音?」
「まだ! あてら、私はセンパイが好き。だけど、私は本当にあてらに幸せになって欲しい! だから」
「だから、何」
「私はもう、センパイには近づかない」
「…………」
「あてらにも、もう……こんな私じゃ、親友じゃなくてただの泥棒猫にしかなれないから」
「先輩はどう思いますか?」
どうって……。
何にせよ、俺はこの二人が喧嘩するのを見たくない。
あてらから見れば確かに巡のやっている事は自分を出し抜こうとしていたように感じるだろうし。
巡からすれば……まぁこんな事自分で言うのは変な感じがするけど、俺相手に少しだけでも恋人気分を味わいたくて、だけど親友の為にもどこかで引かなきゃいけなくて、でも引くタイミングが分からない……って所か。
「それに先輩も、何で目押ちゃんとデートしてたんですか?」
「それは目押も」
「巡、ですよね?」
「め、巡が説明した通りだよ、お前とのデートの練習の為にだな」
「その割には楽しそうでしたね、お店であんなに堂々とイチャイチャして、告白までしてましたけど、あれも練習ですか?」
嘘を見抜くとかじゃないじゃん!
もう根拠あって発言してるよね?
「あれはその、ぼったくり価格を避けるために仕方なくしたんだって」
「それに、そんな他の女に使ったセリフを使われても嬉しくありません! 私以外の人とデートしないで下さい!」
「いやその、だからさ」
「他の女に使ったデートコースに、告白の言葉、そんなの貰っても嬉しくないです!」
そ、そういう物なのか?
「もうこの際です、先輩が決めて下さい」
「俺が決める?」
「はい。……ちょっと外、出ませんか」
周囲にはギャラリーが集まっていた。
そりゃそうだよな、女の子2人が、それもめちゃくちゃ可愛い2人が喧嘩してるんだから、そりゃ見るよ。




