幼馴染はパチンコが嫌い
ゴールデンウィークが終わり、祝日の無い六月を何とか乗り越えて、パチンコ屋に並んでいると日差しが熱いと感じるようになってきた頃、事件が起こった。
親による学費使い込み事件だ。
夏休み近くで浮かれた気分だった俺のテンションはラッシュで20連した後の1000ハマりのようなグラフを描くような、いやそれ以上の勢いで冷静になり、そしてパニックになった。
「柚月! いや柚月様!」
「ちょっと、いきなり何!?」
花代柚月。
俺の幼馴染で困った事があったら毎回コイツに相談してきたし、それに応えるようにいつも解決策を提示してくれる。
つまり、最高に頼れる奴って事だ。
「金貸してくれねぇかな」
「……ハァ、ついにパチンコでお金無くなったの? 止めろってアレほど言ったわよね?」
頭を下げる俺に対して彼女はため息を聞こえるように吐き出し、それと同時に偏見に満ちた言葉すらも吐き出しやがった。
「パチンコ代を借りた事ねぇだろっての! 違う、これ見てみろって」
講義が終わり、一緒に課題をしていた幼馴染である花に親から届いたメッセージを見せ助けを求める。
「100万円……え、これ本当?」
「講座確認したけどガチで無くなってた……だから頼む、100万円貸して下さい」
「人の親を悪く言うのは良くないけど……確かにアンタの親は給食費を払わなかったり、ご飯を作らなかったりしてたから前兆はあったわね、でもまさか本当に学費まで……」
空っぽになった口座を見せると、彼女はため息と同時に呆れた表情になった。
よく家に食べる物が無くて彼女の家で食べさせて貰っていた時にあんな表情を柚月のお母さんがよくしていたのを思い出した。
「流石に100万円は無理よ、学費払えないなら10月でサヨナラね」
「そんな事言わないでくれよ! 俺達幼馴染だろ? いや付き合いの長さを考えればもう兄妹みたいなもんじゃねぇか、兄妹は助け合うのが基本、だろ?」
「……アンタと兄妹なんて……それだけは絶対に嫌」
「そこまでガチで嫌がらなくてもいいだろ!?」
そして、関係性すらも消えそうになってしまった。
いや結局は何とか一緒に解決策を考えてくれる事になったんだけどね。
「アタシをジロジロ見てもお金は出てこないわよ」
「確かにな、お前みたいな貧相な体じゃ買い手も」
「この時期の東京湾ってまだ冷たいらしいわよ、コンクリートもよく冷えるから大変になりそうね」
「素晴らしいスタイルだと思いますからそれだけは勘弁して下さい!」
「ったく……んで、今から100万円集めるって話だけど、一応アンタの考えを聞かせてもらうわ」
俺の考えは決まってる。
10月まであと三ヶ月、残りの日でバイトしても100万はとてもじゃないが貯まらないし、借金は……人としてダメだ。
この絶望的状況でも、俺は稼ぐ方法を知っている。
そう、それは……。
「パチンコで金を」
「はい却下」
「まだ最後まで言ってないのに!?」
「アンタ今の状況分かってる!? 払わなきゃいけないお金が無い、つまりマイナスなのよ? 借金をパチンコで、ギャンブルで返すって言ってるのと同じよ同じ!」
「違う! まずパチンコはギャンブルじゃなくて遊技だし、負ける奴は負けるべくして負けてんだ、俺は釘読みも出来るしデータ分析も得意だからどの日はどのパチ屋でどの台を打つべきなのか全て分かる。つまり、期待値を積めるんだ」
俺はパチンコが好きだ。
そして負けるのは大嫌い。
だから、勝てるようにめちゃくちゃ勉強をしたんだ。
見るべき場所、店内での立ち回り、常連の動き……全部頭に叩き込んだんだ。
だから、一切の感情を捨て、期待値に従って動けば必ず勝てる。
例え打ちたくない台だとしても、俺なら耐えられる。
「何よそれ、アンタ本当に分かってるの? このままだと退学よ?」
「そうならない為にもパチンコで稼ぐって言ってんだ。だけど俺一人じゃどうやっても試行回数が足りねぇ、だからさ、お前も」
「ふざけないで! アンタは私と大学通えなくなってもいいの!? アタシがなんの為にこの大学に来たのか……」
「つーかお前は頭良かったんだからもっといい大学行けただろ、何でこの大学来てんだよ」
「ッッッ教えるかバカ! 勝手に退学すればいいわ!」
「何処行くんだよ、おい、柚月!」
「話しかけんな! 生クリーム喉に詰まらせて死ね!」
ポカンとしているうちに、柚月はどこかに行ってしまった。
メッセージを送っても既読にはならないし、電話も出てくれない。
こうなると昔から暫くの間は口を利いてくれないんだよ。
「真面目に考えてんだけどな」
まともに働いても間に合わない。
だったら、まともじゃない方法で金を集めないといけない。
でも犯罪はダメだ、そうなればもう、パチンコしかないんだよ。
とりあえず今日は大学の課題をまとめて終わらせる。
明日から全力でホールに通って、朝から晩までパチンコを打つ。
そして、必ず金を稼いでみせる。
「やるぞ! やってやるぞ!」
家に帰るとやる気が失われると思い、大学の図書館でできる範囲の課題と事前に貰っていたレジュメの暗記をしていると、もう午後十時近くになっていた。
明日のホールでの稼働を考えると、今日は早めに寝るべきだな。
さてと、ゆっくり帰るかな。
もちろん、明日のホールの情報を確認しながら、な。