出玉バトル そのさーんっ!
この女しぶとい!
今は夕方六時半、あと三十分で目押が帰る時間だから七時までには終わらせたいのに、何回も何回も当ててくる。
「花代先輩パチンコ上手ですね! 本当に上手で羨ましいです」
「それって褒められてるの? こんなの運だけじゃない」
「褒めてますよぉ! 先輩はすごいなぁ、パチンコいっぱい当てられて羨ましいなぁ」
「あっそ」
「本当に凄いので、もうずっとパチンコだけ打ってればいいのに」
「それどういう事よ」
「先輩の事は私が全て引き受けます、だから安心してパチンコだけに集中して下さいっ! 幼馴染として今まで先輩を守ってくれてありがとうございました、でもここからは私の役目ですから」
「言っとくけどまだ時間あるし、アンタと私の最大出玉は当たり一・二回分しか無いのよ? 簡単にひっくり返るわ」
そう言いながらボタンを押す女の画面にはヒビの入ったガラスのような演出が走っていて、ハズしたのが分かる。
「口だけですね」
「へぇ、アンタ遊の事と同じで全然パチンコも詳しくないのね」
「何言ってるんです?」
「アタシが何の図柄でテンパイしてリーチになったか見てなかったの?」
「そんな事いちいち気にすると思いますか? 花代先輩の事なんて誰も見てませんよ、自意識過剰です」
「だったら教えてあげる、この台の6図柄テンパイはリーチになった瞬間当たりが確定するのよ。そして演出でハズレの演出が現れたって事は必ず復活当たりになる」
「それが何です?」
「まだ分からない? この台の復活当たりは必ずラッシュ確定なのよ、つまりアンタをぶっ飛ばす舞台は整ったって事!」
知らないっての。
私はパチンコが好きなんじゃない、パチンコはあくまで先輩と接点を作る為のツールに過ぎないし。
「見てなさい、すぐに追い抜いてみせるわ」
「頑張って下さいね、花代先輩!」
この女、どれだけ当てるのよ。
今の最大出玉は私が四万二千発で、コイツが今三万六千発、29回連続でMAX出玉の当たりを引くなんて無理に決まってる。
いくらこの台の継続率が92%でも不可能だし、そもそも継続率が高い分MAX出玉の当たりの割合は四割程度。
つまり……えーっと、とにかく29回連続で四割を引き続けるなんて不可能!
「さっそく当たってますね、すごいです! あ、MAXは取れてないみたいですけど」
ほら、やっぱり無理だ。
「ねぇあてらちゃん、アンタに教えてあげるわ」
また当った、今度はMAXだ。
あ、MAXの次は当るまでラッシュが継続する特殊モードになるから確実に当たるから次は……よし、MAXじゃない。
「この勝負は出玉の最大出玉を競う勝負よ」
また当てた。
また、また、また当ててる。
待って、ここから逆転される?
「そしてね、パチンコにはエンペラータイムってのがあるの」
「エンペラー……タイム……」
「ええ、何を打っても絶対に勝てる、どうやっても確実に勝つ期間が必ずあるの」
「そんなのオカルトです! 言ってる事は目押と同じですよ!」
「確かにオカルトよ? でも、遊だって目押ちゃんだって確実に知ってるし、パチンコを打つ人間なら全員経験してるはずなんだけど……浅いわね」
「そんなの知らない! ただのオカルトだって言ってるの! そもそも初心者のお前が」
「アタシが初心者? そんな自己紹介したかしら?」
えっ。
だって先輩はこの女をパチンコ初心者だって紹介して……ッッッ!
「言ってないわ、アタシが初心者なんて一言も言ってないのよ」
さっきまで弱気だったのに、負け犬のくせに!
何この圧ッ!
負けるの?
ここから、逆転される?
「あと一回、ここで当てればアタシの勝ちよ」
「……でも、そもそも当たらない可能性だってあるんです!」
「もちろんそれはあるわ、だからアンタに運命を決めさせてあげる」
席を立ち、花代先輩は自分の席に座るように促してくる。
「アンタが右打ちしなさい、この台の右打ち当たり確率役約46%よ。54%を四回連続で引けばアンタの勝ち、でも一回でも引いたらその時は……ね?」
「私が……」
嫌だ。
最初はこの勝負に負けても別にいいって思ってた。
だって私はもう先輩の彼女だし、負けても何のリスクもないって、そう思ってた。
だけど、だけど!
ここで負けたら先輩はこの女を褒めるし、もしかしたら……。
『引き弱いんだな、お前』
なんて言われて幻滅されるかもしれない。
そんなの、絶対に嫌ッ!
「やってみせます、四回です、四回54%を引けばいいだけなんです!」
ハンドルを握り、呼吸を整える。
大丈夫、大丈夫よ計数あてら!
私は先輩の運命の人で、それは揺るがないんだから!
「あら、右手が震えてるわよ」
「静かにして下さい!」
ホールは煩いのに、この女の声はスッと私に入ってくる。
特に意味は無いけれど、人間は特定の人の声を瞬時に聴き分ける能力があって、それは機械よりも優れているって話を思い出した。
「行きますから、外してみせますから!」
ハンドルが重い。
それでも私はおもいっきりハンドルを右に回した。
「一気にいくの?」
「ッッッ!」
親指で打ち止めボタンを押し、一発打ち出した所で弾を止める。
打ち出した弾が台の右側に流れ、抽選を行うスルーに向う。
心臓が煩い。
メイクが崩れるから汗なんてかきたくないのに、額から汗が垂れるのが分かる。
"3!"
外れた事が分かる演出が流れ、私は何故か息苦しいって事を、呼吸を思い出したかのようにして、肩を上下してしまってる。
「あと三回、頑張って」
落ち着け、落ち着くのよあてら!
認める、私は怖い、負けるのが、ここで当ててしまうのが怖い。
だけどそれはこの女だって同じはず、むしろ私よりも恐怖してなきゃおかしい!
右手親指を打ち止めボタンからずらして、一発だけ打ち出そうと……。
「しまっ!」
「二発打ち込んだわね」
54%を二回連続で引く確率は約29%、引ける、私なら引ける!
"2!"
"1!"
画面が暗転する。
……勝った。
勝った!
私が勝った、勝ったんだ!
「見ましたか! これが私と先輩の」
「画面よく見て、最後の一回転が残ってる」
女が指さす画面には、FINALJUDGEと表示されていて、ラスト1球の抽選を待っている。
「ここまで来たんです! 絶対に、絶対に外します!」
ボタンから親指を離し、運命の1球を撃ち込む。
「それ、当たるわよ」
玉の動きが遅く感じる。
しっかりと洗浄されたであろう銀色の輝きは鏡のように私と花代先輩を反射していて、そこに写るのは。
怯える私と、ニヤリと笑う花代先輩の姿だった。
「このあとのボタンで全てが決まるわ」
「分かってます! 絶対に、絶対に私は!」
画面に写るボタン。
私は勢いよくボタンを押した。
押した瞬間、気づいた。
普段よりボタンが赤かった事、そして、少しボタンが震えていた事に。
「アタシの勝ちよ」
画面には金色の7が3つ並んでいる。
MAX当たり、1500発確定で、次回の大当たりも確定する当たりを引いたのだと、確実に負けたのだと私に告げるかのように。
"お前は負けた、負けた、負けたんだ!"
そう言うみたいに、その演出は普段より長くて。
「じゃ、どいてくれる? 負け犬さん」
「あっ……何で……こんな……」
今までで一番辛い当たりを引いてしまった。




