幼馴染は優しい
俺は今、ホールに居ない。
せっかくの休日なのに、柚月に呼び出されて駅近くのカフェにいる。
目押とあてらは一緒に稼働中みたいだし、俺も早く行きたいな。
だけど柚月の呼び出しに答えない訳にはいかない。
何故なら……面倒な事になるからだ。
一度だけ過去に約束を破った事があるが、あの時は二週間程度一切口聞いてくれなかった。
あの時どうやって仲直りしたのかまでは覚えてないが、とにかくアイツが不機嫌だと俺がどうにも生活しづらい。
どうすれば柚月と仲直りできるんだろうって事を常に考えてしまうし、このまま縁が切れたらどうしようって事も考えてしまう。
「幼馴染ってかもう兄妹みたいな感じなんだよな」
待ち合わせの時間になったが、柚月が来ない。
時間に遅れるなんてアイツらしくないな、何かあったとか?
『今日は辛いでしょうけど、頑張って下さい』
スマホにはあてらからのメッセージが来ていて、そこには彼女の自撮りも載せられていた。
今日のあてらもめちゃくちゃ気合い入ってんなぁ。
とりあえず褒めとくかな?
……いや待て、ここまで可愛いとあてらと初めて会った時みたいに変な奴に絡まれないか心配だな。
『めちゃくちゃ似合ってるけど、俺居ないから』
あっ。
途中で送ってしまった。
『……すいませんでした、先輩の気持ちを汲めませんでした』
だけど意味は伝わったみたいだから、このままでいいや。
一応目押にも言っとくか。
『あてらを見張ってろ、変な奴に絡まれそうになったら店員呼んでやってくれ。何かあったら俺も行くから』
大学でもあてらは男からかなり人気がある。
噂ではファンクラブがあるとかないとか……。
この間、一緒に学食を食べようとした時なんかめちゃくちゃ声かけられてたし。
『わかってる。ちなみに私が声かけられたらどうしますか』
『ソイツはおそらくマニアなだけだから大丈夫』
『昨日はあてらより私が大切だって言ったくせに』
『今はあてらの話してんだよ』
『バーカ』
『いきなり語彙力小学生になるじゃん、見た目に中身が追いついたか?』
既読無視してやがる。
「ごめん、お、遅れたわ」
そんな事をしていると、柚月がやってきた。
「遅れるなんて珍し……いな」
「わ、悪かったわね! アタシだってその……遅れるつもりはなかったのよ」
柚月があてらの服を着ている。
今日のあてらと同じ服だ。
比べるつもりは無いけれど、可愛さだけならあてらが上。だけど、柚月が着ていると普段の見慣れた服とのギャップが強くて……。
「その服……」
「その、似合ってないわよね……? アタシも自分でそう思うし、絶対止めたほうがいいって思ってたんだけど、どうしてもって言われたから……」
「いや、その、悪くないと思う」
一目見ただけなら、多くの男はあてらを選ぶだろう。
だけど、俺は普段のコイツを知っている。
あの柚月がこんな服を着て……。
ヤバい、何でこんなにコイツにドキドキしてんだ?
相手は柚月だ、柚月だぞ!
「そうかな……あはは、ありがと」
照れて笑ってるのも……普段見せない表情だ。
雰囲気がいきなりガサツな女からオシャレを頑張る女の子になってやがる!
「でも分かってるわ、キツイ……よね」
「そんな事思ってないっての」
「ウソ言わなくてもいいわ」
「本当だっての!」
「じゃあ何で目逸らしてんの……こっち見なさいよ」
ダメだ、今は多分、おそらく、いや確実に顔が赤い。
からかわれるだろうし、見せたくない。
「本当に似合ってるっての!」
「なら……いいわ。とりあえずその、何か頼んでもいいかしら」
「おう、好きにしろ」
深呼吸しろ。
素数を数えろ。
ホールに居る無職っぽい奴の数を思い浮かべろ。
「えっと、ココアをお願いします」
何だ、何だ何だ。
今日の柚月は変だぞ。
「んで、今日はどうしたんだよ」
「その、アンタと話したくて」
「それなら普通に電話とかしてくれれば良かったのに」
「会いたかった……のよ」
このやり取り。
昨日の夜の……。
『こんな時間にどうしたんだ』
『先輩と話がしたかったんです!』
『俺はいいけどあてらが夜遅くに出歩くのは止めたほうがいいと思うんだけど……電話じゃダメだったのか?』
『心配してくれるんですね……実は少し不安になって、先輩に会いたかったんです』
昨日、あてらとした会話だ。
全てが昨日のままでは無いけれど、殆どがあてらとした会話だ。
「それで、もう一回だけ聞くけど……正直に答えて、これ以上は聞かないからね? ……似合ってる?」
『先輩に見て欲しくて新しい服買っちゃいました! どう、ですか? 先輩の趣味にあってますか? ……似合ってますか?』
「似合ってるよ」
『似合ってる、可愛いよ』
「あり……がと」
『えへへ、私もっと、もっともーっと可愛くなりますから!』
あてらがちらつく。
もしかしてからかってる?
でもあてらと柚月は知り合いじゃないはずだし……。
でも全部偶然とは思えないし……。
「随分イメチェンしたな、どうした、好きな人でも出来たのか?」
「出来てはいないわよ、バカ」
『新しく出来る訳ないじゃないですか』
やっぱりだ。
あてらと殆ど同じ答えを言ってる。
「今日はね、アンタの百万の話をする為に呼んだのよ」
『実はその、変な噂を聞いたんです。先輩はお金に困ってるって噂なんですけど』
「それは前に話した通りだ、とりあえず稼ぐ、それだけだし、それしかできねぇ」
『それは事実だけど……まぁ、実は親が勝手に学費使い込んでて』
「これ、少しだけどバイト代。協力させて」
『そうでしたか……でしたら私にも手伝わせて下さい! 少しですけど、受け取って下さい』
柚月から渡された三万円。
あてらから渡された三万円。
額まで同じ。
『……受け取れないよ』
『先輩……なら約束して下さい。本当に困ったら必ず私に相談して下さい』
あてらからはあんなお願いをされて、それを断った。
「いらない、前にも言ったろ、大丈夫だって」
「えっ!? ……でも、その、少しでもあれば助かるでしょ?」
焦ってる?
俺が受け取ると思ってた?
いや確かに前に渡すとは言ってたけど。
「ありがとな」
「そう、受け取ってくれないんだ」
「俺なんかに渡すよりさ、パーッと使ったらどうだ?」
「これはアンタの為のお金よ、そんな事できないわ」
「だから受け取れねぇっての」
「ダメ! いいから受け取って学費の足しにしなさい! もし心から受け取れないって思うなら一旦学費払い終えてからアタシに全額返してくれればいいわ、それならいいでしょ?」
あてらの時は受け取らなかった。
だって嬉しいって気持ちより、申し訳ないって気持ちの方が強かったから。
だけど、柚月からの申し出を俺は嬉しく思ってる。
申し訳ないって気持ちはあるけれど、多分心のどこかで柚月は助けてくれるって思ってたんだろう。
「サンキュ、柚月。これはパチンコじゃなくて普通に置いておくよ」
「あったりまえでしょ、バカ」
今日の午前中は柚月と過ごし、午後は彼女と勉強をした。
期待値は……あったよな、うん。




