人の当たりでも欲しい
今日も今日とてパチンコを打つ。
心を殺して、ただ当たるのを待つ。
「先輩ってその、私以外の女の子に優しすぎると思うんです。」
隣にいるあてらはホールに来るだけにしてはかなり気合いの入ったメイクをしていて、どこかの雑誌の表紙になってそうなぐらい可愛い。
だけど、発言は毎回意味不明なんだよね。
「プッ……クスクス」
反対側にいた目押があてらの発言を聞いて笑い出した。
今日ホールで待ち合わせした訳だが、コイツはあてらとは対照的にジャージで現れた。
部屋着じゃんそれ。
いや確かにホールに来る人そんな服多いけど!
「優しいって……うーん、変に衝突するより良くないか?」
「でも! 私の気持ちも考えて下さい、他の女が先輩の事勘違いしてるのは……辛いです」
「勘違い、か」
「そうですよ! 先輩の態度と言葉がみんなを勘違いさせてしまってるんです!」
確かに言われる事は多い。
大学の顔見知りとかにはパチンコカス、略してパチンカスと言われたり、ギャンブル中毒だとか言われたりもする。
実際は期待値を追い求めて稼働しているだけなんだが、あいつらにいちいち説明するのも面倒で、基本的には何を言われても黙っているから言われたい放題だ。
「そう言われてもな……面倒だし」
「余計に面倒くさい事になります!」
「大丈夫だって、俺がちょっと言われるだけだし、そもそも俺は気にしてないっての」
「私が気にするんですっ!」
今日のあてら……何か、めちゃくちゃ熱いな。
レバブルぐらい激熱だ。
「ごほん、今日は先輩に勘違いさせない事の大切さについて学んでもらおうと思います」
でもコイツはコイツなりに俺の事を心配して言ってくれている。
ここでそれを無碍にするのは人として良くない。
それに当るまでは暇だし、せっかく隣で打ってくれる友人が出来たんだからこういうのは付き合うべきだ。
「あてら先生の勘違いしないで!絶対勘違いなんてさせないんだからね講座の始まり始まり〜」
「その名前はどうかと思うな、目押ちゃん」
「そうかな? けっこう的確だと思う」
「目押ちゃん?」
だんだんコイツらのパワーバランスも見えてきた。
目押ってけっこうあてらに頭が上がらないみたいだ。
……もしかしてあてらって本当にめちゃくちゃ怒ると怖いのか?
「ではまず、優しくしない事です!」
あてらの話を聞きつつ、目押にメッセージを送る。
『あてらって怒ると怖いのか?』
『あてらの怒りは3段階に別れてる、まず最初は怒ってます! って表情になる』
「先輩の事悪く言われたり勘違いされてるのを聞くと辛くなるんです!」
『次は?』
『次は笑顔になる、だけど普通の笑顔じゃなくて、笑ってるのに笑ってない笑顔』
「本当に辛くて、一度ハッキリさせないといけないなって思ったんです」
『今の笑顔がまさにそれ』
あてらは笑顔で話している。
……普通だ。
『めちゃくちゃ怒ってるじゃん、謝っときなって』
「私の顔をそんなに見てどうしました?」
「…………」
「先輩?」
怒ってる?
笑顔だけど笑顔じゃない?
全部そんな事無いのにむしろ……。
「何でも無い、でもあてらには笑顔がよく似合うなって」
『笑ってる時のあてらって普通に可愛いだけじゃね』
「いきなりそんな事言わないで下さい! は、恥ずかしい……」
『そのうち分かるようになる、あと一つ』
『次の段階か?』
『うん、次はね、表情が消える。こうなったらもうおしまい、センパイならブスリってやられる』
どういう事だよ。
ブスリって何?
どういう状況?
「もぅ、先輩ったら……えへへ」
『意味わからん』
『言っとくけど助けないからね、私はまだ死にたくない』
訳のわからん事を……あっ!
目押の奴なんか当たってる!
コイツ音量最小にしてるからまったく分かんなかった!
『V』
『うるせぇよ』
「先輩?」
「お前当てたなら当てたって言えよ」
「あてらとセンパイの会話を邪魔したくなかった」
「邪魔とかじゃねぇだろ、羨ましいわ……ハァ」
一人だけ当てやがって……その幼い見た目で年齢確認10回ぐらいされちまえ。
「ぴーす」
「こら目押ちゃん! 自分だけ当てたからってアピールしないの!」
「でも当てたのは事実、センパイが当てられてないのも事実」
「そーゆー所、よくないと思うんだけどなぁ! 私なら当てたらすぐ先輩に台譲るのに」
「でもそれはさ、あてらの特別な"特権"でしょ?」
「……! 当てます、先輩の為に絶対に当ててみせます!」
何だこの流れ。
いやホールには確かにあるよ?
女の子に打たせて当たったら彼氏みたいな男が出てきて変わるって事、けっこうあるよ?
でも、そんなのクズのやる事だ。
彼女を何だと思ってるんだ、機械か何かだと思ってんのか?
「絶対に当てて先輩に譲ってみせます!」
「あてら、俺がそんな奴に見えるのか?」
俺はそんな男じゃない。
「先輩……?」
「俺がお前に打たせて、当てたら台を貰うようなクズにみえるのか?」
「そうじゃありません! 私が譲りたいから、当てたいんです」
これは……あてらが言っていた勘違いか。
確かに、お前にも勘違いされていたみたいだ。
勿論当てたいし、当たってる台が放置されていたら間違いなく座るだろう。
でも、お前から奪いたいなんて1回も考えた事なかった。
「ダメだ、自分の為にやれ」
「でも……それじゃ先輩に何も渡せない……」
「俺は俺の運とデータで勝負してんだ、だから大丈夫」
「先輩……」
そもそも!
彼女に打たせて当たったら奪うってのはクズの行いだし、あれは彼女だからギリギリ許されてる所がある。
いや俺的には許してないけれど!
彼女でもなんでもないあてらにそんな事絶対にさせない。
「俺を信じろ、あてら」
「先輩! ……やっぱりカッコイイ」
「よせ、俺は事実を言ってるだけだ」
「そうですよね、先輩はクズじゃない。私を道具としてじゃなくて、人として扱ってくれるんですよね」
あてらの台に異変。
何だ、アレ。
虹色に輝く保留。
当たり確定の保留だ。
しかも、ラッシュ確定の……!
「だから、先輩の意思を尊重してこのラッシュ全力で頑張りますね!」
「あっ……ああ。あのさ、やっぱさっきの」
「流石センパイ、両隣が当たってても、例え当たって譲ると言われてもそれを断る。漢だね、フフッ」
「当たり前でしょ目押ちゃん! 先輩はそんな事しないんだから! 先輩は純粋に私の事を……ウフフ」
へんな事言わなきゃ良かったーーーッ!




