泥棒猫
遊先輩。
私を選んでくれて、私を受け入れてくれた人。
私の、私だけの王子様。
目押はパチンコが趣味の男はやめておけとか言うけど、私にはそんな事どうだっていい。
真面目にパチンコに取り組む姿勢も素敵だし、困った事があったら必ず助けてくれる先輩が大好き。
「あれって……先輩だ!」
あんなに素敵な先輩だから、他の女が放っておかないのは仕方ない。
「えっ……誰、あの女」
もしかしたら私より可愛い子が先輩を誘惑するかもしれない、先輩の事は信じてはいるけれど、不安になるのは女の子だから仕方ない。
「今日はお弁当作ってきてあげたんだからおとなしくこれ食べときなさい」
「お! 悪いね、サンキュ」
「昨日の余り物よ、期待しないでね」
「いつもそう言うけどさ、不味かった事ねぇから期待するなって方が無理だっての! もしかして……わざわざ俺の為に最初から作ってくれてたり」
「い、言っとくけど別にアンタに作ってあげてる訳じゃないんだからね!? 余り物を詰め込んだだけ、ゴミを減らす為に渡してあげてんの!」
「そこまで言わなくても……まぁ、ありがとな、柚月」
何で私の先輩が女とお昼食べてるの?
何で私の先輩があんなに笑顔なの?
隣にいるのは私じゃないんだよ?
私料理も得意です、言ってくれれば毎日作るのに、何でそんな女の作ったゴミ食べてるんですか?
「あんな笑顔、私には見せてくれてない」
先輩は悪くない。
悪くないんだ。
悪いのは全部もっと積極的に行かなかった私と、あの女のせいなんだ。
あんまりグイグイ行く必要は無いって、向こうが好きだって確信しているからって慢心で立ち回って来たのが裏目に出た。
面倒くさい女だと思われるのも困るし、でもこのままじゃ先輩の笑顔があの女に取られちゃう。
落ち着いて、あてら。
仮に先輩があの女に騙されてても……人の物を奪うのは得意なんだから、自信持って。
まずは敵を知る所から初めないとね。
男の影でも、弱みでもいい。
先輩が見たら失望するような物が一つでもあれば私がそれを倍以上の噂にしてアイツを消す。
「すぐに助けてあげますからね、先輩」
私はまず、あの女と仲良くなる事にした。
「あのっ、次の講義の場所が分からなくて、教えてくれませんか?」
「いいわよ、場所が分からないって事は一年生かしら」
「はい、計数あてらって言いますっ!」
「私は柚月よ、花代柚月」
「花代先輩ですね、よろしくお願いします」
名前は花代柚月?
ふざけんな、今すぐ泥棒猫に改名しなさいよ!
「この講義室はすぐそこなんだけど……この講義今日じゃないわよ?」
「ほぇ? ちょっと見せて下さい……あっ、本当だ」
「まあまあ、手遅れになるよりずっといいじゃない! でも予定は確認しないとね」
人の彼氏を誑かそうとする先輩に近づく為にわざわざバカのフリしてんだっつーの!
「えへへ、ごめんなさい」
「それじゃあ私はもう行くわ」
ハァ?
ここで逃がすわけないでしょ?
「待ってください! その、迷惑かけましたから、コーヒーでもどうですか?」
「そんなのいらないのに」
「ダメ……ですか?」
「わかったからその捨てられそうな子猫みたいな目止めてよね!」
「ありがとうございます! 近くのカフェでいいですか?」
移動中、この女について色々と調べた。
裏垢らしき物は無いし、評判も悪くない。
だけど、SNSの投稿は許せなかった。
「カフェラテでいいですか?」
「ご馳走になるんだもの、何でもいいわよ」
「注文してきますから、席とっておいて下さい」
投稿されている写真に先輩が写っている。
しかも先輩が写っている写真には必ずこの女がいて、隣で彼女顔しているんだ。
先輩は優しいから何も言わないのかもしれないけれど、彼女である私はそこまで優しくない。
……問い詰めてみるか。
「カフェラテ2つ、お待たせしました」
「ありがとうございますっ!」
店員からカップを2つ受け取り、女の待つ席に移動した。
スマホを見てニヤニヤしている。
……ウザ。
「何ニヤニヤしてるんですか? もしかして彼氏さんから連絡が来てたとかです?」
「そんなんじゃないわ、ありがとね」
「彼氏いないんですか? 花代先輩とっても可愛いからモテそうなのに」
「残念ながら居ないわよ。そう言うあてらちゃんだって可愛いんだから、彼氏とかいないの?」
「実は最近彼氏が出来たんです! すっごくカッコよくて自分に正直でまっすぐて、真面目だし頭いいし、最高の彼氏が出来ました」
「ちょっと何よそれ、もしかして惚気聞かされる為に呼ばれたのかしら?」
何笑ってんの。
まだとぼける?
悪い所を探して噂流して潰そうと思ったけど、知らないフリとかされたら面倒だ。
先輩をここに呼んで直接決着は……ダメだ、先輩に迷惑かける訳にはいかない。
「そんなつもりじゃないですよ、アハハ」
「羨ましいわ……ねぇ、せっかくだし彼氏持ちのあてらちゃんに相談乗って欲しいんだけど、いい?」
「はい! 私で役に立てるか分かりませんけど……それでも良ければ」
いいわけないでしょ、バカ。
「私にはね……その、言わないで欲しいんだけど、大学に幼馴染がいるの。ソイツの事がね、昔から好きなんだけど、幼馴染以上の関係になれなくて」
「幼馴染なんですか!?」
先輩の幼馴染。
それが本当なら……親しくてもおかしくない。
この女から好きだって発言が無ければ笑って許したんだけど、やっぱり決着つけないといけない。
「そ、そうよ? それでね、アタシはアタシなりに頑張ってアピールしてるんだけど、全然気付かないみたいで……本当に鈍感なのよ」
ため息をついてるけど、それはこっちがしたい事だっての。
「鈍感ですか? ……そうでしょうか」
先輩は私の気持ちに気づいてくれる。
全然鈍感じゃない。
コイツ幼馴染なのに先輩の事全然分かってない。
「それにね! アタシがこんなにも頑張ってるのにアイツこの間他の女と一緒に居たのよ!? 彼女とかじゃ無かったからいいんだけど、あの女の子なんだかアイツと距離近かったし、このままじゃ取られちゃう気がしてきて」
「焦ってるんですね」
先輩モテるんだなぁ……。
後でその女の事先輩に聞いてみるか、この女終わったら次はソイツに決まりだね。
「……そうね、ええ、焦ってるわ。でも何をしたらいいか分からなくて、何かするにしても今の関係が壊れてしまうのが怖くて」
「怖くない人なんて居ませんよ、絶対に失敗したくないからこそ不安だし恐怖してしまいます。失礼ですけど……花代先輩ってあんまり恋愛してこなかったタイプですか?」
「気づいた時からずっとアイツが好きだったから……そうね、全然恋愛とかしなかったわ。それでね、アタシはアイツが他の女の子と仲良くして欲しく無かったから色々頑張ったんだけど、直接は何もしてないわ」
私の彼氏に直接じゃなくても変な事をした。
許せない。
「そこまで一筋だと練習で彼氏作るってのは難しそうですね……うーん」
「練習で彼氏なんて作らないわよ!? そんなに軽い女じゃないわ」
失言もしない。
ボロも出さない。
徹底してて隙もない。
相当ガード硬いな。
「でもここまで来たらアタックするしか無いですよ」
「わかってるわよ! わかってるけど、うぅ……」
「わかりました! だったら私がお手伝いします、先輩の幼馴染さんの好みを把握して完璧なプランを立てます!」
ここで先輩の彼女は私だってバラしてもいい。
でも、ここでバラせばこの女は先輩に詰め寄って、優しい先輩を困らせてしまう。
だったら……。
「大丈夫です、私に任せて下さい!」
「あてらちゃん……!」
「そのかわりと言ってはなんですけど、二つ、お願いを聞いてくれませんか?」
「何でもいいわ! 何でも手伝うわよ!」
「なら、友達になって下さい」
「そ、そんなのでいいの?」
「どんな要求すると思ってたんですか、もぅ」
この女を先輩の好みとは真逆に導いて、先輩に振ってもらおう。
そこだけは優しさを出さないように私からお願いして……うん、それがいい。
「それで2つ目は何?」
連絡先を交換した後で、女が私に2つ目の願いを急かしてきたけど。
「それは困ったら助けてもらう用に取っておきます! もしかしたら試験の過去問下さいとか言うかもしれませんからね〜」
「それぐらいなら言ってくれれば助けるわよ、友達なんでしょ」
「ありがとうございます先輩! 絶対、ぜーったいに恋が実るように頑張りますね!」
貴女を先輩に嫌われるように躾けてあげますね。
2つ目のお願いはその時、諦めて消えろって言うその時まで取っておこう。
私の彼氏に手を出したんだから、それぐらいの罰は当然だ。
あぁ、楽しみ、この女が先輩にこっぴどく振られて、絶望する前で先輩とイチャイチャしたい。
「ありがとね、あてらちゃん」
「はい! あてらにお任せ、ですっ!」
店を出て目押と連絡を取る。
どうやら近くのホールに先輩と一緒にいると教えてくれた。
先輩に近づく女はいないってちゃんと報告も入れてくれている。
「目押から聞きました、今から行きますね……っと、これでよし」
待っててくださいね、貴方の彼女がすぐに向かいます!




