三人の美少女との日常
パチンコを打っている奴はみんなクズだ。
そう思っている人は少なく……いや多いだろう。
実際ろくな人間を見た記憶が無いから当たっていると思うが、俺は、俺だけは違う。
「遊センパイ、それ何枚目?」
「私が見てた限りだと五枚目、五万円目だよ」
「ふっ、私は六枚目。勝った」
「それ私のお金だって事忘れないでね、目押ちゃん。使い過ぎはよくないから」
「勿論。だからこそ返す為にも当てないといけない」
俺は趣味でパチンコを打っている訳じゃない。
むしろパチンコに打たされていると言っても間違いじゃないね。
長時間座っていると腰が痛くなるし、周囲の音は煩いし、当たっていない時のパチンコなんて眠くなってたまらない。
そんなパチンコに、俺は拘束されてるんだ。
「それにしても決して諦めない遊先輩素敵です!」
「私には使い過ぎって言ってたのに、シクシク」
いや決して依存症の言い訳じゃない、絶対に違う。
全て、両親が悪いんだ。
『ごめん! 絶対に増えるって言われて買った株が失敗した。お前のお金も増やしてあげようと思ったんだけどダメだった!』
両親が投資詐欺にハマった事から始まった。
最初は金が増えていたらしく、少しでも俺の貯金を増やしてやろうって考えたんだってさ。
『パスワードは通帳に書いてあったから全額引き出して使ったから、今はゼロだと思う! あ、3ヶ月後に学費の100万の支払いがあるから何とかしてね!』
そして、学費すらも使い込まれていた。
両親に詰め寄ろうとしたが、実家には二人共おらず。
ただ置き手紙だけがあって。
『なので残ったお金で傷心旅行に行ってきます』
ってさ、ははっ。
くたばれ。
「釘は……いいんだけどなぁ」
「パチンコってソシャゲの何回ガチャれば確定で当たる〜みたいなの、天井……でしたっけ? それが無いんですよね」
「あるやつはあるんだけど、今打ってるやつにはねぇな……当たらねぇ」
左隣の後輩、あてらは俺の方を見て少し気まずそうな顔をした。
おそらくだけど、自分は当たっていて、今もなお当たりが続いているから何も無い俺と話しにくいんだろう。
「今800回もハズレてますし、天井のついてる台だけ打つのとかどうでしょうか」
「甘いよあてら、天井がついてる台はね確実に」
「「天井直前でダメな当たりを引く」」
右隣の後輩の目押とまったく同じ事を言ってしまった。
「それってぇ、目押ちゃんのいつものオカルト? ってやつなんじゃない?」
「あてらは初心者だから分からないか……だけどこれは真実なんだよ」
「また始まった……」
そう、天井付きのパチンコはある。
そしてパチンコの当たりと言っても二種類存在するんだ。
「目押の言ってる通りだと思うぞ、天井近くなると急に回らなくなるし、当ったとしても殆ど通常なんだよな」
「通常って確か、ラッシュに入らない当たりの事でしたっけ?」
「そうそう。パチンコは普通当たりが取りやすくなるモード……そうだな、確変とか色々言われてるけど、まぁ今はラッシュって覚えてればいいかな、そのラッシュを目指すんだよ」
「この台だと、55%でラッシュ、45%で通常。つまり約半分で当たりが連続するけど後半分で一回当たってはい終わりって事……であってますか?」
「そうだな、打ち始めてまだ日が浅いのによく覚えてたな、えらいぞ」
「はい! 先輩の隣に居たいので!」
「私も教え」
「目押ちゃん?」
天井のついている台は殆ど天井に辿り着かない。
大体天井まで残り100とかになると当たりだすし、それは殆ど通常だ。
つまり、打たないほうがいい。
だけど、期待値があるなら打つしか無いんだが……。
「そんな事は置いといて、今はこの台を当ててやる!」
「流石先輩! 攻める姿勢が素敵です!」
「でも遊センパイ、そろそろ戻らないと午後の講義あるって言ってなかった? ほら、私と一緒の講義のやつ」
何!?
時間を確認すると……14時20分だ。
まずい、ここから大学まで歩いて10分で、講義は40分からスタート。
つまりここで引き上げないといけない。
仕方ない、ここは引き上げてまた講義終わりに……。
「あ……遊センパイ、先読み来てる」
こ、このタイミングでだとぉ!?
「えーっと、確か先読みって……何個か先の抽選の保留に熱いのがある時に起こる演出、でしたっけ?」
「そう、そして今先読みが起こったって事は私が普段から言っている事の一つ、用事があって切り上げないといけない時にやってくる突然のチャンス現象、通称'遅刻確定"がおきている。そしてこれは確実に」
「目押ちゃんはに聞いてないんで大丈夫っ! 遊先輩、どうしますか?」
「……遊センパイ、あてらはいい人だし可愛いしお金も貸してくれる。優良物件だよ、お金も貸してくれるし」
「目押ちゃん、後でいいかな?」
「……本当に優良物件だから、覚えといて」
いきなり何だよ!
つーかそんな事よりも!
さらにレバーがブルブルと震えるレバブルまで起こってるんですけどぉぉぉ!
俺の台の先読み発生時の当選確率は40%、そしてレバーが震えれば当選確率92%。
これは……もう。
「仕方ない……講義と今この台、期待値で考えれば圧倒的にこの台が上なんだ。なぁに、欠席したってまだ出席には余裕が」
「遊、またここにいたのね」
首根っこ掴まれた。
この声、このバカ力。
柚月だ!
幼馴染にして悪魔の柚月がホールに来やがった!
馬鹿な、何故ホールに来ている事がバレたんだ。
何も言ってないはずなのに……っ!
「待ってくれ柚月! もう当たるんだ、当たったら大学行くから、講義出席するから!」
「バカ、どんだけ遅れて来るつもりなのよ! そんなに遅刻したら流石に欠席になるわよ欠席に! ほら、アタシもこのままだと遅刻するんだから大学戻るわよ」
クソ、何てバカ力だ。
体がびくとも動かねぇ。
「考えてみろ! 目の前の当たる台と大学の休んでもいい講義、どっちに期待値が」
「明らかに大学の講義でしょうが!」
「関節キマってる! これダメだって、洒落にならないタイプの痛みだって! ねぇ聞いてる!?」
「あーもーうるさい! ほら、大学行くって言え!」
「行きます! 行きますから止めてください!」
台がレインボーに輝いてる。
俺はあの台を打ち続ける事が出来ないし、先輩も俺と同じ講義を取ってるから頼めない。
なら……!
「あてら、任せるぞ! 俺の意思と想いと涙と努力の結晶を、どうか頼んだぞ!」
丁度あてらの打ってる台のラッシュが終わっている。
なら、俺の代わりに彼女に打ってもらうしかない。
「先輩……わかりました。あてらはしっかりと先輩の想いを受け止めます」
「ただの確率でしょうが!」
「あ! ダメ! 今変な音した、結構日常じゃ聞かない音が腕からしたっての! 任せるぞ、あてらーっ!」
腕の関節をキメられたまま、俺はパチ屋から退店する。
先輩も打つのを止め、俺についてくる。
あてらは笑顔で俺に向かって手を振り、俺の座っていた席に着席して、代わりに戦ってくれる。
「目押、アイツ、ちゃんとやれるかな」
「大丈夫、私がしっかり教えたからね」
「ったく、ほら遊急ぐわよ! 目押さんもダッシュでお願いします」
「私は後輩だから敬語はいらないです……って、ダッシュ? この18年間運動とは無縁だったこの私が? 遊センパイ、背負って」
「ダメ! 遊はアタシが引っ張るんだから、目押さんは自分で走って!」
「大学には体育が無いって聞いてたのに……騙された」
同じ講義を取っていないあてらを残し、俺達は大学に戻った。
……どうして、こんな事になってしまったんだ。