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058.直訴

「まずは無事任務達成おめでとうリン君」


「ハッ」


 直立姿勢のまま、オスカーに軽く頭を下げるリン。


「それでどうだった。率直なところを聞かせてくれ」


「はい、いずれも私の想像を遥かに超える力量の持ち主でした」


「遥かに?」


 オスカーが少し目を細めてリンを見据える。


「……正直なところ、多少侮っていたのは事実です」


 過去の自分を省みて恥じているリン。


「まぁそれも致し方ないだろう。なにしろ君は普段からヤン君を近くで見ているのだから」


「畏れながら、陛下はヤンのことをどの程度ご存じなのでしょうか」


「ヤン君か。そうだねぇ、ジーグ。どの程度だと思う?」


 オスカーはリンの斜め後ろに控えていたジーグに声をかける。


「おいおい、急に話を振るなよ」


 ジーグのあまりにくだけた口調にリンは一瞬体が硬直した。

 二人が既知の間柄で個人的にも親交があるのは知っていたが、まさかこんな口の利き方をするほどの間柄だとは完全に想定外だった。


 そもそもここにジーグが同席している理由がわからなかったのだが、そういう関係であるならば情報共有ということで納得がいく。

 もっとも、そういうのは自分がいないところで二人だけでやっていただきたいというのがリンの偽らざる心境だったのだが。


「アマギ局長申し訳ない。オスカーはこういうお遊びが好きなんだ。人を緊張させた上で驚かすようなやり方が」


「おい、それはさすがに人聞きが悪すぎる。もっと言葉を選んでくれ」


 半分は本気で憤慨しているような気配のオスカー。


「いつも通りでいいと聞いていた気がするんだが」


 珍しくオスカーが食いついたので面白くなってますます煽るジーグ。


「それはそうだが……御令嬢の前で言い方というものがあるだろう」


 苦虫を噛み潰したようなオスカーの顔を見るのは初めてのような気がする、とリンも緊張が解けてだんだん面白くなってきた。


「だそうだ、アマギ局長」


「……はい?」


 油断しているとすぐこういう反撃を食らう。

 やはり二人とも自分の手には余る。

 早く終わらせて解放してもらいたいと切に思うリンだった。


「冗談はこの辺にして、ヤン君のことだったね。まぁ付き合いが長い分知っていることも多いが、私はこの通りの立場だからもちろん知らないこともたくさんあるだろうね」


 持って回った言い方ではあったが、個人的な感情が感じられる言葉だった。


「私は最近のヤンしか知りません――」


 そこまで言って、自分は何を言おうとしたのだろうかと思い口を噤む。


 そんなリンを見て少し微笑んだように見えたオスカー。


「そうだね。でもこれからは君の方が詳しくなっていくかもしれないよ」


 見透かされたような気がして赤面するリン。


「ほら、そういうところだぞ。御令嬢をいじめる嗜虐的な変態紳士め」


 ジーグに言われて「むっ」と思わず口に手を当ててしまったオスカー。


 その様子を見てリンは急いで俯く。

 吹き出しそうになるのを堪えるのに必死だったのだ。


 んんッ、と咳払いをしてオスカーが仕切り直す。


「ひとまずご苦労だったね。ヤン君の要求はキャサリンに伝えておくよ」


「ありがとうございます陛下」


 ヤンの要求というのは帝国がセインに上がって来るための案内をアノスにお願いしてほしいというものだった。

 凪状態の今なら第二十三階層まではその日のうちに行けるはずなので、なんとか帝国軍に追いついてセインまで案内してもらおうというのだ。


 本来なら自分がすぐに下りていって案内すべきなのだけれど、まだやることが残っているから、とヤンはリンに語っていた。

 その「やること」がなんなのかは今回参加した者ならたぶん誰もがわかっている。


「ところでリン君、我々はこの後少し落ち着いたところで一杯やるんだがたまには一緒にどうかね」


 オスカーが誰かを誘うというのは非常に珍しいことだった。


「大変ありがたいお誘いですが、自分はこれから局に立ち寄るつもりなので」


「そうか、ではまたの機会にしよう。今日はもう結構だよ」


「ハッ。失礼します!」


 頭を下げてからリンは部屋を出て行った。


「フラれたな」


「フラれてしまったね」


 ジーグとオスカーが顔を見合わせて笑う。


「まぁそんなことだろうと思ってたよ。たぶんあれはヤンにも会いにいくだろうな」


「ん? 二人で修行でもするのか」


「おいおい冗談よしてくれ、朴念仁にも程がある」


「お前こそ今日は少し表現が過激すぎるんじゃないか。変態紳士とか朴念仁とか」


「朴念仁は別に過激じゃないだろう」


「いいや、極めて過激だ」


「わかった、わかったから早く行こう。続きは酒が入ってからだ」


「よし、のぞむところだ」


 本当に仲がいいんだなお前ら。

 ちなみに二人が行く先は言わずと知れた『バルベル30』のVIPフロアだ。




* * * * *




 スッと音も立てずにグラスが一脚置かれた。

 メーテルの仕事はいつも完璧だった。


「ありがとう」


 オスカーが礼を言うと、メーテルは軽く会釈をしてザナドゥールのいるカウンターに戻っていく。


「ペースが早いんじゃないか」


 三度目のおかわりだが、別に心配している様子でもないジーグ。


「一応、祝い酒という名目もあるからね」


 オスカーはグラスに口をつけ、スピナーの香りと味の広がりを楽しむ。

 今日は特別に普段のものではなく、十年モノを頼んでいるのだった。


「それでヤンの件はどうするんだ」


 実はリンの報告を受ける前、ヤンがひとりでやってきてオスカーに直訴をしていたのだった。

 明日、上層に入って階層突破(オーバーテイク)を狙わせてくれと――。



「第三十四階層かい。それとももっと上まで?」


 オスカーが尋ねると、ヤンは一瞬俯いて口ごもった後、すっと顔を上げるとオスカーの目をまっすぐ見つめながらはっきりと言った。


「四十階層まで行きます」



「無謀すぎる」


 思い出してまた吐き出さずにはいられなくなったオスカー。

 第三十三階層を突破してから五年間、誰も出来なかったことをやろうというばかりか、六階層連続突破など悪い冗談でしかない。


「まぁまぁ落ち着け。あのヤンが言うんだ。全く根拠がないわけじゃないと思うぜ」


 そう言いながらジーグですら内心無理だと思っていた。

 この塔の歴史上でも、同一チャンレジ内では二階層連続突破までが過去最高なのだ。


「エルのことで焦っているのではないのか」


「どうかな、それはヤンにしかわからないことだろう。オレたちに出来るのは?」


「ヤン君を信じること……か。しかしもし何かあったら……」


 両肘をテーブルについて拳を合わせ頭を乗せるオスカー。

 その苦悩はジーグにも痛いほど理解できた。


「ヤンが言ってたことがもし本当なら、オレも一緒に行って確かめたい」


 自然と口をついて出てきた言葉にジーグ自身が驚いた。

 ヤンはとうちゃん……エルは生きていると言ったのだった。


「行けるのか、上層だぞ」


 オスカーはジーグの身の安全まで心配する羽目になるのは御免だぞという表情で睨んできている。


「これでも元Sランク冒険者なんでね。なんとかやってみるさ」


 そう言うジーグの目は既に覚悟を決めていた。

 あの日、中層で偶然ヤンに出会った時から、いつかこんな時が来るのではないかとジーグもひとり自分を追い込み鍛え続けてきたのだった。


「君が羨ましいよ……」


 そう言ってグラスを煽るオスカー。

 自分も行けるものなら行きたいということなのだろう。


「お前にはお前にしかできないことがあるだろう」


「……そうだな。わかった」


 オスカーも心を決めた様子。

 また特例を出すことになってしまうが、見込める成果の方が遥かに大きい。

 後でアレをジーグに託さなければ、と少し酔った頭に記憶を擦り込む。


「それじゃ、オレはちょっと下へ行って来る」


 ジーグはグラスを一気飲みしてテーブルに置くと、立ち上がった。


「下へ?」


「ちょっとした野暮用だ。すぐ戻るよ」


 そう言って階段を下りて行くジーグを静かに見送るオスカー。

 




* * * * *




 ヤンたちがセインに到着したちょうどその頃、帝国軍チームは第二十五階層の代理主(ボスもどき)を倒したところだった。


「お見事でした閣下」


 エルモンド大佐がボッツ少将の背後から声をかけると、大きな魔石を拾うためにしゃがんでいたボッツ少将が立ち上がった、


「うむ、腕試しにはやや物足りなかったがな」


「ハハハ、閣下も言いますな」


 ハハハと二人で高笑い。

 それをまた笑顔で見守るノックホルト中佐とムンバ少佐。

 ヤンたち本隊と別れる決断をした時の悲壮感はどこへやら。


 唯一エリンコヴィチ准尉だけは仏頂面でキャンプの用意をしていた。

 階層主(ボス)にしろ代理主(ボスもどき)にしろ、倒した後暫くはそのエリアには魔物は出現しないのでキャンプ地には最適なのだった。


 大波の影響がすっかり消えて通常の状態に戻った中層は、凪化ボーナスも含めた幾度ものレベルアップで成長した帝国軍メンバーにとってはレベリングにもやや物足りないくらいの難易度になっていたのだった。




* * * * *




「本気なのかあいつ」


 マルスが怪訝そうな表情で疑問を口にする。


「冗談言うような顔じゃなかったけど、頭がおかしいんじゃないかなー」


 ロスティがなぜか怒ったような口ぶりで相槌を打つ。


「ならお留守番でもしてるか?」


 冷静に、冷酷に告げたのはレオナルド。

 彼は先程やってきたヤンの言葉を真に受けたらしい。


「オレは行く」


 ハリーが簡潔に、そしてきっぱり告げると話はそこで終わったと言わんばかりの空気に変わってしまった。


「アタシも興味あるわ~。こんなの滅多に……いや、二度と見られないかもしれないわよ」


「そうですね。後学のためにも話のタネとしても行かない手はないです」


 ナラクとキリトも最初から賛成派だったらしい。


「オレたちも随分変わったな」


 ロックがぼそりと呟くと、何人かがギクリと体を強張らせた。


「確かにこのダンジョンに入ってから、みなさん口が滑らかになりましたよね」


「何か問題なのか」


 キリトがロックに同調しかけたのをハリーが釘刺す。


「いえ、その逆です。今の方がずっと楽しいです」


「フンッ」


「どうでもいいけどボクはもう削り役なんか金輪際やらないからね! 魔力の無駄だよ」


「無駄ってこたぁないだろ。おかげで随分レベリングが楽だったぜ」


 珍しくマルスがロスティに感謝するような言葉を投げると、ロスティは顔を背けた。


「そうそう、助かったわよ~」


「オレはそろそろ厳しい」


 ロックがまた呟く。


「どうした、珍しいな」


 レオナルドが意外そうに返す。

 出会ってこの方、ロックの弱音など誰も聞いたことがなかったのだ。


「今のオレでは上層の魔物に対して火力不足だ。あのキキの戦いぶりを見て、弓一筋でやってきた自分に疑問を抱いてしまった……」


 まさか、あのロックがここまで弱気になっているとは……。

 誰もが一瞬言葉に詰まってしまっていた。


「魔弓将がそんな弱気でどうする」


 静寂を破るようにハリーが一喝する。


「そうよロックちゃん。アナタには風魔法だってあるじゃない」


「つまらん慰めは無用だ。自分が一番よくわかってる」


 どうやらすっかり自信を失っている様子のロック。


「おいやめろ! それ以上はお前の部下やお前を任命した陛下に対する侮辱だぞ」


 今度はレオナルドが激オコモード。


 さすがにそれを言われるとロックも何も言い返せなかった。


「強くなれ、ロック」


 静かにハリーが告げてこの夜の喧噪は静まったのだった。




* * * * *




「何言ってんだよ、当然オレたちも行くに決まってる」


 ゲイルがやや怒った顔をキキに近づける。


 キキから、明日ヤンと一緒に上層へ行きたいから許可してくれと言われたのだった。


「そうだキキ。お前だけ抜け駆けなんてさせねぇぞ」


 セイラは面白くなってきたとばかりにテンションが上がっている。


七騎士(セブンナイツ)の連中も行くんなら当然オレたちも行くさ」


 エースも乗り気らしい。


「でもギルドが許可するかな。ヤンはまだC級だろ?」


 さすが支部長の義理の息子アーロン。

 そこに一番に気が付くとはなかなか見どころがあるぞ。


「そこは我らがギルマスお得意の特例ってヤツでどうにでもなるって」


 セイラがブチかます。


「おいおい、今のは不敬罪ギリギリだぞ」


 ゲイルが茶化す。


「なんでだよ、オレはギルマス尊敬してるんだ。どこが不敬なんだよ」


「言い方」


 キキもようやくリラックスしたのか、軽口に付き合う余裕が出て来た。


「よぉし、そうと決まれば今夜は飲むぞ! 明日からまた毎日レベルアップだ」


 ハハハハと笑い声が響く。

 いや、今夜はほどほどにしとかなきゃダメだろ。

 大丈夫かセインズ。




* * * * *




 『マグマリオ』の面々は『バルベル30』のいつものスペースで酒盛りの真っ最中。

 セインが封鎖されてから毎晩そんな感じなのだった。

 よほど貯め込んでいたのだろうか。


 そこへ一人の男が静かに近づいてきてマリオを呼んだ。


「すまんがちょっといいか」


 何事かと男とマリオの顔を交互に見るマグマリオのメンバーたち。


 マリオは面倒くさそうに立ち上がると男のところまで歩いて行く。


「ふん、毎度貴賓席で優雅にやりやがって」


 とりあえず嫌味のひとつでもぶつけないと会話が始まらないマリオ。

 いつからこんなに擦れた男になってしまったのだろうとジーグは思い出そうとするが、すぐにその思考を停止させる。


「まぁそういうなマリオ」


 ジーグは馴れ馴れしく肩を抱くような形で『マグマリオ』の陣取ったスペースから遠くに離れた、やや死角になる位置のソファ席まで連れて行く。


 ジーグが座れと言うより先にでーんと深く腰掛けるマリオ。


「で、先輩がオレになんの用だ? 上等な酒でも奢ってくれるのか?」


 実はマリオとジーグの関係にはやや複雑な事情があった。



 新暦一一〇七年に第三十二階層を階層突破(オーバーテイク)したパーティ『漆黒の探究者(ブラックシーカー)』に当時所属していたのが、リーダーのジーグと期待の若手マリオだった。


 二人は兄弟のような師弟関係でパーティのランクアップに貢献しながら自らものし上がっていったのだった。


 そして階層突破(オーバーテイク)した時に同行していた案内人(ガイド)がヤンの父親であるエルだった。


 とても案内人(ガイド)とは思えない獅子奮迅の活躍で、エルなしでは階層突破(オーバーテイク)は難しかっただろうと巷では噂されていたのが、若かったマリオにとっては悔しさを伴った過去として記憶された。


 一方のジーグはこれがきっかけで案内人(ガイド)の道を志すようになったのだが、それはマリオにとってはパーティや自分に対する裏切りであるように感じられた。


 ほどなくジーグは『漆黒の探究者(ブラックシーカー)』を解散して自らは案内人(ガイド)に転身したが、それ以来マリオとはギクシャクしているというのがまぁザックリとした経緯だ。



「それも悪くないな」


 とりあえず相手の気分を鎮めようと、あまり上手とはいえない駆け引きに乗ることを決めたジーグ。


「仲間の分も頼むぜ」


 仲間たちの方に顎をしゃくって見せるマリオ。

 態度も要求もどんどん大きくなってきた。


「ははは、いいだろう。その代わりひとつ頼まれてくれるか」


 さて、これからが本番だと腹に力を入れて軽くジャブを放つジーグ。


「酒代分までなら考えるぜ」


 今のマリオらしい言い草だな、とジーグは苦笑しながら続ける。


「明日上がってくれ」


 マリオが暫し固まる。

 今聞いたばかりの言葉が信じられないといった表情のまま。


「……マジで言ってんのか?」


 やっとのことで絞り出すように言葉を発するマリオ。

 右の側頭筋を汗が伝っているのが感じられた。


「もちろんだ。もう大波は終わっているしな」


 それを聞いたマリオの目がギラリと光を放つ。

 さきほどまでとは全く違った顔付きになっていた。


 さすがに今日の今日の話なので、ごく一部の人間しか知らない情報だった。


「ヤンか?」


 マリオの声はなぜか自嘲的な響きを帯びていた。


「ふふ、さすがだな」


「くそッ!!」


 ジーグが答え終わるより早くマリオはテーブルに右拳を叩きつけて立ち上がる。

 大きな音に周囲の客(といっても近くには誰もいない)が不審げな目を向けたが、マリオは我関せずでそのままもう一度ドサリとソファに腰を落した。


「なんだ、お前にも少しはその気があったのか」


 ここまで感情を露にするとは思っていなかったジーグは心底聞いてみたくなった言葉を投げかけた。


「フン、マスターが泣きついてくるのを待ってたんだが、アテが外れたらしいな」


 少しは落ち着いた口調を取り戻したマリオ。

 その表情はふてぶてしいと取るべきか、ふてくされていると取るべきか微妙な所だ。


「で、返事は?」


 これは早くひとりにしてやった方がいいと考えたジーグが結論を急かす。


「……」


 明後日の方向を睨み付けながら目を合わせないマリオ。


「行ってくれるか?」


 まだ沈黙は続く。

 かれこれ一分近くは待たされて、ようやくマリオが口を開いた。


「三十四階層までか?」


「いや」


 全く予期していなかった答えが返ってきたのでマリオは面食う。

 階層突破(オーバーテイク)のために上がるんじゃないのか?


「ハァ? 階層主(ボス)狙いじゃないなら何しにいくんだよ。遠足か?」


「ふふ、ある意味正解だな」


 ジーグは心底面白そうに相好を崩す。

 遠くまで足を伸ばすのだから確かに遠足ではある。


「からかってんのか?」


 やや怒気を含んだマリオの声。


「そう熱くなるな、マリオ。そういうのは今じゃない」


 いつもと変わらぬ飄々とした様子のままジーグが微笑む。


「じゃあどういうことだ?」


 マリオの問いにジーグは黙って人差し指で上を指す。


 なんのことかわからないといった表情をしていたマリオだったが、はっと何かを理解したかのように顔付きが変わった。


「おいおいウソだろ冗談はやめてくれ……まさか……」


「怖いのか?」


 わざと挑発するジーグ。


「くっ…...アンタ…...先輩はどうするんだよ」


 マリオの先輩呼びについてはまたの機会に譲る。


「もちろん御相伴に預からせてもらうさ。安心したか」


「……ったくどいつもこいつも。物好きにもほどがあるぜ」


 そう言つつも覚悟を決めたのがジーグにはわかった。


「明日の朝、迎えに行く」


「オイ、まだ行くとは言ってねえぞ」


「フッ、気が向いたらでいいさ。じゃあ酒を頼んでくる」


 そう言い残すとジーグは厨房の方へ立ち去った。


「チッ!」


 ジーグの背中に舌打ちをしたマリオだが、その顔は不敵な笑みに変わっていた。




* * * * *




「ヤン君」


 後ろから知ってる声がかかってヤンは笑顔で振り向いた。


「どうしたの、ペクちゃん」


 どうしたのって、お前がギルドハウスから出てくるのを待ってたに決まってるじゃないか何を言ってるんだこの子は。


「あの、わたしこの後どうしたらいいのかなと思って」


「帝国の人たちが上がってくるのを待つか、それともボクたちと一緒に行くか」


 なんの躊躇もなく二択を迫るヤン。

 おい、それはちょっと優しくないんじゃないか。


「わたし、役に立てるのかな。回復は出来るけど」


 ジュノ軍曹の方も既に一方に心は動いているらしい。


「ペクちゃんはまず自信を持つところからだね」


「……」


 ヤンよ、お前ってヤツは……。


「ペクちゃんはどうしたいの」


 どこまでも直球勝負なのか、ヤンよ。


「わたしは……命令もあるし、みんなと一緒に行きたい」


「命令かぁ。命令がなかったら行きたくないの」


 ダメだ、こいつ殴りたくなってきた。


「ヤンくんのいじわる!」


 ほぉらジュノ軍曹もさすがにプンスカピーだぞ。

 女の子を怒らせると怖いんだぞ。

 ヤンよ今こそ学べ、女の子との接し方を。


「え~~なんで?」


 えーじゃありません。

 むしろお前がえーだよ。


「とにかくわたしも行きますッ」


 そういうとジュノ軍曹は背を向けて自分の宿(ギルドが手配してくれた)に帰って行く。


「あ……」


 その背中に手を伸ばしかけたものの、すぐに引っ込めて頭をワシャワシャ掻いて深呼吸すると、ヤンは声だけかける。


「気を付けてね。おやすみペクちゃん」


「おやすみなさい」


 ジュノ軍曹は振り向かずに返事だけ。


 仕方ないなぁとヤンは少し距離をおいて念のため後を付いて行く。

 おおかた送るよと言ってもどうせ断られそうだとでも思ったのだろう。


 そして宿につくまでに二人がどうなったのかも知らない。

 知らないということにしておこう――。

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