045.セブンナイツ
「――以上で入塔ガイダンスは終了となります。ご清聴ありがとうございました。あ、時間の都合上、質疑応答はございませんので悪しからずご了承くださいませ。はい。どうも~、ティナでした~ッ!」
満面の営業スマイルで手を振るティナ。
波のため新規入塔者が激減しており、ガイダンスも一日一回ある程度だったので今日はもうこれで終わりだなーと速攻お役御免モードに入りかけていた。
「あの、ちょっといいですか?」
十代半ばくらいに見える美少年が立ち去ろうとするティナを呼び止めた。
杖を持ってマントを着ているところを見ると魔導士かな、とティナは想像する。
「すみません、質疑応答はないんですよ~。話聞いてました?」
営業スマイルはそのままで軽く毒を吐くティナ。
「そんなこと言わずにお願いしますよ。ひとつだけ」
まるで意に介さず食い下がる美少年。
「しょーがないですね。君のその美貌に免じて特別にひとつだけ。ひとつだけですよ。おかわりはありませんからね」
ひとつだけとやや前屈みに人差し指を立てて腰に手を当て、小さな子供に言い聞かせるかのように話すティナ。
「さすが美人のお姉さん。話がわかるゥ」
にこにこの美少年がティナのパーソナルスペースを越えて急接近。
おお、間近に見るとますます美少年。
無駄にティナのテンションが上がる。
「え~、やっぱり?」
仕事中は極力抑え込んでいるつもりのお調子者が顔をのぞかせる。
だがすぐに頭から冷や水をぶっかけられることになるのだった。
「今って確か波なんでしょ。ガイダンスで全然その事に触れなかったのはこれからダンジョンに入ろうっていう新参者に対してちょっと不親切っていうか片手落ちっていうか、なんだかマニュアル通りのやっつけ仕事かさもなければ単なる意地悪みたいに感じるんだけど本人にその自覚はあるのかな?」
まさかの至近距離からの急所攻撃。
「え? 自覚? 私の? 手抜きってこと? 意地悪?」
絶賛大混乱中のティナ。
背中にはじわりと冷や汗の感触。
「あははは、そんなことな……あらま……ありませんよ。最新情報はこの後の手続きの時に窓口でお伝えすることになってるんですよ。そう、そうなんです。だから重複を避けるためにガイダンスでは敢えて触れていないんですよ。怠慢じゃありませんよ。優しいお姉さんですよ。おわかりいただけましたか?」
序盤のカミカミから立ち直って以降無駄に早口で捲し立てたため、言い終えるなりぜぇぜぇ呼吸を荒げるティナ。
「へぇ、そうなんだ。じゃあいいや」
もう用無しとばかりにくるっとティナに背を向けて他の仲間と共に冒険課窓口へ歩き出す美少年。
崩れかけた営業スマイルを貼り付けたまま固まるティナ。
ご愁傷様です。
* * * * *
「いらっしゃいませ。こちらでご用件をお伺いします」
今日も冒険課の窓口担当は超絶美形ハーフエルフのオリヴィエ嬢。
「ダンジョンに入りたい。手続きを頼む」
見るからに武骨そうな大男が窓口に立った。
新規入塔者のみならず通常の依頼を受注する冒険者も今はほとんど皆無で、最近仕事らしい仕事と言えばオグリム滞在中の帝国軍関連のものくらいだった。
そんなわけでオリヴィエとしても久しぶりのご新規様、しかもかなり期待できそうな気配に少しだけ興奮していた。
「入塔手続きですね。畏まりました。それではこちらの入塔届に必要事項を記入してください」
「あー、これに書くのか。そうか……」
何故か急にキョロキョロと落ち着きをなくす大男。
そこへもう一人、ムキムキマッチョがやって来て大男と窓口の間にスルリと割り込んだ。
「はいはい、こういうのはアタシに任せてハリーちゃんはそこで彫刻のように凛々しく突っ立ってなさい」
「お、おお、すまん」
言われた通り一歩下がるハリーと呼ばれた大男。
申し訳なさそうな顔に恥じらいの表情が浮かんでいるのをオリヴィエは見逃さなかった。
「あら、お嬢ちゃん随分とイカしてるじゃない。ハーフエルフね。きっと殿方にモテモテでしょ。きゃ〜イヤらしい」
もうお分かりかと思うがマッチョは完全なオネエであった。
紫色に染めた長髪を三つ編みツインテールにして顔はわざと失敗したかのような厚化粧。
いかにも中世っぽい白の長袖シャツにピンクのブラが透けている。
派手な黄金の玉模様のブレイズに真っ赤なホーズを履いて、とにかく一度見たら忘れられない奇抜なビジュアルだった。
「なっ……」
さすがのオリヴィエもこれには面食らって言葉に詰まるが、すぐに怒気を孕んだ眼差しを鋭く射るようにして見つめる。
その直後、オリヴィエの顔色がさっと変わった。
「ちょっとアナタ……」
オネエが窓口にぐっと体を寄せるとミスリル製の仕切りに顔をくっ付けるようにして低く抑えた声で呟く。
「なんでしょうか」
背筋を伸ばし毅然と答えるオリヴィエ。
ここでやましさを見せてはいけない。
「なに鑑てんのよ。勝手に覗くのはマナー違反でしょ」
鋭い目でじっと見つめられたかと思うと、次の瞬間パチリとウインクして何食わぬ顔顔で入塔届けを書き始めた。
そのまま硬直するオリヴィエ。
(……この人、いったい何者なの?)
【鑑定】スキルを見破られたのはこれで三度目になる。
一度目はギルドマスターに。
そして二度目はヤンであった。
しかしそもそもオリヴィエの【鑑定】レベル2でもこのオネエのステータスは閲覧不可だったのだ。
高レベルの【隠蔽】スキル持ちか、あるいは魔道具の効果によるものか。
二つの稀有なイレギュラーが同時に降りかかったオリヴィエは暫し固まってしまう。
ようやく我に返ったオリヴィエがふと手元に視線を落とした時――。
「七騎士?」
オネエが記入しているパーティ名を見て思わず声を出してしまう。
「あら、知ってた? もしかしてアタシたちって超有名人だったりするのかしらん」
頬に手を当てて照れてみせるオネエ。
つい先刻見せた迫力など今は微塵も感じられない。
「申し訳ございません。王国のSランクパーティの皆様とは知らず、大変失礼をいたしました」
四十五度まで頭を下げるオリヴィエ。
(まさか今このタイミングで来るなんて。早く支部長に知らせないと……)
「少々お待ちください」
オネエに一言断りを入れると、窓口に『只今席を外しています』の札を立ててバックヤードに回るオリヴィエ。
「ミミちゃん、ポランは?」
近くにいたミミナリスに尋ねるオリヴィエ。
「あ、ポランさんなら今さっきレイさんと出て行きましたけど」
裏口の方を指差すミミナリス。
なんともタイミングが悪い。
と、そこへシドが入ってきた。
「課長、王国の方がいらっしゃってます」
「お、そうか。もう来たか。思ったより早かったな。それじゃあ上の個室で手続きしてもらうといい」
特に驚いた様子もなくいつもと変わらぬ調子で指示を出すシド。
「畏まりました。課長も顔を出されますか?」
「いや、ヘンに勘繰られても困る。君に任せるよ」
個室での手続きはSランク冒険者やパーティの場合は日常的に行われている待遇であったため、それ自体は特に問題ないだろうという判断だった。
「支部長への報告はいかがいたしましょうか」
「ん、今から俺が行く」
「ではお願いします。こちらはお任せください」
「ああ、頼む」
そう言うなりシドはゆったりとした足取りで階段側の扉から出て行った。
オリヴィエも先程のオネエを、いや王国のSランクパーティをこれ以上待たせるわけにはいかないので、足早に受付ブースへ戻るとブース横の片開き戸からロビーに出る。
「お待たせいたしました。上の個室でお手続きいたしますので大変お手数ですが私に続いて移動をお願いいたします」
オネエとハリーと呼ばれた大男に笑顔を見せながら、少し離れた所にいる五人にも軽く会釈するオリヴィエ。
「まぁ! 特別待遇ってやつかしら。なんだか悪いわねぇ。みんなー、こっち来て。移動するわよ」
オネエがメンバーを呼んでくれたのでオリヴィエはひと手間省けたのを喜んだ。
そのまま階段を上がって二階の個室に七人を案内するオリヴィエ。
それをロビーの柱の陰に身を隠していたシンが気配を殺しつつじっと観察していた。
* * * * *
オグリムの支部長室では、本日二度目の報告に来たシドがデスクを挟んでマッカーシーと向かい合っていた。
「そうか、行ったか……」
王国の七騎士が先程入塔したことを聞いたマッカーシーが呟く。
生々しい既視感に襲われて苦笑するシド。
「どうした?」
シドの様子に気付いて声をかけるマッカーシー。
「いや、いつぞやもこんなやりとりがあったなと思いまして」
「ああ、帝国の時か。そう言えば連中、昨夜エンダに到着したらしいよ」
マッカーシーは昨夜と今朝の二度に渡って塔通話でデンデロークス支部長から報告を受けていた。
今朝の連絡時にはいつもよりやや調子が良くない感じの話し方だったが、遅くまで仕事だったのかもしれないと思い「あまり根を詰めるなよ」と伝えたのだがそれにも乾いた短い笑い声が返って来ただけだった。
「そうですか。意外に早かったですね」
「君はもう少しかかると踏んでたのか」
「ええ、まぁ。おそらくヤン君たちが頑張りすぎたんだと思いますね」
「ははは、それはあり得る。保安局の二人もいることだし」
はははと二人が共に笑い声をあげる。
この場所においてはすこぶる珍しい光景だったと言えよう。
「それで、王国のお客さんの方はどう見る?」
真顔に戻ったマッカーシーがシドに尋ねる。
「あれは帝国とは比較になりませんよ。所謂化け物ってヤツです。うちのギルドの冒険者じゃ到底敵わんでしょう」
「それほどか! Sランクパーティとは言え、そんなに差があるものかのかね」
「ありますよそりゃ。Sランクは他のランクとは違って青天井なんですから。同じSランクでもどれくらい力量差があるかなんざわかりゃしませんよ」
「そ、そうなのか……そこまで……」
シドの剣幕に気圧されて言葉に詰まるマッカーシー。
マッカーシーは冒険者上がりではないが、こと冒険者のことに関する限りは冒険者(元冒険者)の意見を何よりも信用するというスタンスで一貫しているので、シドもその点は上司として信頼に足る資質だと認めているのだった。
「それはそうと、万が一底層で帝国と王国が鉢合わせしたらいったいどうなるのかね?」
マッカーシーが今気が付いたとばかりに尋ねてくる。
そもそも帝国軍がこの時期底層を探索していることなど当初の想定にはなかったのだ。
「そこまでは俺にもわかりませんよ。普通の王国民なら問答無用で斬り合いになりかねませんが、さすがにSランクパーティの連中ともなれば多少の分別は弁えてると思いたいですね」
「多少の分別ねぇ……」
どうにも不安な様子のマッカーシーだが、別に迷宮内で帝国と王国が争ったとて何が問題なのだろうかとそもそもシドは思っているので今ひとつピンときていなかった。
「ああ、でもうちの案内人が巻き添えを食らうのは勘弁してもらいたいですね」
「王国につけた案内人は予定通りなのか?」
「ええ。本人は相当ゴネましたけどなんとか言い聞かせました」
「うむ。してアマノ隊長はこの事は?」
「思う所は色々ありそうでしたが、彼も連中のヤバさは感じ取ったようなので無茶はしないそうです」
「そうか……アマノ隊長をしてもか」
「そりゃそうですよ。アレに太刀打ちできるのはヤンくらいでしょう」
「おおッ、そうか! 彼なら太刀打ちできるのか。そうかそうか、それは良かった」
何が良かったのかよくわからないがシドはそれ以上触れないことにした。
王国の化け物とヤンとが相対するような事態はさすがに想像したくはなかった――。
* * * * *
「おい、もう少し早く歩けないのか」
前を歩く案内人に苛立っている大男はハリー・オルヴァン三十二歳。
七騎士のリーダーだが、本来の身分は聖アリアルド王国近衛騎士団の団長。
レベル47と王国でも最上級の強者であり『王の盾』との異名をとる彼は、国王ヘルムナント三世の信頼も厚い王国三英雄の一人であった。
「見てわからないの? これでも走ってるのよ、ずっと」
B級案内人レイチェル・シャーマインが心底忌々しそうに吐き捨てる。
波とかいう現象のせいで思うように仕事が出来ないため、一番下のオグリムなら楽な仕事にありつけるだろうと思って下りてきたのに仕事はないわ、やっと声がかかったと思ったらよりにもよって王国の冒険者の担当とはこの迷宮に来てからというもの、つくづく自分はついてないと半ば逆切れに近い状態で走り続けていたのだった。
「だいたいアンタたち、何かズルしてるでしょ。それでよく人に遅いとか言えるわね」
レイチェルは先頭を進んでいたのであまり意識していなかったが、振り返って見るとこの王国の連中は普通に歩いているように見えて走っている自分と同じ速度で移動していた。
スキルなのか魔法なのか魔道具の効果なのかはわからないが、とにかく普通ではなかった。
「遅いとは言っていない」
ハリーが憮然として反論する。
確かに「遅い」という言葉は使っていないが、子供の屁理屈レベルの言い草にレイチェルは呆れるしかなかった。
「前方、魔物多数」
ハリーの後ろにいた細見のイケメンが警告を発する。
ロック・ブルー・ホッパー二十五歳はレベル43の魔弓将で、本職は王国弓兵団の団長。
通常の矢と魔法矢の両方を扱う魔導弓の使い手で風魔法も得意とするスピードに秀でた遠距離アタッカーで『ウインドマスター』の異名をとる。
比較的口数は少ない方で、コツコツ努力する真面目な不言実行タイプ。
【気配察知】レベル3持ちなので、パーティの索敵担当でもあった。
「アタシに任せなさぁ~いッ」
後方から繰り上がってきたオネエはナラク・ビルクトゥス三十歳。
こう見えて王国騎士団の団長であった。
団長不在の現在、団員たちがさぞかし伸び伸び過ごしているであろうことは言わずにおいていただきたい。
これでもレベル43の聖騎士で『百花繚乱』の異名をとり、マッチョな肉体には似合わない華麗な剣捌きが持ち味。
すぐに目の前がひらけて大部屋に出たところで、ナラクが飛び出そうとした瞬間――。
「いっけぇぇぇぇぇッ!!」
後方からボーイソプラノと同時に派手な射出音が重なるように響く。
ロスティナンド・ヒューロガルデュスは若干十七歳にして王国魔導士団の団長に任命された建国以来の天才魔導士である。
ほとんど全属性の魔法を習得しているのに加えて極めて希少な【属性融合】スキルによって複合魔法まで使えるのが最大の持ち味。
尚、早くから持てはやされたために若干天狗になる傾向があり、生来の軽薄な気質と相まって敵を作りやすいのが珠に瑕であった。
ちなみにパーティ内ではロスティと呼ばれている。
「ちょっとォ、危ないじゃないのよォ」
頭の上を炎槍が数十本、音を立てて飛んでいくのを首をすくめて見送ったナラクがロスティに抗議の声を上げるも、当の本人はどこ吹く風。
炎槍が叩きつける雹のように十三頭のキバウリに襲い掛かる。
キバウリたちの体が一瞬にして炎に包まれると、肉が焼ける香ばしい匂いと共に激しい炎の熱気がこちら側まで届いて来た。
炎槍直撃のダメージと発火後の継続ダメージでほとんどの個体は地面に這いつくばるか、のたうち回っているが、息の根を止めるまでには至っていなかった。
「あれ? まだ死なないんだ。結構体力あるんだね、あのジャイアントボアたち」
ロスティがちょっと不満げに口を尖らせる。
迷宮固有種のジャイアントボアを知っているだけでも大したものだが、ある程度の特性まで把握しているような口ぶり。
「おそらく波という現象の影響ですね。レベルが4もあります」
冷静に分析したのはキリト・オルト・アマステルク二十四歳。
彼は王国の兵士ではなくアズール神殿の大神官で、王都オラトリオにおける大神官序列第三位の高官である。
若くしてその地位まで上り詰めたことで『アズールの暁』と呼ばれている。
尚、アズール神殿とは所謂宗教ではなく、アズール神という古くからの言い伝えにある神を崇める民間信仰のようなもので、この大地に生きる全ての民の健康と生活の安定を支援するために世界各地に神殿を建て、慈善活動を行っている。
という建前のもとにまぁ色々とやらかしているらしいのとの噂もあり。
「えー、こんな序盤も序盤でいきなりレベル4? だいたいこのジャイアントボアって確か下層や中層の魔物のはずだよね」
ロスティがますます口を尖らせる。
「ですから波という現象の影響で、下層の魔物が底層に出現するようになっているのです」
ギルドの個室で一緒に説明を聞きましたよね、と言いたいところをキリトは我慢して忍耐強く相手を続ける。
「ほんとにややこしいなぁ。しかもレベル4て」
ロスティとキリトが言い合いをしているその隙に、ロックが弓で次々とトドメを刺していく。
「ああッ!! ちょっとやめてよロック。ズルいよボクの獲物なのにィッ!」
気付いたロスティがロックの前に飛び出して邪魔をしようとするが、ロックは素早く軸をズラして矢を射続ける。
あのキバウリの硬くて厚い皮を突き破るロックの弓矢の威力は凄まじいものだった。
「フンだ。ロックのバァ~カ。バカバカバァ~カ」
攻撃を止められないと諦めたロスティはひらすら罵倒する作戦に切り替えた模様。
本当は同じくらいの速度で魔法が打てるはずなのにやらずに小競り合いを楽しんでいる風でもあった。
「ロスティさん、そんな事言ってはいけませんよ」
「いいんだよ、ロックが悪いんだから。ボクは被害者じゃないか。どうしてボクを責めるんだよ。アズール神様はボクみたいな可哀相な子を助けてくれるんじゃないの?}
「アズール神様は下界の些事にはいちいち関わりませんよ。そのために我々神官がいるのです」
いついかなる時も忠実なる使途たらんとするキリト。
「なら今すぐロックを止めてよキリト。これ以上ボクの獲物を横取りさせないで」
ロスティが茶番を演じている間に、ロックが最後の一頭を仕留めて戦闘終了。
「ああああああッ……」
その場に座り込むロスティ。
果たしてどこまで本気なのかは誰にもわからない。
面倒なのは一人置いたまま、パーティは前進して魔石を回収する。
「おいロスティ、置いてくぞ」
いつまでも座り込んでいるロスティに声をかけたのはマルス・オクタヴィア二十歳。
レベル37の狂戦士でウォーハンマーが武器という変わり者。
本職は王国の親衛隊に所属する兵士。
このマルスと前述のキリトの二人だけはまだ冒険者ランクがAだった。
それでも年齢を考えればありえないほどのレベルなのだが。
「は~い」
急に機嫌が直ったかと思うとすっくと立ちあがり走ってメンバーに追いつくロスティ。
全く以て食えない少年である。
「おい、早く行け」
ハリーに急かされてレイチェルがまた走り出す。
底層のメインルートは通路の両サイドが塗料でわかりやすく光っているので、まだ迷宮に入って二年目のレイチェルでも一切迷う心配なく移動できるのがありがたかった。
しかしそれは即ち、案内人の存在意義に関わる問題でもあり、新参冒険者が案内人なんて必要ないと勘違いしてしまう最大の要因なのだが、今日のような相手の場合は勘違いではなく完全にその通りになってしまっていた。
絶対に問題を起こすなとポランやシドから釘を刺されていたものの、果たしてスタルツに到着するまで我慢できるかは極めて怪しい状況になってきているのを自覚するレイチェルだった。
最後に、ひとりだけ漏れているメンバーがいたので紹介しておく。
背中にかかるくらいの見事なプラチナブロンドのくせっ毛が目立つ美男レオナルド・フォン・アルサック二十八歳。
『氷王』の異名をとるレベル44の魔剣士で、王国親衛隊の隊長を務めるこれまた王国三英雄の一人。
普段は冷静沈着頭脳明晰なクールキャラだが、いざ戦闘になると冷酷無比で苛烈な戦いぶりに敵だけでなく味方まで震え上がらせる。
今回の遠征については否定的な立場だったが王命により仕方なく参加しているため、道中はほぼムスっとして不機嫌だった。
以上が聖アリアルド王国最強と言われるSランクパーティ、七騎士のメンバーである。
一行はこの後も何ら苦労することなくスイスイと底層を進み、無事スタルツまで到着するのであった。