013.緊急救難信号(三)
オンドロは真っ暗な闇の中を歩いていた。
薄汚れた緑のマントを羽織っている他は極めて軽装で装備と呼べる装備も身に付けていない。
唯一、太い革ベルトに下げているのがあまり上質なものには見えない剣一本。
剣の反対側の腰部分にはコンパクトなウェストバッグ。
警護任務の途中でフラッと出てきたため、本当にただそれだけであった。
まぁ真っ暗なのでどうせ誰にも見えないのではあるが。
「何が護衛だ。毎日毎日ボーッと突っ立ってるだけじゃねぇか。エラそうにクソジジイが」
「んなクソだりぃ仕事なんざやってられるかっつーの。真面目かッ」
誰に聞かせるでもなく、かといってまるっきり独り言とも思えない口調で愚痴を垂れ流し続けるオンドロ。
「せっかく来たんだから魔物の一匹や二匹くらいご対面といきたいもんだぜ」
「オレだってガキじゃねえんだ。底層の雑魚くらいサクッと殺ってやるっての」
自分もたかがEランクの雑魚にすぎないという事実は棚に上げて全力でイキり倒すスタイル。
「つーか魔物どこよクソだりぃ。オレぁ狭いとこも暗いとこも全然構わねぇけど、わざわざ好き好んで入ってくほど物好きでもねーんだよ」
「あーあ、女の家んなら喜んで入ってくんだがなぁ……」
オンドロが歩いている場所は第八階層採掘ポイントαから更に奥へ進んだ辺り。
当然メインルートからも大きく外れているので光源もなく周囲一帯は完全な闇であった。
灯りなどの道具類は一切持っていないにも関わらず、オンドロは何不自由ない様子で自然にスタスタ歩いている。
果たしてその種明かしはスキルだった。
極めて特殊で激レアなスキル【音波】を所持しているオンドロは人間には聞えない非可聴域の高周波音を発してその反響音を解析することで視覚に頼らない状況把握を可能にする能力を獲得していたのだ。
この【音波】というスキルは非常に使い勝手がよく、このように闇の中を不自由なく歩く他にも、索敵、広範囲な地形把握、罠の察知などに応用可能な上、戦闘補助として一時的な行動阻害に使ったりすることも出来るのだった。
しかし今のところオンドロは自らのスキルについて積極的に学ぶでもなく検証するでもなくましてや訓練で伸ばしたりするなどという努力は全くただの一度もした試しがないのだった。
単なる気まぐれで感覚的に本能の赴くままなんとなく適当に使いこなした気分になっているだけなのだが、当の本人はそれで充分満足しているので我々の心配も苛立ちも余計なお世話なのである。
「オイ魔物! とっとと出てこいや。ビビってんのかオラ」
威勢のいいことを言っている割には声は先ほどまでと比べると随分遠慮がちだわ、終始全方向に音を飛ばし続けて厳戒態勢のオンドロ。
ピコン。
ソナーに反応があった。
ビクッとしてオンドロの足が止まる。
フリーズ。
ピコンピコンピコン。
立て続けに反応が複数。
もうオンドロは心臓バクバク汗だらだらで、相変わらずフリーズしたまま。
「な、なんだよ、ちゃんといやがるじゃねぇか。そうこなくっちゃな……」
減らず口だけは健在のようで逆に感心する。
少しするとオンドロは多少冷静になったのか、スキルで自分の現在地とその周囲の地形把握と反応のあった魔物の座標を改めて把握する。
「意外と近くだな。ったくどこに隠れてやがったんだか」
隠れてもなにも、お前が近づいてきたから反応したのではないのか。
「フッ、こいつぁおあつらえ向きだぜ」
最初に反応した一つがオンドロのいる方へ近づいてくる。
他のはまだ特に動きがない。
「さぁ、来やがれ。オンドロ様の経験値になりな」
剣を抜いてT字路の角で待ち構える。
「らぁッ!」
ザシュッ!
振り下ろした剣が命中。
動きの鈍ったところへトドメの突きを食らわせて討伐完了。
「一丁上がり! ハッ、余裕じゃねぇか」
目が見えているわけではないので魔物の姿は視認できないが、サイズや形状からチャッキーだろうと推測。
事実チャッキーだったのだが、果たしてそんなやり方で大丈夫なのかオンドロ。
「今までは単にいまいちヤル気にならなかっただけで、オレだってその気になりゃ底層の魔物ぐらい楽勝なんだっつーの。ハハッ」
他人が聞いたらさぞかしみっともない言い訳に過ぎないのだが、彼は今一人悦に入ってる状態なので関係なし。
だいたい今しがた倒したチャッキーはこの高潮の最中珍しく生き延びたレベル1個体だったのだが、オンドロには魔物のレベルを判断できるような知識も経験も完全に不足しているのだった。
「さぁどんどんいきますか」
調子に乗ったオンドロが複数反応のある地点へ近づいていく。
ピコン、ピコンピコン、ピコン……。
「ん? あれ?」
オンドロが魔物反応に近づいていくと新たに魔物らしき反応が次々と現れた。
その数優に十を超えている。
「ワッチュ。こりゃちょっとやべーかな……」
イヤ、ちょっとじゃねーよ、死ぬぞお前。
初歩的なリスク判断すらロクに出来ないからこそ未だにEランクなのだ。
しかし残念ながらというべきか、この男にはまだ秘密があるのだった。
そしてそれこそが今までこんなダメ男でも生き延びてこられた所以でもあった。
複数の反応がこちらに近づいてくる。
一方向からではなく、前から後からそれぞれ複数である。
オンドロは背中のマントをすっと手に取ると、壁の窪みになっている部分へピタリと体を密着させ、マントで体を覆うように隠した。
オンドロの気配が消えた。
薄くなったのではなく完全に全くゼロになったという意味だ。
チャッキー五体ほどがオンドロの前を右から左からワラワラと通過していく。
魔物であるチャッキーの感覚を以てしても、オンドロには全く気付く様子がなかった。
「ふぅ、行きやがったか。危ねぇ危ねぇ」
これがオンドロのもう一つのスキル【隠れ身】である。
【隠密】などと違って効果発動中は移動できないのが難点だが、体の半分以上を隠すことが出来れば完全に気配を遮断できるという便利なスキルであった。
しかも発動後、移動さえしなければ最大六時間は効果が持続する。
視覚上も認識阻害のような効果があるらしく、隠しきれていない部分についても完全に見えない状態になるのでこのように危機回避能力としてはそれなりに有用なのだ。
オンドロが普段このスキルをどのように使っているのかについてはあまり考えたくはない。
しかし一難去ってまた一難。
今度はオンドロの把握できている全ての反応が同時に動き出した。
【隠れ身】を解いたことで気配を察知されたのか。
もう一度【隠れ身】を使うか。
だが、この様子ではしばらく身を隠し続けないといけないし、いつ動けるようになるか全く見通しが立たない。
「チッ」
舌打ちをするとオンドロは動き出す。
少し先に広い空間があるようなのでそこなら狭い通路より選択肢が増えるかもしれない。
するとオンドロの行く手に反応がひとつ。
「しょーがねーなー」
先程余裕で倒せたのだからと今回も一体ぐらい何とかなるだろうとさほど警戒もせず剣を構えて近寄る。
「おらぁッ!」
バシッ!
剣を振り下ろすが、魔物の体が硬くて剣が通らない。
「なんでだよ!」
バシッ! バシッ! バシッ!
半ば絶叫しながら繰り返し斬り下ろすが何度やってもダメなものはダメなのだ。
最初に倒したのはレベル1チャッキー。
いま目の前にいるのはレベル3チャッキー。
万年E級冒険者のオンドロには荷が重い相手だった。
すると、これまでオンドロの為すがままにしていたチャッキーが不意にダッシュ。
「ぐわぁッ!」
至近距離から腰の辺りに突進攻撃が命中したオンドロが壁にバウンドして地面に倒れる。
「イテぇ……チクショウ。なんなんだよこのクソチャッキーが。さっきと全然違うじゃねぇか……」
半泣きになりながら辛うじて立ち上がるオンドロ。
反転したチャッキーが先程より充分加速してこちらに向かってくるのを察知する。
オンドロ最大のピーーーンチ!
だがまたしても残念なことに、ここでオンドロの第三のスキル【逃げ足】が発動。
このスキルは敵意のある相手から逃走している間にだけ発動するパッシブスキルで、迫る脅威に応じて何の対価もなく自動的に加速したり跳躍したりという非人間的な効果が得られるというもの。
但し、発動するためにはあくまでも逃げる、相手と戦わないという強い意思が必要とされ、中途半端な思考状態では発動しないという極めてグレーな謎制限が存在するのだが、今のオンドロの場合は何の迷いもなく逃げる一択。
「クソがッ! クソックソッ!」
ひたすら悪態を吐き続けながらチャッキーに背を向け、【逃げ足】で逃走するオンドロ。
チャッキーをどんどん引き離すほどの猛スピードで通路を爆走。
魔物反応と少し距離が取れたからと一安心したのも束の間――。
「やっべ……」
広間に出たところでようやくオンドロは自らの判断ミスを自覚する。
オンドロとほぼ同時に反対側から広間に進入してきた魔物の反応が他のものとは桁違いであることに気付いたのだった。
考えるより先に体が動く。
オンドロはくるりと回れ右をすると全速力で撤退。
案の定後方から例の反応が猛スピードで追ってくるのが分かり、背筋が凍る。
【隠れ身】を使っている余裕はない。
背中のすぐ先に魔物が迫ってきているからだ。
さっきまで追ってきていたチャッキーと鉢合わせしたが、なんと軽々跳躍して飛び越えるオンドロ。
これも【逃げ足】の効果なのか。
ヤツらが後ろで正面衝突するのを一瞬期待したが、デカイ反応は何事もなくすり抜けて追ってくる。
現在オンドロを絶賛追尾中のこの強敵――実はクロチャッキーなのだが――何やら急に足が速くなった獲物を見て、周辺の全チャッキーに対して獲物の逃げ道を塞ぐよう指示を出した。
あっという間にオンドロ包囲網が完成されていくのを音波で知覚し、益々焦るオンドロ。
「クソがッ……」
ハイ出ました得意のクソ発言。
【逃げ足】効果で少し距離を稼いだところで、右手に小部屋のような空間があるのを発見したオンドロはひとつ考えを思いつく。
この任務につく前にスタルツの露店で買った魔物寄せの香。
アレをここで焚いて魔物を集めれば通路が空いて逃げ道がラクになるはず。
オンドロは5m四方ぐらいの小部屋に入るとウェストバッグから魔物寄せをあるだけ取り出し、厳重な包装をバリバリ破り捨てると全部地面に置いて火砂を指でまぶす。
火砂というのは火をおこすための魔道具で、火の魔力を含ませた砂を指でこすって火をつけたいモノの上にまぶすと発火するという便利なものだ。
すぐに香に火が入ったのを確認すると、オンドロは小部屋から少し先の壁の窪みで【隠れ身】。
全魔物の反応がすごい勢いでこちらへ移動し始めたのを確認してニヤリとほくそ笑むオンドロ。
ただ、把握している範囲の外からも魔物が集まってきているらしく、どんどん反応が増えていくのには若干不安が募る。
小部屋の中には既に反応が十以上集合している。
クロチャッキーは移動速度を落としたようで、ゆっくりと近づいて来ている。
(よし、アイツが入ったら移動しよう)
……………………
……………………
いつの間にか小部屋の周辺に三十近い反応が集まっていた。
そしてまだまだ新たな反応は増え続けている。
(どんだけ湧いてくるんだよ)
(ちょっと近過ぎたな。もっと離れておくんだった……)
オンドロの周辺エリアの魔物密度がどんどん高くなってくる。
しかも次から次へと新しい反応が増えている。
ということは――。
いつまで経っても逃げるルートが確保できないどころか、どんどん事態は悪化する?
そしてここでとうとう致命的な問題に直面してしまうのだった。
一抹の不安に駆られたオンドロがひっそりと呟く。
「ステータス……」
----------------
オンドロ・ヴィヴリアージュ LV(14)
年齢:22
職業適性:兵士 LV(2)
体力:121/132
魔力:57/58
状態:通常
スキル:2/55
音波 LV(3)
隠れ身 LV(2)
逃げ足 LV(2)
----------------
「やべぇ、もうスキルが2ポイント分しか使えねー。詰んだなこれ」
下手に動いて途中でスキル使用不可になったら完全に死ぬ。
このまま【隠れ身】で身を隠しつつ、【音波】で状況把握しながら待つしかない。
ちなみに【音波】のスキルの方は一度効果を発動したら停止するまでこれも最大六時間は効果が持続するのだが、他のスキルを発動する際に一旦効果が切れてしまうのが唯一の難点であった。
今現在は【隠れ身】使用中に【音波】を再発動したので、以後は両方持続している状態。
魔物寄せの効果がどれくらい続くかわからないが、ワンチャン採掘現場に戻るルート上の魔物が最少になったタイミングで最後の賭けに出るというのがオンドロに残された最後にして唯一の策だった。
……………………
……………………
(クソがッ、全然減らねぇじゃねーか)
(てか、むしろどんどん増えてやがる)
……………………
……………………
オンドロの心は半分折れかけていた。
ワンチャンが訪れる時は本当に来るのか。
もう何時間も経ったような、それでいてまだ数分しか経っていないような。
永遠とも思えるような我慢の時間が続く――。
* * * * *
(……ん? なんだ?)
ほぼ自我消失の危機にあった中でオンドロがそれに気付いたのはたまたま、全くの偶然であった。
【音波】スキルで検知可能な範囲を埋め尽くすのではないかと思ったほどの魔物の数が、尋常ではない速さで次々と消えていく。
(一体なにが起きてやがる……)
何かが魔物を倒しているのだとしても、その倒している何かの反応がない。
音波で捉えられない存在。
そんなものがいるのか?
どんどん減り続ける反応を感じながら、それでもまだ身じろぎもせずじっと息を潜めるオンドロ。
これはもしかすると魔物よりヤバいヤツが自分を狙って近付いてきているのかもしれない。
そうこうしているうちに魔物の反応がゼロになった。
(全滅したのか……? あれだけいた魔物が、こんな短時間で)
一瞬、頬に風を感じた。
「ねえ」
いきなり耳元に子供の声。
「ひぃやああああッ!!!!」
恥も外聞もなく両手両足をバタバタとさせて飛び上がったオンドロは激しく尻から落ちるとそのまま後ろ手にザザザと三mほど後ずさる。
【隠れ身】で使っていたマントがひらひらと上から落ちてくるが暗闇なので見えない。
我に返ったオンドロが慌てて音波で確認すると、小さな人らしき反応が返ってくる。
(こ、子供……?)
「あーびっくりした。突然大声で暴れないでよね」
やはり子供の声だ。
「だ、誰だお前。何モンなんだよ……」
「ギルドから来たヤンだよ」
「ギルドから? 冒険者か?」
「ううん、案内人だよ」
「案内人だと? あのなんとかってガキの仲間か」
話が通じるのがわかってだんだん素に戻りつつあるオンドロ。
ふと大事なことを思い出した。
「待て、案内人がなんでオレのスキルに反応しなかったんだよ」
今さっきからは反応するようになっているから、何かスキルでも使っていたのだろうか。
「スキルって音波ってヤツのこと?」
「なっ、なんでお前がそれを知ってるんだ!?」
「あーそれはまぁ。うん、色々と」
「は? 色々となんだよ」
「ごめんなさい。さっき身元確認のために見ちゃったんだ。」
「見たってなにを?」
「ステータス」
「お前……鑑定持ちかよ、クソッ」
「ボクもお兄さんのスキルのこととか秘密は守るからお兄さんも鑑定のことは内緒にしてくれると嬉しいなー。ね?」
(なんなんだこのガキ。妙に馴れ馴れしいわ小賢しいわ……キモッ)
「ね?」
わざわざ念を押してくる。
闇の中なのに圧が凄い。
「わーったよ。言わねえからお前も約束守れよな」
「うん、約束! ありがとう!」
「クソ、なんか調子狂うガキだな。お前、名前は?」
「ヤン。さっきも言ったけど」
「いちいちうるせーな。こっちはそれどころじゃなかったんだよ。お前のせいでな」
ああ、喉元過ぎればなんとやら。
「お兄さんはオンドロっていうんでしょ」
「ふん、そうだよ覗き見野郎」
オンドロの悪態がノンストップ。
「口が悪いなぁ」
「うるせえ、余計なお世話だっつーの」
「魔物使って悪さしたのもオンドロなの?」
「何だよ悪さって。オレはなんにもしてねーよ。てかなんで呼び捨てなんだよ!」
「えーだって悪い人にさん付けとかイヤだよ」
「だから悪くねーって」
「口!」
「ハァ?」
「口は悪いよね」
「んだよ、別にちょっとくらい悪いから何だってんだよ。これくらい普通にゴロゴロいるだろーが」
「他は関係ないよ」
「は? なんでだよ」
「今はオンドロとボク。二人しかいないんだから二人の問題。他の人は関係ないよ」
「ぐっ……」
十歳の子供に完全にやり込められるオンドロ二十二歳。
ダブルスコア超えてるぞ。
理屈が合ってるかどうかより、真っ直ぐ濁りない声と言葉に気圧されて反論できないオンドロ。
「と、とにかく魔物のことはオレとは関係ねーよ」
「うーん、でもなぁ」
「でもなんだよ」
「向こうに魔物寄せを大量に使った後があったんだけど、あれオンドロだよね」
「……あれは……」
(こいつ全部見えてやがるのか)
「違うっつってもどうせ信じないんだろ」
「うん、だってウソだもん」
「クッ……」
(なんでもお見通しのクソ馬鹿真面目なガキかよ、面倒くせーなオイ)
「オンドロがアレやったせいでこのエリア中の魔物が集まってきたみたいだね。で、どうするつもりだったの?」
「その前に一つ教えろ。魔物は全部お前が倒したのか?」
「うん」
「どうやって?」
「どうって、バーっと近づいてガッとやってボーンって感じ」
「……ふざけてんのか?」
「え、なんで?」
「んなんでわかるわけねーだろ! 真面目に答えろクソがっ」
「オンドロだってクソクソうるさいし汚いよ。大人なんだからもっと正しい言葉を使わないと」
「あーイライラするわー。いちいち口答えすんなっつーの。ガキはガキらしく黙って大人の言うこと聞いてりゃいいんだよ!」
我慢の限界突破で立ち上がり怒鳴り散らすオンドロ。
またも一瞬の風が頬に当たる。
「うるさいよ」
耳元より少し低い位置で、今までとは雰囲気の違う硬く冷徹な声。
へなへなと再び座り込むオンドロ。
秒殺で心を折られてしまったらしい。
「次悪い口やったらお仕置きね」
元の無邪気な口調に戻ってはいたが、内容は物騒なものに聞こえた。
「…………」
半ば迷い、半ばまだ僅かに残る反抗心により答えないオンドロ。
「返事は?」
軽い口調なのにやはり圧が凄い。
「わーったよ」
「違うでしょ。返事ははい」
「……はい」
「そうそう、その調子。やれば出来るじゃん」
さっきまでのオンドロならここでまたイラついていただろうが、今は心が無風状態。
束の間己の感情を殺して相手に逆らわないようにしようという自己防衛本能。
「じゃあ今から戻るけど途中で魔石を拾いながら行くからオンドロも手伝ってね」
「……はい」