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最果ての先のシンアル  作者: 秋真
第一章
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3 『ふつうの石』(前半)

「お待たせー!! ごめんね、遅れて!」


 体育の時間に聖依奈が言っていた通り空が曇ってきていた。


 ポツポツと降りだしてきた中、俺は「石上(いそのかみ)神社」と書かれた石柱の前で半目で「遅い」と一言文句を言った。


「聖依奈から誘ってきたくせに」

「だからゴメンって。急に生徒会で集まろうって話になって……」

「はいはい。大変だなー、優等生は」

「またそうやって陽斗君は……。私が優等生って言われるの好きじゃないって分かって言ってるよね?」


 聖依奈が少しムッとした顔をしたので俺は目を逸らす。


「予報通り降りだして来そうだな……。早く終わらせちゃおうぜ」

「はあ……。またそうやって誤魔化して。まあでも本当に降ってきちゃいそうだし早く終わらせちゃいましょう」


 聖依奈と並んで神社の奥へと進む。小さい頃から数え切れないくらい来ていたが、改めて思うとここに来るのは久しぶりだった。


「何だか久しぶりだね、陽斗君とこうやって神社の中を歩くの」

「そうだな。中学入ってお互い部活忙しくなって、引退したと思ったら直ぐに受験モードで……」


 そんな少し前のことを話しながら神社の裏に回る。何度も来ているのにこの辺に来たのは初めてだ。


 「ちょっと待ってて」と聖依奈が鍵を開ける。スカートのポケットから鍵を取り出す。ガチャリ、という音が重く響いた。関係者以外は立入禁止感が満載だった。


「さあ、どうぞ。と言っても実は私も数えるくらいしか入ったことないんだけどね」


 言って中へ入った聖依奈に続いて俺も門をくぐる。左右の塀は高かったが道はそれほど広くない。道を進むと社殿の裏の小広い庭に出た。


「へえ。裏はこんな感じになってるんだな」


 ここまでの道と同じく高い塀に囲まれている。外からでは中を(うかが)うのは無理な高さだった。何度も来ている神社なはずなのに初めて訪れたような気分になってくる。


「こっちよ」


 と、聖依奈が姿勢を低くして社殿の床下に入っていく。あわててその後を追う。入るときこそ身を(かが)めたが中は普通に立って歩ける程の高さだった。


 うーん。やたらと広い。聖依奈がスマホを明かり代わりに薄暗い床下を進んで俺はそれに付いていく。


 暫く進んで聖依奈が指差す。


「これだよ、陽斗君」

「これだよ……って」


 大きな柱の周囲にこれでもかと大きなごみが置かれていた。尋常な量じゃない。


 それに……。

 うーん。何だかイメージしていた粗大ごみとは違う。良く見ると凄く古そうな物まである。



 確かに雑然とはしていたが、なんと言うか、単なる「ごみ」というよりは何か理由があってここにこうして集められているような気が何故かした。


 違和感は残ったが、今はそんなことを考えている場合じゃない。


「ええと、これ、全部?」

「あ、う、うん。あのね、これでも自分たちで運べそうな物は私とおばさんで何とかしたんだよ。でも奥に行くに従って大きくてなんだか重いものも増えて……」

「まあ、確かにこれは。なあ、やっぱり業者の人に頼んだら良いんじゃ……」

「私もそう言ったんだけど、出来ればここには知らない人を入れたくないんだって。おじさんがって言うより、そういう言い伝えがあるらしいの。だから信頼できる人じゃないと頼めないって」


 どうやら俺は聖依奈のおじさんに相当信頼されているらしい。まあ確かに子供の頃から良く遊んで貰ったりして長い付き合いにはなるが……。仕方がない。



「分かったよ。取り敢えずここから出せば良いんだよな?」

「うん! ありがとう、陽斗君!」


 うでまくりをする。明日は筋肉痛確定だ。






「ぐッ、おッ……」


 古びた木の箱を置く。安請け合いした自分を呪った。作業は予想以上にキツかった。量もそうだが、やたらと重い。

 古びた木の箱が多かったが、何故か箱の中には石が詰められていた。意味が分からない。


 気付けばもう外も暗くなっていた。


「これはあれか、昔神社にいた人たちの嫌がらせか」


 そう言いたくなるほどに無駄な物ばかりだった。ガラクタに木材……、そして石が詰め込まれた木で出来た箱。中には鉄で出来た箱もあったが、これも中は石だった。


「何だってこんなもんばっかりここに集めたんだよ」

「知らないわよ。それに、そもそもおじさんも実はよく知らないみたいで」


 聞けば聖依奈のおじさんは先代が病気で倒れて急遽(きゅうきょ)ここの神主になったらしい。その後先代は直ぐに無くなり、十分な引き継ぎを受けられなかったということだ。


「陽斗君、今日はこれくらいにしよう? さすがにこれじゃあ今日中には終わらないもの」

「ああ、そうだな」


 まだ柱の脇、そして奥にかなりの量が残っているが足腰が悲鳴を上げている。


 立ち上がった俺の目にひとつの箱が止まった。何となく気になって箱の蓋を開けると中はなんと空だった。


「クソっ、全部これみたいに空箱だったら良かったのに」

「まあまあ。それよりも、行こう?」

「ああ、じゃあ最後にこれだけ片付けちゃうよ」


 スマホをしまい、俺は空の木箱を持ち上げる。


「……ッ!!」


 限界がきていた足腰。

 力が入らずふらつく。


「おっと、あ、あれ……」

「え、ちょ……、陽斗君大丈夫?」

「あ、あんまり大丈夫じゃないかも……」


 踊るように進んだ先。倒れそうになって思わず手を伸ばす。


 太い柱に手が届く。倒れるのは避けられたが、指先に違和感を覚えた。まるでエレベーターのボタンを押すような感じがした。



 次の瞬間。

 足下から、ガコン、と変な音がした。


 あれ、ヤバい……。何か壊した?


「何? どうしたの?」

「いや、別に……」


 うん、気のせいだろう。

 俺は何も聞いていない。聞こえなかった。


 そう自分に言い聞かせて歩き出そうした。


 だが。

 突如、身体が地面に吸い込まれた。


「え……」


 直ぐに穴に落ちたと気付いた。足裏で地面の感覚をつかめたのでホッとしたのも(つか)の間。

 


「うわあああああぁぁぁあああああぁぁぁぁーーーーッ!!」


 足元は急な傾斜面になっていた。

 叫び声と共に坂を転がり落ちていく。


「陽斗君ッ!!!!」


 悲鳴にも似た聖依奈の声だったが、それも直ぐに遠ざかっていった。

お読み頂きありがとうございます!

後半は明日更新致します!

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