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最果ての先のシンアル  作者: 秋真
第二章
37/40

15『王都からの脱出2』

「よくぞ参られたハルト殿!!」


 毎度のことながら大袈裟な歓迎だ。


 大聖堂の一件の翌日、俺はスティアに言われた通り国王に会いに王城に来ていた。


 国王は獣人たちのことで正直俺のことは良く思ってない。けれど、神門の守護者(ガーディアン)という肩書き、そしてシンアル聖教会との関係のことがある。内心を隠すというよりは、むしろ獣人たちの一件は横に置いて、改めて本気で俺と友好的な関係を作りたいような態度だった。


「何でももう王都から出られるとか? 余としては少しでも長く王都にとどまって貰いたいのだが……」

「すみません、ちょっと用事がありまして」

「うむ。それは仕方ない。それはそうとハルト殿、大聖堂で何かあったらしいのだがご存じか?」


 俺は顔色を変えずに答える。


「大聖堂? 何かあったんですか?」

「うむ。詳しいことはまだ分からないが聖教会から王都の警備を厚くするよう至急の要請があった。大聖堂に侵入を試みた輩がいたとか……」

「そうなんですね。聖教会に喧嘩を売ろうとするなんて神門の守護者(ガーディアン)としても見過ごせませんね」

「そうであろう! なので、余としてはハルト殿にもうしばらく王都にとどまってもらい……」


 俺に自分のことを守って欲しいってことか。俺は食い気味に口を開く。


「急ぎの用がありますので本当にすみません」


 割りとはっきり言ったつもりだったのに、国王は更に食い下がってくる。俺はそれをかわしつつ考える。


 やはりもう聖教会は動き出している。侵入者がいたってことだけじゃない。たぶん聖人シータが儀式中に行方不明になったことだって既に判明している。人工バベルの欠片のこともばれるのは時間の問題だ。


 スティアの言った通り迅速に動いて正解だったな。


「せ、せめてあと数日だけでも」


 国王はしつこさ全開だったが、流石に見かねたのか、側近が止めに入る。


「陛下、その辺りで。ハルト様にもご事情というものが」

「だ、だが」

「ここで無理強いすれば不興を買うことになるやも」


 国王は側近の言葉にはっとする。


「そ、そうじゃな。無理強いは良くないな」


 側近のおじさんグッジョブ。よく見れば俺をベクチアから王都へ連れてきてくれた人だった。国王はじめ、王国の人間は基本的に嫌いだったけどこの人だけは例外だ。


 今回もこの人のお陰でこの場から解放される。俺が側近の人に軽く頭を下げると向こうも同じように返してきた。



「じゃあ俺はこれで」


 と謁見の間から俺は出ていこうとする。


「ま、待たれよ!」

「何か?」

「いや、なに……。ハルト殿は先日の獣人の反徒たちを鎮圧し、その褒美として獣人たちを所望されたな。それでは流石(さすが)に余からの感謝の気持ちを表せないと思い多少の金銀も付け足したが」


 多少ではない。引き取った獣人たちの当面の食料が困らないぐらいの金を寄越してきた。正直あれは助かった。


「他にまだ何か望まれるものはないか?」

「いや、おれ……私はもう十分……」

「遠慮するでない! 更なる金銀、貴族位、領地……、何でも言って欲しい。それくらい余と王国はハルト殿に感謝をしておるのだ」


 国王は必死だった。なるほど。獣人たちの一件で何となく険悪な感じになった俺とどうしても関係を復活させたいらしい。


 ふむ。

 せっかくだし何か貰っておくのも悪くないか。うーん。あれだけの数の獣人たちをこれからも養っていくなら金か。いっそのこと食料でも悪くない……。


 考えを巡らせていた俺はあることを思い付いた。


「じゃあ、領地を貰えませんか?」

「無論じゃ! 王都に近い肥沃な場所を領地として直ぐに用意しよう!」


 国王は喜んで立ち上がった。王都の近くに俺を配置出来れば何かあったときに助けてもらえる。そう考えたんだろうな。


 でも俺が望むのは……。


「いや、俺が欲しいのはバルパ村です」


 国王の表情が固まる。


「バ、バルパ……?」


 国王は振り返って側近に尋ねる。


「カーベン山脈の山の中にある小さな村です」

「そ、そんな僻地(へきち)を……。ハルト殿、神門の守護者(ガーディアン)であられるハルト殿にはもっと相応しい土地がいくらでも」

「いや、俺はバルパ村で大丈夫です」


 きっぱりと言いきった俺に国王は言葉を続けられない。代わりに側近が口を開く。


「ハルト様。何かお考えがおあるとは思いますが、バルパ村は辺境の地。周辺も目立った産業はなく農業に向いている場所も少ない。多少良質な薬草が採れるぐらいしか記憶にございませんが、なぜ敢えてそんな場所を?」

「なぜ、と言われても……」


 一応俺なりには相応の理由があるんだけどここでは話せない。


「大した理由じゃないんですが、俺はバルパ村に長くいて、それ以外の土地のことは知らないんです。だったら自分がよく知ってる所でのんびり過ごしたいなと」


 あながちそれも嘘ではない。


「ハ、ハルト殿。心穏やかに過ごしたいと言うのであれば王都の近くに良い保養地もある! そうじゃ、商人たちが集まる大きな街も……」


 国王はやはり王都近隣の地を俺にすすめてくる。


 しかし俺の考えは変わらない。


「心遣いは嬉しいんですが遠慮します。バルパ村をお願いします」


 さきほど側近に(たしな)められて自分のしつこさを少しは自覚したのか、今回はそこまで食い下がっては来なかった。


「わ、分かった。ではハルト殿の言われる通りにしよう」


 残念そうに国王は言った。



 地図を見ながら俺に与えられる具体的な土地が決められる。俺としてはバルパ村だけあれば良かったんだけど、考えてみれば高価なスビテア草が採れるのは魅力的だし、獣人たちを養っていくことを考えると領地は広い方がいいかもしれないも思い直した。


 結果、バルパ村を含めた周辺の山地一帯が俺の領地になった。この地図では詳しいことは分からないが、結構な広さになりそうだな。


「では、ハルト殿の領地について直ぐに国中へ布告するように」


 国王がそう言うと臣下たちが慌ただしく謁見の間から駆け出していった。



 こうして俺はこのシンアルの世界で、神門の守護者(ガーディアン)以外に、領主としての地位も獲得したのだった。




 ◇◇◇



「お、旦那。戻ったんだね」



 そう言って迎えてくれたのは例の店の女主人だった。



 国王との謁見が終わって店へ戻ってきた頃には夕方になっていた。


「その様子じゃ問題なく村へ戻れることになったみたいだね」

「ええ。そっちの方は」


 言いながら俺は店を見回す。


 そこそこの広さの飲食店だったけど、今はほぼ何も残っていない。


「順調みたいですね」

「皆頑張ってくれたからねぇ」


 俺が国王に会いに行ってくる間、女主人やティットたちは王都から脱出する準備をする手筈(てはず)になっていた。



「正直、昨日の深夜に旦那が来てスティア様からの伝言を伝えられた時は無理だと思ったんだけどね」


 そう言う女主人の横に立つ俺だったけど、実は状況が分かっていない。


 スティアから言われたように──似たようなことを更に女主人からも言われた──国王に会って、夜に王都から出ていく許可を貰ってきた。バルパ村一帯を領地として与えられるというオマケつきで。


 その間に用意を進めておくと女主人に言われたけど何のことかは分からなかった。


「さ、旦那。そろそろ行こう。もうここは閉めちまうよ」

「は、はい」


 女主人と俺は店の外へ出る。女主人は鍵を閉めると「こっちだよ」と言って歩き始めた。


 俺がいない間に頼んでおいた聖依奈のことを筆頭に聞きたいことばかりだったけど周囲の様子がそれを許さない。


「王国の兵士や聖教会の衛兵の姿がかなり増えてきたね」


 女主人が小声で言った。


 女主人の言う通りで通りのあちこちで王国の兵士や聖教会の衛兵が行き交う人たちを止めて誰何したり、荷物を改めてたりしている。


「深夜のうちに用意を始めておいて正解だったね。街がこんなんじゃ下手な動きは出来ないからね。旦那も聞きたいことは多いだろうけど今は我慢しておくれ。どこに目や耳があるかわかったもんじゃないからね」


 俺は黙って頷いた。


 女主人が向かった先は倉庫街だった。建ち並ぶ倉庫のうちの倉庫のひとつの前で立ち止まる。


 そして扉を五回叩く。扉の横の小さな窓から顔を出したのは獣人だった。女主人と少し言葉を交わすと扉を開けた。


「さあ」と女主人に言われて俺は中へ入った。


 倉庫は広かった。


 倉庫の中にはそこそこの大きさの馬車が二台置かれていた。その周辺を獣人の大人や子供が(せわ)しく動いている。


 その獣人たちの中にティットがいた。ティットは俺の姿を見つけると駆け寄ってきた。



「ハルト様!」

「ティット、聖依……」


 聖依奈と言いかけたけどティットには通じないか。


「あの人は?」

「はい、無事にお連れしています。馬車の中にいらっしゃいます。ただ、まだ目は覚まされていません」


 言ってティットは肩を落とす。そしてティットに案内されて馬車へ乗り込んだ。女主人もそれに付いてくる。


 聖依奈は布団の中で寝ていた。


 大聖堂から連れ出した聖依奈をティットたちの店まで連れていった俺。国王に会いに行くのに連れていくわけにもいかなかったのでティットたちに任せたのだ。心配はあったがティットなら信用できると判断した。


「眠ったままですが、お身体は大丈夫です。僕たちの仲間に医者がいて確認しています」

「そうか。色々とありがとな」

「いえ……。それで、ハルト様、この方は?」


 俺はどう答えたらいいか一瞬迷った。でも、その場には俺と聖依奈以外にはティットと女主人しかいなかった。この二人になら話しても良いと思えた。


「シンアル聖教会の聖人シータだ」

「え」


 ティットが声を漏らす。女主人の方を見るティット。女主人はその視線に頷いて返した。やはりこの人は気づいていたらしい。


 ティットはどうしたら良いのか分からずあたふたしている。


 取り敢えず聖依奈の無事も確認出来た。問題はこれからのことだ。


「色々と、これまでと、これからについて聞きたいことがあるんですけど」


 女主人は頷く。


「ああ、もちろんさ。こっちもそのつもりだったからね。どうせ王都からの出発は深夜になる。時間は十分あるからね」

明けましておめでとうございます!


今年もマイペースではありますが頑張って書き進めて参りますので、どうぞよろしくお願いします!!

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― 新着の感想 ―
国王様はそんなにも手駒がないのですね。 今後も何か理由を付けて呼び出されそうな気がしますが、とりあえず今は脱出ですね! 聖依奈(=シータ)の意識が戻った後、ハルト君の良く知る聖依奈ちゃんなら良いので…
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