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最果ての先のシンアル  作者: 秋真
第二章
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9『金色(こんじき)の滝』

 階段を下りた先にあった重厚な扉を開けて中へ入る。


 扉の先。扉の重厚さと比べると簡素な石造りの祠のような建物の中だった。扉の造りからこの先は「ボスの間」みたいなのを想像してたからちょっと拍子抜けだな。



「ハルト、あそこ」


 スティアが指差した先に出口が見える。どちらからということもなく、俺とスティアは祠の外へ向かう。


 俺が先に祠の外へ出て、そしてそこで立ち止まった。凄い……。そんな語彙力無しの感想しか思い浮かばなかった。



「むぎゅ。ちょっと、ハルト何で止まるのよ?」


 後ろからぶつかったスティアのその苦情に俺は反応することが出来なかった。


 祠の外にあった光景。

 今までゲームの中で信じられないほど美しい光景は何度も見てきた。空に浮かぶ島。天に届かんとする大樹。虹色に彩られた湖。


 しかし、それはあくまでも「画面」を通して見るゲームの中での話。


 今俺の目の前に広がっているのは「肉眼」を通して見る現実の光景だった。


 地下とは思えないほどの大空間。

 一瞬、外に転移したのかと思った。しかし、階段の上の教会で感じた魔力の流れをしっかりとここでも捉えることができる。やっぱり地下だ。


 しかし、頭では分かっていても目の前に広がる光景はとても地下とは思えないものだった。


 最奥は見通せない。それは、それ程までに距離があるんだろうというのと、光景の大部分が暗かったからだ。


 そう、目の前の大空間は暗かった。


 そして、その本来であれば暗闇に包まれるはずのこの大空間を照らしているのが……。


「滝……。金色(こんじき)の……滝だ」


 俺とスティアがいる所からは離れているが左右に絶壁が広がっていた。その中央からは滝が流れていた。その滝は黄金に輝いていて、その輝きがこの地下大空間を照らしていた。


 滝の音は聞こえない。その代わりに、何て言ったら良いんだろう、ハープを奏でるような音が聞こえてきた。



「まさか……」

「スティア?」

「ハルト……。あの滝……、流れてるのは水じゃない。あれは、魔力よ」


 スティアに言われてハッとする。目の前の光景に目を奪われていたが、魔力の流れに感覚を集中させる。間違いない、あれが上の教会で感じた魔力の発生源だ。


「近くまで行ってみよう!」


 俺とスティアは滝へ向かって駆け出す。


 徐々に滝が近づいてきた。

 神秘的な光景だった。

 崖の上から水のように流れてくる金色(こんじき)に光る魔力。



「そうか。このためだったのね」

「スティア?」

「崖の上から流れてきている魔力量、尋常じゃない。いくら地脈に乗ってここに魔力が集まってくるからって、あんな出鱈目(でたらめ)な量にはならない。魔力貯留器(ピーテル)を使って各地から集めた魔力も加えてあそこに流してるんだわ」

「でも、なんでわざわざあんな滝みたいに?」


 俺の質問にスティアは指を差して答えた。


 滝が更に近づいてきた。さっきよりもはっきり見える。


「あ、あれは……」


 滝の途中に何かある。しかも、数えきれないくらい。


 凄い勢いで崖の上から流れ落ちてくる金色の魔力の奔流(ほんりゅう)


 いくつもの魔力の奔流があったが、その流れの途中には多くの魔法陣が浮かんでいて、魔力の流れはその魔法陣を通過していっていた。


 魔力の流れは魔法陣を通過していく(たび)に細くなっていき、同時に輝きを増していった。


「あの滝全体が魔力の精製装置なんだわ。魔法陣を通り抜ける度に魔力の純度が高まっていっている」


 魔力が魔法陣を通り抜ける時に音がなった。その音が俺がさっき聞いたハープのような音だった。


 そんな音も相まって幻想的な光景に目を奪われていた俺の耳をスティアが引っ張る。


「痛いな、何だよ?」

「気をつけてハルト」


 スティアはバベルの欠片を剣に変えて周囲を警戒している。スティアが握るのは細剣(レイピア)だった。ただならぬその雰囲気に俺もバベルの欠片を握って剣に変える。


「恐らくこのまますんなりってことにはならないと思う。地下神殿まではあれだけ厳重だったのに、さっきの趣味の悪い金ピカ教会にしてもここにしても見張りすらいない」


 確かに。

 しかし、俺は周囲の様子を窺ってみたが敵がいる気配はない。


「ここには許された人間しか立ち入らない、若しくは許されない人間が立ち入ったとしても確実に始末できるから……」


 なるほど。

 スティアは正しい。でもここには罠はない。敵もまだ出ないだろう。テンプレだ。ボス戦の前はいつだって静かなのだ。



 祠があった丘を下りて進んで、俺たちは滝壺のほとりに着いた。


 精製され糸のように細くなった金色の魔力が流れ込む滝壺もまた金色に輝いていた。


 そして。

 その滝壺のほぼ中央に浮かんでいる()()が滝壺から魔力を吸い上げ呼吸をするように光り輝いていた。


「バベルの欠片……」


 そう。(まぎ)れもなくバベルの欠片だ。同じ石を持つ者として直感で分かる。見た目にしても俺やスティアが持つものと同じだったけど色だけは違った。色は滝や滝壺と同じ金色だった。



「やっぱりバベルの欠片……か」

「やっぱりってことは……」

「うん。前々から疑ってはいたんだ。各地からあれだけの魔力を集め続けて聖教会の最上層部は一体何をしてるのか。少なくとも私の中では可能性はひとつしかなかった。でも確信はなかった。だからハルトにはあくまで可能性の話っていう言い方しか出来なかったんだ。ぬか喜びさせても悪いしね」


 さて、とスティアは滝壺にあと半歩進めば入れるくらいの所まで近づいて、俺の方を振り向いた。


「あれが手に入ればたぶん聖依奈ちゃんは助かる。でもホントに良いの?」

「ん? 何がだ?」

「だってさ、どう考えてもここに足を踏み入れた瞬間、バベルの欠片を守る仕掛けみたいなのが発動するじゃん? RADじゃなくったって、これどう考えてもボス戦の前の場面だよ」

「だろうな。それは俺もそう思う。でも……。うん、覚悟の上だ」

「聖教会が長年かけて作り上げようとしてる至宝を盗みとろうとしてるんだよ? 怒り狂った聖教会に今後ずっと追われることになるんだよ?」

「関係ない。そんなことは聖依奈を助けた後にでも考える」


 ふーん、とスティアはちょっとつまらなそうな顔をした。


「教科書通りの主人公アンサーだねぇ」

「ゲームのしすぎでその辺りは染み付いているからな」

「何それ。威張って言えることじゃないでしょ」

「それよりも、スティアだって良いのか?」

「ん、何が?」

「何でこんなに助けてくれるんだよ? お前、一応聖教会の司教なんだし、どっちかと言うとこの秘密を守る側だろ?」

「一応は余計だけど、うーん、それはまあ、そうだね」

「聖教会を裏切ることになる。そこまでして俺や聖依奈を助けてくれるのは何でだ?」


 ふむ、とスティアは考えるような顔をした。


「幼馴染みの少女を命を懸けて助けようとしている健気な主人公……。助けるのに、理由なんて要らないぜ」

「ふざけるなよ」


 ふふ、と笑ったスティアが続ける。


「まあまあ。難しいことは抜きにしてさ。ほら、困っている人を助けるのが聖職者の役目だから。て言うか、のんびりしてる暇なんて無いんじゃない?」

「それは、そうだな」


 何か話をはぐらかされたけど、スティアの言う通りだ。


「たぶんここに足を踏み入れたら後戻りは出来ない。何か、出てくるよ。聖教会最大の秘密を守ろうとするヤバい奴がね」


 そう。どう考えてもすんなりこのままバベルの欠片を手に入れてハッピーエンドとはいかないだろう。


「いくら神門の守護者(ガーディアン)のハルト様でも油断は出来ないんじゃない? 戦力は多いに越したことはないよね?」


 スティアは金色に輝くバベルの欠片を向いて剣を構えた。そして、スティアに並んだ俺も同じように剣を構えた。


「ああ。頼む。この礼はなんでもする」

「何でも、ね。言ったな。忘れないぞ。覚悟しておいてね」


 目を合わせてふっと笑い合った俺とスティア。(そろ)って金色の滝壺に足を踏み入れた。




 次の瞬間。

 滝の流れが止まる。ハープのような音も止まり、辺りは静寂に包まれた。


「来るぞ」

「ええ」


 そして。


「くッ……」


 バベルの欠片がまばゆい輝きを放つ。滝壺の魔力を吸い上げ、欠片は輝きを増していった。


 やがて欠片は姿形を変えていった。


「はは、コイツは……凄いな」


 欠片は……、我が愛すべきRADの紺碧の神聖竜を思わせるような竜に姿を変えていた。


 金色(こんじき)に輝く巨大な竜に。


 ボス戦は覚悟してたけど、まさかバベルの欠片自身がボスになるのかよ!!



『グガァーーーーッ!!』


 耳をつんざくような咆哮(ほうこう)を上げた黄金竜は爪を振り下ろしてきた。


「うおッ……」


 速い!

 何とかかわせたけど、本当にギリギリだった。バベルの欠片の力を使っているのに……。


「あれ、スティア?」


 ハッとした。スティアがいない。


「ハルト! こっち!」


 声がした方を向く。スティアは大きな岩の上にいた。良かった、無事だった。


 スティアは片手を天に(かざ)していた。


「馬鹿みたいにデカいトカゲね……。おまけに金ぴかで趣味わる……。これで倒れてくれると助かるんだけどな。【氷の槍(アイス・ランス)】!!」


 スティアの頭上に大きな氷の槍が現れる。氷の槍は黄金竜の目掛けて飛んでいく。


 竜の巨体に氷の槍が直撃する。黄金竜の身体は大きく揺れたがダメージは無いようだった。


「固いわねぇ……。まあバベルの欠片がもとなんだから当たり前か」


 岩からストンと降りたスティアは俺の横に並んで剣を構えた。


「さあ、どうする? 私が使える氷系の魔法では最上位の【氷の槍(アイス・ランス)】が効かないとなるともう接近戦しか選択肢はない。ハルトはまだ魔法は使いこなせないだろうしね。でもでも、恐らく魔法耐性同様、物理攻撃耐性も一流なはず。何て言ったって元はこれと同じなんだからね」


 スティアは手にしていた剣を軽く掲げて見せた。そう。あの竜は人工的に造り上げたバベルの欠片の変体。つまりはバベルの欠片自身だ。


「こっちだってバベルの欠片を持つ神門の守護者(ガーディアン)。しかもふたりがかり。それでもあのデカトカゲの魔力量は私たちふたり分の魔力量を上回っているかもね」

「何でそんなこと分かるんだ?」

「そりゃ、それだけの魔力量を集めてきたって言う自負があるから!」

「……」


 何故か誇ったような顔をするスティア。スティアは司教として、目的は知らなかったとは言え、この人工バベルの欠片製造計画に参加する形になっていた。


 だから、それが結実したのは嬉しいのかもしれないけど……。


「スティアが集めた魔力のせいで俺たちは大ピンチってことだな」

「うっ……。し、仕方なかったのよ! 目的は教えられずに協力させられてたんだから! それに……」

「それに?」

「そのお陰で欠片が造れて、聖人シータ……聖依奈ちゃんが助かるかもしれないんだからぁ、超絶ピンチだったとしてもお釣りが来るんじゃない? む、むしろ感謝してくれてもいいんだよ?」

「お前な……」


 まあでもそれはその通り。

 この黄金竜を倒して上手い具合にバベルの欠片が手に入ったならそれで十分。


「取り敢えず、コイツを倒してからの話だな」

「ハルトから感謝の言葉を聞くまでは死ぬわけにはいかないわね。それに、何でも言うこと聞いてくれるんだもんね」


 そう言った後、何故かスティアは自嘲気味に首を横に振った。しかし、直ぐに竜を見据えて攻撃の姿勢をとる。


「さあ、いくわよ。今度は、同時に」

「おう」


 俺とスティアは左右に分かれて黄金竜に斬りかかった。

お読み頂きありがとうございます!


前回の更新から一ヶ月。

もはや恒例のように言っていますが、更新頻度を上げなければ……。


ネトコン参加中だぞ!と自分に言い聞かせ、暑さと仕事に耐えつつ頑張りますので、今後とも宜しくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[良い点]  バベルの欠片の塊の化け物……RPG風にいうならMPパラメータが無限になってそうですね。かなり危険です。ただ、このデカトカゲさんさえ前座ではないかと疑ってしまいます。真のボスを呼ぶための呼…
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