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最果ての先のシンアル  作者: 秋真
第二章
24/40

2『頼るべきは陽キャJK系司教』

「……って違うだろ!!」


 シンアルの世界に戻ってきた俺は起きるなりセルフ突っ込みをいれる。

 聖依奈の聖人もとい聖女ムーブに流されてしまい、結局向こうの世界では何も確認することが出来なかった。


 それどころか聖依奈ファンから更なる恨みをかってしまった。

 ただでさえ幼馴染というポジションのせいで彼らの抹殺対象になっているというのに……。

 モンスターなんかが闊歩(かっぽ)しているシンアルよりも向こうの世界の方が命の危険があるのではないかと思ってしまう。



 まあそれは置いておくとして……。



 向こうの世界での聖依奈の反応からして、やはり聖依奈はシンアル(こっち)の世界での記憶を共有していない。

 でもバベルの欠片を持っているなら本来はふたつの世界の記憶を共有できているはず。


「だとしたら聖人シータはやっぱり聖依奈ではない……」


 言って直ぐに首を振る。

 違う。あれは聖依奈だ。それは間違いない。瓜二つとかそういう次元の話じゃない。幼馴染みとして断言できる。


 聖人シータ=聖依奈という前提で動いていくのが正解だと思う。



「シータは聖依奈だ。でも……」


 もしそうならバベルの欠片を持っているのに向こうの記憶がないのはおかしい。


 何か問題が生じているなら解決しなければいけない。何だか嫌な予感がする。


 部屋を歩き回りながら考えてみるが思考が(まと)まらない。そもそも情報が少なすぎる。それならば。


「こういうときは、まずは街で聞き込みってのがゲームでは鉄則だな」



 俺は街へ出て情報を集めることにした。


 ところが……。

 直ぐに壁にぶち当たった。聖人についての情報や聖教会についての話は聞けたけど噂の域をでない内容だった。なにより直接シータに関するものは皆無に等しかった。


 考えてみれば当然だった。街の人からすれば神門の守護者(ガーディアン)ですら雲の上の存在。その更に上位に君臨する聖人ともなればもはや神にも等しい。


 数日王都を回ったけど収穫ゼロ。


 RADでも学校生活でもソロプレイを好む俺だけどこういう場面では弱い。ゲームではこういう時には最終手段で攻略サイトを見るんだけど今回はそういうわけにもいかない。


「まずは何とかして情報を得ないと……」


 行き詰まった時、ゲームなら誰かからお助けキャラなんかから助言を受けてクエストを進める。それはそうなのだけど……。


 じゃあ誰に相談すれば良いっていうんだよ。


 聖依奈=シータはバベルの欠片を持っているのに何か異常があってふたつの世界の記憶を共有できていない。

 相談できるとしたら、逆に正常にふたつの世界の記憶を共有する人物だ。だけど……。


 ベクチアでのシリスとの会話を思い出す。


神門の守護者(ガーディアン)は互いの向こうでのことについて聞かない、話さない。これは暗黙の絶対的なルールだ』


 ……。

 そもそも考えてみれば神門の守護者(ガーディアン)だからと言っても誰にでも相談できる訳じゃない。


 ある程度信頼できる人物でなければならない。


 シリスの言う暗黙のルールがその通りだとすると向こうの世界での話も絡んでくるこの相談を普通の神門の守護者(ガーディアン)なら嫌がるだろう。


 考えあぐねて俺は宿の窓から外を見る。


「バベルの欠片を持っていて既にある程度お互いのことを打ち明けていて信頼できる人物。そんな都合のいい奴なんて……」


 俺の目に窓から見える大聖堂が映る。


 ……。

 …………!!


 ある人物のことを思い出す。()()()ならもしかして。

 アイツはベクチアに……いや、俺たちと同じ様に王都へ行く予定だと言っていた。


 バベルの欠片を持つJK司教。しかも神門の守護者(ガーディアン)同士にも関わらず、RAD仲間というのがきっかけで暗黙のルールを破って向こうの世界でのことをある程度話し合っている彼女なら……。


 もし王都に来ているとしたらきっと聖教会の大聖堂にいる!


 俺は部屋から駆け出した。



 ◇◇◇




「で、でかい……」


 見上げた先にあったのは大聖堂の建物だった。王都では最も高い建造物。遠くから見てもその大きさは分かっていたつもりだったけど、こうして間近で見ると迫力があるな。


 迎賓館は言うに及ばず、王城よりも明らかに大きかった。


「うーん。王国と聖教会の力関係を如実に表しているな。……さて」


 大聖堂の中へと向かおうとした。警備は厳重そうだったがバベルの欠片を見せれば大丈夫だろう。聖教会内において神門の守護者(ガーディアン)は絶対的な立場にあるってことだしな。



 大聖堂の敷地へ入ると、大聖堂へ続く正門で衛士に呼び止められた。


「失礼、身分証を。ここから先は聖教会関係者でなければ入れません」

「み、身分証……はないけど、ええと、これで良いですか?」


 衛士の前にバベルの欠片を掲げる。

 衛士が姿勢を正す。


神門の守護者(ガーディアン)の方でしたか!! これは失礼致しました! どうか無礼をお許しください。 あまり見掛けないお顔でしたので……」

「ああ。まあそうですよね。少し前に国王に呼ばれて王都に来たばかりですし」


 俺の言葉に衛士が反応する。


「王に呼ばれ……。もしかして、ハルト様……ですか?」

「そうですけど」

「やはり! 地方での活躍を認められ王から直々に招請され、更に王都で騒ぎを起こした獣人たちを成敗なされたご活躍は耳にしております! 教会内でも評判なっております。ささ、どうぞお通り下さい!」

「ど、どうも」


 よし。大聖堂の中には入れそうだ。


 でも意中の人物、つまりスティアに会うためにはどこへ行けば良いのだろう。


 聖教会の司祭であるツァディーの上席である司教。しかもその司教の中でも結構偉いらしい。

 向こうの世界でのRAD仲間ということで気安く接していたけれど、もしかしてシンアル(こっち)ではアポなしで簡単に会えるような人物じゃないのかもしれないな。


 俺は衛士の人に聞いてみた。


「ええと、司教に用事があるんですがどこに行けば会えますか?」

「司教ですか。司教の方々の執務室は七階にあります。大聖堂に入ってそのまま奥に進むと上の階へ移動できる転移の魔方陣があります」


 おお、そんな便利なものがあるのか。エレベーターとかは無いだろうし七階と聞いて一瞬萎えたけど流石は異世界。



 衛士の人にありがとうと伝えて大聖堂に入る。


 言われた通り奥へ進む。すると衛士が言っていた魔方陣が見えてきた。目の前には幾つもの魔方陣があり、それぞれの魔方陣で人が消えたり現れたりを繰り返している。


「七階行きは……この魔方陣か」


 七階行きらしい転移魔方陣の上に乗る。足元の魔方陣が光ったと思ったら転移は終わっていた。


「す、凄いな……」


 こんな便利な魔法使いこなせたら楽だし役に立ちそうだ。そう言えばツァディーが転移魔法を使っていたし今度教えて貰おう。


 さて、と俺は周囲を見回す。一階は多くの人が行き交って、雑然とした感じだったがここは至って(おごそか)かな雰囲気だ。そして明らかに作りが豪華だった。


 場違いな気がして仕方ないがどうしてもスティアに会わなくてはならない。


 取り敢えずスティアの執務室を探さなければならないが……。まずい。部屋の数がメチャクチャ多い。扉にネームプレート何かも無いしどうやってスティアの執務室を見つければいいんだろう。


 そんな風に途方に暮れていたが。



「ハルト様?」


 その声に振り向くと、そこにいたのは……。


「スティア!!」


 まさに探し求めていた人物がそこにいた。俺はは駆け寄ってスティアの思わず両肩を掴む。


「良かった! 探していたんだ!!」

「え、ちょ……肩……」

「聞いてくれ大変なんだ!! ……がは」


 俺としては大至急聖依奈のことを相談したい。そんな必死な俺になぜかスティアは鳩尾(みぞおち)に割りと本気な一発を入れてきた。


 (うずくま)る俺。

 息を整えたスティアが口を開く。


「フウ……。あら、ハルト様、どうされたのですか?」


 どうされたも何もスティア(お前)のせいなんですけど……。


 スティアの一発は上手い具合に周囲の人間たちには見えないように入れられた。なので周囲の人たちから見たら「いきなり神門の守護者(ガーディアン)が苦しみ出した」ということになる。



「バ、バベルの欠片をお持ちの神門の守護者(ガーディアン)様がこのように苦しまれるとは……。急いで治癒術士を!」


 周囲が騒がしくなる。

 そんな騒ぎに巻き込まれてる暇はないんだけど。ただこちらも痛くて身動きがとれない。



「お待ちください」


 スティアのその一声が周囲を黙らせる。


神門の守護者(ガーディアン)のハルト様はこの私が看病します。どうぞ落ち着いてください」


 周囲の人間たちのスティアへの信頼の高さが分かる。その場にいた人間たちが平静を取り戻していく。


 痛さが引いてきた。早く聖依奈の話をしないと。立ち上がろうとした俺をスティアが制す。


「ス、スティア?」

「……しっ。ちょっと黙ってて」


 俺の耳元でそう言ったスティアが振り向く。

 そしてスティアの後ろでオロオロと様子を(うかが)っていた男を呼ぶ。


「クリフ」


 スティアにクリフと呼ばれた男が「は、はい」と両手で書類の山を抱えながら駆け寄ってくる。


「そちらは……?」

「こちらは神門の守護者(ガーディアン)のハルト様。前にお話ししたでしょう」

「おお、この方が……。バルパ村を救い、今回は王都を危機から救ったという……」

「ええ。そんな神門の守護者(ガーディアン)の中でも大変な力を持ったハルト様がこのように苦しまれている。ただ事ではありません」


 いや、だからそれは全てあなたのせいなんですけど。


「ではやはり直ぐに高位の治癒術士を……」

「いえ、それには及びません。私はこれからハルト様を私の執務室へお連れします。私が直々に介抱致します」

「え? で、でもスティア様はこれから第三教区の会議が。上級司教のスティア様がいらっしゃらなければ話が……」


 どうやらスティアとこのクリフという男は何かの会議へ向かうところだったらしい。クリフが抱えている書類の束は会議の資料なんだろう。


神門の守護者(ガーディアン)様がこのようなご様子なのですよ。あなたは聖教会の一員でありながら神門の守護者(ガーディアン)様よりも会議の方が大事だと言うのですか? なんという罪深いことでしょう」

「け、決してそのようなことは……。ですが本日の会議は……」

「もう決めました。後の事は宜しくお願いしますね」


 スティアが俺を立ち上がらせる。


「ではクリフ。ごきげんよう」


 スティアが歩き始めるので俺もそれに付いていく。背後から丸メガネがずれたクリフの叫び声が聞こえる。


「いいのか? あれ」

「いいのよ。それよりもほら、こっち」



 まあスティアがそう言うなら良いんだろう。


 まだ叫び続けるクリフを(あわ)れに思いながらその場を後にした。



 ◇◇◇



 スティアの執務室はこの階の一番奥にあった。目の前に広がっている部屋は明らかに他の司教の執務室よりも大きかった。



「ここがスティアの執務室……」


 スティアの執務室は角部屋だった。ガラス張りでメチャクチャ気色が良い。「司教の執務室」というよりは「セレブが住まうマンションとはこんな感じです」と例に挙げられそうな部屋だった。


「さあ、どうぞお入り下さい」

「う、うん」


 一般小市民の俺には立ち入るのが(はばか)られるような部屋だったがスティアに相談しなければならないことがある。


 俺はスティアより先に部屋に入り、スティアは一度周囲を窺うようにしてからドアを閉めた。


 そして。


「ねぇ! 分かってるの!?」


 といきなり直前までの司教モードから変わったスティアが怒り始める。


「え、何かまずかった?」

「まずいよ! さっきの絡み方って明らかに『聖教会の司教と神門の守護者(ガーディアン)』って感じじゃなかったよね!?」

「それはまあ……」

「こうやってふたりの時は良いとして、人の目がある時にはちゃんとその辺りのことを考えながら接してくれないかな!? 一応これでもこっちの世界では聖教会の上級司教ってことになってるんだからそれなりに威厳を保たなきゃいけないの!」

「わ、分かった……」

「なら宜しい」


 その辺りに適当に座って、と言ってスティアもどかんと大きなソファーに腰かけた。


「それにしても凄い部屋だな」

「まあね。自分で言うのも何だけど、上級司教って言ったら聖教会全体でも結構上の方なんだよね。だからそれなりの待遇は受けられてるかな」


 うーん。

 なんかスティアってこんな豪華な所にいるのに妙に(さま)になってるな。もしかしたら向こうの世界でもお金持ちだったりお嬢様だったりするのかもしれないな。


 ……ってそんなこと考えてる場合じゃない。


 聖依奈のことを相談しようとしたらスティアが先に口を開いた。


「それにしても随分な活躍だったね。まさか王都に呼ばれて直ぐにあんな大手柄を立てるだなんて。ハルトがいるバルパ村は私の管轄の第三教区だし鼻が高いよ、うんうん」

「それはたまたまだよ。というか、スティアのお陰で助かったよ、ありがとな」

「え、私? 何の話?」

「いや、ほら、ツァディーを寄越してくれただろ? 自分の代理だって。それで聖人のシータが騒ぎを起こした獣人たちを速攻で処刑しようとしたのを止めてくれたじゃないか」

「え、何? あの子そんなことしたの? やるぅ。私の名前使って聖人に意見するだなんて」

「は? じゃあスティアは何もしてないの?」

「うん、全然」

「……」


 ツァディーめ……。何が『司教であるスティア様の言葉を捏造するなど、私に出来ようはずもありません』だ。さらっと息をするように嘘をついたな。


 人間不信になりそうな俺だったが、頭を振って気を取り直し口を開いた。


「スティア。実はその聖人シータのことなんだけど……」


 俺は聖人シータについてのこれまでのことを話した。現実世界にいる幼馴染みに姿、声がそっくりであること。バベルの欠片を所有しているにも関わらず向こうでの記憶を持っておらず、俺のことも知らない様子だということを。



「ふぅん。なるほど。あの聖人シータがねぇ……」

「本当に他人のそら似何て言うレベルじゃないんだ。たぶん……いや、絶対にシータは聖依奈だと思う」

「まあ幼馴染みだっていうハルトがそう言うんだからきっとそうなんだろうねぇ。て言うかね、前も言ったけど、あんまり『向こう』でのことをこっちで話さない方がいいよ? シリスにも言われたよね?」


 半分怒って半分心配してくれているような顔をするスティア。


「分かってる。ただ事情が事情なだけに手段は選んでいられない」

「まあそれは分かるけど。でも気を付けなよホント。向こうの世界でもそうだし、当然こっちの世界も善人ばかりって訳じゃないんだから」


 スティアの言っていることは正しい。


 でもあくまで向こうは向こう、こっちはこっちなんだからそんなに神経質にならなくても良いんじゃないか。



「ま、それだけ私のことを信用してくれているってことか。うんうん」


 嬉しそうに頷くスティア。何だか勝手に解釈されてしまったみたいだけど喜んでるようなのでまあいいか。実際スティアのことは信用しているし。



「さて」


 とスティアが姿勢を正す。


「ハルトの話……、聖人シータが向こうの世界での聖依奈ちゃん?だっけ、幼馴染みの。もし仮にハルトの話が本当のことだとして、それでいて私たちのようにふたつの世界の記憶の共有が出来ていないとしたらね……」

「ああ」

「恐らく死んじゃうね、聖依奈ちゃん」

「……。は?」


 俺はスティアがちょっと何を言っているのか分からなかった。

お読み頂きありがとうございます!

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[良い点]  終わり方が気になりますね……同時に物語の方向性、可能性を広げているように感じます。 [気になる点]  転移魔法って確かにエレベーターですね。  以前、他作品を読んだ時にも思ったのですが…
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