第八話 村田和夫5
本来の調子を取り戻した渚は矢継ぎ早に和夫を問いただす。
「全然、写真と違うじゃないですか。どうしたんですか、メガネは!」
「いや、バイクに乗る時はコンタクトなんだよ。メガネだとヘルメット被るときに面倒だからね。」
「そっちの方がいいですよ!あのメガネはだめですね〜。」
さらっと、失礼なことを言いながら渚は続ける。
「ほんと、びっくりしましたよ。大きいバイク乗ってるイカツイ男性に話しかけられて。なんか音うるさくてよく聞こえなかったし。」
「ごめん、あのバイク、マフラーがうるさいんだ。あの後、驚かせちゃったと思って反省してました。」
渚はいたずらな笑顔を見せる。
「反省してくださいよ。私、アプリで会うの初めてで緊張してたんですから!カズさんかもって思ったけど、メガネしてなかったし、なんか体格もガッチリしてるし。怖い人だったらどうしようって思いました。」
意外だった。渚ほど可愛い女性であれば、アプリ内で多くの男性からアプローチを受けているはずだ。明るく、フットワークの軽そうな渚だが、実際にはガードの硬いタイプらしい。
「プロテクター入りのジャケット着てるから、ガッチリして見えるんだよ。ジャケット脱ぐと、ほら」
そう言って、和夫がジャケットを脱ぐと、確かにひとまわり小さくなった。その様子を見て渚はゲラゲラと笑っている。二人はすっかり打ち解けていた。しばらく、海岸に沿って歩いた後、ベンチに座って話し込んだ。和夫が女性と付き合ったことがないという話をすると、渚はとても驚いた様子で、あのメガネが原因ですよ、と笑いながら連呼していた。
「私が誘わなかったら、和夫さんからは絶対誘ってこないでしょ」
「そうかも。でも、俺から誘ったら渚ちゃん、断ってたでしょ」
「断りますね。でも、自分から誘わなかったらいつまで経っても彼女できませんよ!」
「じゃあ、今度は俺が誘う」
「お、楽しみにしてますよ」
「彼女できるかな」
「それはどうでしょう。一度誘った程度で私を落とせると思ったら大間違いですよ」
冗談まじりの雑談を交わしながら、二人の距離は急激に近づいていった。近場のお店で海鮮丼を食べた後、解散の流れになった。初めて、親しい間柄の女性ができたという事実になんとも言えない高揚感を抱えたまま、和夫は帰路につくのであった。