第二話 川村日向1
「お疲れ様です!」
明るく挨拶をして、職場を去った。今日の彼女は機嫌がよさそうだ。川村日向は今日で27歳になる。大学時代から付き合っている恋人がおり、今晩は誕生日祝いをしてくれる。日向は足早に車に乗り込み、エンジンをかけた。
「何もらえるのかな?」
思わず笑みが溢れる。付き合って5年になる二人の会話には結婚という言葉もしばしば登場するようになっていた。彼氏は今日のために高いレストランを予約したようだった。昨年、彼氏が東京勤務になってから会える頻度がめっきり減ってしまった。だからこそ、今日の誕生日祝いで会えるのをずっと楽しみにしていたのだ。
自宅に着いて、急いで支度をする。この日のために買ったコーディネートに身を包み、去年の誕生日にもらったピアスを片手に家を出る。待ち合わせの場所まで車で2時間はかかるだろう。急いで向かわなければ。歩きながら左耳のピアスをつけ、続いて右耳だ。しかし、急ぐあまり手を滑らせてピアスを落としてしまった。
「ここら辺のはずなんだけど、」
必死にピアスを探していると、後ろから声をかけられた。振り返ると、若い男が車から降りていた。茶フレームのメガネに黒のカジュアルスーツ、いかにも真面目という印象。自分のせいで彼が駐車できないことに気づくと、日向は慌てて事情を説明した。
「ありがとうございます。ほんと助かりました!」
事情を説明すると、彼は一緒にピアスを探してくれて、あっさり見つかった。お礼を言って、日向は急いで車に向かうのであった。