1日目 函館観光
部屋は505号室だった。
入室し、まずは空気のチェックだ。
「窒素78パー、酸素21パー。戦争ガス0パー。OK、戦前レベルだな」
それを受けて妹が頭部の包帯を“解放”する。
クルクルル……と頭頂から包帯が巻き取られ始め、首元、“カラー”と呼ばれる輪っか状のギアに収納される。色はピンクである。ピンク押しのオルは、首を振ってすんなり髪の毛を整えた。深呼吸する。笑顔。
僕も続いた。カラーの色(笑)は黒色だ。またか、って、強っぽく見えるだろ? そういうことさ。
窓の広い部屋だった。市の中心付近がよく眺められる。
バッグを床に置き、声をかけた。
「ごはん食べに行こうか?」
即座に返事が来る。
「それもそうだけど、先に、せっかくだから夜景、見に行かない?」
ここで夜景と言ったら一つしかない。函館山からの、それだ。
「ふむ」
戦前までは、『百万ドールの夜景』と称えられていたそうな。いかにも、妹との思い出作りには、良さげに思われた。
「『百万ドール』って、凄いな」
「換算したら『1億エン』。とたん、微妙になるネ!」
二人して笑い、そうすることに決めたのだった。
頭部を再びクルクルル……と“巻いて”して。バッグを置いて身軽になって。外に出た。
路面電車をつかまえて、箱館山ロープウェイ山麓駅に向かう。
ロープウェイ往復料金1500エン。クレジットを了承し、二人してゴンドラに乗り込む。そして、たったの3分で山頂駅だった。清貧の旅ではないと心得てはいたものの、料金高いなぁと思う所がなきにしもあらず。
展望台にて待機。時刻は19時半――
薄暮の今、背景たる空はロイヤルブルーに染まり、函館市のその街並みは、それこそ黄金色に輝き始めたのだ!
余りの美しさに、自分たち含む、観光客全員が歓声を上げる。そして包帯のカメラ機能を作動させる! もちろん僕たちもその通りで――!
まったくの感動の光景を、存分に身に浴びたのだった!
「教科書で知ったことだけど、戦前はもっと凄かったらしいよ!?」
大勢の観光客の、怒濤のような歓声の中、隣にいるオルが、本気で叫んで寄こす。そうじゃないと聞き取れない。
「そうなんだろうけど、でも凄い! 見ろよ! なんて、凄い! 凄い! 凄い! 言葉がないよ! ああ、来て良かった!」
僕は夢中になって叫び返した。
何とかかんとか、(夜景を背景に)二人並んだ記念写真を撮った。まさかこれ専門の商売人がいるとは思ってもみなかったよ! よろこんで高い料金をクレジットする。もってけ泥棒! 笑。
振り返り、もう一度眺める。光の宝石箱に、抜け落ちている黒い領域が多々あった。でも思うのだ。ああ、これから復興されていくんだなぁ、と。だから、感動したのだった。




