9日目 函館からピース
函館フェリーターミナル・ビル前の駐車場に移動する。単車を降り、頭部を膨張させて透明にする。ほどなく、正面玄関から一人のミイラ姿が外に出てきて、すぐにこちらに気づいて、ぶんぶんと右腕を振った。左手にピンクのハードバッグを提げて、仔犬のように駆け寄ってくる。
白色のカバーは極・ピチピチにまで絞った“女巻き”。胸の部分が右、左、それぞれ弾んでいる。躍動する足は、膝下までのロングブーツで色はピンクだ。其奴は到着するとバッグを地面に放り両腕を空に広げた。
「ジャーーーーン!」吹き上がる綺麗な声。
膨らんだ透明頭部の中は、肩まで流れるような金髪。前髪が長い睫にかかり、その瞳の色は明るい緑色だ。細い鼻梁に桜色の唇。スッキリとした首筋が、鎖骨が見える胸部へと続いている。所謂、世間一般に言うところの、美少女だった。うむむむむむ。
何だか負けてしまった感がする。僕は一生懸命、難しい顔を作って応えた。
「AHO」
「サプラーイズ!」
「AHO」
「嬉しいでしょ! このこのっ!」
「AHO」
「うふふ、顔がニヤけてる。にやにや?」小首を傾げて覗き込んでくる。
「Aほ――ブフッ」ついに堪えきれず噴き出してしまった。あーあ……。
「カブちゃんの負けーー!」
なんてこった。「――オル!」
「ハ~イッ」
涙で潤んだ目をした女の子は、こちらの了解が得られたとばかりにハードバッグを、単車の後ろ、サイドキャリア・左側にセットしてしまう。そして――
「ねぇ、なんでカブちゃんは旅するの?」
と、聞いてくれたのだった。
※ ※
鼻が少し痒くなったのだが、えいっ、今は旅の身の上だ。覚悟を決めた。
「候補はいろいろあったと思う。だけど結局、最初の答に戻ったよ。それは――“巡り愛”。愛すべき人と、運命的な出会いを果たすためだ」
「お兄ちゃん――」
僕は言葉を続ける。
「愛する人の元へ辿り着こうと、人は旅をするのだと思う。オル、香。香――」
「――」
僕は頭部の膨張をOFFする。途端、頭全体にすんなりと包帯が密着し、目の周りだけ透明性を残したまま、全体に白く色が付き、上から下まで完全にミイラ男になった。
香もまた、ミイラ女になる。
僕は手を差し出した。
「近すぎて気づけなかった。香、愛してる。結婚してほしい」
「はい、お受けします。浮、わたくしも貴男を愛しております……!」
もう言葉はない。ミイラが二人、抱き合い――
包帯ごしのキッスを、深く、交わしたのでありました。
※ ※
香が僕の分の、フェリーのチケットを送信してくる。
「深夜便、早朝到着(?)。“青森市行き”だヨ!」
「第何の?」
「さぁ……?」
「アハハ! ああ、日本は、なんて広いんだろう!」
旅はまだまだ続く――!
時が来て、フェリーに乗り込み、特等室に収まる。数時間限りの、贅沢な、そして大切な時間の始まりだった。
二人、包帯を全解放し、手を取り合い、ベッドに横たわる。
声をかけた。
「実は“息子”の名前、もう決めたんだけど」
香はうっとりと応える。
「奇遇ね、ボクも“娘”の名前、決めちゃったんだけど」
二人、声を揃えた。
「“響”――」
浮と香、裸の二人、こちらに向けて、微笑みとピース。そして愛おしく、優しく、パートナーを抱き寄せるのでありました……。
〈完〉
バイバイ!




