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6日目 釧路のホテル

 リヤカーの旅、1日目。無事、釧路市到着。

 本日のルート距離、約190km。

 到着時刻は18:30。天候不順な中、根室市からは荷車牽引という初体験。単車のパワー不足、その上アスファルト路面には所々に陥没(爆撃跡その他)がある――という有様。それでも、交通量がほとんどなかったこともあって、案外支障なく走ることができた。実走時間は5時間で済んだのだった。


 香さんがチョイスした今日の宿泊施設はホテル。外観からはとてもそうとは思えないビルディングだった。(敗戦国という先入観があり、この時点で油断してしまった、と言っていい。)

 まるで隠れるように地下駐車場に駐車する。そこから香さんの案内でフロントに向かう。先頭を歩く彼女、どこか、慣れた振る舞いだった。

 建物内部に入った。なんとこの時点でもう、空気が保証されている。違和感を覚える間もなく、香さんが頭部の装備を取り外すのを見て、こちら兄妹もつられて、頭部の包帯(カバー)を解放する。現代アートのようなホテルの通路に、まったく同じ顔が三つ並んだ。

 途中から床が赤絨毯になり、ここら辺から、あれ、様子が違うぞ、と二つの顔が思い始める。

 が、もはや如何ともしがたい。まな板の鯉だと開き直ったものの、たどり着いた専用フロントで、AIではなく、白髪の、タキシード姿のピシッとした上品な男性スタッフが待ち構えているのを認識するに至って、緊張で一気に身が硬直してしまったのだった。

 挨拶(チェックイン)。お寛ぎください、と男性が優雅に一礼する。

 美貌と能力を併せ持ってんだろう、いかにも高級というイメージの、バニーガール姿の三名の女性スタッフにそれぞれ手荷物を奪われ、先導される。目の先で揺れる、丸出しの白い尻、だった。

 ゆったりとしたエレベータで、最上階のスイートルームに通される。

 広い広い、広い部屋の説明の後、バニーガールは一礼して去って行く。そこでようやく――なんて言うか、素の自分に戻れた、感がしたのだった。ふぅ……。

 僕ら……リヤカーで来たんだぞ?

 香さんに真剣な顔を向ける。

「その、ですね。クレジット的に、大丈夫なんでしょうね?」

 香さんもまた、真面目な顔で答えた。

「問題ありません。お二方は優先権をお持ちで、私は“ちゃっかり”と、その随行員です。三人そろって、特別な配慮がなされるはずでございます」

“はず”、かよ~、と泣きが入りそうになったのだけど堪えた。

 香さんが一礼する。

「では、わたしはこれで」

「えっ? 同室じゃないの!?」慌てる。ベッドならここに、なんぼでもある。

 首を振る。

「まさか、でございます。随行員(わたし)には自分に相応しい部屋が用意されてあります……」

 そう言うと手荷物を取り、こちらの必死の請願を物ともせず、出て行ってしまわれる。

「……」

 後に残された、庶民の二人だった。

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