6日目 トイレ問題
僕らは今、切ない思いで根室市の町中を周回している。
見つからないのだ。(何が?)
トイレが! 笑。
いや笑い事じゃないよ、今後にも影響する、シリアスな大問題だ。笑。
まぁ、いよいよ――となったら、緊急避難所は、あるんだけどね。
海だ。
さすがの戦争ガスも、海水には効果が及ばない。まるで無力だ。そこで、海に入って行って、下半身を解放して、いたすのである。
即座に海水が洗浄してくれるし、塩水は、巻いた後の包帯が(内側から外側へと)除去してくれる。ある意味、便利至極というものだ。
しかしながら海(北極海!)に浸かるのは、辛いときは辛いし、人に見つかればとても恥ずかしい。
だから、それは最終手段として、今は――
文明の利器、トイレを、心から熱望していたのだった。笑。
いや笑い事ではないよ。笑。
まず、観光客用の休憩施設が見つからない。存在しない。国鉄駅も閉鎖されている。
案内を請おうにも、地元民らは、異国人であるこちらの存在に気づくと、そそくさと建物の中に逃げてしまう。
「どういうこと?」
「想像がつくよ……」
「だから?」
「……」
答える前に、答が目の前に現れたのだった。
全くもって普通の民家の前で、人々が争っていたのだ。単車を停める。
一人の神国人。これはすぐに分かった。神国標準装束――“中世のペスト医師”のコスチュームだったからだ。つば広の帽子、特徴的な太くて長い嘴のマスク。ふんわりとした足元までのローブである。全体的にピンクの色で統一されていて、小柄な、なんとなく丸みのある、若い女性と思われる雰囲気の、姿だった。
その周りを取り囲んでいるのは、これも一発で知れた。黒いガスマスクに実用服姿の、帝国人。間違いなく男性だ。つまり――その、つまりだ。白昼堂々、これから乱暴狼藉を働かんとする、とても醜い光景だった。
神国側に、観光施設が“ない”のは、まさにこれが理由だと理解させられた。
とりあえず知性に働きかけるように、声をかけてみる。
「地位協定があることを忘れていませんか? それ以前に、乱暴は犯罪なんですよ?」
こちらの装束(戦勝国人)を見て、反発心が膨らんだのか、帝国人の一人が、「フン!」
止められるものならやってみろ。
体を揺すって、逆らう意思を表現したのでした。
面倒くさいから、一発で終わらせてやる。
僕は小物入れからパスを取り出すと、かざして見せた。
それは、出発の際、大尉殿が手渡してくれたお守り。帝国軍発行の、第2大陸特別通行許可証だった。
「つっぱってみる……?」
ああ、その威光は衰えず!
男達が無意識的に体を揺すって、怯えを表現した。次の瞬間、蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていったのだった。




