1日目 再会
とにかく宿にチェックインだ。そう思ってアクセルを開きかけたとき耳元の包帯が『ピポッ』通信が入った。
透明な包帯越しに見ると、前方空間にメールが仮想表示されている。そのメッセージに一瞬目が丸くなった。思わず舌打ちする――
函館フェリーターミナル・ビル前の駐車場に移動する。単車を降り、頭部を膨張させて透明にする。ほどなく、正面玄関から一人のミイラ姿が外に出てきて、すぐにこちらに気づいて、ぶんぶんと右腕を振った。左手にピンクのハードバッグを提げて、仔犬のように駆け寄ってくる。
白色のカバーはピチピチにまで絞った“女巻き”。胸の部分が右、左、それぞれ弾んでいる。躍動する足は、膝下までのロングブーツで色はピンクだ。其奴は到着するとバッグを地面に放り両腕を空に広げた。
「ジャーーーーン!」吹き上がる綺麗な声。
膨らんだ透明頭部の中は、肩まで流れるような金髪。前髪が長い睫にかかり、その瞳の色は明るい緑色だ。細い鼻梁に桜色の唇。スッキリとした首筋が、鎖骨が見える胸部へと続いている。所謂、世間一般に言うところの、美――少女だった。うむむ。
何だかいきなり負けてしまった感がする。僕は難しい顔で条件反射的に応えた。
「AHO」
「サプラーイズ!」
「AHO」
「嬉しいでしょ! このこのっ!」
「AHO」
「うふふ、顔がニヤけてる。にやにや?」小首を傾げて覗き込んでくる。
「Aほ――ブフッ」ついに堪えきれず噴き出してしまった。あーあ……。
「カブちゃんの負けーー!」
なんてこった。「――オル!」
「ハ~イッ」
それで女の子は、こちらの了解が得られたとばかりにハードバッグを、単車の後ろ、サイドキャリア・左側にセットしてしまう。チラと目をやり、
「ほうら、右側片側だけに自分の黒バッグ取り付けてるし。リヤシートも空いてるし。実はこーなること、期待してたんじゃない? にひひひひ!」
鼻が少し痒くなったのだが、えいっ、今は旅の身の上だ。開き直った。
「“巡り愛”するつもりだったんだよ……」
相手は遠慮なく大笑いだ。「ギャハハハハハ――」
なんという台無し感! 僕は条件反射的に応えたのだった。
「AHO」