2日目 エルフ
単車を発進させようとして、出来なかった。
なぜなら、道路中央に、裸足で立ち尽くす、全裸の美少女(美少年?)がいたからだ。
いつの間にか、そこに存在していた。
さらさらとした肩までの銀髪、輝くブルーアイ。桜色の唇、滑らかな白い肌。思わず――
「月薔薇の君……」
そんな造語が口を突いて出ていたのでした。
年齢は、僕らよりかほんの何年か下、だろう。だから、乳首が少し膨らんでいるけれど、それだけでは性別は断定できない。(実際、僕のだって尖り気味だしね。)肝心の股間は左手で隠され、右手は、パーをこちらに突き出す格好で、“ストップせよ”と意思をあらわにしている。
その意向に、こちらが従順に付き合っている。そんな状況だった。
「エルフ?」
後ろでぼそっと、オルが口にする。
元人間のことだ。毒化され変態してしまった犠牲者。それはリアリティあふれる都市伝説だった。
耳がとんがった。
あるいは、角が生えた。
あるいは、肌が青くなり犬歯が伸びた。
あるいは、鱗ができた。
などなど――
だが目の前の裸っ子は、耳も普通、体のどこも正常で、どうにも健康的な人の子のように見えるのだ。かえって異常だった。
そもそも――毒もそうだが、基本的に酸欠空気なのだ。
「息は平気なのか? 答えなさい」
なぜか、命令っぽい口調になる。
そしたら――
「問題ない。戦前の空気を身に纏ってるから」
と、高音の、綺麗な声が返ってきて。
あっ……と思った時には、その子の姿は空気にかき消えていたのだった。
消えたのである。
僕は背中に伝えた。
「ということは、だ。じゃあ、進もう」
オルは応えた。
「なっとくの理屈だわね……」
そして数百メートル行くと、前方に忽然と現れ、通せんぼする。
数分から十数分の待機で、かき消え、僕らは進み――
これを繰り返し――
気づいたら――
何も害されることなく、無事、難関・稲穂峠を突破し、麓の安全地帯に到達していたのだった。
月薔薇の君が、バイバイ、と右手を振った。そして向こうに向き、丸いお尻を見せた。
オルが、待ってと声をかけた。
「ありがとう。そして貴方のお名前は?」
裸っ子は、首だけ振り向いて答えたのだ。
「ビッキー……」
女性名だ。オルはパァッと顔を明るくさせ、僕は首を小さく傾げる。ともかく。
「ありがとう、ビッキー」
裸の美少女(?)は困ったように首を振る。
「何度も繰り返した結果……」
そして儚くほほ笑むと、次の瞬間、空気にかき消えたのでした。




