1日目 旅立ち
ある夏の日。
「ねぇ、なんで旅するの?」
僕はそう、大切な人に聞かれたのだった――
※ ※
試される大地、北海道大陸。僕は初めて、夏休みを利用して一人、彼の地への遠乗りを実行する!
ルートは右回り(時計回り)だ。函館に上陸後、海岸線に沿って走り、小樽、稚内、網走、根室、釧路、えりも、苫小牧そして函館へと至る。我ながら壮大なプランだと思うけど、どうだろう。
数多の世界が“衝突”した、超世界大戦が終息してから何年? いちおう戦勝国にはなれたものの、人口の激減、大気問題やら国土の荒廃は、いまだ完全には復旧されておらず、そういうわけで大陸内部へは、僕にはちょっと危険だから、(なるべく)入り込まないようにしようと思っている。
荒野のド真ん中でエナ欠なんて最悪だからね。そんなの試されすぎってやつですよ。
ママが言葉をかけてくる。「カブちゃん、行ってらっしゃい。気をつけてね」
もう子供じゃないのに。気恥ずかしかったが僕は素直に応えた。
「はい、行ってきます。ママ――!」
僕の自宅は日本自由主義国(通称、日本自由国)首都・東京の、その区内にある。夏休み初日、7月20日の払暁に、愛機、S-A150Vに跨がり、出発したのだった。カラーはイケてるブラックさ。燃費がいい上に取り回しも楽なこのタイプ150は、高速道路で走れるギリギリのクラスだ。だからさっそく東北自動車道に乗っかった。心は早、北海道に飛んじゃってるんだから仕方ない。一路、700km先の青森フェリーターミナルを目指すのだった。
(A:東京都 B:青森市 引用:グーグルマップ)
まだ暗い内に走り出し、風切る走行中に日の出を迎えるとき、「フッ……漸く世界がオレに追い付いたか」という醒めた思考が沸き起こる。そして次の瞬間にはクサすぎて、顔が赤らむのをどうすることもできないのでした! 笑。
白い包帯で全カバーされた身体が、目にも鮮やかに朝日に包まれた。ああ、空は青い! 清々しい空気の中、僕は快調に走り続けた。
東北自動車道は一級線だから管理運転サービスが利用できる。だけど車ならともかく、単車でそれは、何かを否定する気がする。少し意地になって手動運転を続けた。
家を出て約3時間。栃木県・那須高原SAにて、トイレもかねて休憩する。気密の個室にて用を済ませ、鏡の前に立つ。
「ふむ……」僕だ。
それは、端的に言うと、金魚鉢を被ったミイラ男(笑)だろう。
頭部を形通りすっぽりと包んでいた包帯は、今は風船のように丸く膨らみ、色も透明になっている。
そして見る。素直な、肩までの黒髪、澄んだ菫色の瞳。柔らかな鼻梁に桜色の唇。細い首筋。
小首を傾げる。髪の毛がすんなり揺れる。ちょっと華奢で頼りない印象かもだけど、まぁ、なんとか体力は持つでしょう。
首から下は、カバー……身体をくまなく包む、自肌色の包帯だ。
足は、膝下までのライディングブーツ。色は、もちろん格好いい黒さ。
ブラックコーヒーでも飲んでみようか? と思った。
でも、飲食するには頭部の包帯を“解放”しなければならず、そうするためには空気が保証されたフードコートまで行かないとならない。めんどい。
それに、カフェイン摂るとオシッコが近くなるしね。笑。ちょっと止めとくことにしたのだった。
頭部の“膨張”をOFFする。途端、頭全体にすんなりと包帯が密着し、目の周りだけ透明性を残したまま、全体が白く色が付き、上から下まで完全に(ブーツを履いた)ミイラ男、になった。
改めて見る。全身、“男巻き”のカバーだ。
気密性を確認する。――ヨシ。
建物の外に出る。
駐車していた愛機に親指タッチ。一瞬の通信、本人認証。モーター、スイッチオン。シュルルルル――という静音だ。
跨がり、ギヤをプットイン。僕は再び走り始めた。