表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/47

1日目 旅立ち

 ある夏の日。


「ねぇ、なんで旅するの?」


 僕はそう、大切な人に聞かれたのだった――


         ※     ※


 試される大地、北海道大陸。僕は初めて、夏休みを利用して一人、彼の地への遠乗りを実行する!

 ルートは右回り(時計回り)だ。函館に上陸後、海岸線に沿って走り、小樽、稚内、網走、根室、釧路、えりも、苫小牧そして函館へと至る。我ながら壮大なプランだと思うけど、どうだろう。

 数多の世界が“衝突”した、超世界大戦が終息してから何年? いちおう戦勝国にはなれたものの、人口の激減、大気問題やら国土の荒廃は、いまだ完全には復旧されておらず、そういうわけで大陸内部へは、僕にはちょっと危険だから、(なるべく)入り込まないようにしようと思っている。

 荒野のド真ん中でエナ欠なんて最悪だからね。そんなの試されすぎってやつですよ。


 ママが言葉をかけてくる。「カブちゃん、行ってらっしゃい。気をつけてね」

 もう子供じゃないのに。気恥ずかしかったが僕は素直に応えた。

「はい、行ってきます。ママ――!」


 僕の自宅は日本自由主義国(通称、日本自由国)首都・東京の、その区内にある。夏休み初日、7月20日の払暁に、愛機、S-A150Vに跨がり、出発したのだった。カラーはイケてるブラックさ。燃費がいい上に取り回しも楽なこのタイプ150は、高速道路で走れるギリギリのクラスだ。だからさっそく東北自動車道に乗っかった。心は早、北海道に飛んじゃってるんだから仕方ない。一路、700km先の青森フェリーターミナルを目指すのだった。

挿絵(By みてみん)

(A:東京都 B:青森市 引用:グーグルマップ)


 まだ暗い内に走り出し、風切る走行中に日の出を迎えるとき、「フッ……漸く世界がオレに追い付いたか」という醒めた思考が沸き起こる。そして次の瞬間にはクサすぎて、顔が赤らむのをどうすることもできないのでした! 笑。

 白い包帯で全カバーされた身体が、目にも鮮やかに朝日に包まれた。ああ、空は青い! 清々しい空気の中、僕は快調に走り続けた。


 東北自動車道は一級線だから管理運転サービスが利用できる。だけど車ならともかく、単車(バイク)でそれは、何かを否定する気がする。少し意地になって手動運転を続けた。

 家を出て約3時間。栃木県・那須高原SA(サービスエリア)にて、トイレもかねて休憩する。気密の個室にて用を済ませ、鏡の前に立つ。

「ふむ……」僕だ。

 それは、端的に言うと、金魚鉢を被ったミイラ男(笑)だろう。

 頭部を形通りすっぽりと包んでいた包帯は、今は風船のように丸く膨らみ、色も透明になっている。

 そして見る。素直な、肩までの黒髪、澄んだ菫色の瞳。柔らかな鼻梁に桜色の唇。細い首筋。

 小首を傾げる。髪の毛がすんなり揺れる。ちょっと華奢で頼りない印象かもだけど、まぁ、なんとか体力は持つでしょう。

 首から下は、カバー……身体をくまなく包む、自肌色の包帯だ。

 足は、膝下までのライディングブーツ。色は、もちろん格好いい黒さ。


 ブラックコーヒーでも飲んでみようか? と思った。

 でも、飲食するには頭部の包帯を“解放”しなければならず、そうするためには空気が保証されたフードコートまで行かないとならない。めんどい。

 それに、カフェイン摂るとオシッコが近くなるしね。笑。ちょっと止めとくことにしたのだった。


 頭部の“膨張”をOFFする。途端、頭全体にすんなりと包帯が密着(カバー)し、目の周りだけ透明性を残したまま、全体が白く色が付き、上から下まで完全に(ブーツを履いた)ミイラ男、になった。

 改めて見る。全身、“男巻き”のカバーだ。

 気密性を確認する。――ヨシ。

 建物の外に出る。

 駐車していた愛機に親指タッチ。一瞬の通信、本人認証。モーター、スイッチオン。シュルルルル――という静音だ。

 跨がり、ギヤをプットイン。僕は再び走り始めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ